それから数日。平穏な日が続いた。
アモルも記憶が上手く繋がり、無事異世界に馴染んできた……と思っていたある日。

「そういえば二人とも。準備はどう? 進んでる?」

食事中、シオンの母が質問する。
アモルはすぐに何のことかが出てこなかった。

「学園に行く準備でしょ。バッチリ。アモルは?」

「え、あ、ああ。もう少し、かな」

ごまかしつつ、アモルは記憶から引っ張り出した。。
もうすぐこの家から離れ、町にある学園に通いに行くのだと。

「アモル、学園でもうちの娘をよろしくね?」

「もう、おかあさん!」

親にからかわれ顔を赤く染めるシオン。それを笑顔でアモルは見守る。



その日の夜。
アモルが荷物の準備をしていた時だった。
部屋の窓から『コンコン』と音がする。

「え? ここ2階……」

とりあえず窓を開けるアモル。

「アーモルッ!」

窓を乗り越えるように、ラヴがアモルに飛びついてきた。

「ラヴ!? どこから入ってきてるの!? ていうかラヴは普段どこにいるの!」

「秘密! でも、もうすぐいる場所同じになるよ!」

「え?」

ラヴがその場でくるっと回る。
するとラヴの着ていた服が一瞬で制服に変わった。

「その制服って……」

「そう。アモルやあのシオンって子の学園の制服!」

「まさか……」

「うん! わたしも学園に通う!」

「……本気で?」

「もちろん!」

アモルは嬉しいような、複雑なような表情を浮かべる。

「でもなんで?」

「もちろん、アモルを見守るため!」

と言った後に少し顔を赤くすると。

「それと、一緒にいるため!」

と言って抱き着いた。

「う、うん。わかったよ。止めはしないけど……」

苦笑しつつも、アモルは嬉しそうにするのだった。



「いってらっしゃい! 体調に気を付けるのよー!」

「うん!」

「はい!」

「はーい!」

町行きの馬車に手を振るシオンの母。
返事の手を振る3人。

「……なんでいるの?」

シオンが同じ馬車に乗っているラヴを睨む。

「同じ学園に向かうからだよ?」

「……そうなの?」

シオンが今度はアモルを睨む。

「そうなんです……」

学園に来るのは知っていたが、同じ馬車で行くとは……。
と、アモルは頭を抱える。

「ラヴ……だっけ? アモルは渡さないから!」

シオンがビシッとラヴを指差し宣言する。

「ふふっ、いいよー! わたしも負けないから!」

ラヴは気にせずにそれを受け止めるのだった。



「「「学園についたー!」」」

3人は学園の前で喜びの手を挙げる。
ラヴもシオンも仲良く、気にせずに。

「えっと……あ、二人とも、クラスも一緒みたいだ」

「「わーい!」」

ラヴとシオンが左右からアモルに抱き着く。

「ちょ、ちょっと……二人とも、周りの人がみてるから」

二人を引き離しつつ、しかし手は繋ぎ、アモルは教室へと向かうのだった。



教室につくとさっそく、ラヴ、シオンは落ち込んだ。

「「アモルの隣じゃない……」」

と、二人そろって落ち込む。

「まあまあ、とりあえず席に座ろう。ね?」

そう言った後、アモルはラヴにこっそり囁く。

(ハーレムを目指すなら、他の子が隣の席でもいいでしょ)

(そうだけど……)

「じゃあ、また後で!」

アモルは二人を鼓舞すると、自分の席に向かう。

「ここだ。隣は……」

アモルの隣には、ショートヘアの女の子が本を読んでいた。
邪魔しちゃ悪いかなと、静かにアモルは横に座る。

「……あ」

隣の少女がアモルに気づく。
少女は少しアモルを眺めると。

「クラス票の前で左右から挟まれてた人」

と、小さく呟いた。
それを聞きアモルは苦笑する。

「あ、ボクはアモル。よろしくね。きみの名前は?」

「エレテ。よろしく、アモルくん」

そう言うと少女、エレテは本を読むのに戻る。



その後、教室で自己紹介や教師の話があり、初日の学校は終わる。
そして今度は学園の寮だ。当たり前だが男女別。

「「アモル―! また後で!」」

ラヴとシオンが手を振る。まるで今生の別れのように。

「アモル、いいよな、あんな子たちに好かれてて」

アモルの周りを他の少年たちが囲む。
さっそく一派閥が出来ていた。

「でも残念! ラヴちゃんの隣は俺!」

「シオンちゃんの隣は僕!」

聞いてもいないのに、自慢してくる少年たち。
無視して寮に入ろうとしたところで、大将らしき少年が言った。

「でもおまえの隣は、無愛想でブスのエレテ!」

「!!」

その言葉にアモルは振り向き睨む。

「会ったばかりだから詳しくないけど、少なくともブスは違うね」

それだけ言ってアモルは寮に入っていく。



その数日後、アモルはラヴとシオンに挟まれ、昼食を取っていた。その時……。

「本、返して」

アモルの耳にその声が聞こえた。

「ラヴ、シオン。ごめんちょっと……」

二人に謝りながら、アモルは駆け出す。

「返して」

「へっ! やだね、エレテの分際で!」

教室の隅で先日の少年大将が、エレテの本を取り上げている。

「やめなよ」

それをアモルは見過ごせずに声を掛けた。

「ああん? お前、この前の……」

「本、返してあげなよ」

アモルはただそれだけ言った。
だが少年は嫌味に笑いながら

「いやだって言ったら」

と本を持つ手を上にあげる。

身長は少年の方が上、アモルには届かない。
……と、少年は思っていた。

「……返せ」

アモルはそう言うと、すっと飛び上がり、少年の手から本を取り返す。

「なっ!?」

軽々取り返されたことに驚き、しかし少年は怒った。

「てめえっ!」

少年が殴り掛かる。
だがそれを、アモルはさっと避けると、その腕を掴み投げ飛ばした。

「おわっ!?」

倒れた少年に近づき、アモルは冷たい声で囁く。

「二度とこんなことするな」

「っ!」

少年は起き上がりつつ

「覚えてろ!」

と捨て台詞を残し走り去る。

「はい、本」

アモルは笑顔に戻るとエレテに近づき、本を手渡す。

「あ、ありがとう」

本を受けとり、自分の机に戻るエレテ。
それを見て、ラヴとシオンの所に戻るアモル。

その戻っていくアモルを、エレテが頬を染めながらこっそり見ているのを、アモルは気づかなかった。