こいつはおどろいた。拳銃にライフル銃に軽機関銃、弾倉やスナイパースコープまで入っている。蓋の裏側にこう書かれていた。『ジェーン・エアを助けてくれ。俺が手配できるのはここまでだ。これが万一、無事に君のもとに届くころ俺はこの世にいないだろう。あとを頼む 瀬尾』まったく馬鹿野郎め、最初から最後まで他人任せじゃないかよ!俺は苦笑しつつ手紙を破り捨てると手近にあったライフルを手にした。M1カービンだ。手にずっしりとくる重さだが問題は無いだろう。銃身を切り詰めたセミオートマチックだし、反動が少ない。それにフルオートも使えるようになっているから便利だ。これなら、命中率の面で不安が残ることもないだろう。続いて、マガジンを確認するが、こちらは空っぽだった。弾は入っていないらしい。
その時、トイレの外で激しい足音がしたと思う間もなく乱暴に扉が開かれた。俺は慌てて、M14ライフルを構えると慎重に狙いをつけた。現れたのは二人組で、こちらを見て驚きの表情を浮かべたが構わずに引き金を引いた。発射の衝撃と轟音が耳を打ち、同時に二人の頭部に穴が空いて倒れていく。その隙を狙って一気に飛び出し、隣の洗面所に飛び込んで壁に張り付く。間髪を入れずに銃声がして壁から銃弾がはじけたような気がしたが俺はかまわずに突っ切っていった。銃声は後を絶たない。
狭い店内を駆け巡って敵を探す。カウンターの裏で物音がしたので、そちらを見ると死体に食いついているネズミを見つけた。俺は迷うことなく銃口を向けると引き金を絞り込む。乾いた破裂音と共に、銃把を通じて凄まじい振動と重みが腕から身体中へと伝わる。銃弾を食らったねずみは一瞬、驚いたように顔を上げると、その目が恐怖で見開かれたまま絶命していった。銃声が響くたびに鼠たちが命を無くしていく。
「出てきな!いるのは分かっているんだ!」俺は叫んだ。そして、天井の蛍光灯を撃ち抜いた。ガラスが割れて破片が落ちてきた。しばらく沈黙が流れる。その間も俺の手から放たれた弾丸は休む暇なく獲物を求めて宙を彷徨っていた。静寂を破ったのは、今度はドアを蹴破る派手な音と悲鳴だ。
瀬尾が戻ってきたようだ。「無事ですか?」と、尋ねる俺の声も上ずっていて自分で自分がおかしかった。「何とかな。だが、連中が銃を持っている」俺は瀬尾が銃を手に持っていることにようやく気づいた。瀬尾は短機関銃で応戦しているようで絶え間のない銃声が響き渡り始めた。俺は援護するべく、手近にあったロッカーの中に入りドアを閉めた。そのすぐ直後に瀬尾は入ってきたらしく銃撃が始まった。さすが元刑事だけあって的確に撃ち込んでいる。「兄さんか?」と声をかける瀬尾の言葉を聞いて初めて気がついたが俺は制帽を被っていた。そうだ!すっかり忘れていたが、今日はこれがある。急いで脱ぐとそれを投げ入れた。「すまん。預かっててくれ」
瀬尾は何も言わなかった。ただ、「ご武運を祈るぜ。必ず生きて帰ってきてくれよ」「ああ。約束する」「信じていいんだよな」「ああ」と俺は力強くうなずいた。その直後だ。「あっ」「どうした?」と訊く俺に瀬尾は慌てた口調で言う。「しまった。撃っちまった」
銃声とともに銃弾がロッカーを貫通してきた。俺はとっさに伏せようとしたが間に合わない。銃弾は俺の右肩に命中した。痛みはそれほどでもないが血が流れ出ているのが分かる。「大丈夫か?」「ああ」と答えるが、瀬尾は心配そうな目で俺を見つめている。
肩を押さえながら立ち上がると、俺は再びトイレに戻った。ドアを開けた途端に銃弾が飛んできてドアをぶち破った。俺は間一髪のところでトイレ内に転がり込んだ。ドアの向こう側では瀬尾が銃を構えて応戦しているが、状況は芳しくないようだった。「もう駄目です。逃げましょう」と瀬尾が言う。「いや、まだだ」と俺が言い返すと瀬尾は首を振った。「しかし」と反論しようとするのを無視して俺は言った。「俺を信じろ」
瀬尾は黙り込んだ。そして、意を決したように、
「分かりました」とつぶやくと、俺に背を向けた。「絶対に死なないでください」瀬尾はそう言って走り出した。
瀬尾の姿が見えなくなると俺は息を吐き出して、大きく深呼吸をした。
