「「うおぉぉぉぉ!!」」
あれ、まさかこれで終わり?
戸惑う僕を他所に、闘技場内は勝負が着いたと言わんばかりの盛り上がりを見せる。
レベッカとルルカとミラーナも客席から僕の所に駆け寄って来てくれた。
「やっぱり一瞬で勝負が着いたなジーク!」
「ってか弱過ぎじゃないかしら。この程度でよくあんな粋がっていたわね」
「お疲れ様ですジーク様」
周りの歓声とレベッカ達の言葉で徐々に終わった事を実感する。
「ハハハ、なんだか訳わからない内に終わっちゃったな」
「当たり前にジークが強いのよ。私は始まる前から分かっていたわ」
「私もです。グレイ様にもこれに懲りて気持ちを入れ替えていただきたいですね。実力も然る事ながら、ジーク様とは根本的に求めている強さが違うんです」
「悪いけどあれは俺でも勝てたんよ。ヒャハハ」
まさかこんな結果になるなんて思わなかった。
ここまでグレイと差が出る程僕は力を付けられという事なんだろうか。まぁこのブロンズの腕輪を、呪いのスキルを与えられたから色々あったからな。
全ては引寄せの力のお陰だろうけど、僕自身も少しは成長出来ているみたいだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……あ、有り得ない……絶対に有り得ないぞこんな事は……」
地面に項垂れながらブツブツと呟いやくグレイは、握り締めた拳を何度も何度も地面に打ち付けている。
「くそッくそッくそッくそぉぉぉぉ……! ふざけんじゃねぇ! 俺は……俺の勇者スキルは最強じゃないのか⁉ 何故こんな事になってやがるんだッ!」
恐らく今のグレイには周りの音が耳に入っていないだろう。
殺意、憎悪、恨み、怒り。
そういった類の負の感情が顔つきや全身から溢れ出ている。
「地に落ちたか、グレイよ――」
「ち……父上……ッ」
地面に崩れるグレイに対し、ゴミを見るかの如く見下す父上の冷酷な視線。唾を吐く様にそう言った父は、グレイにそれ以上の言葉を掛ける事なくそのままゆっくりと僕に近付いてきた。
目の前に立ち塞がる父上。
こうして面と向かうのは、僕がレオハルト家を追放されたあの日以来――。
父上はあの時と同じ酷く冷たい視線を僕にも送り、父上の纏う空気感に思わず生唾を飲み込んだまさに次の瞬間。
父の口から出た発言は想像だにしていないものだった。
「ハッハッハッハッ! 素晴らしい、素晴らしいぞジークよ! それでこそ我がレオハルト一族の勇者だ! お前のこれまでの実績はまさにレオハルト家に相応しい。喜べ。今すぐにお前をレオハルト家に戻してやるぞジークよ!」
父上は高らかに笑い声を挙げながら、当たり前かの様に僕にそう言い放ってきた。
余りに突拍子の無い発言に場が一瞬で静まり返る。
一体何を言っているんだこの人は――。
きっと僕以外にもレベッカ、ルルカ、ミラーナも全く同じ事を思っている筈。そう確信出来る程に今の父上の発言は理解出来ない。しかもそれを本気で分かっていないのは貴方だけだよ父上。
「ハッハッハッ。ん、どうした。嬉しくないのか? お前は自分の実力を証明した上に、それを認めた私がレオハルト家に戻っていいと言っているのだぞ。お前にとってこれ以上ない喜びだろう」
いや、今更驚く事ではない。
昔から父上はこれが正常運転だ。
僕にはそれが分かっている。
でも、分かっているのに余りに場違いな発言に何と返していいのか分からない。
「頭大丈夫かしらこの人……。ねぇジーク、貴方本当にこの親と弟と家族だったのよね? とても信じられないわ」
言葉を失っていた僕に変わって、ミラーナが思っていた事をストレートにぶつけてくれた。
「ここまでイタいと笑えもしないんよ。お前よくまともに育ったな。家出れて良かったじゃん。レベッカちゃんも」
「ルルカさんの意見に初めて完全一致です」
レベッカとルルカとミラーナはそれぞれ思いの丈を吐き出すなりとても軽蔑した目で父上を見ている。
「なんなのだお前達は。これは由緒ある我がレオハルト家の問題。庶民には関係ないだろう。使用人のお前も戻って良いぞ。これからもジークの世話をしなさい」
皆を馬鹿にした発言に、遂に僕も黙っていられなくなった。
「父上、今の発言は訂正して下さい! 皆僕の大切な仲間だ。レベッカももう使用人じゃない。それに父上が何と言おうと僕はレオハルト家には戻りませんよ」
