~獣人国~

「思った以上に凄い事になってるわ。皆は無事なんでしょうね」
「うん。まだ誰もサラマンダーに直接的な被害は受けてはいないよ。でもこの暑さと渓谷が干からびたせいで、色々獣人国にも被害が出てるんだよ」

 これは確かに酷い状況だ。
 空気が凄い乾燥している上に、肌もジリジリと焼けるぐらい暑い。時折吹く風がまるで熱風を食らっているかの様にさえ感じる。
 
 辺りは草木や花が一切なく、干からびた大地と建物だけが広く続いていた。

「おお、ジャック! それにミラーナじゃないか!」

 獣人国に入ると、そこにはミラーナとジャックの事を心配していたであろう多くの獣人たちが一堂に駆け寄って来た。

「良かった。無事にミラーナを見つけて来た様だなジャック!」
「そっちの人間達は誰だい?」
「皆お姉ちゃんの仲間なんだって。凄い強いよ! 今も来る途中で出て来たリザードマンを1発で倒しちゃったんだから!」
「リザードマンを? それは凄いな」

 獣人達は見慣れない僕達を警戒していた様だが、ジャックのお陰でその警戒が消えた様子だ。

「皆大丈夫なの? 何で急にサラマンダーが?」
「それは俺達も分からねぇ。数日前に突然現れたと思ったら、そのままあそこの山に住み着いちまったみたいなんだ」
「お陰で穀物や渓谷もこの有り様だよ。サラマンダーをどうにかしないと獣人国が潰れちゃう!」

 次々と皆から零れる不安の声。
 それだけサラマンダーが獣人達を苦しめているんだ。

「大丈夫よ皆。絶対私が何とかしてあげるわ。“ジジ神様”はどこ?」

 じじがみさま……?
 
 僕が一瞬頭を悩ませた次の瞬間、突如誰かの大きな声が響いてきた。

「ミラーナ! アンタはまた勝手に何処に行ってたんだい馬鹿者がッ!」

 乾ききった獣人国に鳴り響いた怒号。
 振り向くと、そこには綺麗な白銀の毛を靡かせた1人の獣人がいた。

「あ、ジジ神様」
「あ、ジジ神様。じゃないんだよミラーナ! 今度は何処で道草食ってたんだい! ええ!」

 “凄い勢いのお婆さん獣人”――。

 これが率直な僕の気持ちだった。

「あ、あの~……」
「ん? なんだい、アンタ人間じゃないか。もしかしてアンタがミラーナを唆して外に連れ出しているねぇ!」
「えッ⁉」

 意を決して声を出した事に後悔した。
 ジジ神様と呼ばれた彼女は凄い剣幕と怒号で僕の顔面ギリギリまで迫ってきた。

 やば、怖。

「違うわよジジ神様。ジークは私を助けてくれた命の恩人なのよ。そんなに怒らないでくれるかしら」
「ミラーナの命を? それはまたどういう事だいアンタ」
「色々話せば長くなるんだけど――」

 そう言って、ミラーナはジジ神様という人にこれまでの経緯をサラッと説明した。

♢♦♢

「成程。一先ず良からぬ事を企んでいる馬鹿者ではないという事は分かった。ミラーナを助けてくれた事には獣人国の“長”として誠に感謝するぞ“シェイク”よ――」

 一通りの経緯をミラーナから説明されたジジ神様は、さっきとは違う落ち着いた雰囲気で僕にお礼を言ってくれた。

 名前が違うけど……。

「“ジーク”ね。私の王子様の名前間違えないでよ」
「大して変わらぬだろう。彼に感謝している事は事実だしねぇ。なぁ“ギーク”よ」
「だからジークだって!」

 ハハハ、もう別に何でもいいよ。ジジ神様は感謝してくれているみたいだからね。それよりも……。

「ジジ神様、僕達はジャック君の話を聞いて獣人国に来ました。例のサラマンダーとやらはどうなっていますか?」
「ああ、そうだったねぇ。今聞いた話じゃアンタ相当強いんだろう? まさかベヒーモス状態のミラーナを倒すなんてねぇ。それも一撃で。もしかしてアンタ勇者かい“ジンク”」
「いえいえ、勇者なんてとんでもないです」

 もう当たり前の様に名前を間違えるなジジ神様。僕も自然と受け応えちゃった。

「ジークは勇者だったんだね! じゃあさっきのルルカよりももっと強いんだ!」
「当たり前でしょジャック。ジークは私の王子様なんだから」

 それは答えになっていないよミラーナ。それに話がまたズレてる。

「サラマンダーはあの山にいるんですよね?」
「そうだよ。数日前にいきなり姿を現したかと思ったらこのザマさ。全く有り得ないねぇ本当に。何とかしようと腕に自信のある奴らがサラマンダーに挑みに行ったが、奴に辿り着く前にリザードマンにやられちまったのさ。

単体ならいざ知らず、行った者の話によればリザードマンが7~8体群れで動いていたそうだよ。Aランクの冒険者がパーティ組んでも厳しいよ。その上本命はサラマンダーとくるんだからお手上げさ」

 シシ神様は顔を険しくし、他の獣人達も皆困った様子で顔が俯いてしまっている。

「もう大丈夫よシシ神様! 私も戻った事だし、こちらにはジークという最強の王子様がいるんだから。サラマンダーを倒してくるわ」
「ほ、本当かミラーナ!」
「あのサラマンダーを倒せるのかい⁉」
「任せなさい」

 ミラーナの言葉で皆の顔がパッと明るくなった。相変わらず少し上からの口調だけど、ミラーナはやっぱり面倒見が良いから放っておけないんだろう。

 そりゃそうだよね。自分の大事な故郷なんだから。

「って事で、早速行きましょうかジーク。2人で」

 ミラーナはそう言うなり僕の腕にギュっと抱きつき、直後レベッカから凄まじい殺意が飛んできた。

「ダメに決まっているでしょう。何故ミラーナさんがジーク様と2人で行くのです? 意味不明過ぎますよ」
「や、止めてくれ2人共! ミラーナも離れて。相手はSランクのサラマンダーなんだよ。皆で力を合わせて討伐しに行こう。早くこの状況を変えなくちゃ」

 こうしている間にもどんどん影響が広がってしまう。

「さっきは上手く倒せたと言え、リザードマンの群れなんて流石にヤバいんよ。ジジ神様が言う様にAランクパーティでも倒せるか分からないぞ」

 珍しくルルカの表情から緊張が伝わってくる。それだけ敵が危険だという事だ。確かにリザードマンの群れは厄介だろう。何か手を考えた方がいいな。

 そんな事を思っていた刹那、突如山の方から強烈な咆哮が響き渡った。

『ヴボォォォォォォォォッ――!』
「「……⁉」」

 地響きと共に空気が震える。
 姿を確認した訳でもないのに、今の咆哮がサラマンダーであるという事を皆が感じ取っていた。

「凄まじいな。距離があるにも関わらずここまで響いてきたんよ」
「急ごう皆! いつサラマンダーが獣人国を襲って来るか分からない」
「そうですね」
「山までの道は分かるか? ミラーナ」
「当たり前でしょ。付いて来て」
「気を付けるんだよアンタ達!」

 一旦ジジ神様達に別れを告げた僕達は、サラマンダーを倒すべく奴の元へと向かった――。