「いや多すぎるって……」
 大量のお菓子をげんなりした目で見る。どう考えても、うちだけでは食べ切れない量の焼き菓子を贈ってきたのは、従兄弟だった。
 一日にけっこうな量の間食をする従兄弟とは違うのに、私の誕生日が近いからと大量の焼き菓子を贈ってきたのだ。
 焼き菓子というのは、賞味期限が短いため、そういつまでも残しておくわけにはいかない。

 そうだ、幸にお裾分けしよう。
 舞い降りてきた妙案に、自然と唇の端が吊り上がった。
 半分ほどの量を適当な袋に入れて、外に出ると、夕日が街を美しく彩っていた。袋を渡してすぐに帰れば、暗くなる前に家に着けるだろう。
 ちょっと駆け足で、幸の家を目指した。


 ピンポーン……………。
 「出掛けてるのかな?」
 インターホンを押してしばらく待ってみても、中からは何の反応もなかった。
 「居るかどうか訊いてから来れば良かったな……」
 しょうがない、帰るか。
 そう思って踵を返した途端、足音が聞こえてきた。
 なんだ居たんだ。

 「寝てたのー? 幸。へへっ良いもの持ってきたんだよ!」
 近付いてくる足音へもったいつけるように、語りかける。
 「残念。幸じゃないよ」
 しかし扉を開けて出てきたのは、知らない女性だった。
 「幸の友達でしょ? 上がっていって」
 「あっはい。お邪魔します……」

 上がるつもりなどなかったのに、彼女に手招きされるまま、玄関で靴を脱ぐ。
 そこでハッと気付く。この人は――。

 「樹里亜……さんですよね? 幸のお姉さんの」
 「そうだよ」
 珍しく帰ってきていたらしい。
 歩みを止めて、「あのっ」と前にいる彼女を呼び止める。
 「これ渡しに来ただけなんです。だからもう帰ります。幸によろしく言っておいてください」
 袋を差し出して、頭を下げる。

 樹里亜が幸に渡すことで、二人の間には自然に会話が生まれるだろう。
 私にも分けて、とか。美味しそうじゃん、とか。
 樹里亜に渡されたら、幸はきっと喜ぶ。そう思ったのだが、樹里亜はニコリと笑って、こう言った。

 「いや、お茶を出すから幸と一緒に食べよ」
 「じゃあお言葉に甘えて……ご馳走になります」
 「こっちが恵んでもらったんだけどね」
 「あはは。そうでした」

 頭を掻きながら、考える。一緒に菓子を食べる、という状況の方がたくさん話せて、幸にとって良いかもしれないと。
 私が会話をアシストしてもいいし。

 「幸、今部屋にいるんだ。呼んでくるから待ってて」
 通されたリビングでそう告げられる。
 樹里亜と幸は、どんな雰囲気で会話するんだろう――。
 待っているつかの間に、そんな好奇心が頭をよぎる。
 やがてリビングへ向かうふたつの足音がしてきた。
 いや、なんか多いような気が?

 「あれ、若葉さん? 遊びに来たの?」
 「え?!」
 私は度肝を抜かれた。だってそこにいたのはマミだった。しかも幸の腕に馴れ馴れしく絡み付いての登場だ。
 「何で……」
 「ああ。若葉さんは知らないの? わたしと幸は同じ中学出身でね。そっからズッ友なんだ」
 「はぁ!?」
 言葉も出ない。どの口がそんなことを言うのだ。どの面下げて会いに来てるんだ。

 顔全体に困惑を浮かべて幸を見ると、瞬きを何回も繰り返して合図をしていた。幸が目だけで何か伝えたい時によくやる仕草だ。
 今は黙っていて、ということか。その望み通りに一旦口をつぐんでおく。

 「お姉とマミちゃんは先に食べてて。ちょっと悠ちゃんと話しておきたいことがあるから」
 「早く来ないと先輩とわたしで全部食べちゃうからね~」
 マミの腕から逃れ、幸は自室へと私を導く。

 どうしてなの、幸。何でマミに纏わり付かれて心なしか嬉しそうだったの。ズッ友って何?
 何を考えているのか全くわからない背中を、不安げに見つめながら、階段を上がっていった。