んん……朝……、か。
何か両腕が重い……と言うか誰か乗ってる……?
パチリと瞼を開ければ。
「すやぁ~~~~」
何故か、ファナが右側にいた。いや正確にはブランを抱っこしながら、俺の腕を枕にしていたんだが……!?
いや、確かファナには昨晩部屋を用意したはずなのだが……何故俺の部屋に……。
ここが静かだから……?いや、そもそもここには現し神とその眷属しかいない。
現し神たちはファナより上位だから、現し神の方からファナに呼び掛けたり許可をしないと彼らの思考はファナと通じないはず……。
ブランとグレイに関してもこの部屋にいるなら、ファナに思念は伝わらないはずでは。
――――――――いや……単にブランと寝たかったから……だったりして。うん……もふもふで……幸せそうな笑みだし多分そう。
ファナを起こさないように、ファナの頭の下の腕をゆっくりと抜く。
ん……。マットレスはふかふかだから……よし、起きない。そして左側はグレイ……にしては違うような。
「……」
レヴィラス……!!
レヴィラスが俺の腕を枕にしていたのである……!そしてグレイはと言うと、レヴィラスの傍らに普通にすやすや寝てたぁ~~っ。
そうだ……忘れていた。重要なことを!!
レヴィラスは……先代の時も初代の時もベッドに潜り込んできてた……!
いや、あの頃はまだ……レヴィラスの中身が幼くて子どもみたいだったってのもあるのだけど……。
でも今は大人っぽい……。俺の方が弟みたいな感覚なのだが。
それでも長年のくせは抜けないとか……?いや、久々の再会だったからかな。
こちらもレヴィラスを起こさないように腕を抜いて……、と。ん、行けそう!
そして腕を全て抜けたと思ったその時だった。
カ……ッ!!!
ひいぃっ!?レヴィラスの白目反転したぁ――――――っ!?
そう……確かそうだった……!寝ている時に腕枕解くと、レヴィラスはこうなる……!俺がいなくなったと思って破壊神モードになるのも忘れていたぁっ!!
いや、だからって今もそうなるとは……誰が思うであろうか……。
でもなってしまった相変わらずじゃんんっ!?
「……ソラ?」
しかし瞬時に身を起こして俺を見るレヴィラスの目は……元に戻っていた。
「あの……その……隣に寝るの……?」
今生もか……?
「やっぱソラが隣にいないと落ち着かない」
……1000年間、甘やかしすぎただろうか。
「……どうしてもなら」
別に嫌ではないし……。むしろ……俺が寂しくなる……のかな?
地球ではいつもひとりだったから。
「じゃぁここがいい」
「……レヴィラス……」
何だかホッとしてしまったのだが。次の瞬間レヴィラスは怪訝な表情を浮かべながら俺の身体の向こうを見やる。
「何でファナまでいやがる」
「……ブランと……寝たいから?」
「ブランと部屋で寝りゃぁいいじゃねぇか」
いやまぁそうなんだけど。
「ふあ~~、まぁいいか……」
いいんだ。そこさらっと流すんだ。でも眷属になったのなら……嫉妬する対象でもなくなるのかなぁ……?
「起きようか」
「ん。あと、ファナは叩き起こすか?」
「普通に起こそうか……?」
グレイも起きたところで、ファナとブランも起こしてリビングへ向かえば……。
「じゃーん!畑で獲れたたくあんよ!」
スノウがたくあんの棒を見せてくる。いや、棒と言うか……切り分ける前の棒状のたくあんだ。
「畑で……?一晩で漬かるものなの……?」
たくあんって大根から作るのではなかったっけ……。
「漬かる……?普通に畑で獲れるわよ」
「そうですよソラ~~、たくあんは畑になるのです」
と、ファナが頷くが……。
「この世界ではたくあんは……畑になるのか……」
衝撃なんだけども。
「いや、ならないよ。スノウの単なるチート」
その時、レインがこちらに鍋を持ってきながら告げる。
「味噌もキュウリの漬け物もあるわよ!」
いやいや、それ加工食品!!加工食品までみのるとか……。
「魚はさすがに無理だけど!」
「いや、実ったら逆に恐いよ!」
「あれ、でも陸生の魚は……」
いるの!?レイン!
