「娘たちー! またいつでも戻ってくるんだぞー!」

屋敷から出発する馬車に向かって、4姉妹の父、ゴンノスケが叫ぶ。
横には元の態度に戻った、母、エリスの姿があった。

「父上の声、ここまで聞こえてくるぜ」

「さすがお父さん、だね」

「……お母さんが出てるの珍しい」

「そうだね。普段は出てこないのに」

4姉妹がそれぞれ両親を見ながら話しあう。
その横で、アモルはエリスに言われたことを考えていた。

(……宿命の選択……か。ボクのこれからの選択でそんなに未来が変わるのか?)

馬車の外を眺めるアモル。その横からヒノが肩を叩いた。

「どうしたんだよ、アモル!」

「お母さんに何か言われたの?」

「うん、まあ……」

半分くらいは、4姉妹の話をされただけ……とは言えず、宿命の選択の話を少し話すアモル。

「ふむ。宿命の選択か」

「それが……『宿命の子』」

「でもどんな選択なんだろうな?」

「それがわからないから、アモルくん、悩んでるんじゃない」

皆それぞれ考え始める。
学園への帰路1日目は『宿命の選択』の話で過ぎていった。

そして帰路2日目のこと。

「ねえ、何か騒がしくない?」

「そうだな、モンスターの叫びか?」

「近くはないようだが……」

「……ねえ、あれ」

フウが指さした先には確かにモンスターの群れ。

「こちらには気づいていないみたいだ」

「なら、放っておいても大丈夫じゃない?」

4姉妹はそれぞれ頷き、馬車は先に進もうとする。
学園での出来事から、むやみにモンスターに関わらないように、と。

「待って、あれ!」

アモルもモンスターの群れの間を指す。
よく見るとモンスターの群れの中に、倒れている少女の姿があった。

「先輩たちはここに。ちょっと行ってきます!」

「ちょ、ちょっと!?」

スイの制止を無視し、アモルは馬車から飛び出す。

「まったくしょうがない。彼を援護するよ」

「おう!」

「……うん」

「わ、わかった!」

4姉妹も馬車を止め、アモルの方へ走り出した。


「グルルル……」

モンスターの一匹が倒れている女の子に手を伸ばそうとした刹那。

「させないっ!」

以前、4姉妹を助けた時のように、アモルはモンスターを吹き飛ばしていく。

「グルアァッ!」

モンスターの一匹がアモルへ攻撃しようとした時――

「アモル! 突撃しすぎだ!」

「気持ちはわかるけどね」

4姉妹が追いつき、モンスターを追い払っていく。
モンスターが逃げ去った後、アモルは少女の様子を見る。

「う、う……ん?」

「あ、気がついた?」

アモルが手を差し出し、少女を立たせる。

「大丈夫? えっと……」

「わたしは『アーマ』」

「大丈夫だった? アーマ? あ、ボクはアモル」

「助けてくれたの?」

少女アーマは、笑顔を向けるとアモルに抱き着いた。

「ありがとう! アモルくん!」

「ちょ、ちょっと! アモルくんから離れて!」

スイが慌ててアーマを引きはがす。

「え、えっと。アーマはこの辺の人?」

「わたし? わたし、家出してきたの」

「家出?」

アーマの話によると、両親と喧嘩して家出してきたとのこと。
ここがどの辺りかもわからないらしい。

「困ったね」

「どうするんだアモル」

アスとヒノがアモルを睨む。

「えっと……」

アモルの中で答えは決まっていた。
だが、アモルの中で謎の選択肢が浮かぶ。

1:学園に誘う

2:4姉妹の家の方に連れていく

3:ここに置いていく

(なんだ……? なんでこんな選択が浮かぶ? 決まっている。ボクは――)

「先輩たち、彼女を学園に連れて行ってはいけませんか?」

「学園に?」

「でも生徒じゃないよ?」

「学園側に何とか聞いてもらいます」

4姉妹はため息をつく。
こうなったらアモルはもう聞かないだろうと。

「わかった。好きにするといい」

「オレ達は手伝わねえぞ」

「ありがとうございます!」

こうしてアモルは新たにアーマを連れ、4姉妹と共に学園への帰路につく。

(絶対、ラヴやシオンに怒られるよアモル……)

と、4姉妹全員が思いながら。



「アモル、おかえりー!」

「おかえり、アモル!」

「……お、おかえりなさい」

学園ではすぐに、ラヴ、シオン、エレテが出迎えてくれた。
しかしシオンはすぐ4姉妹を見ると。

「何も! なかった! ですよね!?」

と、大声で聞いた。

「いや……」

「何もなければよかったんだがなあ」

「まったく」

「うん……」

「「「何かあったんですか!?」」」

4姉妹の反応に、シオンだけでなくラヴ、エレテも詰め寄る。
4姉妹は諦めて馬車を指した。

「初めまして、皆さん!」

馬車からアーマが降りてくる。

「「また、誰か増えた―!?」」

シオンそしてエレテも叫ぶ。
4姉妹はラヴが叫ばないことに意外さを感じた。
そのラヴは、珍しく顔を真っ青にしてアーマを見ている。

「ラヴ? どうかした?」

さすがにアモルもラヴの様子に気づき声を掛ける。
ラヴはふらつきながら、アモルを少し離れたところに呼んだ。

「アモル。あの子、どこから連れてきたの」

真っ青だが真面目な表情で質問してくるラヴに、アモルはありのまま顛末を話した。

「そう……」

それを聞くラヴはアモルの正面に立ち、静かに囁く。

「アモル。愛を集めてとは言った。でもあの子はダメ」

「……え、な、なんで?」

「お願い。何も聞かずに。あの子は――」

「どうしました?」

「「!?」」

いつの間にかアモルとラヴの近くにアーマが来ていた。

「い、いやなんでもない。ラヴが気分が悪いって言うから、
保健室に連れて行ってくる。ごめん、アーマ。すぐ戻るよ」

アモルはラヴを引き連れ保健室へと向かう。
その後ろ姿をみて誰にも聞こえないような声でアーマが呟いた。

「なるほど。見習いでも女神というわけね。私に感づいた……かしら」

その声は少女の姿とは思えない、大人の声であった。