――――王都・神殿。

「ようこそお越しくださいました……!レインガルシュさま……!」
うわ……っ。すごい歓迎受けた……!?主にレインがだけど……!

「何だよコイツら。ソラがいんだからソラを崇めろ」
いや、さすがにヒト族は魔神崇めないから……!

しかしレヴィラスがレインの影からひょっこり顔を出した瞬間。

「ひいいぃぃぃっ!?破壊神レヴィラス……!!」
俺たちを出迎えた神殿の高官たちが脅えてる……!?

「あ゛ん?呼び捨てたぁ……いい度胸してんな……?」
『ひいぃっ!!!』
レヴィラスを崇める人間もあれど、恐れる人間も多い。何せその名の通り世界を破壊しかけた存在で……この脅えようからすると間違いなく彼らも知っているのだ。レヴィラスの伝承を……。

ギルドでは……まぁ保護者のレインがついてたから大人しくしてたんだろうなぁ……。でもここはなかなかに未開拓な場所のようで。

「それでレインさまがどうしてここに……?」
「んー?創世神からのお使いだけど……?召喚装置……ちゃんと言う通り破棄したかどうかのね……?」

「そ……それは……っ!もちろんです……!」
代表でしゃべっている老人が告げる。

(あれが神官長だよ)
そう、レインが念話を送ってくる。

――――そして、さらに。
ヴィオルには御守りをもらったけれど……俺の意思で使おうとするなら……使える。

(何故……そのことを……っ!まさか創世神さまに破棄していないことが、バレた……!?)
なるほど……。創世神には嘘を伝えたのか。そんなことしたって、いずればバレるだろうに。
それにこの気配……。

(レイン、嘘ついてるね)
(だろうね、ソラ。やつらの匂いがぷんぷんする)
レインと念話を交わせば、レインはいつもの笑みを絶やさず、神官長に問う。

「じゃぁ、破壊したってとこ、見せてくんない?」

「そ……それは……は、はい……っ!」
神官長始め神官たちはふるふると青い顔で脅えている。アレでバレていないと考える方が無理だ。

「しかし……その、瓦礫などもありますゆえ……危険ですから。どうぞレインガルシュさまだけで……」
(こちらにはとっておきがあるのだ……!レインガルシュさまお一柱(ひとり)なら……もしくは……!)

何をバカなことを……。レインがあの程度のものに遅れを取るわけがないのに。

(いざとなれば、破壊神レヴィラスの隙をついてガキどもを……っ!)
――――しゃれにならないことを。レヴィラスの隙なんてつけるはずがないし、そんなことしようものなら……今度こそレヴィラスがぶちギレるだろう。

「俺がいるのに、危険なんてあるはずがないだろう?それとも俺の実力を見せてやれば気が済むかな?」
レインはそう言うと、足元に闇を引き寄せ始める。その口元には浮かべているが、目は完全に笑っていない。

「ひぃっ、そんな……ことは……っ」
「それじゃぁ案内してくれるね?」
有無を言わさぬ笑みの圧……っ。

「気に食わねぇ」
「まぁまぁレヴィラス」
レヴィラスをなだめながらも、神官長の案内に続く。

「竜巫女の宮とは結構違いますね。こちらはザ・王道って感じですねー。あっちは中世の洞窟かよって感じでしたもんー」
いや、中世の洞窟って何!?多分みんなイメージできない……!!

――――しかし。

やっぱり、そうだよね。

(たくさんいるみたい)
(早めに来て良かったねぇ。もうそろそろ制御できなくなるよ)
レインが念話を送ってくる。

(……人間にはね)
それは違いない。

「さぁ、こちらです」
だらだらと冷や汗を掻きながらも、神官長が顔面に笑みを張り付けながら扉を開く。

その瞬間だった。

『グオオオオォォォォォォォォォ――――――――――っ!!!』

恐ろしいほどの咆哮が響き渡る。

「ぎゃ――――――――っ!?魔物ですか!?」
「いや、ファナ、あれは魔物じゃなくて……っ」
しかも、鎖に繋がっていたのか砕けた鎖を弾き飛ばしながらこちらに向かってくる。

「ぎゃあぁぁぁあぁぁ――――――――っ!!」
神官長が腰を抜かして這いつくばる。

「何故だ……っ!制御は確実にできていたはずでは……!?」
神官長……、やはりやつらを飼い慣らす気だったのか……?そんなの、無理に決まってる。

「へぇ……?この程度で俺を倒せると思ったのか……【神】ですらないのに……?」
ニィとほくそ笑むレインがすかさず神剣を抜く。

『ア゛アァァアァ゛ァァァ――――――ッ!!!』

そして言葉の通りの神業でレインが魔物とは世界の違うソレを真っ二つに引き裂き、そして溢れ出てくる大量の……魔物とは違う冥界の獣。

「完全に制御失ってんねぇ」
「人間には手に余る」
それをレインとレヴィラスが簡単に屠っていく。

「ひぇ~~っ。見たこともないグロい魔物ですけどさすがはレヴィラスさま萌え――――――っ!!!」
ファナは相変わらずレヴィラス好きだなぁ。

「いや……あれは冥界の獣……魔物のように魔力を宿してるわけじゃないから……」
あれ、そう言えばアレ、本来何て呼ぶのだったっけ……。

「隠り神の……ペット……?」
と、呼ぶべきか。

「でもほぼ放し飼いのような……」
隠り神は管理はしてても、割りとあれらは自由に動ける幅は大きい。
創世神によって異世界からの門が閉じているからこそ、何らかの誤作動で冥界と通じてしまったのか。

そして……日々地上に出られるなら出たいと企んでいる。やつらは魔力の理の外にいるから、地上に出れば好き放題できる。

だからそもそも、地上の人間があの獣たちを制御できるすべなどない。
――――現し神や魔族などを除いて……。

恐らく仲間が揃うのを虎視眈々と待っていたのだろう。
そして機は熟したのか……あれが溢れ出していたら大変なことになっていた。

――――うん?