「何ッ……? ジークよ、お前本気で言っているのか?」
「寧ろ貴方が本気で言っているんですか父上。申し訳ありませんが僕が戻る事は絶対に有り得ません。レオハルト家にはグレイがいるでしょう。父上が期待している勇者に選ばれたグレイが」
僕がそう言うと、父上が再びグレイに視線を戻すと同時に深い溜息を吐いた。
「ふぅ……。アイツはもうダメだ。これだけ大勢の人間の前で無様な姿を晒した上に、私とレオハルト家の名に泥を塗った。ここまで失態はもう取り返しがつかん」
ここにきても尚も面子を気にするか。
この人は一体何が大事なんだ。
「申し訳ございません父上……。で、ですが俺はッ……「俺は何だ? 貴様この期に及んでまだ言い訳をするつもりなのか。恥を知れ! 貴様は負けたのだ。正々堂々ジークと正面からぶつかってな。貴様などもうレオハルト家にはいらん。負け犬として野垂れ死ね」
「そ、そんなッ……。父上! 待って下さい! 俺はまだ、まだ“負けていない”――!」
そう言ったグレイは突如勢いよく立ち上がり、何やらズボンのポケットに手を突っ込んだ。
そしてグレイが勢いよく手を引き抜くと、そこにはあの赤い結晶が握られていた――。
「それは……⁉ グレイ! 何でお前がそれを持っているんだ!」
「黙れ! どいつもこいつも好き勝手言いやがって。勇者である俺が最強なんだッ!」
グレイの激しい殺意に呼応するかの如く強く輝き出した赤い結晶。その輝きは衝撃波となって近くにいた父上や僕達に襲い掛かった。
「ぐわッ⁉」
「僕の後ろに来るんだレベッカ!」
「くッ。何だこの力は……!」
衝撃に耐えきれなかった父上は勢いよく吹き飛ばされ、結晶から輝く不気味な輝きはそのまま膨れ上がったかと思いきや今度はグレイの体を包み込んでしまった。
「フ……フフフ……フーーハッハッハッハッ! 凄い、凄いぞ! どんどん力が溢れ出てくる!」
グレイを包んだ不気味な輝きが徐々に薄れていくと、次に姿を現したグレイのその体は、顔や腕や足などの至る所が人間のそれとは違う異形な姿に変わっていた――。
あれ、まさかこれで終わり?
戸惑う僕を他所に、闘技場内は勝負が着いたと言わんばかりの盛り上がりを見せる。
レベッカとルルカとミラーナも客席から僕の所に駆け寄って来てくれた。
「やっぱり一瞬で勝負が着いたなジーク!」
「ってか弱過ぎじゃないかしら。この程度でよくあんな粋がっていたわね」
「お疲れ様ですジーク様」
周りの歓声とレベッカ達の言葉で徐々に終わった事を実感する。
「ハハハ、なんだか訳わからない内に終わっちゃったな」
「当たり前にジークが強いのよ。私は始まる前から分かっていたわ」
「私もです。グレイ様にもこれに懲りて気持ちを入れ替えていただきたいですね。実力も然る事ながら、ジーク様とは根本的に求めている強さが違うんです」
「悪いけどあれは俺でも勝てたんよ。ヒャハハ」
まさかこんな結果になるなんて思わなかった。
ここまでグレイと差が出る程僕は力を付けられという事なんだろうか。まぁこのブロンズの腕輪を、呪いのスキルを与えられたから色々あったからな。
全ては引寄せの力のお陰だろうけど、僕自身も少しは成長出来ているみたいだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……あ、有り得ない……絶対に有り得ないぞこんな事は……」
地面に項垂れながらブツブツと呟いやくグレイは、握り締めた拳を何度も何度も地面に打ち付けている。
「くそッくそッくそッくそぉぉぉぉ……! ふざけんじゃねぇ! 俺は……俺の勇者スキルは最強じゃないのか⁉ 何故こんな事になってやがるんだッ!」
恐らく今のグレイには周りの音が耳に入っていないだろう。
殺意、憎悪、恨み、怒り。
そういった類の負の感情が顔つきや全身から溢れ出ている。
「地に落ちたか、グレイよ――」
「ち……父上……ッ」
地面に崩れるグレイに対し、ゴミを見るかの如く見下す父上の冷酷な視線。唾を吐く様にそう言った父は、グレイにそれ以上の言葉を掛ける事なくそのままゆっくりと僕に近付いてきた。
目の前に立ち塞がる父上。
こうして面と向かうのは、僕がレオハルト家を追放されたあの日以来――。
