♢♦♢

「レベッカ!」
「ジーク様!」

 グリムリーパーでの騒動が一旦落ち着き、僕は討伐会を観戦していたレベッカ、ルルカ、ミラーナと合流した。皆無事で一安心。

「こっちは大丈夫だった? ルルカもミラーナも」
「私達は大丈夫ですよジーク様」
「そうそう。ただ城壁が破壊されて皆パニックになっただけなんよ……って、そっちにいるのは麗しき剣姫エミリちゃん!」

 ルルカは真っ先に僕の隣にいたエミリさんに反応を示した。

「貴方達がジークさんの仲間ね。怪我がなさそうで良かったわ。こんな事態になってしまって本当にごめんなさい」
「とんでもございません。エミリ様のせいではありませんし、貴方のお陰で大勢の方が助かっていますよ」
「ありがとう。そう言ってもらえると幾らか心が救われる。でも皆を危険な目に遭わせてしまったのは紛れもなく私達の責任でもあるわ」

 エミリさんはそう言うと、ふと何かを思い出したかの様にレベッカを見て話を続けた。

「その“桜色”の髪……。ひょっとして貴方はあの時の――」

 エミリさんがそこまで言いかけた直後、エスぺランズ商会の人達がエミリさんの元に駆け寄って来た。

「エミリ様! ご無事でしたか」
「良かった。心配しましたよ!」
「ありがとう、私は大丈夫よ。それより他の皆は大丈夫?」
「はい。避難の際に数名転んで掠り傷を負ってしまった様ですが、幸いそれ以上の被害は出ていません」

 エスぺランズ商会の人達の報告を聞いてエミリさんは安堵の表情を浮かべる。

「そう。なら良かったわ。この結果も全てはジークさん、貴方のお陰ね。あのままだったら間違いなく被害が広がっていたわ。私自身の命も危なかった。本当にありがとう」
「いえいえそんな。エミリさんが懸命にグリムリーパーを引き留めてくれていたからですよ」
「フフフ。貴方はやっぱりヒーローね」
「え……?」
「いや、何でもないわ。独り言よ」

 エミリさんはそう言って優しく微笑んでいた。

「それにしても、何故グリムリーパーなんて危険なモンスターが……」

 そう。僕もそれが気になっていた。
 モンスターをおびき寄せる効果のスキルとは言え、それはスライムやゴブリンを引寄せるだけのもの。グリムリーパーみたいなAランクをおびき寄せるなんてまず有り得ない。実際に過去のモンスター討伐会でも今日みたいな事は1度もない。

 まさか僕のスキルのせいじゃ……。
 と、心の片隅でそんな事を思ってしまうのも無理ないだろう。

 一応グリムリーパーを倒した直後に新しく習得した『感知』スキルで周囲を感知したけど、特にこれと言って怪しい魔力や人物は見つからなかった。

 エミリさんもエスぺランズ商会の人達も色々討論していたが、結局原因は分からないとの事だ。

「兎も角大事に至らなくて良かった。皆にもしっかりと状況や経緯を説明して、今年のモンスター討伐会もここから最後盛り上げて締めにしよう」
「「はいッ!」」

 エミリさんの言葉にエスぺランズ商会の人達が元気よく返事をし、不測の事態に見舞われながらもモンスター討伐会は無事終了――。

♢♦♢

「それでは……最後に皆様に大変ご迷惑をお掛けしてしまいましたが、これよりモンスター討伐会の結果発表をさせていただきます!」
「「おおぉぉぉ!」」

 突然のグリムリーパー襲来によって一時はどうなる事かと思ったが、エミリさんやエスぺランズ商会の人達の説明によって再び皆に盛り上がりが戻った。

 そしてこのモンスター討伐会の1番の目玉とも言える結果発表。司会役の人からマイクを受け取ったエミリさんが皆の前に立つと、場のこの日最高の盛り上がりを見せた。

「ありがとうエミリー!」
「エミリちゃんのお陰で皆助かったぞ!」
「流石美しき剣姫!」
「来年も期待してるぞエスぺランズ商会!」

 今回の様な事態を引き起こしてしまったと、エミリさんはさっき事情を説明して皆にお詫びをしていたが、毎年何よりも安全で楽しくモンスター討伐会を開催しているエミリさんやエスぺランズ商会の人達の誠意に、誰も嫌な顔をする者がいなかったのだ。

