4姉妹の案内を受け、アモルは屋敷の奥へ奥へと入っていく。

(すごいな……。一人だと迷子になりそう)

迷路のような廊下をひたすら通りながら、アモルは周りを見渡し思う。

「普段はこんな奥までは行かねーけどな」

「お母さんの部屋……『予言の間』だけ奥にあるの」

「予言の間……」

「……着いた」

話している間に大きな扉の前にたどり着くアモルたち。
扉の装飾、意匠、どれをとってもただの部屋ではないと一目でわかる。

「ここが……」

扉の雰囲気、威圧を感じ取るアモル。
4姉妹もめったに来ないのか、部屋の前で固まっている。
そこに――

「よく来ました、『運命の子』アモル。そして、娘たち」

部屋内から透き通った声が届く。

「入りなさい」

「は、はい!」

促されるまま、アモルは扉をノックすると、ゆっくりそっと戸を開けた。
開く音が響く中を、アモルと4姉妹は入っていく。

「失礼します……」

部屋内に入りアモルは思う。
扉の大きさの割に、部屋内はそこまで広くはないと。
そして部屋の中央に、4姉妹の母親であるだろう女性が座っていた。

「改めまして。ようこそアモル」

「!」

女性を見てアモルが第一に思ったこと、それは……。

(美人……!)

4姉妹もそれぞれ違う美しさ可愛さがあるが、
アモルの目の前にいる4姉妹の母親はまた違う美しさがあった。

「おいアモル! 母上に見惚れてんじゃねえ!」

「そ、そうだよ! たしかにお母さん、美人だけど」

「まったく、キミはラヴやシオンというものがありながら……」

「うん……」

「い、いやそういうわけじゃ……」

と言いつつも、アモルの目は泳いでいる。そこに詰め寄る4姉妹。
そこに4姉妹の母が睨みを利かす。

「そこまでにしなさい、娘たち」

静かな、しかし場を一喝する声。
その声に4姉妹だけでなく、アモルも姿勢を正し静かになった。

「では改めて。始めまして、アモル。彼女たちの母、『エリス』といいます」

(エリス……。エリス・エレメント?)

「そうです」

「!」

アモルの心の声を読むように、4姉妹の母、エリスは囁いた。

「……じゃ、じゃあエリスさん。聞かせてくれるんですか。
予言のこと、ボクを『運命の子』『宿命の子』と呼ぶことを」

「ええ」

そう言うとエリスは懐から、何枚かの札のようなものを取り出す。
エリスはその札を並べながら語りだした。

「今から数年前、この『神札』に予言が下りました。数年の後、この大陸に『大災厄』が訪れると」

「『大災厄』……?」

「ええ。天変地異なのかモンスターの襲来なのかはわかりません。
ただ、この『大災厄』によりこの大陸は破滅の危機を迎える、と」

「破滅!?」

アモルの驚きを気にもせず、エリスは続ける。

「ですがその破滅に対抗できる人物が現れる、と出たのです。
異界の記憶を持ち、女神と契約を結んだ男児、と」

「!」

アモルにはその意味がすぐに理解できた。
『異界の記憶』とは元の世界のこと。『女神と契約』はラヴとの契約のことだと。

「オレたちにはさっぱりわかんなかったんだけどよ。母上の札に反応したんだよ」

「アモルくん。キミがね」

「その表情。キミは意味が理解できているようだね」

「ん……」

4姉妹がそれぞれアモルを見る。

「……そこまではわかりました。では『運命の子』『宿命の子』というのは?」

「続けましょう。
その男児は我が娘たちとも契約を結ぶと出ています。これが『運命の子』
そして――」

そこでエリスは一瞬口を止めた。

「――そして運命の子の選択は『大災厄』に影響し、大いなる運命の渦となる。
……これが『宿命の子』の所以です」

エリスは札を懐にしまうと一息をつく。
それを見ながらアモルは、先程の一瞬口を止めたのが気になり問う。

「その宿命の選択というのはわからないんですか」

「……ええ」

少し間を置いた回答に、アモルは何かあると感じ、仕方なく質問をやめる。

「終わりですか……?」

「そうですね。予言の方は」

そう言うとエリスは娘たち4姉妹を見る。
その目は暗に出て行けと言っているようだ。

「出て行けってよ。行こうぜ」

「……うん」

「ま、またね、お母さん!」

「お元気で」

4姉妹は先に部屋を出ていく。
静かな部屋にエリスとアモル二人きりになり、アモルは緊張する。
すると、エリスは大きく息を吐き……。

「ふぅー! 疲れたぁ!」

と、大きく口を開いた。

「え、え?」

突然のエリスの変化に、アモルは驚きを隠せない。

「ああ、アモル。すまない、驚かせたな」

「は、はあ……?」

「これが素の私だよ。さっきまでのは客向けに演じてるだけさ」

その言葉に、アモルは一つ疑問を投げる。

「先輩たち……いえ、娘たちにもですか?」

「……そうだね。娘たちにもいずれこの私を見せないとね」

その表情はどこか悲しげに見えた。
だがすぐにちょっと邪悪な笑顔を浮かべ、エリスはアモルに近づき囁く。

「ところで……娘たちで誰が一番気になる?」

「えっ!?」

突然の問いにアモルは慌てる。

(確かに先輩たち、みんな可愛いけど……)

「ふふ~ん。ヒノはね、あれで小さいころはね――」

アモルを無視し娘語りを始めるエリスであった。