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~ジニ王国・中心街~

ローゼン神父とカルとの戦いを終えた俺達は、ユリマを助けたいと言うはやる気持ちを抑え、当初の予定通りこのジニ王国にいるラグナレクを討伐しに中心街までやって来た。ローロマロ王国に訪れる危機を唯一回避するのが、このラグナレクを討伐する事だとウェスパシア様が言っていたからだ。

 中心街に着いた俺達の目と鼻の先には既にお目当てのラグナレクが姿が。

『何ノ様ダ、人間――』

 そして、これがラグナレクから放たれた第一声だった。

「おい……。当たり前のようにこっち向いて喋ったぞ」
「フィンスターで見た進化した第5形態のラグナレクとそっくり。って言うか、アレより更に見た目が……」

 そう。
 俺達の眼前にいるラグナレクは今まさにエミリアが言い掛けたが、フィンスターでヴィルが倒したあのラグナレクよりも更に人に近い姿だ。

 人に近いと言うよりもう人だ。
 相変わらずあの気持ち悪い質感はそのままだけど、それ以外はもう本当に人。その上溢れ出ている魔力も強ければ、アレが言葉を意志を持って動いていると考えただけでゾッとしてしまう。

 唯一の救いと言えるのか定かではないけど、奴も俺達の存在を認識してはいるが何故か直ぐには襲い掛かって来ない。俺達が驚きの余り戦意を発していないからだろうか……。

「ヒッヒッヒッ。いよいよこんな個体が現れる程アビスの力が強まっているみたいだねぇ」
「私達が思っている以上に復活の日が近そう。アビスが完全に目覚める前に、何が何でもグリム達に力を手にしてもらわないと」

 珍しくハクとイヴからも緊張感が伝わってきた。俺が森を出てから出会ったノーバディやラグナレクはどれも異質な存在だったが、今目の前にいるコイツはまた更に異次元の空気を纏った存在。

 世界に終焉をもたらそうとしている深淵神アビスとは、一体どれ程危険で強大な存在なんだろうか――。

「成程、確かにフィンスターで戦ったラグナレクよりも更に強いみたいだな。あの時は俺も実力不足だったが今は違う。先の水分身では不完全燃焼だったからこの強者は楽しみだ。俺が手合わせして今度こそ奴を倒し切ってやる」

 相変わらず切り替えが早いというかなんというか。
 フーリンは何の迷いも無くそう言い切ると、瞬時に波動を練り上げて既に戦闘モードに入っていた。だが、そんなやる気満々のフーリンに一切の躊躇なく横槍を入れたのはイヴだった。

「ちょっと待ちなフーリン。アレはエミリアに譲ってもらうよ」
「「……!?」」

 突拍子のない事を言い出すイヴは今に始まった事じゃない。だけど今回は些か耳を疑ってしまった。

「エミリアに譲るって、まさかあのラグナレク相手に1人でやるつもりじゃないだろうな?」

 まさかと思った俺はストレートにイヴに聞いた。直ぐ横にいたエミリアも右に同じと言わんばかりにイヴを見ている。

「当たり前じゃないか。それ以外に何があると言うんだい」
「えぇぇぇ!? そ、それは幾ら何でも無理だよ!」
「何が無理なんだいエミリア。私が教えてやった精霊魔法を信用していないのかいアンタ」
「い、いや、そういう事じゃなくて! 確かにイヴから精霊魔法と気のコントロールも教えてもらって魔法が使える様にはなったけど、でもだからってあのラグナレクを1人で倒すなんて……」

 エミリアの言う通りだ。
 確かにこの数日の特訓で1番成長したのはエミリアだろう。まだ不安定みたいだがさっきもローゼン神父を凄い魔法で倒したし。でもいきなりアレを1人で相手にするなんて流石に無謀過ぎるだろ。

 イヴのまさかの言葉に皆が戸惑っていると、次の瞬間、何やらイヴの体が神々しい光を放ち始めたのだった。

「アンタは何時までも弱気だねぇエミリア。もっと自分に自信を持ちな。アンタは弱くない。何て言ったって、アンタは私の力に選ばれた世界で1人の人間なんだからねぇ」
「イヴ……」

 口調は何時もと変わらない。だけど今のイヴからは底知れないエミリアへの暖かさの様なものを感じる。眩い神々しい光を放ったイヴはその光を両手へと集めるや否や、合わせた両手を勢いよく離した。

 すると、突如イヴの前に神々しい光を纏った“杖”が出現した。

「コレがアンタの神器である『恵杖イェルメス』だ。まだまだアンタは実力不足だが、イェルメスを持つだけの最低限の力は手にしただろう。ほら、受け取りなエミリア――」

 イヴにそう言われ、エミリアは戸惑いながらもゆっくりと『恵杖イェルメス』に触れた。

「凄い……コレが私の神器『恵杖イェルメス』……」

 エミリアが神器を手にした刹那、杖から強烈な光が一瞬放たれた。眩くも神々しい光を纏まった恵杖イェルメスは、まるでエミリアの魔力を感じ取っているか如く呼応している様だ。

「アンタは毎日毎日馬鹿にされ嘲笑されながらも魔法を撃ち続けた。まぁ本来の力を知らず、無駄に使えない魔法を特訓していただけだが、その努力が今のアンタ作り上げたとも言えよう。

いいかいエミリア。アンタは無能でも落ちこぼれでもない。寧ろどの魔法使いよりもポテンシャルが高く魔法に愛されているんだよ。だからこそ運命は私の力をアンタに選んだ。アンタなら普通の人間では扱えない精霊魔法をきっと使いこなせるからねぇ。
アンタはもう精霊魔法の凄さを身をもって理解しているんだ。後はその情けない気持ちをビシっとさせるだけだよ。

そうと分かればやってきなエミリア。
目の前のラグナレクどころか、アビスすらも1人で倒してやるぐらいの強気を持ってねぇ――」

 突拍子もないイヴの言葉。それは何時も不思議な事に、聞き終える頃には何故か全てイヴが正しいと思えてしまう説得力があった。ただ口が上手いというだけじゃない。キツイ言葉を発しながらも、イヴの言葉は自然と相手を包み込む包容力みたいなものがある。

 そしてそれを感じ取った俺達は勿論の事、イヴから混じり気のない真っ直ぐな言葉を受け取ったエミリアは、俺が彼女と出会った日から今日までの中で、1番力強い瞳を浮かべていた。

「ありがとうイヴ。ここまで誰かに認めてもらったのは初めてだよ私。そうだよね……私はずっと周りの人達に笑われてきたから、いつの間にか自分の事すら認められない様になっていた。

でももう大丈夫。皆と出会ってからずっと勇気を貰ってきた。見ててイヴ、皆。
こんな私でも変われるって、1人で戦えるって事を証明してみせるから――!」

 恵杖イェルメスをグッと握り締め、決意を新たにしたエミリアは力強くラグナレクの元へと向かって行くのだった――。