「ふあー! 気持ちよかったあ!」

「……温泉。いい……」

皆それぞれホカホカになりながら温泉から上がってくる。

「でさ、ヒノ先輩。修行の成果って?」

「おう! ……ちょうどよく相手が来たみたいだぞ」

ヒノもアモルも気づいた。この気配は間違いなく。

「こんな暑いところにいたのね……」

またしてもアーマが飛んできた。
しかしさすがのアーマも暑さの影響か、いつもより覇気がない。

「よー、あの時は世話になったな」

「……っ。ついにヒノちゃんまで合流しちゃったのね」

アーマは苛ついていた。
ついにヒノまで合流していたこと。それもある。
だがそれだけではなかった。

(結局、あのゴーレムを倒すのにあの方の手を煩わせてしまった……)

そう、アスが呼び出したゴーレムはかなりの時間アーマを足止めした。
結果、アーマ、いやアーマの主が手を出したのだった。

(これ以上、あの方に迷惑はかけられない)

アーマは大鎌を展開する。そしてさらに……。

「出なさい、下僕たち!」

合図を送ると、大量のモンスターがアモルたちの周りを囲んだ。

「これは……」

「この下僕たちの数! そして私がいれば! もうあの方に迷惑はかけない!」

アーマの突撃に合わせるように、モンスターたちもアモルたちに押し寄せていく。

「へっ! まさにオレの見せ場だな!」

ヒノが杖を構える。魔力が集まっていく。
アモルとアスはすぐに気づいた。

「これは……」

「まさか!」

アスの驚きも当然だった。
ヒノがやろうとしていることは……。

「来てくれよ! イフリート!」

ヒノと皆を守るように炎が展開される。
そしてヒノの上空から火の精霊イフリートが降臨した。

「精霊召喚!」

「しかも火の精霊イフリート!?」

アスが以前呼んだ『ゴーレム』も、岩の精霊として上位の精霊だ。
しかしイフリートは四大属性の火を司る大精霊である。

「イフリート、ですって!?」

アーマも驚き動きが止まる。
だがすぐにモンスターたちに告げた。

「退きなさい! 下僕たち! 焼き殺されますよ!」

だが間に合わない。
集結しすぎたモンスターたちは勢いがありすぎて急に止まれない。

「いくぞ」

イフリートの炎が周りを焼き尽くす。
アモルたちの周りに近づいていたモンスターたちは皆、灰も残らぬほどの威力に消滅した。

「す、すごい……」

アモルたちも驚きで動けない。
周りにいたモンスターを全滅させたこともだが、
それでいて、アモルたちにはまるで熱さを感じさせなかったこともだ。

「どうだ、アモル! オレの力、すげーだろ!」

「ヒノよ、我の力だ」

ヒノが杖を掲げながら喜ぶと、イフリートが友人のように突っ込みをいれる。
まるで、長年の戦友のように。

「さて」

イフリートの巨体がアーマに向いた。

「久しいな、アーマよ」

「!」

イフリートの声に、呆然状態だったアーマが反応する。

「この程度で唖然とするとは……貴様本当にアーマか?
 昔の貴様は下僕のモンスターなど、使い捨ての物のように扱っていたろうに」

「だ、黙れ、イフリート!
 貴様こそ何故そこの小娘、ヒノに召喚されている!?」

アーマだけでなく、皆が聞きたかったことだった。

「何をおかしなことを聞く。
 我々が召喚される。それは契約したからだが?」

「っ……! そういう意味じゃない!
 何故小娘と契約していると聞いている!」

その問いにヒノが答えた。

「ここで修行してたら仲良くなったからだよ、悪いか!
 あと、小娘って呼ぶんじゃねー!」

その回答にアーマはさらに驚く。

「仲良くなったから……だと?」

アーマは苛立ちながら大鎌を構え、ヒノに突撃する。

「ふざけるな! そんなあっさりと大精霊と契約できるなど!」

それにはアスやスイ、フウも同意したが黙っておく。

「させぬ」

イフリートがアーマの大鎌を受け止める。 

「ぐっ!」

「ぬう!」

巨体のイフリートだが、アーマの実力もすごいもの。
大鎌を抑えるのにイフリートも久方ぶりに力を込めた。 
 
「なるほど、力は衰えてないらしい」

「貴様も! 小娘との契約とのわりには変わらぬ怪力を!」
 
イフリートはアーマの大鎌を押さえながらヒノを見て、すぐにアーマをの方に視線を戻す。

「忘れたかアーマよ。我ら精霊との契約の力はただ魔力で決まるのではない。
 契約者との意思疎通、相性で決まる。それで言えば我とヒノの相性は――」

イフリートが片手でアーマの大鎌を押さえこむ。

「――最高クラスだ!」

イフリートの炎の鉄拳がアーマに直撃した。

「がはっ!?」

イフリートの一撃を受けアーマは火山地帯から大きく吹き飛ばされていく。
 
「す、すごい……」
 
アモルたちは皆、吹き飛んでいったアーマの方向と、イフリートを交互に見る。
 
「……これじゃあ、前回、ゴーレムを呼んだボクの立場がないじゃないか」

冷静なアスが珍しく不貞腐れたような表情でヒノを睨む。 
 
「……そこのヒノの姉妹よ。ゴーレムも気難しい精霊。呼び出せるのはすごいことだ。誇るがいい」

「だってよ?」

イフリートとヒノがアスを見て微笑んだ。

「で、でも、これなら……」

シオンとエレテが割って入り、アスとヒノ、イフリートを見る。

「アス先輩とゴーレム、ヒノ先輩とイフリート。
 アーマも吹き飛ばせるくらいなら――」
 
「今ならラヴを救出できるかもしれない!」

アモルもイフリートを見上げ、希望の目を向ける。
だがすぐに、イフリートは巨体の首を横に振った。
 
「ど、どうして!?」

「アモル……と言ったか。我の力を頼りにしてくれるのはありがたい。
 だが我やゴーレムだけでは不可能だ。あそこにいる奴にはな」

「邪神ダークは……そこまで……?」
 
「知っていたか」

イフリートは学園跡の方角の闇を見る。

「邪神ダーク。過去の戦いでコガネ神により力の大半を封印された。それは知っているか?」

「ええ、図書館の本で」

「だがな。その力の大半を封印されていてもなお、
 過去の戦いでは我らをも上回る力を奴は持っていたのだ」
 
「で、でも、それじゃあどうやって昔は、邪神ダークを倒したんですか!?」

その問いに、イフリートはアモルを見下ろすと一言。

「わからん」

とだけ呟いた。