「スゥー……スゥー……」
眠っているアスに皆でゆっくり近づく。
「アスせんぱーい」
アモルはアスの耳元で囁く。しかしアスは起きない。
「気持ちよく眠ってますね」
「これだけ気持ちよく寝ていると起こすのが申し訳ないような……」
エレテの言うこともわかると思いつつここまで来た以上はと、アモルは息を吸った。
「アス先輩! 起きてください!」
普通の図書館だったら大声を出さないで下さいと怒られる勢いで、アモルは叫ぶ。
幸いというかどうみても、この部屋にはアモルたち以外の部外者はいなさそうであった。
「うん……? アモルの声? こんなところに……?」
アスは寝ぼけた様子で、ずれていた眼鏡をかけ直す。
そしてアモルと目が合った。
「おはようございます、アス先輩」
「……っ! アモル!?」
アスは珍しく思いっきり動揺した。
勢いよくバタバタと本棚の陰に隠れると、髪や眼鏡、服を整え直し戻ってくる。
「お、おはよう。アモル」
「はい、おはようございます先輩」
アモルは軽く笑いながら返事をする。皆も。
「こ、こらアモル、笑うな! そこ! スイもフウもだ!」
「ご、ごめん。アスもそういうところあるんだなって」
「……うん。アス。そういうの気にしないと思ってた」
スイとフウも珍しいものを見たとばかりに笑い続ける。
アスは流れを断ち切るように咳払いした。
「コホン! で、アモル皆も。ここに何をしに?」
「何って……アス先輩を探しに来たんですよ」
「探しに……ああ」
言われてアスは気が付いた。
「そうか。ここに入ってだいぶ経つから気が付かなかった」
「アス先輩……。一応、聞きますけど、だいぶってどのくらいです?」
アモルはなんとなく予想ができた。
「ボクが目覚めて少ししてからだから……一年半くらいか」
「一年半!?」
皆が驚く中、アモルは呆れてため息をつく。
「それは僕らも見つけれないし、前にここに来たエレテも見つけられないね……」
エレテも頷く。
そもそもエレテもこんな奥の場所、知る由もなかった。
「というか、アス先輩は何故こんなところに? ここ『禁止区域』って書いてありましたけど……」
「うん? そうか、アモルたちはほんとにボクを探しに来ただけなのか」
「そう言ってますけど……」
アスは積んである本を動かし一冊を掘り出す。
『神々の戦争』と表題には書いてある。
「すごそうなタイトルの本ですね」
「読んでみるんだ」
アスに言われるがまま、アモルは『神々の戦争』を読んでいく。
タイトル通り、大昔に神たちの戦争があった、という話だ。
アモルはページを捲る速度を上げだんだん流し読みになっていくが、とあるページで動きを止めた。
「……世界の破滅を目論む『邪神ダーク』は邪精霊『アーマ』をスパイとして送り込み、正の神々を惑わした」
「アーマ!?」
シオンやエレテたちの声が暗い部屋に響く。
「ボクは大災厄から目覚めた後、改めて大災厄の事を知るためにここに入れてもらった。
そしたらいろいろ興味深い情報が出てきてね」
アスは積んである本を次々と順番に並べていく。
「アモル。時間があるならここに並べた本、全部を読んでほしい」
「全部って……え?」
並べられた本は、どれも現実世界の分厚い辞書のような大きさばかりであった。
「これ……を?」
アスが無言で頷く。
「わ、わかりました。
本当は急ぎたいんですけどアス先輩が言うなら重要な本なんでしょう?」
覚悟を決め、アモルは順番に本を開き始めた。
寝らずに一日中、アモルは本を読み続けた。
アスが並べた本等は、確かに『禁止区域』にあるにふさわしい内容ばかりであった。
(ここに出てくる『愛と生命の女神』ってラヴより大昔の女神様……ってことだよな。
そして――)
アモルがとあるページで止まる。
そこに描かれている禍々しい悪魔のような存在。
(邪神ダーク……。数千年に一度、どこかの世界に現れ滅びをもたらす存在。
邪精霊アーマを使い、世界に災厄を起こし滅ぼそうとする……か)
アモルの脳内に自分を騙した女の姿が浮かぶ。
大災厄を起こし、今なお学園跡でラヴを捕えて待つ存在を。
(……ということは、学園跡で感じたアーマよりも禍々しい気配。まさか邪神ダークなのか……?)
