完成から一週間ほど経ってようやくやってきた〝音楽堂〟最初の公演日。
一週間も時間がかかったのはシルキーたちによる徹底的な清掃が施されたためです。
このシルキーたちも神樹の里への移住希望者だったらしく、働き場所が見つかったことでメイヤも受け入れたようです。
彼女たちも清掃のしがいがある〝音楽堂〟が手に入り大満足なようですね。
『それにしても大満員だな』
今日はドラゴンたちも小型になるのではなく人に変化して聴衆として参加しています。
建てる最中は細かいところまで見なければいけなかったらしく、人の姿にはなれなかったようですね。
「公演開始までまだ1時間もあるのにもうぎっしりですよ」
「そうね。初めての〝音楽堂〟利用っていうこともあるみたいだけれど、みんな期待しているみたい」
『いまのうちにディーヴァへとあいさつしに言っておいた方がいいのではないか?』
「そうしましょうか。行きましょう、リン」
「そうだね」
僕たちは一度会場を出て警備をしてくれている精霊たちに通してもらい演者用の控え室へ。
そこでは普段よりも一層豪華なドレスに身を包んだディーヴァが肩を落として座っていました。
となりにいるミンストレルも心配そうにしています。
「ディーヴァ、大丈夫?」
「リン……シント様も」
「かなり緊張していますね。大丈夫ですか?」
「……その、いつもと同じように歌を歌うだけとはわかっているのです。でも、これだけ立派な場所で歌うとなると緊張してしまい」
「無理もないよ。本当に大丈夫? 無理なら……」
「いえ、大丈夫です。歌い始めればいつもの調子に戻ります。ただ、その……もう少しだけ側にいてもらえますか、リン」
「うん、いいよ。開演10分前になるとドアが開かなくなっちゃうからその前には戻らなくちゃいけないけど」
「そこまで甘えませんよ。ただ、お友達と話していたいだけですから」
「そっか。なにを話す?」
「そうですね……リンは私が来る前、この里でなにをしてきたのですか?」
「私? それはね……」
ディーヴァとリン、それにミンストレルの会話は開演20分前まで続きました。
その頃にはディーヴァも落ち着きを取り戻し顔色も戻っていましたね。
いいことです。
「あ、そろそろ戻らなくちゃ。ディーヴァ、大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です。今日の演目、しっかりと歌いきってみせます」
「今日の演目か……私たちの活躍の歌もあるんだよね?」
「もちろん。人気の歌ですから」
「恥ずかしいなぁ」
「ふふふ。しっかり聞いていってくださいな」
「うん、わかった。それじゃあ、シント。戻ろっか」
「ええ。ディーヴァも無理をしない程度に」
「ありがとうございます」
僕たちがドラゴンたちの元に戻ったあと、開演10分前のブザーが鳴り響き場内が静まりかえりました。
開演3分前になると灯りも徐々に暗くなり、ステージの上だけが照らされるように。
やがて、開演時間になるとやってきたのはミンストレルを引き連れたディーヴァでした。
「皆様、本日は私の歌を聴くためにお集まりいただきありがとうございます。今日は私の歌だけの予定でしたが、途中途中でミンストレルの歌もお聞きくださいませ。どうぞよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします!」
その宣言に集まった聴衆たちは歓声を持って応えました。
これはミンストレルの歌を聴くこともできそうですね。
それにしても〝音楽堂〟ですか、これはすごい。
「観客席の一番後ろにいてもいまの声がはっきり聞こえるんですね」
「私も驚いちゃった」
『そうだろう、そうだろう。これが音楽堂なのだ』
『ここでの歌は迫力が違うぞ』
『ディーヴァの歌声は私たちも気に入っているわ。どんな迫力のある声を響かせてくれるのかしら?』
ドラゴンたちも期待が高まっている様子です。
さて、1曲目はなんでしょうか?
「1曲目ですが私の故郷に伝わっていた古いエルフの歌になります。私が初めて覚えた歌、どうかお聞きください」
最初はディーヴァが初めて覚えた歌ですかどのような歌なんでしょう?
