~クラフト村~
「もう大丈夫かい、レベッカ」
「はい。ジーク様にご迷惑をお掛けしてしまって、本当に申し訳ございません」
「レベッカちゃんが謝る事じゃないんよ。悪いのはあの訳分からん黒ローブの男なんだから」
「そうよ。別にレベッカが気に病む事はないわ」
「私を助けていただいて、ルルカさんもミラーナさんも本当にありがとうございました! イェルメスさんも!」
落ち着いたレベッカは皆に何度もお礼を言っている。
魔王軍団の幹部であるゲノム・サー・エリデルを何とか退けた僕達だったが、奴の生んだ発言や行動が僕とイェルメスさんを悩ませていた。
イェルメスさんによると、やはり奴はかつて魔王軍団にいたゲノム本人で間違いないとの事。もう何十年も前の勇者と魔王の戦いに時に、確かにゲノムや他の幹部達も倒したらしい。だがらイェルメスさんは僕が初めてあの赤い結晶を見せた時から、まさか――と思う節があったそうだ。
それが実際に本人と会って確信となってしまったらしい。
ゲノムは当時から黒魔術という特殊な魔法を使っていた為、理由は分からないが奴が何かしらの方法で生き延びていた可能性は十分考えられるとイェルメスさんは言った。
でも僕とイェルメスさんが危惧しているのは、そんなゲノムが生きていた事より、奴が言った“魔王を復活させる”という言葉――。
勿論僕はゲノムの事なんてまるで知らないが、奴がとても冗談を言っているとは到底思えない。イェルメスさんの言葉通りであれば、奴は得意の黒魔術とやらで本当に魔王を復活させる気だろう……。そう考えれば赤い結晶やその結晶の影響、クラフト村の皆の被害が全て繋がってくる。
「ゲノムはまだ生きているぞジーク君。どうにか奴を止めなければな」
「そうですね。一体どうやって魔王を復活させようとしているんでしょうか?」
「それは私にも分からない。奴の黒魔術は特殊過ぎるからね……。でも、奴の言動や赤い結晶、それにクラフト村へ行った行動から憶測するに、恐らく魔王復活には生贄や器といった類の条件が必要だろう。奴はそれを満たす為に動いているんだ」
生贄、器……。
聞いているだけでヤバそうなイメージしか湧かない。だがゲノムならやりかねないだろう。いや、実際にもうやっている。きっと僕達の知らない所でも水面下で動いているんだ。
「兎も角、奴は必ずまた動きを見せる。次こそゲノムを確実に仕留めよう。まさかこのような事態になるとは思ってもみなかったが、これもジーク君による導きかな。お陰で奴の思惑に気付く事が出来たよ」
「いえいえ、僕なんてなんの力にもなれていませんよ。イェルメスさん、ゲノムを倒すまで僕達に力を貸してくれませんか?」
「勿論だとも。寧ろ君達の力にならせてくれ。1人では到底解決出来ん問題だからね。頼りにしているよ」
冒険者ギルドでイェルメスさんとそんな会話をしていると、突如サラさんが僕の名前を呼んだ。
「ジークさん。何か貴方宛てに手紙が届きましたよ。とても高価そうな便箋ですけど」
「あ、ありがとうございます。何だろう?」
僕はサラさんから受け取った便箋をひっくり返して差出人を確認する。するとそこには名前こそ記載されていなかったものの、僕はこの手紙が誰からの物なのか直ぐに分かった。
「これは……“レオハルト家の紋章”だ――」
封をしている箇所にはとても見慣れた紋章のシール。見間違える筈もないレオハルト家の紋章だった。
「ほお。ジーク君はレオハルト家の者だったのか」
「あ、はい一応……と言うか、このスキルのせいでもう家を追い出されたんですけどね。ハハハハ」
僕が苦笑いでそう言うと、イェルメスさんはそっと微笑んでそれ以上の事は聞いてこなかった。
