解散になったとたん、八代に尋ねる。
 「良かったの?」
 「あんなこと言われたら断れないだろ」
 「それはそうだね……」
 「真っ赤な嘘だって可能性もあるが――本当だった場合、ほっとけねぇし」
 まあ、八代はそういう性分だよなぁ。
 「若葉ならこうするとも思ったし」
 「え? 私?」
 「ああ。若葉の他人のために迷いなくすぐ動けるところ、尊敬してるし見習いたいって思ってる」
 「そんなすごいことしたっけ? いつだったか全然思い出せないんだけど」

 私は、そんなに献身的な人間ではないと思う。悪人じゃない自負はあるが、八代は美化しすぎじゃないか。

 「祭りの日だって止めに入ったから、危険な目にあったんだし」
 「止めたっていうか……思わず声が出ちゃっただけだし」
 「そもそも折野を心配したから、後を追ったんだろ?」
 「それはそうだけど」
 「他にもさ、幸のこともすごく親身になってくれてるし。誰にでもできることじゃねーよ」
 「そう……かな」
 「まあ、危なっかしくもあるけどな。後先考えずに飛び出していきそうな感じで」
 「うっ、確かに脳直っていうか、冷静になれない性格ではあるなぁ……」
 「若葉のそういうひたむきなところは好きだけど、折野の件みたいに一人で突っ走るのはやめてくれ。肝が冷えるから」
 「う、うん。心配してくれてありがとう」

 なんだか聞き捨てならないことを言われたような……“も“ってどういうことなの。
 いや、それより。ちゃんと八代に言わなきゃいけないことがある。

 「あの、八代!」
 「ん?」
 「あの日助けに来てくれてありがとう。来てくれなかったら、私はきっと死んでたと思う」
 あと、ともうひとつ大切なことを伝える。

 「あの時、抱きしめてもらえて、すごく安心した。もう大丈夫なんだって思えて。八代だって私を助けるために、あの男性に立ち向かってくれたでしょ? 八代こそすごいよ」

 私の感謝の気持ちは、こんな月並みの言葉では表せないけれど、なんとか届いてくれ、と念じる。

 「本当にありがとう。八代は命の恩人だよ」
 現代のあなたには、殺されかけたけれど。本当に不思議な巡り合わせだ、と改めて思う。
 あの八代襟人に、こんな温かい気持ちを抱くなんて。今でもちょっと信じられない。

 八代は照れくさそうに、頭を掻きながら言う。
 「どーいたしまして。ま、これからもよろしくな」