「なんとお!?」
ゴンノスケの驚きが屋敷に響き渡る。
「ゴンノスケ。驚くのはわかりますが声を。アモルたちがクラクラしています」
「す、すまん」
ゴンノスケは腕を組みながらエリスをじっと見る。
「しかし、我が愛妻エリス。ワシがエレテ殿を救うとは一体……?」
エリスは札を見ながら困った表情をする。
「実は解呪の方法は札に出なかったのです。
ただ我が夫ゴンノスケとエレテ殿本人を連れ、黄金の森に向かうべし、と」
「黄金の森?」
アモルは聞きなれない地名にオウム返しする。
「この屋敷からも見える森だ。常に木々が美しい黄金色の葉をつけていることからそう呼ばれている」
ここからでもわずかに見える、とゴンノスケはアモルを廊下に連れ出し窓を開ける。
確かに少しだけ、輝く木々がアモルにも見えた。
「でも……黄金の森は確かに綺麗な場所だけど、呪いを解く方法なんてあったかな?」
スイが疑問を口にする。しかし一方フウは。
「……でも母様の予言は外れたことがない。きっと何かある」
「うん、そうだね」
フウの言葉にスイも頷いた。
「でも……」
「……うん」
フウとスイが、父、ゴンノスケを見る。
「「お父さん(父様)が一緒で呪いが解ける?」」
二人は不思議そうに父を眺め続けた。
「ゴンノスケさん。エレテは僕が――」
「いやいや、アモルくんもスイを助けてくれた時の疲れがまだ残っておるだろう。
エレテ殿はワシが運ぶ。心配無用!」
ゴンノスケはエレテを背負い、力強い足踏みで黄金の森へ向かっていく。
アモルとシオンはその後ろを遅れないように付いて行く。
スイは救出されて間もないので、フウと屋敷に残ることになった。
黄金の森はゴンノスケやスイの言ったとおりの絶景であった。
木々に生い茂るまさに黄金色の葉は美しく形状も様々であった。
「すごい……」
シオンは足を止めその景色にわずかに見入った。
「すごいであろう? ここの木々たちは大災厄が起きても変わらずこの葉を維持しておる。
……確かに生命力という意味なら、この森は呪いを何とかするかもしれん。
ただ……」
「ええ……」
アモルとゴンノスケが顔を見合わせる。
「ワシが呪いを解くのに必要、というのがさっぱりわからん」
「僕も聞きたいです……」
アモルとゴンノスケは頭を抱えながら森を進んでいく。
森は山になり登り坂になっていく。
アモルもシオンも疲れが出てきたが、ゴンノスケは平気で登っていく。
「ゴンノスケさん……すごい体力ね」
(転生してラヴの契約もある僕もこんなに疲れてるのに……)
そう考えながらアモルがゴンノスケの背中を見ると、ゴンノスケの足が止まった。
「ゴンノスケさん? 何かありましたか――」
「しっ……」
ゴンノスケは急にしゃがみ、アモルたちにも伏せるよう合図をする。
アモルとシオンはしゃがんだままゆっくりゴンノスケに近づいた。
ゴンノスケが指をさした方向には、現実世界の神社によく似た建物が見える。
(神社……? この世界にもあるのか……?)
そう考えていたアモルにゴンノスケは予想外のことを呟いた。
「神社か……懐かしいのう」
(えっ……!?)
