俺にそんな知識は無いはずなのに、どういう事だ? もしかして誰かが意図的に情報を流したか? それとも夢の中に出てきたのかも知れないな。
だとすれば なぜ俺の夢の中に出てくるんだろう? 俺が何かを望んでいるのかね。
それじゃ夢を見続けるために頑張らねばならんのかいな だが俺はそんなつもりは無かった。
だってな、俺は自分が死にたいなんて思った事は一度も無いからだ夢の中でさえだ。
そんな俺が自殺なんてするか。
する理由が無いじゃないか 俺はベッドの上で寝返りを打つ その拍子に枕元に置いてある時計が視界に入った 午前2時48分。
真夜中も良いところだ こんな時間まで何をやってたんだろうと自分に呆れつつ、眠ろうと目を閉じても全く寝付かれる気配が無かったのだった……結局、俺はその夜一睡も出来ないまま過ごしたよ
「おはようございます。
お疲れ様です」
翌朝、由香里さんを駅まで送りに行こうとすると「いいえ結構よ」と言われてしまった どうしてと尋ねると「もう駅に着いたもの」とのこと。
何だそりゃ。
まあいいや。
とりあえず俺はそのまま家を出た。
今日は土曜日で仕事はお休みだし、特に用事があったわけじゃないけど 駅前通りに出る途中で立ち止まって辺りを眺めてみた。
いつも見ている風景なのに「何だろう?」と思った瞬間 ああ……そうか。
あの人がここに立っているのを見たのはこの一度だけで、それもほんの一カ月足らずの出来事だから何とも思わなかったのか……と納得し、思わず溜息が出そうになったその時だった。
いきなり背中をドンと叩かれたんだ。
驚いて振り返ると由香里さんだった。
俺はびっくりしたあまり「わわっ」と変な声で叫んだのさ。
すると彼女は楽しそうに笑う。
「ごきげんよう」なんて挨拶されちまった。
「おはよう。
随分早いね。
どこか行くの?」
俺が尋ねたら、彼女は首を振って
「これからあなたに会いに行くのよ」と答えた 俺の家は彼女より先にあるから 彼女は俺の部屋の前で足を止めると、「ごめんください。
居られますかしら?」と聞くのだ。
だから当然居ると答えれば彼女は笑顔を浮かべつつ「開けてくださいな」と言う。
そして……
「はい?」俺の目の前にあったものは銀色の円盤だ。
それは彼女の手に握られている。
「お待ちしてました」と言って手渡してきた彼女の言葉は「それね。
あなたがお好きだって言うから買ってきたのよ。
差し上げましょう」
それは「シャーロックホームズの推理」というシリーズ物の小説本だった。
俺はそれを何度も読んだ事があるのを思い出した。
だが俺は「いや、それは貰えない」と言ったのさ。
そうしたら……
「いいえ、遠慮は要らないわ。
受け取って頂戴。
それはあなたのために購入したの。
気にしないで」彼女はそう言って微笑みかけると「それじゃあね、ご機嫌よう」と手をひらつかせ、くるっと後ろを向いて行ってしまった。
後には彼女が残した香りが残るのみだ そう言えば以前 何かの本に書かれていたのを読んだ事があった。
「良い匂いをさせている女性は美人だ」ってな。
だからといってどうというわけじゃあないけどさ。
ただ何だろうね。
不思議だな、と思う。
彼女の姿が見えなくなってから、ずっと考えているんだけど 俺って 今まで美人だと言われる女性にろくに出会った事も無いのに 由香里さんだけは例外みたいだなぁ そんな感じがするのは何故なんだろうか……俺って自惚れているのかな。
自分で自分が解らなくなってきた。
それに美人だと思っているならもっと近づきたいとか仲良くなりたいと考えて行動を起こすだろう? それがないのは何でだろうね?……考えても解らないままだ そう言えば、俺にシャーロックホームズの本を勧めてきたのも彼女だ。
「この本を読んでいると事件に巻き込まれた時に役に立つかも」とか言っていた気がする 俺はもう一度彼女の姿を探そうと周囲に視線をめぐらせる。
