「……こ、これで全部だ。俺が知っている事は全て話した」
エミリさんに剣の切っ先を向けられたまま、シュケナージ商会のボスはそう答えた。
「成程。ジークさん、何か聞きたい事は?」
「ゲノムは今どこにいるんだ。奴は他に何を企んでいる」
「ふん、それ以上は知らねぇな。俺にとっても謎だらけの奴だった。奴が商品用の人間を斡旋して俺達が攫う。それだけさ。確かに得体の知れない奴だったが、それ以上に金儲けはさせてもらったから文句はねぇ」
ボスの反応から察するに、この男は本当にそれ以上の事は知らないだろう。後でエミリさんの仲間に協力してもらうという事になったが恐らくもう何も出ない。
だが最低限の収穫はあった。
ボスの話によれば、シュケナージ商会がゲノムとかかわりを持ち始めたのはもう数年以上前との事。今この男が言った様に、当時から今に至るまでゲノムの正体も詳しい事もよく分かっていないらしい。ただ不気味な技を使うと言っていたから、それはほぼ間違いなく奴の黒魔術の事だろう。
クラフト村と同じく他の村や町でも似た様な事をしていたらしく、いつも襲う場所はゲノムの指示の元決行していたとの事。そこでシュケナージ商会はゲノムのお陰でリスクなく奴隷という商品を集められる見返りに、ゲノムが求めていた条件の合う人間を数人引き渡していたらしい。
恐らくゲノムが求めていた人間は、魔王を復活させる為に必要な“生贄”とかいうやつじゃないだろうか。そう考えればゲノムの行動や発言も自然と繋がってくる。
未だに分からないのがその生贄となる者達の条件だ。ただ人数が欲しいだけならこんな回りくどい事する必要がない。生贄となる者にもなにかしらの条件が存在する。それが分かれば奴より先に先手を打てるかもしれないな。
「ゲノムが求めていた条件の合う人間っていうのはどういう人間なんだ?」
「知らねぇな」
「知らない訳ないだろ! どうやって選んでいた?」
「ちっ、ガキが何時までもうるせぇな。俺達はただ捕まえた奴隷共に“赤い結晶”をかざしていただけだ。それだけでその結晶が反応するとな。
まぁ奴とは何年も前から数え切れない奴隷を捕まえてきたが、未だに1度も結晶が反応した試しがねぇ。俺だって何の為にやってんのか知らねぇんだよ」
相変わらず横暴で荒い口調だが、多分これは嘘ではない。赤い結晶はモンスターに取り込ませる以外にも何か使い方があるのか……。
「貴方、奴隷商を行っていただけでなく、まさか魔族とも関係を持っていたとはね」
「そんな事は関係ねぇぜ、剣姫エミリ様よ。楽に稼げれば誰だってそっちの方がいいだろう。へッへッへッ」
この男の態度と発言は実に人を不愉快させる。エミリさんもそう思っているのか、グッとボスの男を睨むとエスぺランズ商会の仲間達に彼を連行する様に伝えた。
「すみませんエミリさん! 最後にもう1つだけこの男に聞きたい事があるんです」
エミリさんに一言断りを入れた僕は最後の質問を男に尋ねた。
「最後に教えてくれ。貴方はここにいる彼女に見覚えはあるかい?」
僕は男に尋ねながらレベッカを指差した。
「ああん? ウチで売った奴隷かなにかか? 生憎こっちは何百人と奴隷を捌いてんだからいちいち覚えてる訳……って、ちょっと待て。その髪色どっかで見覚えがあるな」
「ちゃんと思い出せ」
「うるせぇな。あ~ありゃ確か結構前にゲノムの野郎が指示してきた、田舎町かどっかで捕まえたんだったかな? そうだ。いたぞ、そこの孤児院にお前と同じ珍しい髪色をしたガキがな。あの時はゲノムが魔王軍団の残党とやらを連れていたからいつもより楽に仕事が済んだんだ。
ん……おいおい、待て! まさかお嬢ちゃんがあの時のガキって事は、あの後お嬢ちゃんを売り捌いていた時にしゃしゃり出てきたあの場違いのガキはもしかして……ッ⁉」
男の脳内では忘れら去られていた記憶が一瞬で蘇って来たのか、全てを思い出したと言わんばかりに僕とレベッカを交互に何度も見てきた。
