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 「……だからね今日学校行けないの。ごめんね悠ちゃん」
 「……え?」

 私は間抜けな声を出す。意味がわからない。なぜって私は、実にしっかりと立っていた。
 さっきまで体のどこも動かせないような状態で、死を覚悟していたはずだったのに。

 「どうしたの?」
 私が呆然としていると、向かい合っている人物が問いかけてきた。反射的にうつむいていた顔を上げる。

 そこには美少女がいた。様子がおかしい私のことを眉を八の字にして、大きな瞳でじっと見つめている。
 高校生くらいに見える。しかし私の知り合いにそれくらいの年齢の子はいないはず。

 いや、というかこの子!
 「(さち)?」

 高校時代のクラスメイトの薄井(うすい)幸にそっくりだ。在学中に転落事故で帰らぬ人となってしまった私の親友。

 「なんで幸がいるの? というかここどこ? あっ、幸に会えてるってことは死後の世界……? やっぱ死んだの私?」
 「ねえ本当にどうしたの? 大丈夫?」

 幸のそっくりさんが、ますます心配そうに質問してくる。
 そこで私は自分の服装がおかしいことに気付いた。

 さっきまで白いブラウスに黒いジャケットとスカートの社会人スタイルだったのになぜか今は、夏物の学生服――もっと詳しく言えばセーラー服を着ていた。それからスクールバッグを肩から提げていて、完全に夏の学生の装いだった。

 この制服は、私が通っていた高校のものだ。幸そっくりの少女も同じ制服を着ていた。

 周りを見渡してみる。きれいに整えられた花壇と白いガーデンベンチがあって、自分が庭にいることがわかった。
 ずいぶん広い庭で、上に視線を伸ばすと家もかなり大きいことがわかった。自宅というか屋敷である。

 この庭も屋敷も見覚えがある。間違いなく幸の家だ。じゃあひょっとしたら私は――!

 スクールバッグの中を漁って手鏡を見つけ出し、目の前に持ってくる。
 映っているのは当然私だったけど、なんだか若い。高校生くらいの見た目だった。
 予感が確信へと変わっていく。最後の確認のため、幸のそっくりさんに問いかけた。

 「今って何年何月何日?」
 「えっと……今は2014年の6月1日だよ」

 ほら、と携帯を見せられた。言葉通り2014年6月1日と表示されていた。
 間違いなく目の前の人物は薄井幸であり、私たちは高校1年生だ。