だがその姿は見当たらなくて。
仕方なく俺は家に戻ろうとする。
すると俺の部屋の中から話し声らしきものが聞こえてくる。
え?と思いながらドアに歩み寄ろうとしたとき
「お待たせ」の声とともに女性が顔を出したものだ。
それは紛れもなく由香里さんだった。
俺の顔を見るや彼女は「お久しぶりねぇ、元気そうで何よりだわ」と言う。
だから俺も「由香里さんこそ。
お変わりないようで良かった」なんて言って笑い合ったんだ
「どうぞお入りになって」そう言われ部屋に上がる。
テーブルの上にお茶の入ったグラスが置かれると
「あなたに聞きたい事があったのよ」彼女は唐突にそう切り出した聞きたい事って何だい、と尋ねると
「ええとね 昨夜、夢を見たんだけど あなたの昔の事について少し教えてもらったような気がするのよ。
だから聞きたくて……」と言う。
それで思い出す。
そういえば昨夜 彼女と話していて昔、子供の頃の事を喋ったんだなと でもあれはただの夢で 彼女の夢の内容が現実に影響を及ぼすとは思えん。
だから俺は「そんな話、どこで聞いたんですか?」などど突っ込んで聞いてみたが「あら嫌だ、あなたが教えてくれたのよ」とか言い出しやがる
「はあ、いつの事でしょうね。
俺、そんな話をした覚えはないですよ。
多分夢で見たんじゃないですか?……それより 夢の内容をもう少し詳しく聞かせてもらえませんかね。
どんな話だったか忘れちゃいましたがね」俺の言葉を聞いた彼女は「うふふ」と笑っているだけだ 俺は諦めて溜息をつくしかなかった。
俺は由香里さんとの雑談で盛り上がっていた だが由香里さんが何を聞きたかったか、何を確かめようとしていたかなんて気にもしなかったのさ。
何故ならば、俺はそんな事に興味が湧かなかったし、彼女に質問されたとしても答えられないと思っていたからだ。
そもそも、どうして俺が子供の時の話を知りたがるのか。
それすら解らない。
しかし彼女の話を聞くうちに、段々とその理由に気づくことになるのだが……そんな事は考えなかった。
だとすれば なぜ俺の夢の中に出てくるんだろう? 俺が何かを望んでいるのかね。
それじゃ夢を見続けるために頑張らねばならんのかいな だが俺はそんなつもりは無かった。
だってな、俺は自分が死にたいなんて思った事は一度も無いからだ夢の中でさえだ。
そんな俺が自殺なんてするか。
する理由が無いじゃないか 俺はベッドの上で寝返りを打つ その拍子に枕元に置いてある時計が視界に入った 午前2時48分。
真夜中も良いところだ こんな時間まで何をやってたんだろうと自分に呆れつつ、眠ろうと目を閉じても全く寝付かれる気配が無かったのだった……結局、俺はその夜一睡も出来ないまま過ごしたよ
「おはようございます。
お疲れ様です」
翌朝、由香里さんを駅まで送りに行こうとすると「いいえ結構よ」と言われてしまった どうしてと尋ねると「もう駅に着いたもの」とのこと。
何だそりゃ。
まあいいや。
とりあえず俺はそのまま家を出た。
今日は土曜日で仕事はお休みだし、特に用事があったわけじゃないけど 駅前通りに出る途中で立ち止まって辺りを眺めてみた。
いつも見ている風景なのに「何だろう?」と思った瞬間 ああ……そうか。
あの人がここに立っているのを見たのはこの一度だけで、それもほんの一カ月足らずの出来事だから何とも思わなかったのか……と納得し、思わず溜息が出そうになったその時だった。
いきなり背中をドンと叩かれたんだ。
驚いて振り返ると由香里さんだった。
俺はびっくりしたあまり「わわっ」と変な声で叫んだのさ。
すると彼女は楽しそうに笑う。
「ごきげんよう」なんて挨拶されちまった。
「おはよう。
随分早いね。
どこか行くの?」
俺が尋ねたら、彼女は首を振って
「これからあなたに会いに行くのよ」と答えた 俺の家は彼女より先にあるから 彼女は俺の部屋の前で足を止めると、「ごめんください。
