「……なんで?」

アモルの問いが部屋に響く。
シオンの横にいるのは、普通の衣服に身を包んだラヴ。
『なんで?』とは『なんでここに?』といったところだろうか。

「アモル、この子、誰?」

シオンが不機嫌そうにアモルを睨みながら聞く。
シオンとしては、幼なじみの自分以外にこんな可愛い子がいるなんて聞いていない、といったところだ。

「アモルを助けたって言ってるんだけど……」

現実世界のこととはいえ、アモルがラヴに助けてもらったのは間違いない。

「えっと、まあそんなところ……かな?」

アモルはベッドから起き上がると、素早くラヴに近づき。

「ごめん、シオン! ちょっと二人だけで話させてね!」

そう言って、ラヴの手を引きながら外に出ていく。

「なんなの、いったい……」

不満そうにシオンはアモルを見送った。



「で、なんでここに?」

「なんでって、話の続きをしにきたの」

「話って……」

アモルも、転移させてくれた礼は言わなくてはいけない、とは思っていた。
だが、他に話があるのかと疑問に思う。

「契約の話の続き!」

「契約って……あのキス? まだ何かあるの?」

ラヴは勢いよく頷くと説明を始めた。

「あのね。異世界に送るために契約したんだけど、タダじゃないの」

「えっ」

そんなの聞いてないとばかりにアモルはラヴを見る。

「安心して! 悪いことにはならないから!
アモルにはね、わたしのお手伝いをしてほしいの」

「手伝い?」

「そう! 正確には、わたしが女神見習いからランクアップするための協力!」

それくらいなら……とアモルは「わかったよ」と頷いた。

「で、なにをすればいいの?」

「それは――」

ラヴはすっと近づくとアモルに再び口づけした。

「っ!? なになに!?」

動揺するアモルに、ラヴは顔を赤く染めながら言う。

「アモルには『愛』を集めてほしいの」

「愛……?」

「言ったと思うけど、わたしは『愛』と『生命』の女神……の見習い!
わたしの契約者として、アモルには愛を集めてほしいの」

「でも愛って、具体的には?」

問うアモルに、ラヴは手を大きく回しながら言った。

「わかりやすく言うと、ハーレムを築くってこと!」

その答えにアモルは咳き込んだ。

「ハ、ハーレムって……」

「愛を集めるの! それくらいしなきゃ! 話終わり! それじゃあ――」

ラヴはアモルを回らせ、シオンの家に向ける。

「まずはあの子の愛を手に入れておいで!」

そう言ってアモルの背中を勢いよく押した。



「あら、アモル、おかえりなさい」

シオンの母、アモルにとっても育ての親が笑顔で出迎える。

「アモルも隅に置けないわね。いつあんな可愛い子と知り合ったの?」

「ははは……」

苦笑でごまかしつつ、アモルは本題に入る。

「あの、シオンは……?」

「ああ、部屋に戻ってるはずだよ」

それを聞くと、アモルは急いでシオンの部屋に向かう。



「シオン。いるよね?」

アモルがノックしながら部屋内に呼びかける。しかし返事はない。

「シオン? 入るよ」

アモルが部屋を開けると、そこには枕で顔を隠すシオンの姿が。

「シオン? あの、さっきの子、ラヴって言うんだけど、話終わったから……」

「……キス」

「え?」

シオンが枕をどけて顔を見せる。
その表情は、怒りとも、何か恥ずかしいとも、言える赤さで染まっている。

「さっきの子。ラヴ?とキスしてた」

「見てたの? えっと、あれは……あいたっ!?」

アモルの顔に枕が直撃する。

「アモルのバカ! エッチ! スケベ! すけこまし!」

「ちょっ、シオン、話を聞いて。あとすけこましってどこで覚え……。痛い痛い!」

落ち着くまでアモルはシオンに物をぶつけられまくっていた。



「というわけで、あの子は女神様なんです。ボクを助けてくれました。それ以上はありません」

「……」

シオンの前で正座しながらアモルは事情を説明した。
もちろん、転移してきた、などは言わなかったが。

「……嘘っぽい」

「……だよね」

アモル自身もそう思っている。
女神だのハーレムだの信じられないだろう。

「でも……」

「うん?」

シオンはアモルに笑顔を向けて言った。

「アモルは嘘はつかないってわかってるから」

その笑顔にアモルはドキッとする。
転移で記憶が混ざっているとはいえ、幼なじみの少女の可愛い笑顔だ。
まだ少年のアモルはドキドキするしかない。

「でも!」

急にシオンが睨みながら叫んだ。

「あの子が神様でもいいし、ハーレム?を作ってもいいけど――」

シオンはまだハーレムの意味がよくわかっていない。
が、顔が赤くなりながらシオンは言葉を続けた。

「アモルは渡さないからね!」

そう言うと、シオンは布団に潜って隠れてしまった。
恥ずかしすぎて出てこれないのは、アモルにもわかった。




「あらあら」

部屋の戸の前でシオンの母が笑顔で様子を見ていたのは、アモルもシオンも気づいていなかった。