「ふむ……ひょっとして娘よ。ソラと念話をしているのか……?」
ヴィオル、鋭い……!

(何で分かるの……!?やっぱり神さま…!?でも私の推し神さまは負けません……!)

「いや、争ってないから」
今までのイメージで言うと……ヴィオルは割と大人で、レヴィラスが子どもみたいな感覚だったし……。

「それはその喉の印のせいか」
え……、ヴィオルも分かるんだ。いや、当然か。ヴィオルはそう言った術とかに詳しい。破邪や無効化の力を持つから、当然無効化する術や印も見ただけですぐ把握するくらいだ。まぁ大体俺に関わらないものには、願われない限り興味を持たないだけだ。

しかし……彼女の喉に刻まれた印には興味を持ったのか……?珍しいこともあるもんだな……。

「我の知らぬところでソラと念話など……人間の小娘ごときが不敬である……!」
いや、単なる嫉妬――――――――。
そ……そんなに俺が他人と念話するの嫌かな……?嫉妬するの……?いや……まぁ……普通にしそうだなと今、納得した。

そしてヴィオルが彼女の喉元に指を向けると、カチンと何かが外れた。

「それを掛けたのは我が信徒の竜族か。汝も半分その血を引いているようだが」
え、この子、竜族の血を引いてるのか……!?竜族の特徴全くないから気が付かなかった……!いや、魔神の力を使えばいくらでも探れるんだろうけど……プライバシー……とか考えてしまうのは、現代日本育ちだからだろうか。

「我の前で我が主君のソラと堂々と念話するとは、命が惜しくはないのか、小娘」
いやまぁ、命が幾つ合っても足りないこと心の中で叫びまくってたけど……。ほんとよくレヴィラスに食われなかったな。多分ハカイの字と彼女の願いが一致していなかったからこその幸運なのだろうけど。

そして口をぱくぱくと動かした彼女は、小さく声を漏らす。

「……ぁ」
この子は、念話(テレパス)の能力とあとひとつ、特別な力を持っている……。それゆえに喉を封じられていたのだろう。

(いけない……っ。私の喉が、声が解放された時……っ、この左目に疼く邪眼が目覚めてしまうぅぅっ!)
いやいや、この子は邪眼は持ってない……!瞳は普通の目だよ……!

「心配しなくても、俺たちに言霊は効かないと思うよ」
そう、告げれば、彼女が驚いたように俺たちを見る。

(何故……私の封じられし真実を……!)

「あー……うん、その……ヴィオルは君たちが崇める神さまだし……ヴィオルは俺の眷属神だから」
ま、魔神の魂持ってることって……公にしていいのだったっけ……。ヴィオルに聞いたら……絶対大々的に人間たちに知らしめようとか言うからダメ……!う~ん……そ、創世神に相談……できるのだろうか。できるとしても……どうやって……?

「わ……わたし……」
彼女がゆっくりと声を絞り出す。やっぱりその声は……言葉が魂を宿すように、異質な力を帯びている……。

(俺たちには効かないものだけれど。ね、ヴィオル)
ヴィオルに言葉を飛ばせば。

「無論だ。それは竜族たちの祖である竜が持っていたスキルで、末裔のそなたらの中にも未だに受け継ぐものが出ると言うだけ。神の力の前では意味を成さぬ」
だよね……!良かった、合ってて……!

「その、わたし……」
不思議な力を帯びてはいるが……でもやっぱり、普通の女の子のかわいらしい声で……。

「私は竜神さまなんて嫌いです……!竜族の血を引いてはいますけど……!特徴的にまーったく受け継いでないですし!スキルだけ受け継いでも迷惑でしかないんです!でもスキルがあったから竜巫女とかさせられましたけど……!竜神さまに祈りを捧げたことなんてありません!私が崇めているのは破戒の神・レヴィラスさまですから……!私の祈りは全て……レヴィラスさまのもの……!」
そ……そう言えばこの子……異常にレヴィラス推してたな……。祈りの言葉まで唱えて……。しかし、当の竜神を目の前にして堂々と言えるのはすごいな。ヴィオルはもしやショックを……?

「ほう……竜族が我に祈るための竜巫女とやらを置いているのは知っていた。ここ最近は竜巫女の唱える祈りの言葉も届かぬ。てっきり飽いて辞めたのかと思うておったわ。まぁ時折竜神への祈りの言葉が聴こえるゆえ、種族が滅びてはいないとは分かったが」
「そ……そう言う認識だったの……?信徒は……」
竜神の主な信徒は竜族である。あとはその加護を求める他種族たちがちらほらと。

「別にどうとも思いませぬ。地上の人間たちが何を崇めるかなど自由であるし、地上に生きる(うつ)し神は現し神として、存在し続ける。生まれ直すのであれば生まれ直す。それだけぞ。我らはただ、ソラの側に在れればそれでよいのでありまする」
創世神のような天界に在る神を(ひら)き神と呼ぶ。対して冥界に在る神は(かく)り神。その中間に位置するのが、特殊な神……現し神と呼ばれるもの。天界と冥界の神とは異なる性質を持つ存在だが、地上に生きる神であるもの。竜神ヴィオルしかり、魔神しかり、レヴィラスしかり。