アモルは声にこそ出さなかったが、驚きを隠せなかった。
「ゴンノスケさん、今のは――」
「しっ。また出てきおった」
ゴンノスケが見つめる先、神社らしき建物からモンスターが二、三体現れる。
「何か話しておるな……」
ゴンノスケ、アモルもシオンも、集中しモンスターの様子を見る。
「ケッ、アーマ様も人使いが荒いぜ」
「全くだ。解呪法を求めて人が来るから妨害しろ、なんて」
「こんな所までそんな方法探しに来るかねえ?」
愚痴を言いながら、モンスターの一体が神社を武器で殴りつける。
「そもそもなんだ、この建物は?」
「さあな。でも妨害しろって言うくらいだし、壊してもいいんじゃないか?」
他二体のモンスターも武器を構え神社を壊そうとする。
そこに――
「やめんかぁっ!!」
ゴンノスケが立ち上がり一番の大声でモンスターを一喝する。
「ゴ、ゴンノスケさん。エレテが起きちゃうから」
「む、すまん。ならアモルくん。エレテ殿を頼む。ワシは――」
ゴンノスケは大きく跳び上がり、モンスターたちの前に着地した。
「――この不敬な輩を成敗してくれる!」
突如、勢いよく現れたゴンノスケにさすがのモンスターたちも怯んだ。
「な、なんだこいつ!?」
「アーマ様の仰った、解呪法を探しに来た奴かもしれん、やるぞ!」
モンスターたちは一斉に、ゴンノスケに向け武器を突きつける。
だがゴンノスケは人間とは思えない怪力でモンスターの武器を受け止め投げ飛ばした。
「こ、こいつ……化け物か!?」
「化け物ではないっ! 男、ゴンノスケ。昔もこの世界に来ても変わらぬ日本男子よ!」
叫びながら振るわれるゴンノスケの拳にモンスターたちは成すすべがなかった。
ゴンノスケがモンスターを退かしている中、アモルたちも追いついてくる。
「ゴンノスケさん……」
「おお、すまなかったなアモル。ワシが運ぶと言っておきながら急に押し付けて」
「いえ、それはいいんですが……」
それよりも聞きたいことがアモルにはあった。もちろん『日本』という単語のことだ。
だがそれを聞く間もなくゴンノスケは神社を調べ始める。
「うーむ。ここまで登ったことがなかったとはいえ、こんなところに神社があったとは……」
「ゴンノスケさん。『ジンジャ』って?」
シオンが初めて聞く言葉のような質問の仕方をする。
(やっぱり……シオンの聞き方的にこの世界に『神社』はないんだ……)
アモルは改めて確信した。
ゴンノスケはこの世界の住人ではないと。
「ん? ああ『神社』とは……ワシの故郷にある神様の……なんて言うのか。家のことだ」
「へえ……」
頷きながら、シオンが急にアモルの方を向く。
「アモル。ラヴにもあったの? 『ジンジャ』」
「え?」
「だって神様の家なんでしょ『ジンジャ』。ラヴも女神様なんでしょ?」
アモルは思い出す。
ラヴはいつも突然現れていたから、アモルはよく考えなくても彼女の家を知らなかった。
(そういえば知らない。それと……)
アモルは神社を改めて見る。
(シオンは普通に神社を知らなかった。ならこの神社は一体……)
「おーい!」
アモルが考えている中、ゴンノスケが呼ぶ声がした。
「ゴンノスケさん? 何かありました?」
シオンが返事をするとゴンノスケは一本の棒のようなものを持ってくる。
アモルもそれは見覚えがあった。
(えっと……名前が分からないけど神社の人がお祓いの時とかに使う棒だ)
「アモルくん。エレテ殿をそこに寝かしてくれないか」
「え? あ、はい」
言われるがまま、アモルはエレテをゴンノスケの前に下ろす。
するとゴンノスケは目を閉じ精神を集中し、棒をエレテの上で振るう。
「我、ゴンノスケが祈り奉る。少女エレテに憑く呪いよ。消え去りたまえ――」
そして大きく目を開いた。
「――喝!!」
ゴンノスケの一喝とともに、エレテの身体から禍々しい何かが消えていくのをアモルは感じた。