「どうやら思い出したみたいだな。そうだ。あの時奴隷として売り飛ばされそうになっている彼女を引き取ったのは僕だ! まさかあの時あの場にいたのがアンタだとは思わなかったけどね」
「ジーク様……」
レベッカは心配そうな表情で僕を見てきた。
大丈夫だよレベッカ。
僕も“ここから先”を聞くのがとても怖いけど、ずっと求めていた答えでもある。
「へッへッへッへッ。とんだ運命の再会だな。お嬢ちゃんを助けた挙句に、こうして俺達を潰したんだからお前の勝ちだな少年」
「そんな事はどうでもいい! レベッカの町を襲った時、孤児院には彼女以外にも子供達がいた筈だ。その子達はどうした!」
「俺が何でもかんでも知っていると勘違いするなガキが。あの時は魔族共が無駄に暴れたから町の奴らが森に逃げ込んじまったんだよ。
お陰で収穫出来たのはこのお嬢ちゃんだけ。あの時は大損だったぜ全く」
「逃げた他の人達はそれからどうなったんだ」
「だから知らねぇって言ってんだろうが! そんなに質問が好きなら全部ゲノムの野郎に聞け!」
会話を終えると、ボスの男はエミリさんの仲間達に連行されていった。
過去にレベッカの町を襲ったのはやはりシュケナージ商会。しかもその時から既にゲノムが絡んでいたという事だ。コイツが知らないとなると残された手掛かりはゲノムだけ。
逃げた人達が生きているのかだけでも分かれば良かったんだけどな……。
「ありがとうございましたジーク様」
「ううん。嫌な事を思い出させてごめんよレベッカ。ハッキリと答えには辿り着けなかったけど、他の人達が今でも無事である事を祈ろう」
こうして、一先ず事なきを得た僕達はシュケナージ商会の連中を連行する為レイモンド様に報告を入れ、その報告で王都から派遣された騎士団員達が彼らを連行して行くのだった。
一段落した僕達は、エミリさんの勧めで一旦エスぺランズ商会へ戻る事にした――。
エミリさんに剣の切っ先を向けられたまま、シュケナージ商会のボスはそう答えた。
「成程。ジークさん、何か聞きたい事は?」
「ゲノムは今どこにいるんだ。奴は他に何を企んでいる」
「ふん、それ以上は知らねぇな。俺にとっても謎だらけの奴だった。奴が商品用の人間を斡旋して俺達が攫う。それだけさ。確かに得体の知れない奴だったが、それ以上に金儲けはさせてもらったから文句はねぇ」
ボスの反応から察するに、この男は本当にそれ以上の事は知らないだろう。後でエミリさんの仲間に協力してもらうという事になったが恐らくもう何も出ない。
だが最低限の収穫はあった。
ボスの話によれば、シュケナージ商会がゲノムとかかわりを持ち始めたのはもう数年以上前との事。今この男が言った様に、当時から今に至るまでゲノムの正体も詳しい事もよく分かっていないらしい。ただ不気味な技を使うと言っていたから、それはほぼ間違いなく奴の黒魔術の事だろう。
クラフト村と同じく他の村や町でも似た様な事をしていたらしく、いつも襲う場所はゲノムの指示の元決行していたとの事。そこでシュケナージ商会はゲノムのお陰でリスクなく奴隷という商品を集められる見返りに、ゲノムが求めていた条件の合う人間を数人引き渡していたらしい。
恐らくゲノムが求めていた人間は、魔王を復活させる為に必要な“生贄”とかいうやつじゃないだろうか。そう考えればゲノムの行動や発言も自然と繋がってくる。
未だに分からないのがその生贄となる者達の条件だ。ただ人数が欲しいだけならこんな回りくどい事する必要がない。生贄となる者にもなにかしらの条件が存在する。それが分かれば奴より先に先手を打てるかもしれないな。
「ゲノムが求めていた条件の合う人間っていうのはどういう人間なんだ?」
「知らねぇな」
「知らない訳ないだろ! どうやって選んでいた?」