そして、ゆっくりと歩き出す。カウンター脇から外に出ると、通路の真ん中に立って、辺りの様子をうかがう。
「どこに行くつもりだい?」背後から声が聞こえた。振り向くと男が立っていた。
長身痩躯の男だった。
黒いスーツに黒いシャツ、黒いネクタイ。黒いサングラスをかけており、頭にはシルクハットが載っていた。
俺は男に銃口を向けて、
「誰かと思えばドウェイン・ジョンソン。堅気に成りたかったんじゃないのか? ジェーン・エアを拉致ってどうする? 豚箱が恋しくなったか?」と尋ねた。
男は小さく笑うと両手を上げて、
「まさか、あんたと戦うことになるとはね。俺だってこんなことは望んでいない。俺はただ、ジェーン・エアに会いたいだけだ。会わせてくれれば、それで終わりにするつもりだった。でも、無理みたいだな。仕方がない。やるしかないか」
「その前に教えてくれないか。どうして、お前らはジェーン・エアを探している?」
ドウェインは鼻で笑った。
「ゲーリー一家の弱みを握ってるからさ。ジェーン・エアはやっこさんと寝た時に偶然、通話履歴を覗き見しちまった。ゲーリー一家は海軍情報部とつながっている。暗黒街を拠点にして外国のスパイ狩りをやっていた。忠誠心を示して政府のお目こぼしにあずかってたという話だ。議会が証人喚問を準備している。俺はジェーン・エアを手土産に政府のスキャンダルを暴くヒーローになろうと思う。ドウェイン一味は日陰者から国の英雄になる」「なるほど、話は分かった。それじゃあ、死んでくれ。英雄になりたいんなら、俺がなってやろうじゃないか。ドウェイン・ジョンソオ・ケネディ。この名を冥途へのみやげに持っていけ!」
「残念だよ。あんたとは仲良くやっていけると思ってたのに」
俺は返事をせずに銃の狙いを定めた。ドウェインも俺に向かって銃を構える。俺は引き金を引いた。轟音がして弾丸が飛び出す。同時にドウェインも発砲。弾は俺の左肩に当たった。俺は激痛に耐えながらさらに引き金を絞った。一発目は外れ、二発目がドウェインの胸に命中。ドウェインはよろめくと後ろに下がっていく。俺は追い打ちをかけた。三発目の弾丸はドウェインの腹にめり込んでいった。ドウェインは仰向けに倒れると苦しげな表情を浮かべていた。
「この悪党野郎が!地獄に堕ちて永遠に苦悶するがいい!」
その瞬間だ! 銃声と同時に右足に焼けるような衝撃を感じたかと思ったら俺は床に転んでいた。何が起きたか分からずに視線を動かすと、そこには一人の女が立っていた。
その手に握られているのはM‐16アサルトライフルだ。
俺は自分の足を見た。右ふくらはぎが赤く染まっている。撃たれたのだ。「ドウェインは殺させない!ゲーリーをやっつけるために必要な人物よ。国家の英雄よ。わからないの?」
ジェーン・エアが俺に銃を向けている。すると、もっと驚くべきことに瀬尾がやってきた。
「どうなってるんだ?お前までドウェインに買収されちまったのか?」
俺が撃たれる覚悟で瀬尾に真意を問うた。
「ああ。そうだ。試させてもらった。あんたがドウェイン氏に銃を向けるかどうか。アタッシュケースを投げ込んだのは俺だよ。」瀬尾はポケットから拳銃を取り出すと、俺の額に銃口を突きつけた。「悪いが、あんたを拘束させて貰うよ」
「馬鹿な……」
瀬尾はニヤリと笑った。「俺はずっとあんたを見ていた。最初は信用できなかったが、あんたはタダのおっちょこちょいで単細胞だ。騙されやすい奴が一番危険で信用できない。ジェーン・エアのことになるとあんたは見境がつかなくなるからな。ゲーリー一家摘発の最大の障害があんただったというわけさ。だから、ジェーンを巻き込んで大芝居をしかけ」」瀬尾はそこで言葉を切った。俺は震える手で銃を握り締めると、瀬尾の頭に銃口を押し当てて、
「瀬尾!俺の話を聞け!俺は、俺は、無実だ!俺は無実なんだ!俺は何も知らない!」と叫んだ。「そんなことは分かってますよ」瀬尾はうなずいた。「だから、こうして一緒に来たんです」
俺は銃を放すと、その場にへたり込んだ。
「最初から……知っていたのか?」