「これでエレテは……」
「うむ。呪いが解けているはずだ。しかし……」
ゴンノスケは祓串を見ながら懐かしんだ。
(昔、元の世界で神社や寺の修行に混ぜてもらったのが役に立つとはのう)
エレメント家への帰路、シオンが少し先を歩いているタイミングでアモルは質問しようとした。
「ゴンノスケさんは……」
「む?」
しかし思いとどまる。
自分はここでは現実世界の『護』ではなく『アモル』なのだと。
余計なことを言って混乱させるべきではないと。
「……いえ、なんでもありません。あ、エレテを背負うの変わります」
心の内に秘めたまま、アモルはシオン、ゴンノスケと屋敷に帰っていくのだった。
ゴンノスケの驚きが屋敷に響き渡る。
「ゴンノスケ。驚くのはわかりますが声を。アモルたちがクラクラしています」
「す、すまん」
ゴンノスケは腕を組みながらエリスをじっと見る。
「しかし、我が愛妻エリス。ワシがエレテ殿を救うとは一体……?」
エリスは札を見ながら困った表情をする。
「実は解呪の方法は札に出なかったのです。
ただ我が夫ゴンノスケとエレテ殿本人を連れ、黄金の森に向かうべし、と」
「黄金の森?」
アモルは聞きなれない地名にオウム返しする。
「この屋敷からも見える森だ。常に木々が美しい黄金色の葉をつけていることからそう呼ばれている」
ここからでもわずかに見える、とゴンノスケはアモルを廊下に連れ出し窓を開ける。
確かに少しだけ、輝く木々がアモルにも見えた。
「でも……黄金の森は確かに綺麗な場所だけど、呪いを解く方法なんてあったかな?」
スイが疑問を口にする。しかし一方フウは。
「……でも母様の予言は外れたことがない。きっと何かある」
「うん、そうだね」
フウの言葉にスイも頷いた。
「でも……」
「……うん」
フウとスイが、父、ゴンノスケを見る。
「「お父さん(父様)が一緒で呪いが解ける?」」
二人は不思議そうに父を眺め続けた。
「ゴンノスケさん。エレテは僕が――」
「いやいや、アモルくんもスイを助けてくれた時の疲れがまだ残っておるだろう。
エレテ殿はワシが運ぶ。心配無用!」
ゴンノスケはエレテを背負い、力強い足踏みで黄金の森へ向かっていく。
アモルとシオンはその後ろを遅れないように付いて行く。
スイは救出されて間もないので、フウと屋敷に残ることになった。
黄金の森はゴンノスケやスイの言ったとおりの絶景であった。
木々に生い茂るまさに黄金色の葉は美しく形状も様々であった。
「すごい……」
シオンは足を止めその景色にわずかに見入った。
「すごいであろう? ここの木々たちは大災厄が起きても変わらずこの葉を維持しておる。
……確かに生命力という意味なら、この森は呪いを何とかするかもしれん。
ただ……」
「ええ……」
アモルとゴンノスケが顔を見合わせる。
「ワシが呪いを解くのに必要、というのがさっぱりわからん」
「僕も聞きたいです……」
アモルとゴンノスケは頭を抱えながら森を進んでいく。
森は山になり登り坂になっていく。
アモルもシオンも疲れが出てきたが、ゴンノスケは平気で登っていく。
「ゴンノスケさん……すごい体力ね」
(転生してラヴの契約もある僕もこんなに疲れてるのに……)
そう考えながらアモルがゴンノスケの背中を見ると、ゴンノスケの足が止まった。
「ゴンノスケさん? 何かありましたか――」
「しっ……」
ゴンノスケは急にしゃがみ、アモルたちにも伏せるよう合図をする。
アモルとシオンはしゃがんだままゆっくりゴンノスケに近づいた。
ゴンノスケが指をさした方向には、現実世界の神社によく似た建物が見える。
(神社……? この世界にもあるのか……?)
そう考えていたアモルにゴンノスケは予想外のことを呟いた。
「神社か……懐かしいのう」
(えっ……!?)
