先日の一件以来、アモルの近くには、ラヴとシオンに加えエレテが来るようになった。

「でも、いいなー。エレテはアモルの隣の席で」

「エレテ、ラヴも! アモルは渡さないから!」

「わ、私はそういうのじゃ……」

三人の様子を、アモルは近くから微笑ましく見守っている。
しかし一方で、アモルには別に考えていることがあった。

(ラヴのおかげで、ボクはこの世界に転生したわけだけど……)

アモルは自分の身体を眺めたり、手を握ったりする。

(この前、エレテの本を取り返したときもそうだ。ボクにはこんな力はなかった。
生前の『護』の身体にも……この『アモル』の身体にも……)

いろいろ考えながら、アモルは一つ気がつく。

(そういえば……ラヴにキスされた後からかな。この力がみなぎるのは。
ラヴの契約って、もしかしてボクにも影響がある……?)

アモルがラヴの方を見ると、ラヴが微笑みながらこっそり手を振っていた。



昼休みに、アモルはこっそりとラヴを呼び出すと、先程のことを質問した。

「あれ、言ってなかったっけ? ……ああ! 言ってなかった! ごめん!」

ラヴは慌てながらアモルに頭を下げると、説明を始めた。

「アモルが愛を集めてくれると、わたしの女神の力が上がっていくの」

「それは、女神見習いからランクアップするためって……」

「それもなんだけど、女神の力が上がることで、契約者であるキミにも影響があるの。
だから、力が上がったのは、愛が集まってキミの力も上がった、のだと思う!」

(思う……?)

最後の一言が少し気になるアモルだったが、力が上がったことは間違いない。

(この身体で、ボクは、転生前の分も生きてみせる!)

アモルは自分に宣言する。
しかしまだアモルは知らなかった。自身が手に入れた力。その力量を……。



アモルたちが通う学園。
そこの授業は教科書による学習、体育、そして『魔法学』が存在している。
アモルは勉強こそ他の皆と大きな差はなかったが、体育、魔法学は別だった。


基礎体力測定――

「アモル君、まだ疲れてないのかい?」

「え? はい、まだいけますよ」

「いや、しかしねえ……」

教師が周りを見渡させる。
そこには、既にへとへとに疲れ切っている他の生徒たちが。

「あ、す、すみません。気づかなくて」

アモルは慌てて動きを止め、皆の中に戻るのだった。


魔法学――

「えー、今日は基本中の基本の魔法『ファイヤ』から教えていきます」

教師の説明の後、皆それぞれ、的に向かって『ファイヤ』を放つ。
アモルも、ラヴ、シオン、エレテに見守られながら、的に向かい手をかざす。

「ファイヤ!」

その言葉と共に放たれたのは間違いなく『ファイヤ』。しかしその威力が桁違いだった。
他の生徒の『ファイヤ』が的に当たって揺れるだけなのに対し、アモルの『ファイヤ』は的を吹き飛ばし粉砕していた。

周りの生徒の反応はそれぞれだった。
一部の生徒は驚き、恐怖、一部の生徒は、尊敬の眼差しを向けていた。



その夜、アモルはベッドで横になりながら一人考える。

(体育の時も、魔法の時も……これもラヴとの契約の力?)

アモルは天井に向けて手を伸ばす。

(ラヴと、シオン、エレテも? 三人だけでこの力。
もっと愛が集まったらボクはどこまで行くのだろう……)

アモルの中には不安があった。だが昂ぶりも存在していた。

(ラヴを女神にする。シオンもエレテも守る。ボクの力はきっとそのためにある!)

アモルが決意の拳を握る。
そして眠りに就こうとした時だった。

アモルの部屋の窓に小さく『コン』と音が鳴る。

「……? ラヴかな」

アモルが窓を開けると、目の前に物体が飛んでくる。
それをアモルは反射神経の良さで受け止めた。

「手紙……?」

アモルが手紙を開く。

『憎きアモルへ。学園の体育場で待つ』

「誰からか書いてないな……ん?」

『来なかったら、ラヴちゃんやシオンちゃん、エレテをどうするかわからないからな!』

手紙の下の方に書いてあるそれを読み、アモルは手紙を握りつぶした。



学園の体育場横の木。そこにはラヴとシオン、エレテがロープで結ばれ捕まっていた。

「「ちょっと! 放しなさいよ!」」

ラヴとシオンが叫ぶ。エレテは震えて声が出ないようだ。

「おとなしくしててくれよ~、ラヴちゃん、シオンちゃん。
今からアモルをボコって、真に強いのは誰か教えてやるからさ!」

話を聞かず一人で妄想する少年。
先日、エレテに嫌がらせをしていた大将少年であった。

「誰をボコるって?」

夜の月に照らされて、アモルがゆっくりと現れる。

「「アモル!」」

「アモル……くん」

「へっ! 待ってたぜ、アモ――」

大将少年の言葉を無視し、アモルは木に近づくと、ロープを一瞬でほどいた。

「ありがとう、アモル!」

「さっすが、アモル」

「ありがとう、アモルくん」

三人に感謝されるアモル。その後ろから大将少年が怒りながら拳を振り上げた。

「無視すんじゃねえっ!」

だが背後からの一撃を、アモルは振り向きながら軽く受け止め、逆に押し飛ばす。

「うおっ!?」

押し飛ばされ尻もちをつく大将少年だったが、怒りでしぶとく立ち上がり、アモルの方に向き直る。
アモルはその様子を、冷たい目で見ていた。

「ねえキミ。もうこんなことしないって約束して帰ってくれない?
そうしたらボクも、今日のことなかったことにするからさ」

アモルが淡々と言い放つ。
しかしその言い方が逆に大将少年の怒りに火をつけた。

「ふざけやがって! おい、おまえら!」

アモルたちの周りを、大将少年の下っ端少年たちが現れ囲む。

「……これは、隠れるのが上手いね、キミたち」

囲まれている状況ながら、アモルは思ったことをそのまま口走っていた。

「けっ、やるぞ、おまえら!」

大将、下っ端の少年たちが一斉にアモルに襲い掛かろうとした、その時。

「ファイヤ!」

「ウォータ!」

「ウインド」

「ストーン」

次々と魔法が放たれる

「う、うおおおっ!?」

手加減されているとはいえ魔法を受け、少年たちはそれぞれ吹き飛んでいく。

それをアモルたち4人は驚いて見ていた。

「大丈夫だったか?」

魔法を放った一人、赤髪の女の子がアモルたちに声を掛ける。

「あ、はい。ありがとうございます。えっとあなたたちは……」

アモルが聞こうとして、横にいたエレテが声を出した。

「1学年上のクラスの4属性姉妹……さん?」

その言葉に、姉妹はそれぞれ頷いて答えた。