そして現し神の中でも異質な魔神の側にいられればそれでよいと言う、同じく異質な力を得た眷属神たち。ヴィオルやレヴィラス、スノウ、レイン。

「なのでこの娘がレヴィラスの信徒だと言うのならばよいではありませぬか。若き娘だと言うに、その身を犠牲にする覚悟があるとは、またあっぱれな」
「いや……ヴィオル、この子は……レヴィラスへの対価に勇者と聖女を生け贄に捧げようとしてたけど……」

「何を隠そう、私は勇者と聖女を生け贄にすることによって、レヴィラスさまへの対価として差し出すことが許された一族なのです……!」
そんな一族は……聞いたことがないのだけど。
レヴィラスに願ったものたちはみなその対価となった。そしてレヴィラスに願った対価が願ったものだけで足りるわけもなく。太古、啓き神をも巻き込んだ悲劇が起きた……。

「私の人間のご先祖さまはそうしてレヴィラスさまに許されたのです!」

「……ソラ、もしやと思うが……この娘、初代主の時の……」
「同じ魂だし……そうだと思うよ」
「その魂が、こうして末裔に」
「……うん」

俺たちの会話に彼女はこてんと首を傾げる。
だがヴィオルは完全に初代との()()記憶に出てくる彼女だと把握したらしい。

「あの……その話なんだけど……それはその時だけで、子孫にまで許すとはなってないはずだけど」
そもそもあれは、俺……いや、初代がレヴィラスに命じてそうなっただけで、命じなければ多分レヴィラスは暴走していた。

「そうであるぞ。そなた、そんなんでようレヴィラスに食われなかったな……。生け贄を用意したところで、願えばその願ったものを対価に持っていくのがレヴィラスぞ。そなたは全く特別でもないただの小娘ぞ」
(本当に、食われなかったのが不思議であるな)
ヴィオルが俺に念話を送ってくる。

(それは……その、レヴィラスの神としての名前と、願いの内容を間違えていたから……だと思う)
そうヴィオルに直接念話を送りつける。

「アホであるな、この小娘」
直球――――――っ!でも本来、ヴィオルたちは主以外を慮ると言う思考がない。むしろ主が人間に情けをかければ、嫉妬して何やらかすか……。

彼女の祖先の時だって、相当不満そうにしていたけれど、レヴィラスが正常に戻ったことで手打ちにしたんだよ。何で今まで忘れてたんだ……。

「はぇ……く……くわ……?」
「あの、大丈夫……?そう言えば名前……」
まだ聞いてないな。

バタンッ

「え……」
彼女は気が抜けたように地面に倒れていた。

「気絶しおったのか……?全く、人間とは軟弱な生き物であるな」
「あー……うん、それは、そうだね」
俺の身体は地球から持ってきた人間の身体だけど……それでもこの異世界に魂が馴染めば、いずれ取り戻すのだろう。

「で、ソラよ。レヴィラスの元へ行くのではなかったか?」
「それはそうだけど」
彼女が気絶したことでしれっと蚊帳の外に放り投げた!いやまぁ昔から主のことしか見えてない連中なの、思い出してきたけど……!

「か……彼女も連れていこう?このままにはできないし」
ヴィオルに頼んで竜族の住み処へ……とも思ったが、彼女の喉を術で封じていた一族だからな……。
普通にヴィオルへ祈れば、対価は必要だが異能を和らげる加護か抜け落ちた鱗くらいはもらえたかもしれないのに。
だからそれをしなかった竜族の元へ、戻していいのかがまだ分からない。
――――――それとも忘れてしまったんだろうか。表裏一体の鐘の意味と同じように……。

「えぇと……一緒に連れていけない……か。俺、まだ飛べないし」
「ソラが望むのであれば、我が尾にくくりつけて持っていけばよかろう」
ええぇっ!?

「さすがに扱いが雑すぎるかも……っ!女の子なんだし……!」
「しかしこの娘はレヴィラスの贄であるぞ?」
いやいや、まだそうとは決まってない……!少なくとも今は無事なわけだし!

「ソラがそのような顔をするのなら仕方がないであるな」
え……俺、ヴィオルを心配させるような顔を……?その時だった。ふわりとヴィオルの腕が俺の身体を抱き上げたのだ。これ、縦抱き?しかも、腕1本で……!

「あの、それはさすがに重た……っ」
「これくらい、我らには平気であるぞ?」
う、うーん……まぁ、そうかも?レヴィラスは規格外だし……レインも、ヴィオルも……。力に関しては人間にとって怪力以上の力に等しい。特にレインなんて、普段は武器を使うけど、昔拳ひとつで山ひとたぶっ飛ばしたもんな……。

そして次にヴィオルは、彼女を脇に雑に抱えた。この差は……。まぁ、腕で抱えてくれるだけ……尾にくくりつけられるよりはましな……はずと信じたい。