「いや、だから肉は無理だってば」
スノウが微笑む。こう言う穏やかな朝食は……初めてかもしれない。そして俺がその中に入れるのも。
「今日はスノウのリクエストで米を炊いたんだけど、大丈夫?」
「だって漬け物には米よ!」
と、主張するスノウ。確かにイメージとしてはそうかも。お味噌もあるしなぁ。
「米を食べるのも久々かも……」
それも漬け物とか。
「いや、やっぱりソラはいつの時代の人ですか……!?」
「いや、だからファナと同じ……」
創世神もそう言ってたし。
「けど、施設育ちで、俺はそこでも何と言うか……立場がなかったから」
「ひどいですぅ~~っ!それこそレヴィラスさまの破戒の力の出番……っ!」
「いや、それはいいから……!」
「ソラはやはりそんな世界に……毀つか……」
「レヴィラスまでヤメテ~~っ!?」
「ははは。なら今後は地球にソラの魂あげないってことで」
【……うん、そうするぅ……】
あ、創世神の声も聞こえた。まぁ……テレパスの力はあちらでも有効になってしまったからな……。
地球にはもう……魂は渡らない……か。先代の願いも分かるし、地球が嫌いなわけではないけれど。
「こっちではお米も漬け物もたくさん食べられますよ!」
「うん……ファナ」
「我らもおりますれば」
と、ヴィオルも起きてきたようで。
「うん」
先代の願いは……決して無駄ではなかったと思うけど。でもだからこそ、この世界がずっと愛おしくも思うんだ。
みんながいる……この世界が。
「さ、朝ごはんにしようか」
「うん、レイン」
食器などを運ぶのを手伝いつつ、本日の朝ごはんは……。
米と漬け物と、味噌汁と煮物だ。
こんな潤沢な朝ごはんも……賑やかな朝ごはんも、初めてだ。
※※※
「では、出掛ける前にこちらを」
出発の準備をしていれば、ヴィオルが俺とファナに首からさげる小さな巾着を渡してくれた。
「これ……ヴィオルの……?」
「我の鱗でございまする。レインがいるとはいえ、雑踏が心配でありまするからな」
レインは闇を操れるからそう言った遮断はお手の物だ。俺は少しずつこの世界に馴染んでいるから、そこまで周囲の声を集めはしないと思うけど……ファナは別だもんな……。
それに何らかの拍子に影響を受けるかもしれないし。持っているにこしたことはない。
「ありがとう、ヴィオル」
「ありがたきお言葉」
そう俺たちが話していれば、首を傾げるファナにスノウが告げてくれる。
「ヴィオルの鱗は無効化や結界などの力があるから、周りが静かになるのよ。竜族の出なら、ヴィオルにその鱗をもらえるよう求めていたとも思ったのだけど……違ったようね」
「……竜族め……っ、許すまじ……っ」
やっぱりファナの竜族への怨みが甚だしい……!!
※※※
――――――再びの王都へは、俺とファナとレヴィラスを連れ、レインの力で一瞬であった。
「わぁ……昨日ぶり……」
そして人は多いものの、そこまではうるさくはない。世界に馴染んできているのと、ヴィオルの鱗のお陰だ。
「ファナは……周りの音はどう?」
「ふむふむ、結構快適です!あわよくば屋台のオヤジの声を読んでふんだくろうとも思っていたのですが!!」
「いやいや、ダメだってそう言うの!!」
「はははははっ。大丈夫、大丈夫。適度に値切るし、相場外のものは見分けもつくし」
やっぱりレインがいると心強いかも。やっぱり相場や何やらはさすがに分からないから。
心の中を読んだとしても、欲しい情報を聞くには……記憶を見ればいいのだが。いやそこまでしなくても、いいかも。
「ソラ?」
「いや、その、何でもない」不思議そうに俺の顔を覗くレインに首をふり、はぐれないようについていかないと……。
ぎゅっ
「あの……レヴィラス?」
何で手を繋いで……。
「迷子になったら困る」
俺たちは……俺が初めての王都でレヴィラスのいる場所が分かったように、お互いにお互いの位地分かると思うんだが。少なくとも主⇔眷属神間は分かる。
「……その、過保護……?」
「ソラが言う?」
レインのその問いの意味は……意味は……あ、過保護だったのは代々の主の方だった。
「あの、美味しそうな屋台がたくさんあります……っ」
「ファナ、よだれ出てる!?」
「だって~~っ」
「見に行ってみようか」
「えぇっ!美味しいものたくさん食べましょうっ!」
「うん」
異世界の屋台飯……串焼きとか、パン生地っぽいものを焼いたものとか、お菓子とかいろいろあるようで。とても楽しみだ。