多分聞いたことはあるのでしょうが説明付きで聞くのは初めてですね。
「~~~♪」
「ッ!?」
「すごい……」
『確かに。ここまでよく響く歌声だ』
『魔法などを併用しているとはいえここまでとは』
『ドラゴンの私たちですら甘く見ていたわ』
本当に最後尾にいる僕たちのところまでディーヴァの透き通った歌声が響き渡って届いています。
これが〝音楽堂〟ですか……。
「……皆様、1曲目はいかがでしたでしょうか?」
ディーヴァが歌い終わるとディーヴァの歌声並みの大歓声が巻き起こりました。
みんな、ここまですごいことになるとは想像していなかったのでしょうね。
「ありがとうございます。2曲目はニンフの皆様から教えていただいた歌となります。人間たちの恋心を歌った歌。皆様には縁遠い歌かもしれませんがお耳汚しを」
このようにしてディーヴァの歌は次々と披露されていきます。
ときどき挟まれるミンストレルの歌も大いに会場を沸かせ、彼女もまた嬉しそうに手を振っていました。
「さて、次が最後の歌になります。最後の歌は影の軍勢の皆様や五大精霊様方より伺った話を元にして作った歌、『神樹の契約者と守護者、幻獣解放のための戦い』となります。皆様にも大好評のこの歌、ミンストレルと合唱いたしますので最後にお聞き届ください」
最後に僕たちが行った最終決戦の歌ですか……。
聴衆の皆さんにも人気のようですしこのまま聞きとどけましょう。
となりのリンも顔を真っ赤に染めて俯いてますけど。
「~~~♪」
「~~~♬」
ディーヴァの爽やかでありながら重厚な歌声と、ミンストレルのかわいらしく陽気な歌声が〝音楽堂〟の中に響き渡りました。
聴衆は誰ひとり音を発せず、静かにその音色へと耳を傾け歌声に酔いしれているようです。
やがて、僕たちの活躍を歌った歌もクライマックスとなり、終わりを迎えました。
揃ってお辞儀をしたディーヴァとミンストレルを待っていたのは今日いままでで一番の大歓声。
彼女たちもやりきった笑顔でそれに応えて手を振っています。
「本日はお越し頂きありがとうございました。〝音楽堂〟での次回公演がいつになるかは決まっておりませんが次の機会もまたお越しくださいますようお願いいたします。ああ、でも、今回来ることができなかった皆様を優先して上げてくださいね? 私としては神樹の里の皆様に歌を聴かせて差し上げたいので」
そう告げてお辞儀をするとディーヴァとミンストレルは控え室へと戻っていきました。
聴衆たちも続々と帰っていき、やがて僕とリン、ドラゴンたちだけが取り残されます。
『いや、素晴らしい歌声だった』
『2カ月かけて建造した甲斐があるというもの』
『本当に。でも、もう少しいろいろな歌を聴きたいわね』
「歌の題材がこの里では少ないですからね」
「ディーヴァもいろいろと話を聞いて回っているのだけど、なかなか新しい歌はできないそうよ」
『そうか。ならば我々がお節介をすることにしよう。彼女の控え室に案内してもらえるか?』
「はい。構いませんが……どんなことをするんですか?」
『竜の冒険譚を少々教える。それから彼女のために人の街から歌集も買ってこよう』
「歌集を買ってくる? ドラゴンってお金を持ってるの?」
『多少ならね。とりあえず彼女と相談よ』
ドラゴンたちは言い出したら聞かないのでとりあえずディーヴァたちの元に案内します。
そこで、ディーヴァにドラゴンたちの冒険譚を語り始めるとディーヴァも新しい歌を思いついたようで必死に歌をメイヤが作った紙に書きため始めました。
それからドラゴンたちからの差し入れで人間たちの歌集も手に入ることを知ると、恐縮しながらも大喜び。
彼女は本当に歌を歌うことが好きですからね。
ドラゴンたちは簡単な楽器も買ってくると言い出しましたし、よほどディーヴァの歌が気に入ったのでしょう。
そんなドラゴンたちとも今日でお別れ。
次は1カ月後くらいに差し入れを持って遊びに来るそうです。
メイヤからも「1カ月に一度くらいならディーヴァの歌を聴きに来ても構わない」と了解を取り付けてあったあたり手が早い。
それからディーヴァとミンストレルによる〝音楽堂〟での公演は一週間に一度と決まりました。
それだけ要望が多かったことと、ディーヴァとミンストレルも〝音楽堂〟で歌う楽しさに目覚めたことがあるようです。
