「襟人さんは彼女とかいないんですか?」
 カフェで一息ついていたら、マミが直球な質問を投げて来た。
 「いない」
 「良かったです~。もしいたら彼女さんに悪いですもんね。こういうこと頼むの」
 というか恋人がいたら、いくら断りにくい理由をつけられても、マミの頼みを承諾しないだろう。

 「じゃあどんな人がタイプなんですか?」
 またもやそういう系統の疑問をぶつけるマミ。
 「タイプか……あんま考えたことなかったな」
 八代が腕を組んで軽く唸る。
 「私も気になるな」
 ずいぶん久しぶりに口を挟む。知らず知らずのうちにマミのペースに乗せられ、置物になりかけていた。
 気をつけないと。

 「若葉まで。そうだな……できるだけ正直で、優しいやつが好きだな」
 「性格を重視するんですねー」
 「正直か……」
 私は正直な人間とは言えないだろうな。だって色々隠し事を抱えたまま、八代や幸と接しているから。
 自嘲していると、「若葉はどうなんだ?」と訊かれる。
 「え?」
 「若葉のタイプも教えてくれよ」
 「私のタイプ……」

 恋愛を忌避しているので、そんなことは考えたこともなかった。
 一生誰とも付き合わないつもりなんだから、考えたところで無駄だろう。
 しかし敢えて理想を言わせてもらうとしたら――。

 「一途でずっと想い続けてくれる人」
 「……だいぶハードルが高いね」
 珍しくマミが、私の発言に感想を言う。「そんな人いるわけないじゃん」と呆れているのかもしれない。
 そういう人がいないことは、私もよくわかっているので、きっと恋愛など出来ないんだろう。
 それでいい、それが正しい。

 「わたしは、ピンチの時に助けてくれるような、勇敢で頼もしい人がいいです。襟人さんみたいに!」
 最後の部分を強調したマミは、実に可憐に頬を赤らめて笑う。

 「俺はそんな大したやつじゃないよ」
 「いいえ! 格好良くて素敵ですよ、襟人さんは」
 マミは、テーブルの上の八代の手を、自身の両手で包み込むように持つ。
 「今日会ってみて、改めて思いました。襟人さんならわたしのトラウマも、きっと払拭できるって」
 ギュッと手を握りながら、マミは真剣な顔で訴えかける。
 「だから……これからもよろしくお願いできますか?」

 迷子の子犬のような眼差しは、八代から肯定以外の言葉を封じた。
 それは私も同じことだった。
 プラネタリウムを出た時は、絶対にマミの攻撃を告げ口してやる。そしてもうマミと会う必要はない、と二人だけになった帰り道で八代に説き伏せる気満々でいたのに。

 もちろんマミは、元々の性格からして最悪なのだろう。しかし、トラウマという切羽詰まった事情が彼女を狂暴にしているのかもしれない……。
 その可能性について考えたら、私の怒りも萎れていってしまった。