「ええ。俺もバカじゃない。あなたに近づいて調べました。もちろん、あなたの過去も。『屍の王』という店のオーナーも、その娘も全て知っています」
「そうか……それで? これからどうするつもりだ?」
「まずは、病院に行きましょうか」と瀬尾は言う。
「そうだな」と言って俺は立ち上がったが、怪我が酷くて歩けなかった。警察と救急車が駆け付けた。俺は搬送された。そこから先は俺の手を離れて勝手に事態が展開していった。俺は病院で手当を受けたが、傷は深かった。しばらくは入院を余儀なくされた。その間も瀬尾とジェーンは見舞いにやってきた。二人は俺のことを色々と話してくれた。ジェーンは俺を恨んでいるだろうと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。彼女は、俺に心底惚れていたらしい。俺が逮捕された時、彼女もまた逮捕されそうになったが、俺が彼女を庇ったおかげで罪に問われることはなかった。その後、俺が保釈されるのを待って、俺と再び会うために刑務所に入ったのだという。俺が釈放された時には既に俺が収監されている間に彼女の刑期は終わっていた。だが、俺に会うためだけに彼女は出所してきた。それからの日々を、俺との再会を夢見て生きてきたのだという。俺は改めて自分の愚かさを恥じた。
瀬尾は俺の病室にやってくると、「良かったですね」「これで一安心だ」「後は俺たちに任せてください」などと言う。俺は黙ってうなずいた。
瀬尾はジェーンに何か耳打ちした。すると、ジェーンは顔を赤らめて、「ありがとう」と言った。俺は瀬尾に礼を言った。「俺からも感謝するよ」瀬尾は微笑むと、「それでは、また後ほど」とだけ言い残して立ち去った。
俺はジェーンと二人きりになった。「あの時は悪かった」と俺が謝ると、ジェーンは首を振って、
「いいの」と答えた。「私こそごめんなさい」
すると俺はベッドサイドから指輪を取り出した。「君のその言葉は、夫婦喧嘩をした後に聞こうか」「今がその時よ」
「そうか」
「うん」
「俺と結婚してくれるかい?」
「喜んで」
俺とジェーンは唇を重ねた。
瀬尾とジェーンは俺の退院後も俺の身辺を警護し続けた。
俺は仕事を辞めて、ジェーンと共に暮らすことにした。
俺は毎日を幸せだった。
俺はジェーンを愛していたし、ジェーンも俺を愛してくれている。
俺は人生で初めて愛する人を得たのだ。
俺はジェーンといつまでも一緒だった。
そして、俺とジェーンはいつまでも仲睦まじく暮らした。
その時、トイレの外で激しい足音がしたと思う間もなく乱暴に扉が開かれた。俺は慌てて、M14ライフルを構えると慎重に狙いをつけた。現れたのは二人組で、こちらを見て驚きの表情を浮かべたが構わずに引き金を引いた。発射の衝撃と轟音が耳を打ち、同時に二人の頭部に穴が空いて倒れていく。その隙を狙って一気に飛び出し、隣の洗面所に飛び込んで壁に張り付く。間髪を入れずに銃声がして壁から銃弾がはじけたような気がしたが俺はかまわずに突っ切っていった。銃声は後を絶たない。
狭い店内を駆け巡って敵を探す。カウンターの裏で物音がしたので、そちらを見ると死体に食いついているネズミを見つけた。俺は迷うことなく銃口を向けると引き金を絞り込む。乾いた破裂音と共に、銃把を通じて凄まじい振動と重みが腕から身体中へと伝わる。銃弾を食らったねずみは一瞬、驚いたように顔を上げると、その目が恐怖で見開かれたまま絶命していった。銃声が響くたびに鼠たちが命を無くしていく。
「出てきな!いるのは分かっているんだ!」俺は叫んだ。そして、天井の蛍光灯を撃ち抜いた。ガラスが割れて破片が落ちてきた。しばらく沈黙が流れる。その間も俺の手から放たれた弾丸は休む暇なく獲物を求めて宙を彷徨っていた。静寂を破ったのは、今度はドアを蹴破る派手な音と悲鳴だ。
