「なかなかいいじゃないの。私のブローチ!まぁソラちゃんにならいつでも私の力、捧げるけどっ!」
屋敷に帰還し、スノウに今日の収穫を見せれば、とっても喜んでくれた。

「でも大変だったのねぇ。まさか冥界からだなんて……」
「うん。繋がっちゃったみたいで」

「それを楽しむ隠り神も隠り神らしいであるな」
ヴィオルは嗤うが……。

「溢れたら溢れたで大変なことになるじゃん」

「我らにとっては一瞬では?」
「そうねぇ。でも魔神が帰ってきたのなら……地上に来たがっていた冥界の獣も……来たがらなくなるわね」

「うん……それはその方がいいかもね」
彼らは彼らで、しっかりと逆らっちゃいけない存在を分かっている。とくに現し神は……彼らの主と同じ、神格を持つ神族なのだから。
しかしあちらの神たちは遊ぶことが好きだ。天界の啓き神も、隠り神も……現し神に比べたら飽いている。たまに地上で遊びをと企むものもいる。

天界は……レヴィラスに痛い目に遭った神も多いから……レヴィラスがいれば手を出すことはない。魔神もこうして帰ってきたのだから、なおさらだ。

けれど冥界の隠り神たちはいささか聞けんな遊び好きなようだ。
魔神の帰還と称して今回のことも傍観していたようだし。

――――先代の時も遊びを考えて地上を翻弄してきたような。まぁ大体は魔神やレヴィラスにビビって逃げ帰ったけど。

「じゃーんっ!これぞレヴィラスさまグッズ作成キットですよ~~!あと、レインさんに素材いろいろもらいましたぁっ!」
「ファナ!?いつの間に……」

「あら、レヴィラスのグッズ……?そう言えばあのこのはなかなかないわよねぇ。アンタの鱗やら玉像ならあるけど」
鱗は俺たちも持ってるけど……。
「玉の、像?」

「ふむ……確かに竜の里ではよく見かけるであるぞ。欲しければ差し出させるが」
どこからだ……っ!

「いや、その。鱗があるし」
「そうですそうです!それに、ヴィオルさまの鱗は紫なのに、玉はほとんど青と緑なので何か微妙です」
「……っ、それなら鱗の方が……」
合ってる……!!

「そんなようなものであろう」
「寛容よねぇ。ま、レインの鐘は今でも元の形を維持してるけど」

「それでも元の意味はなかなか……忘れられていることが多いかもね」
苦笑しながら、レインが食事を運んでくる。その後ろにはレヴィラスも。

「ご飯できたよ」

「それじゃぁ。ご飯食べ終わったら続きしましょうか!」
「そうだね」
レヴィラスのグッズ作りの材料を片付ければ……みんなで美味しい夕飯を囲む。

「今日は和洋食って感じですね~~」
うん、今晩はサラダにハンバーグ、米にスープである。
「わようしょく?」
レインが首を傾げる。

「地球だとそう呼ばれるんだよ」
「他にも美味しいものたくさんあるんですよ……!食べたいです……!」
「お前食欲張りすぎなんじゃぁ……」
と、レヴィラスが言うのだが。

「それはレヴィラスもじゃない」
「そうであるな」
「え」
スノウとヴィオルの言葉にレヴィラスがそう漏らして、少しだけ微笑ましくなってしまった。確かにレヴィラスは……大ぐらいかも。

※※※

「我が主よ」

「……グレイ?」

夕飯を終えて、ファナと素材を広げていれば、もふもふのグレイがレヴィラスにすりすりしてる。

「もふもふ……」
感嘆の声をもらすファナの傍らにはブランがいるけどね。

「神域に誰か入ったようだ」
え……、神域に……!?

「森が騒がしい」
「……それは……調査すべきか」
レヴィラスが頷く。

「でももう暗いし……誰が森に……」
神域とは言え、魔物や獣はいる。ここの魔物や獣はさすがに俺たちのことを本能で察するから襲うことはない。

そして魔物や獣は、時にグレイたちに声を届けるらしい。

さらには俺たち以外には、普通にこの神域に立ち入ったものたちは彼らの生存競争の中に入る。
つまりは襲われることもある。特に闇に包まれる森の中では……魔物や獣の方が有利だから。

あ……闇?

「俺が見てくるよ」
クスクスと苦笑するレイン。

「レインさんがですか?」
「レインは闇を通して移動できるから……多分森に潜んでる侵入者もすぐ見つけると思う」

「そんなわけで。行ってくるよ」
レインはそう言ってサッと身を翻すと、物陰の闇にすっと溶けて姿を消す。

「え……?ええぇっ!?き、消えた――――っ!」
「お前はもう少し現し神を勉強しろよ」
レヴィラスが人差し指でファナの額を小突く。

「ひぇーんっ!?竜の里だったので……レヴィラスさま以外はヴィオルさまのことしか……」
「ふむ……?それでもレヴィラスのことを知っていたのは不思議であるな」
そう言えば……そうだよね……?

「レヴィラスさまの破壊伝説は……めちゃくちゃありましたから……!」
「伝統を重んじる竜族なら、古来の伝承も伝えているのであろうな」
神殿と同じように……か。
いや、もしやそれ以上に……?レヴィラスへの祈りの言葉も知っていたし……。

「それで、その竜族なんだけど」
唐突に姿を現したのは……。

「レイン!もう見てきたの?」
「そうだよ。そして侵入者は全員竜族だったよ」

「ほう……?」
ニヤリと口角を上げるヴィオルは先程までの朗らかな空気を感じさせないほどに冷たい空気を纏う。

「我が信徒でありながら、我が主との神域を侵すだと……?不敬極まりないであるな」
笑顔が黒――――いっ!
しかし竜や……竜神もテリトリーを大事にするから余計に気に入らないんだろうな。

「あれ……ヴィオルさまの神域って踏みいったら神罰が下るって……」
それは知ってたのか、ファナ。

「あ……ここがその神域ですか?」
「まさしく」
ヴィオルが頷く。

「わ……私はっ」
「ファナはレヴィラスの眷属だし、俺もみんなも認めているから」
「おぉ……っ!良かったです~~っ!あ……でも……その竜族たちはどうしてここへ入ったのですかね?ヴィオルさま絶対崇拝なはずですよ?私はレヴィラスさま推しでしたけど」

「そのような例が珍しいのだ。しかし……我が主との神域に無断で分け入った以上は……責任をとってもらわねばならぬな……?」
「うーん……そうだけど、一応理由は聞いてあげたら……?」

「ソラ、そのように慈悲をかけるのであれば、彼らを逆に妬ましく思う」
「ふぇ……っ!?」

「あはははは。まぁまぁ。ソラも気になるようだし、ソラとファナも行ってみる?闇で移動できるし」
「そうであるな。我がやつらに直接話してくれよう?」

「あの……あらっぽい真似は……」

「闇に引きずり込む?」
「いやそこは竜の里まで吹き飛ばして……」
レインと一緒に何だかあらっぽい手を早速考えてるし……っ!

「俺も行く」
「……レヴィラスも?うん、行こうか」

「スノウはどうする?」
「そうねぇ。今回は私も行っちゃおうかしら。ここのことよろしくね、グレイちゃんたち」
「心得た」
グレイが頷きブランは……呑気にあくびしてるけどね。

――――こうしてみんなでレインの力で夜の森に転移したのだが……。

あれ……?これ、みんな総出……!?