♢♦♢
~城~
「その反応を見るに、君は知っている様だねジーク君」
レイモンド様が取り出した物。
それは他でもないあの赤い結晶だった。
そして僕は間違いなくそれを知っている。
「はい、知っております。僕が最初にそれを見つけたのはギガントゴブリンの魔鉱石を取った時ですが、レイモンド様はどこでそれを?」
「ああ。これはね、先日のモンスター討伐会で君が倒したグリムリーパーから取れた物だと推測している」
「あのグリムリーパーからですか?」
「そうだ。あの後色々と調査をしていたんだが、その時に偶然この赤い結晶が見つかったのだよ。落ちていた場所が君がグリムリーパーを倒した所でね。たまたまかもしれないが、この赤い結晶から僅かにグリムリーパーの魔力が検出されたから恐らく何か関係があるのではないかと思っていたが、今の君の発言でより現実味が帯びた様だ」
少し訝しい表情で赤い結晶を見つめるレイモンド様を見ながら、僕の頭には“ゲノム”の事が過っていた。
やはりこの間倒したのは本体ではない。奴は何処かで生きている。それも着実に魔王を復活させようと水面下で動いているんだ。まさかあのグリムリーパーもゲノムの仕業だったのか?
思う事は多々あったが、僕は重い口を開いてレイモンド様に知っている事実を全て告げた――。
初めて赤い結晶を見つけた時の事からイェルメスさんと共に魔王軍団の幹部であったゲノムという男と出会った事。そしてそのゲノムが虎視眈々と魔王復活の計画を企てているという事を。
僕とイェルメスさんの見解では恐らくその赤い結晶が何らかの形で魔王復活との関係があり、僕達も赤い結晶の事を調べていた。モンスター討伐会でグリムリーパーを倒した後に『感知』スキルを使って周囲を確かめたが特に違和感などもなかった。
僕はゲノムが何らかの形で関係している可能性は高いが、少なくともあの場にはいなかったと思うとレイモンド様に伝えると、レイモンド様は「貴重な情報をありがとう」と言って警備の強化をしようと提案してくれた。
いつしか場が少し重い空気になっていたが、それを変えたのはレイモンド様だった。
「ジーク君、今の話も踏まえて改めて頼みを聞いてくれるかな?」
「はい。勿論です」
「ありがとう。私が君に頼みたいのはこの赤い結晶の関わる事でね、実はコレが他の場所でも見つかっているらしく、その大元がどうやらとある商会から流れているそうなんだ。
そしてその商会は“君が知りたがっていた”情報だよジーク君――」
ッ……⁉
レイモンド様の思いがけない言葉に僕は驚いた。
「ハハハ。実は君達と会う前に事前にエミリ君から話を聞いていてね。君が英雄の指輪や名誉なんかよりもこの情報が欲しかったのだろう?」
そこまで言われた僕は、先日何気なくエミリさんと話していた会話の事を思い出した。
そう。
僕はずっと気になっている事があったんだ。
当時はまだ僕も幼くてそこまで頭が回らなかったけど、何時からか僕はそれを知りたがっていた。
そして僕が知りたいその情報を最も知っている確率が高いであろうエミリさんに聞いたんだ。
”シュケナージ商会”という者達を知らないかと――。
僕は元々モンスター討伐会でもし優勝してレイモンド様と直接お会いする事が出来たのなら、その時は失礼を承知で絶対に聞こうと思っていた事だ。
まさかその話をレイモンド様の方から出してきた事にとても驚かされたが、僕は無意識に視線を”レベッカ”へ一瞬向けた後、再びレイモンド様を見た。
「まさか僕が知りたい事を……」
「ああ、知っているよ。だからこそ今こうして君に頼んでいるのだよ」
そう優しく僕に語り掛けるレイモンド様の表情と声はとても穏やかで温かみが伝わってくる。僕はレイモンド様の更に次の言葉が欲しくていつの間にか前のめりに聞いていた。