あのアーマと本に載っている存在が同一人物ならありえる話である。
(ただ、あそこに邪神ダークがいるなら何故出てこない?
大災厄は起きた。邪神ダークが本当にいるならとっくにこの世界は滅ぼされてもおかしくないはず)
その答えも本が知っていた。
「……邪神ダークは以前の戦いで、コガネ神の命と引き換えに力の大半を失った。
コガネ神は命を失った今も黄金の森となり世界を見守っている!」
アモルは、ゴンノスケとともに向かった黄金色の森を思い出す。
そういえばあそこには神社もあった。あそこは昔はコガネ神を祀るためのものだったのかもしれない。
そして……。
「まさか一日で読み終わるとはね……」
今度はアスが呆れていた。
確かに調べる必要があったアス自身と違い、アモルの読む本は決まっていた。
だがそれでももう少し日にちが掛かるような本の大きさと冊数ではあった。
「じゃあ次にするべきこともわかったね?」
「ええ、でもまずはヒノ先輩を見つけてからです」
それを聞きアスは今更、人数を見た。
「ああ、ヒノはまだ見つかっていなかったのか」
「気づいてなかったんですか?」
「暗いし、寝起きだったからね……」
起きてから一日経った、とはアモル言わなかった。
『禁止区域』の扉を開け、元の図書館に戻ったところで、全員が気がついた。
「アモル……」
「うん。焦げ臭いし……」
現在地からもわかった。静かだった図書館が騒がしい。
「み、皆様。お戻りになられたのデスね!」
受付人形が無表情ながら慌てた様子で向かってくる。
「何があった――」
質問しようとした時だった。受付人形が吹っ飛ばされる。
受付人形の後方にモンスターが現れたのだ。
「受付さん!」
エレテが心配するが、飛ばされた受付人形は無事着地する。
「だ、大丈夫デス。それよりもモンスターを」
「わかってる!」
アモルがモンスターに突撃しながら叫んだ。
「シオン、フウ先輩は僕に続いて! エレテ、スイ先輩、アス先輩は消火を!」
皆頷きそれぞれ飛び出していく。
モンスターは数も多いがそれよりもアモルたちに困ったことがあった。
(広すぎてどこまでモンスターが入り込んでいるかわかりづらい……!)
モンスターを倒してもまた遠くにモンスターが現れる。
消火をしてもまた別の位置が燃えている。
このままでは埒があかない。その時。
「皆様、聞こえマスか。緊急事態デス。これより一分後、緊急モードを起動させます」
「緊急モード?」
質問したいが肝心の受付人形は近くにはいない。
「緊急モード起動後、しばらく皆様は退出できなくなりマス。お急ぎの方は急ぎ退出を」
「えっ!?」
それは困る。今出れないと、アモルたちはヒノのところへ向かうのが遅くなってしまう。
「アモル。こっちだ!」
「アス先輩!?」
アスがエレテ、スイとともに戻ってくる。
そしてそのまま付いてくるようにと走り出した。
「アス先輩。どっちへ!?」
「出口に決まっているだろう」
アモルはアスについて行きながら質問した。
「出口、わかるんですか!?」
「キミたちも案内されたんだろう」
「あんな道、覚えられませんよ!」
本当に覚えているのかと考えながら走っていると、確かに出口が見えてきた。
「合ってた!?」
「キミはボクの記憶力を信じてなかったのか?」
そう言って皆、世界図書館から脱出できた。
それとほぼ同時だった。
「緊急モード、起動シマス!」
図書館の扉が閉まる。窓も何もかもが封鎖される。そして……。
「世界図書館が……」
「地中へ沈んでいく……」
確かに地中に沈めば、もうモンスターは入ってこない。
ただ、もしも取り残されたら、中で人は生きていけるのだろうかとアモルは思った。
眠っているアスに皆でゆっくり近づく。
「アスせんぱーい」
アモルはアスの耳元で囁く。しかしアスは起きない。
「気持ちよく眠ってますね」
「これだけ気持ちよく寝ていると起こすのが申し訳ないような……」