父上はあの時と同じ酷く冷たい視線を僕にも送り、父上の纏う空気感に思わず生唾を飲み込んだまさに次の瞬間。
父の口から出た発言は想像だにしていないものだった。
「ハッハッハッハッ! 素晴らしい、素晴らしいぞジークよ! それでこそ我がレオハルト一族の勇者だ! お前のこれまでの実績はまさにレオハルト家に相応しい。喜べ。今すぐにお前をレオハルト家に戻してやるぞジークよ!」
父上は高らかに笑い声を挙げながら、当たり前かの様に僕にそう言い放ってきた。
余りに突拍子の無い発言に場が一瞬で静まり返る。
一体何を言っているんだこの人は――。
きっと僕以外にもレベッカ、ルルカ、ミラーナも全く同じ事を思っている筈。そう確信出来る程に今の父上の発言は理解出来ない。しかもそれを本気で分かっていないのは貴方だけだよ父上。
「ハッハッハッ。ん、どうした。嬉しくないのか? お前は自分の実力を証明した上に、それを認めた私がレオハルト家に戻っていいと言っているのだぞ。お前にとってこれ以上ない喜びだろう」
いや、今更驚く事ではない。
昔から父上はこれが正常運転だ。
僕にはそれが分かっている。
でも、分かっているのに余りに場違いな発言に何と返していいのか分からない。
「頭大丈夫かしらこの人……。ねぇジーク、貴方本当にこの親と弟と家族だったのよね? とても信じられないわ」
言葉を失っていた僕に変わって、ミラーナが思っていた事をストレートにぶつけてくれた。
「ここまでイタいと笑えもしないんよ。お前よくまともに育ったな。家出れて良かったじゃん。レベッカちゃんも」
「ルルカさんの意見に初めて完全一致です」
レベッカとルルカとミラーナはそれぞれ思いの丈を吐き出すなりとても軽蔑した目で父上を見ている。
「なんなのだお前達は。これは由緒ある我がレオハルト家の問題。庶民には関係ないだろう。使用人のお前も戻って良いぞ。これからもジークの世話をしなさい」
皆を馬鹿にした発言に、遂に僕も黙っていられなくなった。
「父上、今の発言は訂正して下さい! 皆僕の大切な仲間だ。レベッカももう使用人じゃない。それに父上が何と言おうと僕はレオハルト家には戻りませんよ」
「何ッ……? ジークよ、お前本気で言っているのか?」
「寧ろ貴方が本気で言っているんですか父上。申し訳ありませんが僕が戻る事は絶対に有り得ません。レオハルト家にはグレイがいるでしょう。父上が期待している勇者に選ばれたグレイが」
僕がそう言うと、父上が再びグレイに視線を戻すと同時に深い溜息を吐いた。
「ふぅ……。アイツはもうダメだ。これだけ大勢の人間の前で無様な姿を晒した上に、私とレオハルト家の名に泥を塗った。ここまで失態はもう取り返しがつかん」
ここにきても尚も面子を気にするか。
この人は一体何が大事なんだ。
「申し訳ございません父上……。で、ですが俺はッ……「俺は何だ? 貴様この期に及んでまだ言い訳をするつもりなのか。恥を知れ! 貴様は負けたのだ。正々堂々ジークと正面からぶつかってな。貴様などもうレオハルト家にはいらん。負け犬として野垂れ死ね」
「そ、そんなッ……。父上! 待って下さい! 俺はまだ、まだ“負けていない”――!」
そう言ったグレイは突如勢いよく立ち上がり、何やらズボンのポケットに手を突っ込んだ。
そしてグレイが勢いよく手を引き抜くと、そこにはあの赤い結晶が握られていた――。
「それは……⁉ グレイ! 何でお前がそれを持っているんだ!」
「黙れ! どいつもこいつも好き勝手言いやがって。勇者である俺が最強なんだッ!」
グレイの激しい殺意に呼応するかの如く強く輝き出した赤い結晶。その輝きは衝撃波となって近くにいた父上や僕達に襲い掛かった。
「ぐわッ⁉」
「僕の後ろに来るんだレベッカ!」
「くッ。何だこの力は……!」
衝撃に耐えきれなかった父上は勢いよく吹き飛ばされ、結晶から輝く不気味な輝きはそのまま膨れ上がったかと思いきや今度はグレイの体を包み込んでしまった。
「フ……フフフ……フーーハッハッハッハッ! 凄い、凄いぞ! どんどん力が溢れ出てくる!」
グレイを包んだ不気味な輝きが徐々に薄れていくと、次に姿を現したグレイのその体は、顔や腕や足などの至る所が人間のそれとは違う異形な姿に変わっていた――。