「え、じゃあもしかしてその赤い結晶が流れている大元って言うのが……」
「そうだ。君が最も知りたがっていた情報であり、得体の知れないこの赤い結晶の出所となっている”シュケナージ商会”を調査してきてほしいのだよ――」
レイモンド様の口から出たその名前に、僕は体がピクリと反応するのが分かった。
「さっきから何の話してるんよジーク」
「ジークが知りたい情報ってどこかの商会の事のなの? 何か珍しい物でも買いたいのかしら」
僕とレイモンド様の会話が気になっていたであろうルルカやミラーナがそう尋ねてきた。更にそんな2人の少し後ろではレベッカが何か言いたそうに僕を見つめていた。
「ジーク様、もしかしてその商会の情報と言うのは……」
「うん。やっと見つけられたよレベッカ」
「え、レベッカちゃんも知ってた話なの? 結局どういう事なんだ」
まだピンときていないルルカとミラーナを横目に、今の様子を見ていたレイモンド様が笑いながらまた口を開いた。
「ハハハハ。成程、”そういう事”か。どうやら君は彼女の為にこの情報を知りたがっていた様だね。尚更ジーク君にこの依頼を頼めて良かったよ。
彼らは昔から質の悪い”奴隷商”でね……。私が国王の座に就いてからというものかなり規制を厳しくしたのだ。だが如何せん根っこというものは排除しづらい。その根が深くしぶとければしぶとい程ね」
そう言いながら徐に玉座から腰を上げたレイモンド様はそのままゆっくりと僕の元まで近づくと、そこから更に頭だけを近づけ耳元でこう囁いた。
「彼女は君にとって大切な人なんだね、ジーク君」
「……⁉」
レイモンド様はそれだけ言うと僕から離れ、少し悪戯な笑みを浮かべてレベッカを見る。
うわッ。ひょっとしてレイモンド様には僕の気持ちを見透かされたんじゃ……。
そんな事を思いながら1人恥ずかしく戸惑っていると、再び僕を見たレイモンド様が最後にこう言った。
「ハハハハ。若さというのは実に素晴らしい。君達の明るい未来の為にも、シュケナージ商会の事を頼むよジーク君。君から聞いた話から察するに、シュケナージ商会と魔王軍団のゲノムという男は繋がりがあると思っていいだろうね。
私もずっと手をこまねいていた奴らを遂に根絶やしにする時が来た。ジーク君が本当に知りたい事は彼らにしか分からないだろう。だからそこも含めて君にお願いしたい。
それに私はシュケナージ商会の様な奴らは絶対に許さない。調査と言うのは名ばかりだからね、君の判断で好きに潰してくれて構わないよ。救う価値がないと思うのならばそれも正解だ。全て君に任せるよジーク君」
レイモンド様からの豪快な依頼に、僕は何て返していいのか分からなかった。
でもレイモンド様が僕を頼りにしてくれた事は素直に嬉しいし期待にも応えたい。それに何より、エミリさんとレイモンド様からの想定外の計らいを有り難く頂戴したいんだ。
僕がずっと気になっていた、レベッカの本当の“家族”の事を知る為に――。
「ありがとうございますレイモンド様。本当に何とお礼を申したらよいのか」
「ハハハ。だからそんなにかしこまらなくても良いんだよ。寧ろ私が君にお願いをしている立場だからね」
「あの~、今更ですがレイモンド様からの依頼を受けるのは僕で宜しいのでしょうか? 王都には唯一、あの『勇者』スキルを授かった弟のグレイもいるのですが……」
「ああ、その事が気になっていたのかい? これは君にも関係しているから直接は言いづらいんだが」
レイモンド様はどこか僕に気を遣いながら言ってくれたが、逆に気になった僕がレイモンド様に尋ねると、申し訳なさそうに僕の先代(祖父)と父キャバル、そしてグレイの様な人間が嫌いだと仰った。
本当なら僕は怒るべきなのだろうか?
