翌日の放課後。約束通り、私と幸とマミの三人で帰っていた。

 昨日の夜幸に、『明日からマミとも一緒に登下校することになったんだけど、幸は大丈夫?』とメッセージを送った。
 幸からは、『大歓迎だよ! マミちゃんとも一緒に帰ったりできるんだぁ。嬉しいな!』と可愛いスタンプと共に返ってきた。
 その後に、『中学の時のことも誤解だってわかったし、悠ちゃんもマミちゃんと仲良くなってほしいな!』と送られてきた。

 送られたメッセージを見てると、心臓に紙やすりをかけられたかのような、ザラザラした感じがした。
 マミの元カレの調査が終わるまでの辛抱だ。元カレが犯人かどうかが分かりさえすれば、もうマミと関わる必要はないのだから。
 幸に真実を伝えるためにも、早く“ケンちゃん”に辿り着きたい。私は切実にそう思った。
 親友を騙すような真似は、私には耐え難いことだから。

 傍らでは、幸とマミがお喋りに興じている。
 「ねぇ幸~。数学の先生さ、中学の時の担任に激似じゃない?」
 「わかる! 話し方までなんか近い感じなんだよね」
 マミが誰かの物真似をする。中学の時の担任の口癖を真似ているみたいだ。
 きゃらきゃらと楽しげに笑う幸。おそらくあまり似ていないであろう物真似を、ヒートアップさせるマミ。
 私だけが汲み取れない愉快なやりとりだった。

 愉快に笑う二人を隣に感じて、酷く居心地が悪くなり、何故だか八代に会いたい、と強く思った。
 そうだ、この後八代に会うのだ。幸を家に送り届けたら、作戦会議をする約束だった。
 マミの元カレを調べる方法を、私と八代とマミの三人で話し合うために。


 作戦会議を提案したのはマミだ。
 私を誘ってすぐ、マミは八代にメッセージで事情を伝えた。どうやら週末に携帯が復旧したそうだ。
 私が予想した通りに、八代は二つ返事で了承した。
 近いうちに方針などを話し合いたい、とマミが言い出し、幸運にも今日、全員の予定が合ったのだ。


 「わざわざ家の前まで、丁寧にありがとう。マミちゃん、悠ちゃん」
 「いいってことよ! また明日ね~」
 「絶対に鍵閉めてね。今日は樹里亜さんいるの?」
 「夜に帰ってくるって言ってた。心配してくれてありがとう、悠ちゃん」

 不安になったらすぐに言って、と再三伝えてマミと共に、幸の家をあとにした。

 「これからも必ず玄関前まで送ろうね」
 ね、の部分を強調して、マミが言う。
 「そうだね」
 私は短く返すと、マミの半歩前を歩いていく。
 八代との待ち合わせ場所へと、少し早足になりながら向かった。


 駅の時計台の下に八代は立っていた。
 「すいません、待たせちゃいました?」
 マミがすかさず駆け寄り、上目遣いで尋ねる。
 「いや、さっき来たとこだよ」
 「あっ、今の流れってなんだかカップルみたいですね! ふふっ」

 マミが口元を両手で覆い、ご機嫌に笑う。
 八代は返答に困ったように、視線を彷徨わせた。その拍子に私と目が合う。

 「若葉、疲れてんのか?」
 「え? 普通に元気だけど何で?」
 「ちょっと怖い顔してたぞ」
 「えっ」
 まったく自覚がなかった。言及されるほどひどかったのか。
 「えっ悠、大丈夫?」
 気遣わしげに首を傾げるマミに、「うん」と返す。

 「なんかいつの間にか距離が縮まってないか? 二人とも」
 私のことを呼び捨てにしたマミに、疑問を持ったらしかった。
 「今日から一緒に登下校してるんです。悠と幸とわたしの三人で。だから他人行儀なのはやめようってことにしたんですよ!」
 「へぇ、そうなのか」
 「そうだ、悠。連絡先交換まだだったよね? しよ!」
 「うん」