もうすぐ、レヴィラスに会える。レヴィラスは……今生のレヴィラスは、どんなレヴィラスなのだろう。
「この街にいるのであるな」
「うん」
ヴィオルが街の人間たちに見つからないように俺たちを隠しながら、街の目立たないところに着地してくれた。ヴィオルは術や魔法などに詳しいから、それを自分で応用することもできる。根底にある力は、現し神のもので、人間たちが持つ純粋な魔力とは違うのだけど。
とっさに言い出さなければ今頃街は大混乱である。何せ、俺のこの世界への帰還を知らしめるため、街のシンボル城ひとつ沈めてバーンと登場しようとか突然言ってきたんだから……!
「――――――と言うかこの街、いわゆる王都ってところなんだ」
単に大きな街としか認識していなかったし、先ほどの勇者たちを適当に投げ込んでもらったが。
「ふむ、人間たちが作る国とやらの中心地であるな。レヴィラスはよく赴いていたと聞く。ここであったか」
「ヴィオルは初めてなの?」
「我はあまりヒト族や獣人族とは関係を持たぬゆえ。祈りに来るヒト族や獣人族は大体が群れから外れたものたちである」
ヴィオルが竜族が主に崇める竜神だからゆえか。と言うことはつまり、この国はヒト族か獣人族が中心、もしくはどちらも暮らす国と言うことだ。ちらりと街の大通りを脇道から覗けば、ヒト族も、いろいろなケモ耳の獣人族もいる。エルフ族もたまーにいるようだ。
――――――しかし、あのレヴィラスが人間たちの国へ……何をしに……?さすがにこの活気や平和そうな日常を見るに、暴虐の限りは尽くしていないようだが。
……はっ、待てよ……?
「もしかしてレインやスノウはよく来るの?」
「この国かは分からぬが、人間たちの生活圏へは行くのではないか?」
そ……そうか……あのショタッ子コーデとかは、ここで手にいれていたのか……!?
お金の問題は……多分レインなら素材はいくらでも手に入れる。換金すればいいだけだし。
この世界には、異世界ファンタジーでよくある冒険者ギルドなんかも……。
「あ、この世界ってまだ、冒険者は廃れてないよね?」
初代の前から、歴史のあるこの世界の仕組みなはずだけど。
「うむ。恐らくレヴィラスが人間の街にいると言うことは、そう言うことであろうな」
「……え?」
「我は人間の街はよく分からぬ。だがレインは詳しい。ソラがいない時間、レヴィラスはよくレインについて街に行っていたようである」
そう……だったの……?まぁレインが一緒ならレヴィラスのことも安心だけど……。
「……あ、待って。レインと……!?まさか……変態の知識……レヴィラスに刷り込んでないよね……?」
「……ソラよ。瞳がまるで代々のように変化したであるな。そんなに心踊る話題であるか?」
え、瞳が……!?それは無意識で……っ。鏡もないしよく分からないけど!心は踊らない!むしろ逆効果だって……!
「その……違くて。レヴィラスは……ハーパンとニーソ……好きかな……ってこと」
まさか……まさか……レイン……!
「その服をわざわざ用意していた時点で違うのではないかと思いまする」
ド正論……!そ、そうだよね!もしレインの変態が移ってたら安全な衣装にはならないよね……!と……取り乱しすぎてたかも、俺。
「よ、よし、レヴィラスのところにいこ。ヴィオル、竜族……は目立つかな?竜族のように……見せられる?」
「うむ、まぁ見慣れておるからな。現し神のまま行ってもよいが……ソラが望むのであれば」
そう言うとヴィオルは幻術をかけ、頭の角を竜族らしい竜の角に変える。
そして竜の鱗は緑に。今は……緑が主流なのかな……?でも紫だと現し神の鱗になっちゃうから、仕方がないか。あまり目立つのもどうかと思うし。当然ながら、現し神は竜族よりもエルフ族よりもさらに稀少な種族だから。
そしていざ、レヴィラスの元へ……!
場所なら分かるから……!
「……文字、変わったかも……」
異世界の文字は地球のものとは違うが、ギリギリ読めてはいる。
これも代々の魂のお陰だろうか。しかし1000年前とは確実に違うわけで……。
「レインやレヴィラスは普通に読みまする。すぐに慣れると言っておりました」
「うん……まぁ」
この世界での最後の記憶は……多分、16年前。それでもそんなに人間の領域との交流をしていたわけではないだろうし、俺の魂の記憶が知っているものと比べると……ね。
レインならその性質上人間との関わりが深いから、すぐに慣れると言う認識だったのだろうけど。
「多分、この建物の中」
赤い屋根に白い壁の、3階建ての大きな建物だ。異世界ファンタジーさながらのコスプレをした……いや、この世界ではコスプレじゃなかった……。装備をした人間たちも出入りしている。
えぇと、建物の看板には……。
「えと……ぼ……けん……ど……冒険者ギルド……!」
……だ。恐らくは……!周りの装備を身に付けたひとたちもそんな感じだし……!レヴィラスはここにいるんだ……!