「ぎゃーっ!?ソラ、一匹こちらに来ますよ!?」
「え……っ、よく来るなぁ……」
こちらに……と、思った瞬間、冥界の獣がピタリと固まる。

『ぎゃあぁぁぁあぁぁっ、魔神んんんんっ』
まぁ、冥界でも存在は知られているだろうし……あ。もしかして魔神の気配を感じたから……逃げようと出てきたってことかも。

しかし、それがこちらに来る前に……。

「逃げるな」
地を這うような声でレヴィラスが斧で一刀両断する。

そしてすっかりきれいになったところで……。
腰を抜かす神官長、召喚装置のある部屋で倒れている神官たち。獣たちは暴れたが、魔神から逃げるために精一杯だったから、殺されずに済んだのだ。

「さて……壊すけど……。いいね?」
レインが口元にだけ笑みをたたえれば……神官長が顔面蒼白でこくこくと頷く。

そりゃぁ……創世神に嘘をついた挙げ句、現し神にバレてこのざまだもの。

「でも冥界と通じちゃったからねぇ。えらい召喚陣が生まれちゃったもんだ。その技術知識まとめてレヴィが壊せば何とかなるかな?」
「そうだね、レイン」

「レヴィラスさま、そんなことまでできるのですか?」
「そうそう。そこまでしないと、また作っちゃうもんねぇ」

「……はぁ……面倒くせぇが……ソラ」
「そうだね……レヴィラス。お願い」
レヴィラスに向けて頷けば、レヴィラスが毀の斧を構え、神気を纏い、一気に召喚陣を叩き壊した。

そして、その技術知識ですら……彼らは二度と扱えない。いや……その方がいい。

『魔神か』
『魔神が帰ってきた』
『あのレヴィラスが言うことを聞いている』
『良い余興であった』
『それらは魔神への手土産だ』
クスクスクス……

ここではない場所から響いてくるその声にはぁ……とため息を漏らす。

「……遊んでたのか、隠り神たちめ……」
「あいつららしいよねぇ。分かる」
レインも苦笑いだ。

「ソラ、コイツら贄にくれ」
レヴィラスが冥界の獣の死骸を指す。まぁ、隠り神たちも手土産だって言ってたし……。

「分かった。じゃぁそれで」
「ん」
レヴィラスが頷けば、地面から無数の爪のような牙が伸びてきて、冥界の獣の死骸を呑み込んでいく……のだが。

「あ~のぉ、ソラ――――?何で目隠し~~」
ファナの両目は塞いでおいた。

「いやー……、その……」
だいぶグロいからなー……。
レヴィラス崇めてるけれど、あれは女の子にはちょっと……。

神官長や目を覚ました神官たちが恐れおののいている。でも……。

【創世神に嘘ついた罰だよねー】
ひょっとして創世神……知ってた……?

たとえ隠り神たちがこの状況を放任して冥界獣たちが溢れても、創世神が直接干渉するわけにはいかないのだ。
それも地上が神の業に手を出したがゆえの危機。どうにかできるなら……地上の神……現し神しかいないのだ。

「あー……あと、クソジジイ……っ!」
贄をたらふくたいらげたレヴィラスの周囲には贄の欠片もない。召喚陣も完全に破壊されて跡形もなくなっているが……。

【ジジイじゃないよーっ!そりゃぁ年齢の話したら誰よりも年上だけどね!?おじいちゃんだけど、見た目は美男!美男保ってんのぉっ!!そんな言い方しないでよ一等親挟めないで~~っ!】

「うるせぇ……黙れ。ついでに腕持ってくぞ」
【いやほんとヤメテえぇぇっ!お願いお願い~~っ!】

「次ソラを小間使いにしやがったら両腕いただくからな……!!」

【ギャ――――――っ!?】

「まぁまぁ、冥界からも手土産もらえたんだし……?」
ファナから目隠しを外せば。

「何かきれいになってますね」
「そ、そうだね……?」
レヴィラスがきれいにしちゃったから。
まぁ、神官たちは脅えたままだが……。

「れ……レインガルシュさま……っ」
神官長が恐る恐るレインに手を伸ばすが。

「良かったねぇ。創世神に嘘こいた責任とって、贄にならなくて」
それが何をさすのか……レヴィラスの伝承を知っている彼らなら……分からないわけはないだろう。


「さぁ~~て、帰ろうかっ!」
先程までの冷酷な微笑など何ともなかったように、微笑むさまは見慣れたものだけれど……。

――――そうか……それが当たり前だったのだ。
もしも地球で、【人間】としての記憶や感性がなければ、あの時勇者パーティーと出会った時、レインたちを止めることもなかったし……先代なら迷わず魔法剣士を蚊でも払うかのように吹き飛ばしていた。

それを知るために先代は……地球を選んだのか。こちらの世界では人間にはなれないし、記憶や心を読んでも、先代は理解することができなかった。そしてそれを知ろうと思ったのは……初代とファナの原点の出会いがあったからであろう……。

「そうだね……帰ろうか。俺たちの家に」

――――そして共に暮らすことになったファナとの出会いも……きっとそうなるように創世神が導いたのだろうな……。