瀬尾が戻ってきたようだ。「無事ですか?」と、尋ねる俺の声も上ずっていて自分で自分がおかしかった。「何とかな。だが、連中が銃を持っている」俺は瀬尾が銃を手に持っていることにようやく気づいた。瀬尾は短機関銃で応戦しているようで絶え間のない銃声が響き渡り始めた。俺は援護するべく、手近にあったロッカーの中に入りドアを閉めた。そのすぐ直後に瀬尾は入ってきたらしく銃撃が始まった。さすが元刑事だけあって的確に撃ち込んでいる。「兄さんか?」と声をかける瀬尾の言葉を聞いて初めて気がついたが俺は制帽を被っていた。そうだ!すっかり忘れていたが、今日はこれがある。急いで脱ぐとそれを投げ入れた。「すまん。預かっててくれ」
瀬尾は何も言わなかった。ただ、「ご武運を祈るぜ。必ず生きて帰ってきてくれよ」「ああ。約束する」「信じていいんだよな」「ああ」と俺は力強くうなずいた。その直後だ。「あっ」「どうした?」と訊く俺に瀬尾は慌てた口調で言う。「しまった。撃っちまった」
銃声とともに銃弾がロッカーを貫通してきた。俺はとっさに伏せようとしたが間に合わない。銃弾は俺の右肩に命中した。痛みはそれほどでもないが血が流れ出ているのが分かる。「大丈夫か?」「ああ」と答えるが、瀬尾は心配そうな目で俺を見つめている。
肩を押さえながら立ち上がると、俺は再びトイレに戻った。ドアを開けた途端に銃弾が飛んできてドアをぶち破った。俺は間一髪のところでトイレ内に転がり込んだ。ドアの向こう側では瀬尾が銃を構えて応戦しているが、状況は芳しくないようだった。「もう駄目です。逃げましょう」と瀬尾が言う。「いや、まだだ」と俺が言い返すと瀬尾は首を振った。「しかし」と反論しようとするのを無視して俺は言った。「俺を信じろ」
瀬尾は黙り込んだ。そして、意を決したように、
「分かりました」とつぶやくと、俺に背を向けた。「絶対に死なないでください」瀬尾はそう言って走り出した。
瀬尾の姿が見えなくなると俺は息を吐き出して、大きく深呼吸をした。
そして、ゆっくりと歩き出す。カウンター脇から外に出ると、通路の真ん中に立って、辺りの様子をうかがう。
「どこに行くつもりだい?」背後から声が聞こえた。振り向くと男が立っていた。
長身痩躯の男だった。
黒いスーツに黒いシャツ、黒いネクタイ。黒いサングラスをかけており、頭にはシルクハットが載っていた。
俺は男に銃口を向けて、
「誰かと思えばドウェイン・ジョンソン。堅気に成りたかったんじゃないのか? ジェーン・エアを拉致ってどうする? 豚箱が恋しくなったか?」と尋ねた。
男は小さく笑うと両手を上げて、
「まさか、あんたと戦うことになるとはね。俺だってこんなことは望んでいない。俺はただ、ジェーン・エアに会いたいだけだ。会わせてくれれば、それで終わりにするつもりだった。でも、無理みたいだな。仕方がない。やるしかないか」
「その前に教えてくれないか。どうして、お前らはジェーン・エアを探している?」
ドウェインは鼻で笑った。
「ゲーリー一家の弱みを握ってるからさ。ジェーン・エアはやっこさんと寝た時に偶然、通話履歴を覗き見しちまった。ゲーリー一家は海軍情報部とつながっている。暗黒街を拠点にして外国のスパイ狩りをやっていた。忠誠心を示して政府のお目こぼしにあずかってたという話だ。議会が証人喚問を準備している。俺はジェーン・エアを手土産に政府のスキャンダルを暴くヒーローになろうと思う。ドウェイン一味は日陰者から国の英雄になる」「なるほど、話は分かった。それじゃあ、死んでくれ。英雄になりたいんなら、俺がなってやろうじゃないか。ドウェイン・ジョンソオ・ケネディ。この名を冥途へのみやげに持っていけ!」
「残念だよ。あんたとは仲良くやっていけると思ってたのに」
俺は返事をせずに銃の狙いを定めた。ドウェインも俺に向かって銃を構える。俺は引き金を引いた。轟音がして弾丸が飛び出す。同時にドウェインも発砲。弾は俺の左肩に当たった。俺は激痛に耐えながらさらに引き金を絞った。一発目は外れ、二発目がドウェインの胸に命中。ドウェインはよろめくと後ろに下がっていく。俺は追い打ちをかけた。三発目の弾丸はドウェインの腹にめり込んでいった。ドウェインは仰向けに倒れると苦しげな表情を浮かべていた。
「この悪党野郎が!地獄に堕ちて永遠に苦悶するがいい!」
その瞬間だ! 銃声と同時に右足に焼けるような衝撃を感じたかと思ったら俺は床に転んでいた。何が起きたか分からずに視線を動かすと、そこには一人の女が立っていた。