エレテの言うこともわかると思いつつここまで来た以上はと、アモルは息を吸った。
「アス先輩! 起きてください!」
普通の図書館だったら大声を出さないで下さいと怒られる勢いで、アモルは叫ぶ。
幸いというかどうみても、この部屋にはアモルたち以外の部外者はいなさそうであった。
「うん……? アモルの声? こんなところに……?」
アスは寝ぼけた様子で、ずれていた眼鏡をかけ直す。
そしてアモルと目が合った。
「おはようございます、アス先輩」
「……っ! アモル!?」
アスは珍しく思いっきり動揺した。
勢いよくバタバタと本棚の陰に隠れると、髪や眼鏡、服を整え直し戻ってくる。
「お、おはよう。アモル」
「はい、おはようございます先輩」
アモルは軽く笑いながら返事をする。皆も。
「こ、こらアモル、笑うな! そこ! スイもフウもだ!」
「ご、ごめん。アスもそういうところあるんだなって」
「……うん。アス。そういうの気にしないと思ってた」
スイとフウも珍しいものを見たとばかりに笑い続ける。
アスは流れを断ち切るように咳払いした。
「コホン! で、アモル皆も。ここに何をしに?」
「何って……アス先輩を探しに来たんですよ」
「探しに……ああ」
言われてアスは気が付いた。
「そうか。ここに入ってだいぶ経つから気が付かなかった」
「アス先輩……。一応、聞きますけど、だいぶってどのくらいです?」
アモルはなんとなく予想ができた。
「ボクが目覚めて少ししてからだから……一年半くらいか」
「一年半!?」
皆が驚く中、アモルは呆れてため息をつく。
「それは僕らも見つけれないし、前にここに来たエレテも見つけられないね……」
エレテも頷く。
そもそもエレテもこんな奥の場所、知る由もなかった。
「というか、アス先輩は何故こんなところに? ここ『禁止区域』って書いてありましたけど……」
「うん? そうか、アモルたちはほんとにボクを探しに来ただけなのか」
「そう言ってますけど……」
アスは積んである本を動かし一冊を掘り出す。
『神々の戦争』と表題には書いてある。
「すごそうなタイトルの本ですね」
「読んでみるんだ」
アスに言われるがまま、アモルは『神々の戦争』を読んでいく。
タイトル通り、大昔に神たちの戦争があった、という話だ。
アモルはページを捲る速度を上げだんだん流し読みになっていくが、とあるページで動きを止めた。
「……世界の破滅を目論む『邪神ダーク』は邪精霊『アーマ』をスパイとして送り込み、正の神々を惑わした」
「アーマ!?」
シオンやエレテたちの声が暗い部屋に響く。
「ボクは大災厄から目覚めた後、改めて大災厄の事を知るためにここに入れてもらった。
そしたらいろいろ興味深い情報が出てきてね」
アスは積んである本を次々と順番に並べていく。
「アモル。時間があるならここに並べた本、全部を読んでほしい」
「全部って……え?」
並べられた本は、どれも現実世界の分厚い辞書のような大きさばかりであった。
「これ……を?」
アスが無言で頷く。
「わ、わかりました。
本当は急ぎたいんですけどアス先輩が言うなら重要な本なんでしょう?」
覚悟を決め、アモルは順番に本を開き始めた。
寝らずに一日中、アモルは本を読み続けた。
アスが並べた本等は、確かに『禁止区域』にあるにふさわしい内容ばかりであった。
(ここに出てくる『愛と生命の女神』ってラヴより大昔の女神様……ってことだよな。
そして――)
アモルがとあるページで止まる。
そこに描かれている禍々しい悪魔のような存在。
(邪神ダーク……。数千年に一度、どこかの世界に現れ滅びをもたらす存在。
邪精霊アーマを使い、世界に災厄を起こし滅ぼそうとする……か)
アモルの脳内に自分を騙した女の姿が浮かぶ。
大災厄を起こし、今なお学園跡でラヴを捕えて待つ存在を。
(……ということは、学園跡で感じたアーマよりも禍々しい気配。まさか邪神ダークなのか……?)