「それで、何と書かれているんだい?」
「え~と……何だろう……」
思い当たる節がまるでない。
手紙には見覚えのある“グレイの筆跡”らしきものでこう書かれていた。
『ジーク・レオハル……いや、由緒あるレオハルト一族を追い出された落ちこぼれの兄さん。
お前がどんな卑怯で姑息な手を使ったのか知らないが、冒険者になったりいきなりランクが上がったりなんて到底有り得ない。
しかもベヒーモスを倒したりあの大賢者イェルメスとも繋がりがあるなんて本当に間違いも甚だしく、余りに下らな過ぎて俺は笑いが止まらない。
だが王都ではその情報が配布された事により早くも混乱が生じている様だ。只でさえ洗礼の儀で、事もあろうか呪いのスキルを引き当てた一族の恥晒し。お前は家を追い出された後でもまだレオハルト家の名を汚そうとしているようだな。
まぁそっちがその気ならば仕方ない。
レオハルト家の汚名を返上する為にも、お前とは一度正々堂々とケリを着けてやろう。俺がレオハルト家の正当な跡継ぎであり『勇者』スキルに選ばれた本物の英雄である事をお前や世界に分からせてやる。
来る1か月後――。
毎年王都で行われる「モンスター討伐会」にお前も参加しろ。
王国中の人間が注目するその場で、俺の強さの全てを見せつけてやる。
有り難く思え。もうお前の参加手続きは俺がしといてやった。
だがどうせ呪いのスキルを持つお前では恥を掻くだけだ。参加したくないなら参加しなくていい。一生逃げ続けるだけの負け犬人生を送っていろ。クソ恥晒しが』
一通りグレイからの手紙に目を通した僕。
その内容は潔い程僕への恨みつらみが綴られていた。
ここまで思っている事をストレートに吐き出せたらさぞ気持ちいいだろうな。
と、思わず感心してしまう程の手紙を引寄せたのだった――。
「もう大丈夫かい、レベッカ」
「はい。ジーク様にご迷惑をお掛けしてしまって、本当に申し訳ございません」
「レベッカちゃんが謝る事じゃないんよ。悪いのはあの訳分からん黒ローブの男なんだから」
「そうよ。別にレベッカが気に病む事はないわ」
「私を助けていただいて、ルルカさんもミラーナさんも本当にありがとうございました! イェルメスさんも!」
落ち着いたレベッカは皆に何度もお礼を言っている。
魔王軍団の幹部であるゲノム・サー・エリデルを何とか退けた僕達だったが、奴の生んだ発言や行動が僕とイェルメスさんを悩ませていた。
イェルメスさんによると、やはり奴はかつて魔王軍団にいたゲノム本人で間違いないとの事。もう何十年も前の勇者と魔王の戦いに時に、確かにゲノムや他の幹部達も倒したらしい。だがらイェルメスさんは僕が初めてあの赤い結晶を見せた時から、まさか――と思う節があったそうだ。
それが実際に本人と会って確信となってしまったらしい。
ゲノムは当時から黒魔術という特殊な魔法を使っていた為、理由は分からないが奴が何かしらの方法で生き延びていた可能性は十分考えられるとイェルメスさんは言った。
でも僕とイェルメスさんが危惧しているのは、そんなゲノムが生きていた事より、奴が言った“魔王を復活させる”という言葉――。
勿論僕はゲノムの事なんてまるで知らないが、奴がとても冗談を言っているとは到底思えない。イェルメスさんの言葉通りであれば、奴は得意の黒魔術とやらで本当に魔王を復活させる気だろう……。そう考えれば赤い結晶やその結晶の影響、クラフト村の皆の被害が全て繋がってくる。
「ゲノムはまだ生きているぞジーク君。どうにか奴を止めなければな」
「そうですね。一体どうやって魔王を復活させようとしているんでしょうか?」