でも、僕は微塵も父上達に同情するどころか、レイモンド様と全くの同意見であった。自分達の事しか考えずに平気で人を傷付けるあの人達に対して最早何の情も湧かない。祖父もあまり話した事がないけれど、父上よりも更に厳しかった印象だけは覚えている。昔から怖くて苦手だったなぁ。
最後はそんな思い出を振り返りながら、僕達はレイモンド様の依頼を有り難く受ける事にしたのだった――。
~城~
「その反応を見るに、君は知っている様だねジーク君」
レイモンド様が取り出した物。
それは他でもないあの赤い結晶だった。
そして僕は間違いなくそれを知っている。
「はい、知っております。僕が最初にそれを見つけたのはギガントゴブリンの魔鉱石を取った時ですが、レイモンド様はどこでそれを?」
「ああ。これはね、先日のモンスター討伐会で君が倒したグリムリーパーから取れた物だと推測している」
「あのグリムリーパーからですか?」
「そうだ。あの後色々と調査をしていたんだが、その時に偶然この赤い結晶が見つかったのだよ。落ちていた場所が君がグリムリーパーを倒した所でね。たまたまかもしれないが、この赤い結晶から僅かにグリムリーパーの魔力が検出されたから恐らく何か関係があるのではないかと思っていたが、今の君の発言でより現実味が帯びた様だ」
少し訝しい表情で赤い結晶を見つめるレイモンド様を見ながら、僕の頭には“ゲノム”の事が過っていた。
やはりこの間倒したのは本体ではない。奴は何処かで生きている。それも着実に魔王を復活させようと水面下で動いているんだ。まさかあのグリムリーパーもゲノムの仕業だったのか?
思う事は多々あったが、僕は重い口を開いてレイモンド様に知っている事実を全て告げた――。
初めて赤い結晶を見つけた時の事からイェルメスさんと共に魔王軍団の幹部であったゲノムという男と出会った事。そしてそのゲノムが虎視眈々と魔王復活の計画を企てているという事を。
僕とイェルメスさんの見解では恐らくその赤い結晶が何らかの形で魔王復活との関係があり、僕達も赤い結晶の事を調べていた。モンスター討伐会でグリムリーパーを倒した後に『感知』スキルを使って周囲を確かめたが特に違和感などもなかった。
僕はゲノムが何らかの形で関係している可能性は高いが、少なくともあの場にはいなかったと思うとレイモンド様に伝えると、レイモンド様は「貴重な情報をありがとう」と言って警備の強化をしようと提案してくれた。
いつしか場が少し重い空気になっていたが、それを変えたのはレイモンド様だった。
「ジーク君、今の話も踏まえて改めて頼みを聞いてくれるかな?」
「はい。勿論です」
「ありがとう。私が君に頼みたいのはこの赤い結晶の関わる事でね、実はコレが他の場所でも見つかっているらしく、その大元がどうやらとある商会から流れているそうなんだ。
そしてその商会は“君が知りたがっていた”情報だよジーク君――」
ッ……⁉
レイモンド様の思いがけない言葉に僕は驚いた。
「ハハハ。実は君達と会う前に事前にエミリ君から話を聞いていてね。君が英雄の指輪や名誉なんかよりもこの情報が欲しかったのだろう?」
そこまで言われた僕は、先日何気なくエミリさんと話していた会話の事を思い出した。
そう。
僕はずっと気になっている事があったんだ。
当時はまだ僕も幼くてそこまで頭が回らなかったけど、何時からか僕はそれを知りたがっていた。
そして僕が知りたいその情報を最も知っている確率が高いであろうエミリさんに聞いたんだ。
”シュケナージ商会”という者達を知らないかと――。
僕は元々モンスター討伐会でもし優勝してレイモンド様と直接お会いする事が出来たのなら、その時は失礼を承知で絶対に聞こうと思っていた事だ。
まさかその話をレイモンド様の方から出してきた事にとても驚かされたが、僕は無意識に視線を”レベッカ”へ一瞬向けた後、再びレイモンド様を見た。
「まさか僕が知りたい事を……」
「ああ、知っているよ。だからこそ今こうして君に頼んでいるのだよ」
そう優しく僕に語り掛けるレイモンド様の表情と声はとても穏やかで温かみが伝わってくる。僕はレイモンド様の更に次の言葉が欲しくていつの間にか前のめりに聞いていた。