それ以外の日はニンフたちが歌を披露したりフェアリーやピクシー、エアリアルなどが舞いを披露したりしているそうですね。
作るのには本当に苦労しましたが、有効活用してくれているようでよかったです。
……僕にリンへの甘え癖が付いてしまったのはまた別の話として。
一週間も時間がかかったのはシルキーたちによる徹底的な清掃が施されたためです。
このシルキーたちも神樹の里への移住希望者だったらしく、働き場所が見つかったことでメイヤも受け入れたようです。
彼女たちも清掃のしがいがある〝音楽堂〟が手に入り大満足なようですね。
『それにしても大満員だな』
今日はドラゴンたちも小型になるのではなく人に変化して聴衆として参加しています。
建てる最中は細かいところまで見なければいけなかったらしく、人の姿にはなれなかったようですね。
「公演開始までまだ1時間もあるのにもうぎっしりですよ」
「そうね。初めての〝音楽堂〟利用っていうこともあるみたいだけれど、みんな期待しているみたい」
『いまのうちにディーヴァへとあいさつしに言っておいた方がいいのではないか?』
「そうしましょうか。行きましょう、リン」
「そうだね」
僕たちは一度会場を出て警備をしてくれている精霊たちに通してもらい演者用の控え室へ。
そこでは普段よりも一層豪華なドレスに身を包んだディーヴァが肩を落として座っていました。
となりにいるミンストレルも心配そうにしています。
「ディーヴァ、大丈夫?」
「リン……シント様も」
「かなり緊張していますね。大丈夫ですか?」
「……その、いつもと同じように歌を歌うだけとはわかっているのです。でも、これだけ立派な場所で歌うとなると緊張してしまい」
「無理もないよ。本当に大丈夫? 無理なら……」
「いえ、大丈夫です。歌い始めればいつもの調子に戻ります。ただ、その……もう少しだけ側にいてもらえますか、リン」
「うん、いいよ。開演10分前になるとドアが開かなくなっちゃうからその前には戻らなくちゃいけないけど」
「そこまで甘えませんよ。ただ、お友達と話していたいだけですから」
「そっか。なにを話す?」
「そうですね……リンは私が来る前、この里でなにをしてきたのですか?」
「私? それはね……」
ディーヴァとリン、それにミンストレルの会話は開演20分前まで続きました。
その頃にはディーヴァも落ち着きを取り戻し顔色も戻っていましたね。
いいことです。
「あ、そろそろ戻らなくちゃ。ディーヴァ、大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です。今日の演目、しっかりと歌いきってみせます」
「今日の演目か……私たちの活躍の歌もあるんだよね?」
「もちろん。人気の歌ですから」
「恥ずかしいなぁ」
「ふふふ。しっかり聞いていってくださいな」
「うん、わかった。それじゃあ、シント。戻ろっか」
「ええ。ディーヴァも無理をしない程度に」
「ありがとうございます」
僕たちがドラゴンたちの元に戻ったあと、開演10分前のブザーが鳴り響き場内が静まりかえりました。
開演3分前になると灯りも徐々に暗くなり、ステージの上だけが照らされるように。
やがて、開演時間になるとやってきたのはミンストレルを引き連れたディーヴァでした。
「皆様、本日は私の歌を聴くためにお集まりいただきありがとうございます。今日は私の歌だけの予定でしたが、途中途中でミンストレルの歌もお聞きくださいませ。どうぞよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします!」
その宣言に集まった聴衆たちは歓声を持って応えました。
これはミンストレルの歌を聴くこともできそうですね。
それにしても〝音楽堂〟ですか、これはすごい。
「観客席の一番後ろにいてもいまの声がはっきり聞こえるんですね」
「私も驚いちゃった」
『そうだろう、そうだろう。これが音楽堂なのだ』
『ここでの歌は迫力が違うぞ』
『ディーヴァの歌声は私たちも気に入っているわ。どんな迫力のある声を響かせてくれるのかしら?』
ドラゴンたちも期待が高まっている様子です。
さて、1曲目はなんでしょうか?
「1曲目ですが私の故郷に伝わっていた古いエルフの歌になります。私が初めて覚えた歌、どうかお聞きください」
最初はディーヴァが初めて覚えた歌ですかどのような歌なんでしょう?