 それだけ皆がエスぺランズ商会を慕っており、年に1度の大きな催しを楽しみにしているという事。

 巻き起こる歓声の中、エミリさんの声がマイクを通して辺りに響いた。

「皆様、本当に温かいお気持ちをありがとうございます。こうして毎年開催できるのも、私達エスぺランズ商会を日頃より御贔屓してくださっている皆様のお陰です。

それと、今回の様な事態を引き起こしてしまった事、今一度皆様にお詫び申し上げると共に、グリムリーパーを倒して私や皆様を救ってくれたジーク・レオハルトさんにご称賛を! 彼は大勢の命を救ったヒーローです!」
「「おおぉぉぉぉ!」」

 エミリさんのまさかの発言で、場にいた人達が一斉に僕を見て歓声と拍手を送ってくれた。急な事に戸惑う僕は取り敢えず皆に何度も頭を下げて応えた。

「流石ですねジーク様。ジーク様の強さが皆様にちゃんと伝わっています」

 優しく微笑みながら言ったレベッカの一言で、僕は不意に何か込み上げてくるものがあり泣きそうになってしまった。

「下らん茶番はそこまでだ! さっさと結果を発表しろッ――!」

 多くの歓声を一瞬で掻き消したのはグレイの怒号。 
 皆の視線が瞬く間に僕からグレイに移り、場は一気に静まり返った。

「何を見ている? 早く討伐会の結果を発表しろと言っているんだ」

 グレイはギッと僕を睨みつけ、直ぐにエミリさんや進行役の人がいる祭壇を見てそう言った。

「……そうですね。それでは今年のモンスター討伐会の結果発表をさせていただきます。宜しくね」
「あ、は、はい!」

 一瞬の静寂の後、エミリさんはそう言って進行役の人に再びマイクを渡す。そしてそのまま遂に結果発表へ。

「今年も多くの参加者が盛り上げてくれたモンスター討伐会! 見事モンスターを討伐しまくり優勝となったのは――」

 最後はバタバタで討伐どころじゃなかったな。優勝は難しいかもしれないが、何より皆が無事で本当に良かった。グレイにはまた何を言われるかわからないけど別にいいか。

 そんな事を思った次の瞬間、進行役の人から発せられた名前は……。

「歴代の“最高討伐数”を記録した“ジーク・レオハルト”さんです!」
「「おおぉぉぉぉ!!」」

 え、僕ッ⁉ 嘘でしょ?
 驚く僕を他所に、場はまたも一気に盛り上がった。

「おい、待て待て待てッ!」
「……?」

 皆の盛り上がりを再び鎮めたのはグレイ。
 グレイは物凄い形相と怒号でどんどん祭壇に詰め寄って行った。

「どうなってやがる! アイツは後半グリムリーパーと戦って討伐してないんだろう⁉ 皆を救ったとかそんな外的要因で結果が左右されちゃ納得出来ん! しっかりと討伐数で評価しろ! 優勝は絶対俺だろうが!」
「……いえ、外的要因は関係なく……シンプルに“討伐数だけ”の結果です」
「は? そ、そんな事ある訳ねぇだろ……! アイツは後半倒してなかったんだろう⁉ グリムリーパーの相手して!」
「はい……。ですから“それも含めて”ジークさんが優勝です。因みにグレイ・レオハルトさん、貴方の討伐記録は44体。ジークさんは“390体”です。なので優勝はジークさんです。間違いなく。圧倒的に」
「なッ……ば、馬鹿な……」

 結果を聞いたグレイは一点を見つめたまま膝から崩れ落ちた。

 結果は僕にとっても意外だった。まさか自分が優勝しているとは。

 周りの人達もグレイの横暴な発言や態度に冷ややかな視線を送りながらあれこれ言っている。

 ハッと我に返ったのか、グレイは地面を殴って勢いよく立ち上がると、「このままでは終わらせん! 絶対に許さねぇからな!」と僕に怒鳴り散らして場を去って行ったのだった。

 こうして、ドタバタのモンスター討伐会の幕は閉じた――。