「え、じゃあもしかしてその赤い結晶が流れている大元って言うのが……」
「そうだ。君が最も知りたがっていた情報であり、得体の知れないこの赤い結晶の出所となっている”シュケナージ商会”を調査してきてほしいのだよ――」
レイモンド様の口から出たその名前に、僕は体がピクリと反応するのが分かった。
「さっきから何の話してるんよジーク」
「ジークが知りたい情報ってどこかの商会の事のなの? 何か珍しい物でも買いたいのかしら」
僕とレイモンド様の会話が気になっていたであろうルルカやミラーナがそう尋ねてきた。更にそんな2人の少し後ろではレベッカが何か言いたそうに僕を見つめていた。
「ジーク様、もしかしてその商会の情報と言うのは……」
「うん。やっと見つけられたよレベッカ」
「え、レベッカちゃんも知ってた話なの? 結局どういう事なんだ」
まだピンときていないルルカとミラーナを横目に、今の様子を見ていたレイモンド様が笑いながらまた口を開いた。
「ハハハハ。成程、”そういう事”か。どうやら君は彼女の為にこの情報を知りたがっていた様だね。尚更ジーク君にこの依頼を頼めて良かったよ。
彼らは昔から質の悪い”奴隷商”でね……。私が国王の座に就いてからというものかなり規制を厳しくしたのだ。だが如何せん根っこというものは排除しづらい。その根が深くしぶとければしぶとい程ね」
そう言いながら徐に玉座から腰を上げたレイモンド様はそのままゆっくりと僕の元まで近づくと、そこから更に頭だけを近づけ耳元でこう囁いた。
「彼女は君にとって大切な人なんだね、ジーク君」
「……⁉」
レイモンド様はそれだけ言うと僕から離れ、少し悪戯な笑みを浮かべてレベッカを見る。
うわッ。ひょっとしてレイモンド様には僕の気持ちを見透かされたんじゃ……。
そんな事を思いながら1人恥ずかしく戸惑っていると、再び僕を見たレイモンド様が最後にこう言った。
「ハハハハ。若さというのは実に素晴らしい。君達の明るい未来の為にも、シュケナージ商会の事を頼むよジーク君。君から聞いた話から察するに、シュケナージ商会と魔王軍団のゲノムという男は繋がりがあると思っていいだろうね。
私もずっと手をこまねいていた奴らを遂に根絶やしにする時が来た。ジーク君が本当に知りたい事は彼らにしか分からないだろう。だからそこも含めて君にお願いしたい。
それに私はシュケナージ商会の様な奴らは絶対に許さない。調査と言うのは名ばかりだからね、君の判断で好きに潰してくれて構わないよ。救う価値がないと思うのならばそれも正解だ。全て君に任せるよジーク君」
レイモンド様からの豪快な依頼に、僕は何て返していいのか分からなかった。
でもレイモンド様が僕を頼りにしてくれた事は素直に嬉しいし期待にも応えたい。それに何より、エミリさんとレイモンド様からの想定外の計らいを有り難く頂戴したいんだ。
僕がずっと気になっていた、レベッカの本当の“家族”の事を知る為に――。
「ありがとうございますレイモンド様。本当に何とお礼を申したらよいのか」
「ハハハ。だからそんなにかしこまらなくても良いんだよ。寧ろ私が君にお願いをしている立場だからね」
「あの~、今更ですがレイモンド様からの依頼を受けるのは僕で宜しいのでしょうか? 王都には唯一、あの『勇者』スキルを授かった弟のグレイもいるのですが……」
「ああ、その事が気になっていたのかい? これは君にも関係しているから直接は言いづらいんだが」
レイモンド様はどこか僕に気を遣いながら言ってくれたが、逆に気になった僕がレイモンド様に尋ねると、申し訳なさそうに僕の先代(祖父)と父キャバル、そしてグレイの様な人間が嫌いだと仰った。
本当なら僕は怒るべきなのだろうか?
でも、僕は微塵も父上達に同情するどころか、レイモンド様と全くの同意見であった。自分達の事しか考えずに平気で人を傷付けるあの人達に対して最早何の情も湧かない。祖父もあまり話した事がないけれど、父上よりも更に厳しかった印象だけは覚えている。昔から怖くて苦手だったなぁ。
最後はそんな思い出を振り返りながら、僕達はレイモンド様の依頼を有り難く受ける事にしたのだった――。