その手に握られているのはM‐16アサルトライフルだ。
俺は自分の足を見た。右ふくらはぎが赤く染まっている。撃たれたのだ。「ドウェインは殺させない!ゲーリーをやっつけるために必要な人物よ。国家の英雄よ。わからないの?」
ジェーン・エアが俺に銃を向けている。すると、もっと驚くべきことに瀬尾がやってきた。
「どうなってるんだ?お前までドウェインに買収されちまったのか?」
俺が撃たれる覚悟で瀬尾に真意を問うた。
「ああ。そうだ。試させてもらった。あんたがドウェイン氏に銃を向けるかどうか。アタッシュケースを投げ込んだのは俺だよ。」瀬尾はポケットから拳銃を取り出すと、俺の額に銃口を突きつけた。「悪いが、あんたを拘束させて貰うよ」
「馬鹿な……」
瀬尾はニヤリと笑った。「俺はずっとあんたを見ていた。最初は信用できなかったが、あんたはタダのおっちょこちょいで単細胞だ。騙されやすい奴が一番危険で信用できない。ジェーン・エアのことになるとあんたは見境がつかなくなるからな。ゲーリー一家摘発の最大の障害があんただったというわけさ。だから、ジェーンを巻き込んで大芝居をしかけ」」瀬尾はそこで言葉を切った。俺は震える手で銃を握り締めると、瀬尾の頭に銃口を押し当てて、
「瀬尾!俺の話を聞け!俺は、俺は、無実だ!俺は無実なんだ!俺は何も知らない!」と叫んだ。「そんなことは分かってますよ」瀬尾はうなずいた。「だから、こうして一緒に来たんです」
俺は銃を放すと、その場にへたり込んだ。
「最初から……知っていたのか?」
「ええ。俺もバカじゃない。あなたに近づいて調べました。もちろん、あなたの過去も。『屍の王』という店のオーナーも、その娘も全て知っています」
「そうか……それで? これからどうするつもりだ?」
「まずは、病院に行きましょうか」と瀬尾は言う。
「そうだな」と言って俺は立ち上がったが、怪我が酷くて歩けなかった。警察と救急車が駆け付けた。俺は搬送された。そこから先は俺の手を離れて勝手に事態が展開していった。俺は病院で手当を受けたが、傷は深かった。しばらくは入院を余儀なくされた。その間も瀬尾とジェーンは見舞いにやってきた。二人は俺のことを色々と話してくれた。ジェーンは俺を恨んでいるだろうと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。彼女は、俺に心底惚れていたらしい。俺が逮捕された時、彼女もまた逮捕されそうになったが、俺が彼女を庇ったおかげで罪に問われることはなかった。その後、俺が保釈されるのを待って、俺と再び会うために刑務所に入ったのだという。俺が釈放された時には既に俺が収監されている間に彼女の刑期は終わっていた。だが、俺に会うためだけに彼女は出所してきた。それからの日々を、俺との再会を夢見て生きてきたのだという。俺は改めて自分の愚かさを恥じた。
瀬尾は俺の病室にやってくると、「良かったですね」「これで一安心だ」「後は俺たちに任せてください」などと言う。俺は黙ってうなずいた。
瀬尾はジェーンに何か耳打ちした。すると、ジェーンは顔を赤らめて、「ありがとう」と言った。俺は瀬尾に礼を言った。「俺からも感謝するよ」瀬尾は微笑むと、「それでは、また後ほど」とだけ言い残して立ち去った。
俺はジェーンと二人きりになった。「あの時は悪かった」と俺が謝ると、ジェーンは首を振って、
「いいの」と答えた。「私こそごめんなさい」
すると俺はベッドサイドから指輪を取り出した。「君のその言葉は、夫婦喧嘩をした後に聞こうか」「今がその時よ」
「そうか」
「うん」
「俺と結婚してくれるかい?」
「喜んで」
俺とジェーンは唇を重ねた。
瀬尾とジェーンは俺の退院後も俺の身辺を警護し続けた。
俺は仕事を辞めて、ジェーンと共に暮らすことにした。
俺は毎日を幸せだった。
俺はジェーンを愛していたし、ジェーンも俺を愛してくれている。
俺は人生で初めて愛する人を得たのだ。
俺はジェーンといつまでも一緒だった。
そして、俺とジェーンはいつまでも仲睦まじく暮らした。