多分聞いたことはあるのでしょうが説明付きで聞くのは初めてですね。
「~~~♪」
「ッ!?」
「すごい……」
『確かに。ここまでよく響く歌声だ』
『魔法などを併用しているとはいえここまでとは』
『ドラゴンの私たちですら甘く見ていたわ』
本当に最後尾にいる僕たちのところまでディーヴァの透き通った歌声が響き渡って届いています。
これが〝音楽堂〟ですか……。
「……皆様、1曲目はいかがでしたでしょうか?」
ディーヴァが歌い終わるとディーヴァの歌声並みの大歓声が巻き起こりました。
みんな、ここまですごいことになるとは想像していなかったのでしょうね。
「ありがとうございます。2曲目はニンフの皆様から教えていただいた歌となります。人間たちの恋心を歌った歌。皆様には縁遠い歌かもしれませんがお耳汚しを」
このようにしてディーヴァの歌は次々と披露されていきます。
ときどき挟まれるミンストレルの歌も大いに会場を沸かせ、彼女もまた嬉しそうに手を振っていました。
「さて、次が最後の歌になります。最後の歌は影の軍勢の皆様や五大精霊様方より伺った話を元にして作った歌、『神樹の契約者と守護者、幻獣解放のための戦い』となります。皆様にも大好評のこの歌、ミンストレルと合唱いたしますので最後にお聞き届ください」
最後に僕たちが行った最終決戦の歌ですか……。
聴衆の皆さんにも人気のようですしこのまま聞きとどけましょう。
となりのリンも顔を真っ赤に染めて俯いてますけど。
「~~~♪」
「~~~♬」
ディーヴァの爽やかでありながら重厚な歌声と、ミンストレルのかわいらしく陽気な歌声が〝音楽堂〟の中に響き渡りました。
聴衆は誰ひとり音を発せず、静かにその音色へと耳を傾け歌声に酔いしれているようです。
やがて、僕たちの活躍を歌った歌もクライマックスとなり、終わりを迎えました。
揃ってお辞儀をしたディーヴァとミンストレルを待っていたのは今日いままでで一番の大歓声。
彼女たちもやりきった笑顔でそれに応えて手を振っています。
「本日はお越し頂きありがとうございました。〝音楽堂〟での次回公演がいつになるかは決まっておりませんが次の機会もまたお越しくださいますようお願いいたします。ああ、でも、今回来ることができなかった皆様を優先して上げてくださいね? 私としては神樹の里の皆様に歌を聴かせて差し上げたいので」
そう告げてお辞儀をするとディーヴァとミンストレルは控え室へと戻っていきました。
聴衆たちも続々と帰っていき、やがて僕とリン、ドラゴンたちだけが取り残されます。
『いや、素晴らしい歌声だった』
『2カ月かけて建造した甲斐があるというもの』
『本当に。でも、もう少しいろいろな歌を聴きたいわね』
「歌の題材がこの里では少ないですからね」
「ディーヴァもいろいろと話を聞いて回っているのだけど、なかなか新しい歌はできないそうよ」
『そうか。ならば我々がお節介をすることにしよう。彼女の控え室に案内してもらえるか?』
「はい。構いませんが……どんなことをするんですか?」
『竜の冒険譚を少々教える。それから彼女のために人の街から歌集も買ってこよう』
「歌集を買ってくる? ドラゴンってお金を持ってるの?」
『多少ならね。とりあえず彼女と相談よ』
ドラゴンたちは言い出したら聞かないのでとりあえずディーヴァたちの元に案内します。
そこで、ディーヴァにドラゴンたちの冒険譚を語り始めるとディーヴァも新しい歌を思いついたようで必死に歌をメイヤが作った紙に書きため始めました。
それからドラゴンたちからの差し入れで人間たちの歌集も手に入ることを知ると、恐縮しながらも大喜び。
彼女は本当に歌を歌うことが好きですからね。
ドラゴンたちは簡単な楽器も買ってくると言い出しましたし、よほどディーヴァの歌が気に入ったのでしょう。
そんなドラゴンたちとも今日でお別れ。
次は1カ月後くらいに差し入れを持って遊びに来るそうです。
メイヤからも「1カ月に一度くらいならディーヴァの歌を聴きに来ても構わない」と了解を取り付けてあったあたり手が早い。
それからディーヴァとミンストレルによる〝音楽堂〟での公演は一週間に一度と決まりました。
それだけ要望が多かったことと、ディーヴァとミンストレルも〝音楽堂〟で歌う楽しさに目覚めたことがあるようです。
それ以外の日はニンフたちが歌を披露したりフェアリーやピクシー、エアリアルなどが舞いを披露したりしているそうですね。
作るのには本当に苦労しましたが、有効活用してくれているようでよかったです。
……僕にリンへの甘え癖が付いてしまったのはまた別の話として。