「……って……もふもふ既にいるじゃない――――――――っ!!?」
部屋に入ってくるなり悲鳴をあげたのは、真っ白な雪のような白い髪に金色の瞳を持つ美女で、狐耳としっぽがある……。しっぽは……もふもふすぎて入り口に埋まるように大量にもふまっているのだが……7本だ。彼女のしっぽは7本、あるはずだ。
それが分かってしまうのは、やっぱり……。
彼女はもふしっぽをもふもふっと部屋の中に招きいれながらも、悠然とこちらに歩いてくる。それに……。
「その服……着物?」
「この世界に召喚されたかつての勇者が広めた衣よ。似合うでしょう?」
「……うん」
勇者、か。そう言う存在は……繰り返しこの世界の輪廻を巡る俺たちのように存在するのだ。
まぁ、彼らはいつも同じ魂じゃなくて、召喚、なんだよね……。彼女の言葉も参考に、パズルのピースを集めていく。
そして彼女がその勇者が広めた衣を着ていると言うことは、俺たちと彼らの関係が決して争い合うだけのものではないことを示している。
こうしてこの森の中の屋敷で眷属神たちと暮らすことを選んだきた歴代の自分は……争うことを、望まなかった。
繰り返された戦……あの表の顔と裏の顔を持つ鐘が響く記憶があるのなら、戦はあったのだ。
しかし今は、それを望まない。少なくとも俺たちは、だ。
この世界のひとびとはどうだか分からないけど……それでも、平和だといいなと、ついつい思ってしまうのは、日本人の感性ゆえだろうか。
「ご挨拶が遅れまして、我が主」
「あぅ……その、えと、あなたも俺の眷属神、なんですよね」
「敬語はよろしくてよ。レインからも通信を受け取ったから、大体のことは分かっているつもりよ」
「……う、うん」
眷属神たちは、互いに【通信】までできるんだな……。何から何まですごいな……。
「我が名はスノウ。あなたの眷属神」
「うん」
でも……眷属……眷属神。
「あの、しっぽは」
「もふってみる?主なら大歓迎よんっ!」
もふぁさあぁぁぁっ!
ぎゃーっ!?もふもふの波ぃ――――――っ!?
「ニャーッ!?おらにゃっ!埋もれるにゃろがにゃっ!」
あ、猫が一緒に抗議してくれた。
「いいじゃないのよー。もふもふに埋もれるなんて、幸せなことよ」
確かに……そうだけども。
でも……ほんとふわふわ。
「にゃふーっ!?おみゃぁ、お猫さまの毛並みと狐の毛並み、どっちが大事にゃんんんっ!?」
えぇ――――――っ!?そこで争うの!?
「お狐さまの毛並みだって敗けやしないわっ!」
もふっもふもふっ!
わぁっ!?もふもふ攻撃が……攻撃が襲ってくるうぅぅっ!?まぁ、幸せな感触なんだけども……!?
「レヴィラスちゃんったら!一足先に主にもふもふを差し向けるなんて……!ぬかったわっ!」
「では、そなたがくるまで、ご主人の主はもふ不足であったが……よいのか?」
「はぅーんっ!それはいけないわぁっ!!!」
「にゃーっ」
最後は狼のひと言で……2人の争いはおさまった……。よ……良かったぁ……。
「あの……スノウ」
「なぁに?我が主ちゃんっ」
ちゃ……ちゃんって……。主にもつけるのか……知らなかったけど。
「ソラと、呼んで欲しい……なっ、て……」
「んまぁ……っ!もちろんよ、ソラちゃん!」
うん……やっぱりこっちの方が……さっきよりも好きかな。
スノウと共に微笑みあっていると、またバタバタと駆けてくる音が響いてくる。これは多分。
「ソラ――――――――っ!」
元気のよい声と共に、なにやら荷物をたくさん抱えたレインが入ってきた。
「ソラに頼まれた、ハァハァ……ソラに似合いそうな……ハーパンとニーハイ、ハァハァ……たくさん買ってきたよ……!ハァハァハァッ」
いや、何を買いに行ってたんだよ、レイン!?
あとそんなの頼んでないけど……!?そしてセリフの途中に怪しい効果音いれないで!怖いんだけど……!?
しかし、ここには他にも心強い味方がいる。スノウが俺とレインの間に立ちはだかったのだ。す……スノウなら、レインのショタコンにも物申してくれるかも……!
「はぁ……!?アンタ何言ってるのよ、レイン!」
スノウ……!やっぱり……っ。
「ソラちゃんにはショーパン黒タイツに決まってるじゃないの!私はひと目で見抜いたわよ!!」
え……えぇ――――――――――っ。
何か……スノウまで特殊な趣味を……!?
「ふっ、まだまだ甘いな、スノウ!」
「何ですって!?変態!」
やっぱりレインへのみんなからの認識は……変態で間違いないらしい。
「確かにショーパン、タイツはショタッ子にナイスなチョイス」
レインの頭の中にはもはや、ショタッ子のことしかないのか……。俺もう16歳なのに……。
ショタコン変態なのに欧米風オトナな美青年のレインに言われると……何だかひどくコンプレックスを刺激されるような……。
「だがしかし!ショタッ子の奥義・絶対領域は……ハーパンニーソでしか摂取できない……!」
そんな奥義いらないよおぉぉ~~っ。
「そん……なっ、負けたわ……っ」
負けないでぇ、スノウぅぅっ!崩れおちないでぇっ!!?
「でも……でも、ひと言だけ言わせて頂戴……っ」
す、スノウ……?
スノウは崩れ落ちながらも、キッとレインを睨み付ける。
「着物つんつるてんも……ショタッ子の極みではなくて……!?」
何それ!?着物つんつるてんまで何で知ってるの……!?歴代の勇者何してるのぉ――――――――っ!?
「何……っ、だと……っ」
そして驚愕しないでレインったら!!
「会議だ。これから眷属神会議を始める」
「いいわ、望むところよ」
よろよろと立ち上がったスノウ。そして険しい顔をして頷くレイン。
ぽすっ、もふぽすっと、扉の枠を越えて行くスノウのしっぽ。
2人は……何処かへ眷属神会議とやらへ向かったらしい。……扉、開けっ放しなのだけど。
「その……放っておいて……いいの……?」
「うむ?ハーパン、ショーパンとやらを、はかせられたいのか?汝よ」
との、狼の言葉に。
まさか、俺まで会議室とやらに向かえばそう言う流れに!?
「いや……その、ありがとう」
この狼のお陰で、大事なところを踏みとどまれた。
「礼などよい。それも我がご主人の願い」
「……レヴィラスの……」
今生でも俺のことを、思ってくれているんだな……。レヴィラス……。
「そう言えば……名前を聞いてもいい?」
まだ、知らなかったな……。
「我はグレイ」
「ニャーはブランシェと呼ぶがよいにゃ」
ブランシェも何故か教えてくれた。
でも、せっかく教えてくれたんだし。
「……ブランでいいかな?」
「にゃ!?なぜ縮めるにゃ……!?まぁいいにゃ。ご主人もそう呼ぶにゃ。主従そっくりにゃ」
そうだったんだ……レヴィラスと同じなのはちょっと嬉しいかな。