あのアーマと本に載っている存在が同一人物ならありえる話である。
(ただ、あそこに邪神ダークがいるなら何故出てこない?
大災厄は起きた。邪神ダークが本当にいるならとっくにこの世界は滅ぼされてもおかしくないはず)
その答えも本が知っていた。
「……邪神ダークは以前の戦いで、コガネ神の命と引き換えに力の大半を失った。
コガネ神は命を失った今も黄金の森となり世界を見守っている!」
アモルは、ゴンノスケとともに向かった黄金色の森を思い出す。
そういえばあそこには神社もあった。あそこは昔はコガネ神を祀るためのものだったのかもしれない。
そして……。
「まさか一日で読み終わるとはね……」
今度はアスが呆れていた。
確かに調べる必要があったアス自身と違い、アモルの読む本は決まっていた。
だがそれでももう少し日にちが掛かるような本の大きさと冊数ではあった。
「じゃあ次にするべきこともわかったね?」
「ええ、でもまずはヒノ先輩を見つけてからです」
それを聞きアスは今更、人数を見た。
「ああ、ヒノはまだ見つかっていなかったのか」
「気づいてなかったんですか?」
「暗いし、寝起きだったからね……」
起きてから一日経った、とはアモル言わなかった。
『禁止区域』の扉を開け、元の図書館に戻ったところで、全員が気がついた。
「アモル……」
「うん。焦げ臭いし……」
現在地からもわかった。静かだった図書館が騒がしい。
「み、皆様。お戻りになられたのデスね!」
受付人形が無表情ながら慌てた様子で向かってくる。
「何があった――」
質問しようとした時だった。受付人形が吹っ飛ばされる。
受付人形の後方にモンスターが現れたのだ。
「受付さん!」
エレテが心配するが、飛ばされた受付人形は無事着地する。
「だ、大丈夫デス。それよりもモンスターを」
「わかってる!」
アモルがモンスターに突撃しながら叫んだ。
「シオン、フウ先輩は僕に続いて! エレテ、スイ先輩、アス先輩は消火を!」
皆頷きそれぞれ飛び出していく。
モンスターは数も多いがそれよりもアモルたちに困ったことがあった。
(広すぎてどこまでモンスターが入り込んでいるかわかりづらい……!)
モンスターを倒してもまた遠くにモンスターが現れる。
消火をしてもまた別の位置が燃えている。
このままでは埒があかない。その時。
「皆様、聞こえマスか。緊急事態デス。これより一分後、緊急モードを起動させます」
「緊急モード?」
質問したいが肝心の受付人形は近くにはいない。
「緊急モード起動後、しばらく皆様は退出できなくなりマス。お急ぎの方は急ぎ退出を」
「えっ!?」
それは困る。今出れないと、アモルたちはヒノのところへ向かうのが遅くなってしまう。
「アモル。こっちだ!」
「アス先輩!?」
アスがエレテ、スイとともに戻ってくる。
そしてそのまま付いてくるようにと走り出した。
「アス先輩。どっちへ!?」
「出口に決まっているだろう」
アモルはアスについて行きながら質問した。
「出口、わかるんですか!?」
「キミたちも案内されたんだろう」
「あんな道、覚えられませんよ!」
本当に覚えているのかと考えながら走っていると、確かに出口が見えてきた。
「合ってた!?」
「キミはボクの記憶力を信じてなかったのか?」
そう言って皆、世界図書館から脱出できた。
それとほぼ同時だった。
「緊急モード、起動シマス!」
図書館の扉が閉まる。窓も何もかもが封鎖される。そして……。
「世界図書館が……」
「地中へ沈んでいく……」
確かに地中に沈めば、もうモンスターは入ってこない。
ただ、もしも取り残されたら、中で人は生きていけるのだろうかとアモルは思った。