アモルは声にこそ出さなかったが、驚きを隠せなかった。
「ゴンノスケさん、今のは――」
「しっ。また出てきおった」
ゴンノスケが見つめる先、神社らしき建物からモンスターが二、三体現れる。
「何か話しておるな……」
ゴンノスケ、アモルもシオンも、集中しモンスターの様子を見る。
「ケッ、アーマ様も人使いが荒いぜ」
「全くだ。解呪法を求めて人が来るから妨害しろ、なんて」
「こんな所までそんな方法探しに来るかねえ?」
愚痴を言いながら、モンスターの一体が神社を武器で殴りつける。
「そもそもなんだ、この建物は?」
「さあな。でも妨害しろって言うくらいだし、壊してもいいんじゃないか?」
他二体のモンスターも武器を構え神社を壊そうとする。
そこに――
「やめんかぁっ!!」
ゴンノスケが立ち上がり一番の大声でモンスターを一喝する。
「ゴ、ゴンノスケさん。エレテが起きちゃうから」
「む、すまん。ならアモルくん。エレテ殿を頼む。ワシは――」
ゴンノスケは大きく跳び上がり、モンスターたちの前に着地した。
「――この不敬な輩を成敗してくれる!」
突如、勢いよく現れたゴンノスケにさすがのモンスターたちも怯んだ。
「な、なんだこいつ!?」
「アーマ様の仰った、解呪法を探しに来た奴かもしれん、やるぞ!」
モンスターたちは一斉に、ゴンノスケに向け武器を突きつける。
だがゴンノスケは人間とは思えない怪力でモンスターの武器を受け止め投げ飛ばした。
「こ、こいつ……化け物か!?」
「化け物ではないっ! 男、ゴンノスケ。昔もこの世界に来ても変わらぬ日本男子よ!」
叫びながら振るわれるゴンノスケの拳にモンスターたちは成すすべがなかった。
ゴンノスケがモンスターを退かしている中、アモルたちも追いついてくる。
「ゴンノスケさん……」
「おお、すまなかったなアモル。ワシが運ぶと言っておきながら急に押し付けて」
「いえ、それはいいんですが……」
それよりも聞きたいことがアモルにはあった。もちろん『日本』という単語のことだ。
だがそれを聞く間もなくゴンノスケは神社を調べ始める。
「うーむ。ここまで登ったことがなかったとはいえ、こんなところに神社があったとは……」
「ゴンノスケさん。『ジンジャ』って?」
シオンが初めて聞く言葉のような質問の仕方をする。
(やっぱり……シオンの聞き方的にこの世界に『神社』はないんだ……)
アモルは改めて確信した。
ゴンノスケはこの世界の住人ではないと。
「ん? ああ『神社』とは……ワシの故郷にある神様の……なんて言うのか。家のことだ」
「へえ……」
頷きながら、シオンが急にアモルの方を向く。
「アモル。ラヴにもあったの? 『ジンジャ』」
「え?」
「だって神様の家なんでしょ『ジンジャ』。ラヴも女神様なんでしょ?」
アモルは思い出す。
ラヴはいつも突然現れていたから、アモルはよく考えなくても彼女の家を知らなかった。
(そういえば知らない。それと……)
アモルは神社を改めて見る。
(シオンは普通に神社を知らなかった。ならこの神社は一体……)
「おーい!」
アモルが考えている中、ゴンノスケが呼ぶ声がした。
「ゴンノスケさん? 何かありました?」
シオンが返事をするとゴンノスケは一本の棒のようなものを持ってくる。
アモルもそれは見覚えがあった。
(えっと……名前が分からないけど神社の人がお祓いの時とかに使う棒だ)
「アモルくん。エレテ殿をそこに寝かしてくれないか」
「え? あ、はい」
言われるがまま、アモルはエレテをゴンノスケの前に下ろす。
するとゴンノスケは目を閉じ精神を集中し、棒をエレテの上で振るう。
「我、ゴンノスケが祈り奉る。少女エレテに憑く呪いよ。消え去りたまえ――」
そして大きく目を開いた。
「――喝!!」
ゴンノスケの一喝とともに、エレテの身体から禍々しい何かが消えていくのをアモルは感じた。
「これでエレテは……」
「うむ。呪いが解けているはずだ。しかし……」
ゴンノスケは祓串を見ながら懐かしんだ。
(昔、元の世界で神社や寺の修行に混ぜてもらったのが役に立つとはのう)
エレメント家への帰路、シオンが少し先を歩いているタイミングでアモルは質問しようとした。
「ゴンノスケさんは……」
「む?」
しかし思いとどまる。
自分はここでは現実世界の『護』ではなく『アモル』なのだと。
余計なことを言って混乱させるべきではないと。
「……いえ、なんでもありません。あ、エレテを背負うの変わります」
心の内に秘めたまま、アモルはシオン、ゴンノスケと屋敷に帰っていくのだった。