「でも段々、八代がどんな人間なのか、わかっていったの。幼馴染みを思いやったり、知り合って間もない私に、親身になってくれたり――関われば関わるほど、この人は善良なんだ、って思い知らされていった」

 そうして様々な出来事の中で、恐怖心は薄れていって――。

 「だから八代のことを、もっと知りたいと思ったの。こんなに良い人が、何であの事件を起こしたんだろう、って。何が原因で、悪に堕ちてしまったんだろう、って」

 そして――。

 「あなたがそうなる前に、救いたい、って思ったの」

 八代は、真剣な眼差しで私を見ている。
 視線がかち合ったのを確かめて、話を続ける。

 「それから、本当に色々あって――気づけば八代に会えるのが、楽しみになってた。一緒にいる時間が、幸せだって思えて、電話やメッセージでのやり取りに、いちいち胸が弾んで……」

 止めどなく、言葉が溢れていく。

 「怖がってたことなんて、今となっては、嘘みたいなの。私にとって八代はもう……欠けてはならない存在なんだよ」

 だから。

 「気を遣って、距離を取ろうとしないで。八代にそんなことされたら、心に穴が空いたみたいになる」
 「は――」

 八代の顔に、熱が集まる。視線が右往左往するのを、不満気に睨む。

 「ちゃんとこっち向いてってば」
 「そんなこと言われたってよ……」

 口ごもり、赤くなった顔を隠そうとする。
 彼のその反応は、私を満足感で満たした。
 心が高揚するのを感じながら、再びベンチに座り、首を傾ける。

 「私の気持ち、わかってくれた? なら、離れようとか思わないでね。これからもよろしくね」

 にっこりと微笑むと、「おう……」とまだ照れた声が、返ってきた。

 「若葉さ……」
 「うん?」
 「よくそんな恥ずかしいことを、涼しい顔で言えるよな……やっぱお前すごいわ」

 そう言って頭を掻く八代に、いつぞやのあなたも大概だったよ、と言いたくなったけれど、ぐっとこらえた。

 「だって誤解を解かなきゃ、八代との縁が切れそうだったし。そう思うと、必死になっちゃって」
 「別に、俺との繋がりがなくなるくらい、大丈夫だろ……若葉なら、たくさん友人作れるだろうし」
 「大丈夫じゃない」

 きっぱり言い張る私を、彼がなおも不思議そうに見遣る。
 その表情を見て私は、もう言ってしまおう、と決心する。

 「だって私、八代のことが好きだから」