居られますかしら?」と聞くのだ。
だから当然居ると答えれば彼女は笑顔を浮かべつつ「開けてくださいな」と言う。
そして……
「はい?」俺の目の前にあったものは銀色の円盤だ。
それは彼女の手に握られている。
「お待ちしてました」と言って手渡してきた彼女の言葉は「それね。
あなたがお好きだって言うから買ってきたのよ。
差し上げましょう」
それは「シャーロックホームズの推理」というシリーズ物の小説本だった。
俺はそれを何度も読んだ事があるのを思い出した。
だが俺は「いや、それは貰えない」と言ったのさ。
そうしたら……
「いいえ、遠慮は要らないわ。
受け取って頂戴。
それはあなたのために購入したの。
気にしないで」彼女はそう言って微笑みかけると「それじゃあね、ご機嫌よう」と手をひらつかせ、くるっと後ろを向いて行ってしまった。
後には彼女が残した香りが残るのみだ そう言えば以前 何かの本に書かれていたのを読んだ事があった。
「良い匂いをさせている女性は美人だ」ってな。
だからといってどうというわけじゃあないけどさ。
ただ何だろうね。
不思議だな、と思う。
彼女の姿が見えなくなってから、ずっと考えているんだけど 俺って 今まで美人だと言われる女性にろくに出会った事も無いのに 由香里さんだけは例外みたいだなぁ そんな感じがするのは何故なんだろうか……俺って自惚れているのかな。
自分で自分が解らなくなってきた。
それに美人だと思っているならもっと近づきたいとか仲良くなりたいと考えて行動を起こすだろう? それがないのは何でだろうね?……考えても解らないままだ そう言えば、俺にシャーロックホームズの本を勧めてきたのも彼女だ。
「この本を読んでいると事件に巻き込まれた時に役に立つかも」とか言っていた気がする 俺はもう一度彼女の姿を探そうと周囲に視線をめぐらせる。
だがその姿は見当たらなくて。
仕方なく俺は家に戻ろうとする。
すると俺の部屋の中から話し声らしきものが聞こえてくる。
え?と思いながらドアに歩み寄ろうとしたとき
「お待たせ」の声とともに女性が顔を出したものだ。
それは紛れもなく由香里さんだった。
俺の顔を見るや彼女は「お久しぶりねぇ、元気そうで何よりだわ」と言う。
だから俺も「由香里さんこそ。
お変わりないようで良かった」なんて言って笑い合ったんだ
「どうぞお入りになって」そう言われ部屋に上がる。
テーブルの上にお茶の入ったグラスが置かれると
「あなたに聞きたい事があったのよ」彼女は唐突にそう切り出した聞きたい事って何だい、と尋ねると
「ええとね 昨夜、夢を見たんだけど あなたの昔の事について少し教えてもらったような気がするのよ。
だから聞きたくて……」と言う。
それで思い出す。
そういえば昨夜 彼女と話していて昔、子供の頃の事を喋ったんだなと でもあれはただの夢で 彼女の夢の内容が現実に影響を及ぼすとは思えん。
だから俺は「そんな話、どこで聞いたんですか?」などど突っ込んで聞いてみたが「あら嫌だ、あなたが教えてくれたのよ」とか言い出しやがる
「はあ、いつの事でしょうね。
俺、そんな話をした覚えはないですよ。
多分夢で見たんじゃないですか?……それより 夢の内容をもう少し詳しく聞かせてもらえませんかね。
どんな話だったか忘れちゃいましたがね」俺の言葉を聞いた彼女は「うふふ」と笑っているだけだ 俺は諦めて溜息をつくしかなかった。
俺は由香里さんとの雑談で盛り上がっていた だが由香里さんが何を聞きたかったか、何を確かめようとしていたかなんて気にもしなかったのさ。
何故ならば、俺はそんな事に興味が湧かなかったし、彼女に質問されたとしても答えられないと思っていたからだ。
そもそも、どうして俺が子供の時の話を知りたがるのか。
それすら解らない。
しかし彼女の話を聞くうちに、段々とその理由に気づくことになるのだが……そんな事は考えなかった。