「それは私にも分からない。奴の黒魔術は特殊過ぎるからね……。でも、奴の言動や赤い結晶、それにクラフト村へ行った行動から憶測するに、恐らく魔王復活には生贄や器といった類の条件が必要だろう。奴はそれを満たす為に動いているんだ」
生贄、器……。
聞いているだけでヤバそうなイメージしか湧かない。だがゲノムならやりかねないだろう。いや、実際にもうやっている。きっと僕達の知らない所でも水面下で動いているんだ。
「兎も角、奴は必ずまた動きを見せる。次こそゲノムを確実に仕留めよう。まさかこのような事態になるとは思ってもみなかったが、これもジーク君による導きかな。お陰で奴の思惑に気付く事が出来たよ」
「いえいえ、僕なんてなんの力にもなれていませんよ。イェルメスさん、ゲノムを倒すまで僕達に力を貸してくれませんか?」
「勿論だとも。寧ろ君達の力にならせてくれ。1人では到底解決出来ん問題だからね。頼りにしているよ」
冒険者ギルドでイェルメスさんとそんな会話をしていると、突如サラさんが僕の名前を呼んだ。
「ジークさん。何か貴方宛てに手紙が届きましたよ。とても高価そうな便箋ですけど」
「あ、ありがとうございます。何だろう?」
僕はサラさんから受け取った便箋をひっくり返して差出人を確認する。するとそこには名前こそ記載されていなかったものの、僕はこの手紙が誰からの物なのか直ぐに分かった。
「これは……“レオハルト家の紋章”だ――」
封をしている箇所にはとても見慣れた紋章のシール。見間違える筈もないレオハルト家の紋章だった。
「ほお。ジーク君はレオハルト家の者だったのか」
「あ、はい一応……と言うか、このスキルのせいでもう家を追い出されたんですけどね。ハハハハ」
僕が苦笑いでそう言うと、イェルメスさんはそっと微笑んでそれ以上の事は聞いてこなかった。
「それで、何と書かれているんだい?」
「え~と……何だろう……」
思い当たる節がまるでない。
手紙には見覚えのある“グレイの筆跡”らしきものでこう書かれていた。
『ジーク・レオハル……いや、由緒あるレオハルト一族を追い出された落ちこぼれの兄さん。
お前がどんな卑怯で姑息な手を使ったのか知らないが、冒険者になったりいきなりランクが上がったりなんて到底有り得ない。
しかもベヒーモスを倒したりあの大賢者イェルメスとも繋がりがあるなんて本当に間違いも甚だしく、余りに下らな過ぎて俺は笑いが止まらない。
だが王都ではその情報が配布された事により早くも混乱が生じている様だ。只でさえ洗礼の儀で、事もあろうか呪いのスキルを引き当てた一族の恥晒し。お前は家を追い出された後でもまだレオハルト家の名を汚そうとしているようだな。
まぁそっちがその気ならば仕方ない。
レオハルト家の汚名を返上する為にも、お前とは一度正々堂々とケリを着けてやろう。俺がレオハルト家の正当な跡継ぎであり『勇者』スキルに選ばれた本物の英雄である事をお前や世界に分からせてやる。
来る1か月後――。
毎年王都で行われる「モンスター討伐会」にお前も参加しろ。
王国中の人間が注目するその場で、俺の強さの全てを見せつけてやる。
有り難く思え。もうお前の参加手続きは俺がしといてやった。
だがどうせ呪いのスキルを持つお前では恥を掻くだけだ。参加したくないなら参加しなくていい。一生逃げ続けるだけの負け犬人生を送っていろ。クソ恥晒しが』
一通りグレイからの手紙に目を通した僕。
その内容は潔い程僕への恨みつらみが綴られていた。
ここまで思っている事をストレートに吐き出せたらさぞ気持ちいいだろうな。
と、思わず感心してしまう程の手紙を引寄せたのだった――。