「ふむ、ここがレインが言っていた例の……脆そうな建物であるな。レインが寄りかかっただけで崩れそうであるぞ」
いや、まぁ現し神の力をもってしてみれば、人間の建てた建物なんて大体そうだと思う……。レインももたれかからないように気を付けたんだろうか。いや、普通に力を制御すればいいだけの話なのだが。
「絡まれたりしないよね」
こちらをちらちらと見てくる鋭い視線やいかつい顔にびくびくしていれば。
「ソラよ。何故そんなにイラついておるのだ?こやつら纏めて氷像にして信ぜよう。好きなだけ破壊してくだされ」
ヴィオルは満面の笑みだった。恐らく、びくついた主と言うものを知らないのだろう。先代も初代も多分こう言う感情は知らなかったであろうし、ヴィオルたちに見せたこともないのだろう。人間たちの恐怖はさすがに区別できるだろうけど、主に関しては完全に別枠で見ているから、今の俺がびくついてるとは思いにもよらず。どうにかして答えを出したところ、【イラついている】と言う結論に至ったのだろう。
――――――が、恐すぎる……!何しれっと恐ろしい催し始めようとしてんの……!
(氷像にはしないで……!)
そう念話を投げつければ。
(むぅ……お気に召されなんだか)
召すわけないでしょーがっ!!初代や先代なら『興味ない』のひと言で放任しただろうけど……!いつものように創世神に泣き付かれて『よせ』と命じただろうけど……。
……。
今までの代々……この世界の創世神、泣き付かせてたんだ。あぁー……思い出してしまった……。
「おい、あんたら」
と、そこへいかつい顔の冒険者らしき男性が声をかけてきた……!?
(我らのソラに声をかけるとは……よほどの命知らずのようであるな)
(殺気たてるな、ヴィオル。手は出すな)
(しかし……っ)
ヴィオルは不満げながらも、ガン睨みである。この睨みを前に、冷や汗をかきながらも声をかけてくれた冒険者さんに、拍手を送りたい。何か……うちの騎士がごめんなさい。
「その女の子、大丈夫か」
あ……あぁ――――――。彼女か。ヴィオルが今もしれっと脇に抱えてくれている、彼女……!
「気絶してるだけで、命に別状はありません」
「……そうか」
冒険者はそう短く答えると、そそくさと去っていき、周りもホッと息を吐くように視線をそらしていく。
――――――原因この子か……!
(いや、でも気絶してるだけだし……。治癒が必要なほどじゃない……よね?)
ヴィオルに語りかければ。
「死んではおりませぬ」
「……そう、よ、よかった……?」
うん。そうだよね。命、大事……!
ヴィオルに頷き、冒険者ギルドの荘厳な両開きの扉を開けば。懐かしい声とともに、求めていたひとかげが姿を見せる。
「お……お待ちください!今あなたさまに去られてしまえば……!王城から勇者パーティーの指南役の依頼も来ておりますし……!」
しかし想像していた中身とはだいぶ違う。ひとりの前に、数人の人間たちが平伏していたのだ。え、何これ……っ。
それに勇者パーティーってあいつら……!?何でレヴィラスに指南役の依頼が来るわけ……!?
「知らん」
冷たくそう漏らしたのは、俺よりも背の高いダークブラウンの髪に黒い瞳の青年で、その姿は人間に近い時の姿である。
俺と似たような装いに、背に大きな両刃の斧……毀の斧鉞を担いだ青年はふいと身を翻す。そして俺が来たことに既に気が付いていたかのように、次の瞬間には俺の前に移動していた。
「ずっと会いたかった。我が主」
あの頃の拙い言葉とは違い、研ぎ澄まされたように滑らかな音階で言葉を紡ぐ。
……みなに段々と似てきたのかな。それともレインに習ったのか。
それでも変わらない。背は……俺の方が小さくなってしまったけれど。
「レヴィラス。迎えに来たよ」
「うん、嬉しい。我が主」
そう言ってレヴィラスは俺とハグをして、16年ぶりの再会を懐かしんでくれる。そして俺も……。
「レヴィラスさま……!一体どういうことですか……!」
その時、耳ざわりな声が再開のひと幕に紛れ込んだ。