フードが落ち、顔が露になった女性。
シオン、フウ、スイ、そしてアーマもその女性が誰かわからない。
だがアモルだけは気が付いた。

「……エレテ?」

「「「えっ」」」

「なにっ?」

スイも、いまだ鎖に捕らわれているシオンとフウも驚き、
またアーマも驚き、しかし笑い出した。

「フフフ……ハハハ! エレテ? あの恥ずかしがり屋の?」

アーマの記憶の中での、アモルに対し恥ずかしがり屋の眼鏡の少女が思い出される。
アーマの前に剣を構え立つ女性は、ショートヘアこそ似ているものの、眼鏡はなく、
その雰囲気は恥ずかしがり屋とは違う暗い雰囲気に満ちている。

その女性は誰にも聞こえないような声で小さく呟いた。

「……アモルくん。こんなになっても気づいてくれるんだ。でも――」

女性は剣を構えると、アーマに再度突撃する。

「――だからこそ、私は自分を許せない!」

女性が突撃するのが見えると、アーマは咄嗟に鎖を引っ張った。

「うあっ!?」

捕まえているシオンとフウを壁にするように前に出す。

「それは読めてる」

女性は鎖が来るのをわかっていた動きで速度を落とすと、剣で鎖を切り裂いていく。

「なっ!?」

アーマの驚きは二つあった。
自分の行動が読まれたこと、そして自慢の鎖が斬られたことだ。
さらにアーマが驚いている隙を付くように、女性はシオンとフウを抱えアモルの方に跳ぶ。

「二人を。そして退いて」

女性はシオンとフウをアモルの前に下ろすと、再び剣を構えアーマに向かっていく。

「二人とも、大丈夫?」

アモルはシオンとフウを介抱しながら、女性の様子を確認する。
女性はスピードでアーマを押しているように見えた。

(確かに、シオンもフウ先輩も、特にスイ先輩は疲弊している……。
 エレテ?の言う通り、退くなら今しかない……か?)

アモルは三人に退くことを告げると、一番疲弊しているスイを抱えようとする。
その時だった。

「いいの? このまま退いて?」

女性の攻撃を防ぎながら、アーマはアモルの方を向き邪悪の笑みを浮かべる。

「……どういうことだ」

アモルはつい、意味深なアーマの言い方に反応してしまう。

「アモル、聞いちゃダメ!」

「そう、スイは助けた。今は退いても問題ない」

シオンとフウが先に退こうとするが、アモルは足が動かせない。

「フフ、スイちゃんのためだけにここに招待したと思ってる?」

「なに?」

「あの時のラヴちゃん、どうなったか知りたくない?」

「!」

目覚めたアモルがずっと気にしていたことだった。
三年前、自分を守ったラヴがどうなったのか。

「ラヴはどうなった! 答えろアーマ!」

「フフ……」

アーマは左手で女性の攻撃を防ぎながら、右手で校舎跡の塔の一番上を指した。
そこには――

「ラヴ!」

禍々しい塔の屋上。
そこには三年前にアーマに捕まっていた時以上の魔法陣で拘束されているラヴが見えた。

「ラヴ!!」

再度、大声でラヴを呼ぶアモルだが、塔の一番上にまで声は届かない。
並みの人には見えているだけでもすごい高さだ。声が届くわけがなかった。

「スイ先輩、すみません」

アモルは抱えようとしていたスイを降ろすと塔の方へ駆けていく。

「うおおおっ!!」

アモルは一気に駆けて、学園跡の塔に登ろうと飛び上がる。
しかし――

「ぐあっ!?」

塔に近づいたところで、アモルは障壁に弾かれた。
弾かれ地面に落下するアモル。

「アモルくん!」

今までアーマへの攻撃に集中していた女性が、初めて大声でアモルに叫んだ。

「フフ。さっきは信じられなかったけど、その心配の仕方。
 確かにエレテちゃんかしら……ね!」

女性がアモルに気を取られた一瞬の隙に、アーマの大鎌が逆襲の一撃を放つ。

「っ!」

攻勢から一転、女性は大鎌を防いだものの大きく吹き飛ばされる。
飛ばされた位置は偶然にも、アモルが落下した位置だった。

「くっ……」

「だ、大丈夫? エレテ……」

アモルは先に起き上がると、女性に手を伸ばす。

「私はいいの、アモルくん。
 ラヴちゃんのことはわかるけどここは退いて」

「だけど……!」

「アモルくんも感じてるはず。
 ここにはそこのアーマ以上の何かが潜んでいるって」

「!」

確かにアモルも感じていた。
学園跡の禍々しい雰囲気。それはアーマとは比べ物にならない邪悪な気配だった。

「ならエレテも!」

アモルが再び手を出すが……。

「私はダメ。ここであいつを……アーマを仕留める!」

エレテはその手を振り払い、剣を取りアーマに突撃していく。

「エレテ……」

エレテの剣とアーマと大鎌がぶつかり合う。

「エレテはあの時のこと気にしてるんだよ……」

アモルの元にいつの間にかシオン、フウ、スイが駆けつけていた。

「あの時って……」

「……パーティーの時のお菓子」

「あの時のお菓子に薬を盛られたのをエレテちゃんは自分の責任だと感じてる」

「そんな。あの時のお菓子はみんなで――」

シオンがアモルの言葉を遮る。

「結果的に薬を入れられたタイミングはエレテの時だったから……」

「っ……。エレテ……」

軽々しく「気にしてない」とはアモルに言えるはずもない。
気にしていなくても結果的に、あの時アーマをの猛威を止めれなかったのは事実なのだから。



「うあっ!」

圧倒的スピードで優位だったはずのエレテが少しずつ押され始める。

「はあ……はあ……」

「フフ。息が上がってきてるわよエレテちゃん?」

「黙れっ!」

エレテの突撃をアーマはあっさり回避すると、大鎌を再び鎖に変化させエレテを拘束する。

「うあっ……!」

「無茶はダメよぉ、エレテちゃん。
 以前の貴女はそんなスピードが出せるような運動能力はなかった。
 いつ目覚めたかは知らないけど、相当無理をしてるんじゃない?」

「っ……!」

エレテは必死にもがくが、アーマの鎖による拘束は外れない。

「フフ……。そこまであの時の私を恨んでいるのね。それは――」

アーマは舌を回し、愉悦の表情を浮かべる。

「――嬉しいわね!」

アーマが鎖を引っ張る。エレテの拘束が強くなっていく。

「うあああっ!」

「やめろぉっ!」

アモルの拳による一撃がアーマを吹き飛ばす。
すぐにアモルはエレテの拘束を解き地面に下ろした。

「ケホッ……ケホッ……。アモルくん、退いてって言ったのに……」

「わかってる、退くよ。でも、エレテも一緒にだ」

アモルはエレテを抱えると、シオン、フウ、スイのいる方へ跳ぶ。
そしてすぐにスイも抱えると、シオンとフウに合図し走り出した。

「ダメ! 私はまだ、あいつを! アーマを!」

エレテが必死にアモルを止める。
アモルは走りながらエレテの方を向き、叱るように叫んだ。

「エレテ!」

ただ名前を叫ぶだけの一喝。
だがその一喝にはアモルの様々な感情が乗っていた。

「っ……」

その感情たちを感じ取ったエレテは力を抜き、アモルに身を任せ眠るように意識を失った。