「ちっ、ガキが何時までもうるせぇな。俺達はただ捕まえた奴隷共に“赤い結晶”をかざしていただけだ。それだけでその結晶が反応するとな。
まぁ奴とは何年も前から数え切れない奴隷を捕まえてきたが、未だに1度も結晶が反応した試しがねぇ。俺だって何の為にやってんのか知らねぇんだよ」
相変わらず横暴で荒い口調だが、多分これは嘘ではない。赤い結晶はモンスターに取り込ませる以外にも何か使い方があるのか……。
「貴方、奴隷商を行っていただけでなく、まさか魔族とも関係を持っていたとはね」
「そんな事は関係ねぇぜ、剣姫エミリ様よ。楽に稼げれば誰だってそっちの方がいいだろう。へッへッへッ」
この男の態度と発言は実に人を不愉快させる。エミリさんもそう思っているのか、グッとボスの男を睨むとエスぺランズ商会の仲間達に彼を連行する様に伝えた。
「すみませんエミリさん! 最後にもう1つだけこの男に聞きたい事があるんです」
エミリさんに一言断りを入れた僕は最後の質問を男に尋ねた。
「最後に教えてくれ。貴方はここにいる彼女に見覚えはあるかい?」
僕は男に尋ねながらレベッカを指差した。
「ああん? ウチで売った奴隷かなにかか? 生憎こっちは何百人と奴隷を捌いてんだからいちいち覚えてる訳……って、ちょっと待て。その髪色どっかで見覚えがあるな」
「ちゃんと思い出せ」
「うるせぇな。あ~ありゃ確か結構前にゲノムの野郎が指示してきた、田舎町かどっかで捕まえたんだったかな? そうだ。いたぞ、そこの孤児院にお前と同じ珍しい髪色をしたガキがな。あの時はゲノムが魔王軍団の残党とやらを連れていたからいつもより楽に仕事が済んだんだ。
ん……おいおい、待て! まさかお嬢ちゃんがあの時のガキって事は、あの後お嬢ちゃんを売り捌いていた時にしゃしゃり出てきたあの場違いのガキはもしかして……ッ⁉」
男の脳内では忘れら去られていた記憶が一瞬で蘇って来たのか、全てを思い出したと言わんばかりに僕とレベッカを交互に何度も見てきた。
「どうやら思い出したみたいだな。そうだ。あの時奴隷として売り飛ばされそうになっている彼女を引き取ったのは僕だ! まさかあの時あの場にいたのがアンタだとは思わなかったけどね」
「ジーク様……」
レベッカは心配そうな表情で僕を見てきた。
大丈夫だよレベッカ。
僕も“ここから先”を聞くのがとても怖いけど、ずっと求めていた答えでもある。
「へッへッへッへッ。とんだ運命の再会だな。お嬢ちゃんを助けた挙句に、こうして俺達を潰したんだからお前の勝ちだな少年」
「そんな事はどうでもいい! レベッカの町を襲った時、孤児院には彼女以外にも子供達がいた筈だ。その子達はどうした!」
「俺が何でもかんでも知っていると勘違いするなガキが。あの時は魔族共が無駄に暴れたから町の奴らが森に逃げ込んじまったんだよ。
お陰で収穫出来たのはこのお嬢ちゃんだけ。あの時は大損だったぜ全く」
「逃げた他の人達はそれからどうなったんだ」
「だから知らねぇって言ってんだろうが! そんなに質問が好きなら全部ゲノムの野郎に聞け!」
会話を終えると、ボスの男はエミリさんの仲間達に連行されていった。
過去にレベッカの町を襲ったのはやはりシュケナージ商会。しかもその時から既にゲノムが絡んでいたという事だ。コイツが知らないとなると残された手掛かりはゲノムだけ。
逃げた人達が生きているのかだけでも分かれば良かったんだけどな……。
「ありがとうございましたジーク様」
「ううん。嫌な事を思い出させてごめんよレベッカ。ハッキリと答えには辿り着けなかったけど、他の人達が今でも無事である事を祈ろう」
こうして、一先ず事なきを得た僕達はシュケナージ商会の連中を連行する為レイモンド様に報告を入れ、その報告で王都から派遣された騎士団員達が彼らを連行して行くのだった。
一段落した僕達は、エミリさんの勧めで一旦エスぺランズ商会へ戻る事にした――。