「うらッ!」
「ふん」
「はッ!」
『王2級魔法、“アクア・サーペント”』
「王2級魔法、“アクア・デスカット”」
「精霊魔法、“エルフズ・トール”!」
俺、エミリア、フーリン、カル、ローゼン神父と水分身。計6人が同時に動き出し、自らと対峙する相手目掛けて攻撃を繰り出した。
――ガキィンッ!
「攻撃が軽いな」
「ちっ!」
俺が振るった剣はまたしてもカルに防がれた。俺の攻撃が軽い訳じゃない。正確にはコイツによって攻撃を“いなされている”。さっきの攻撃もそうだったけど、俺の剣がコイツを捉える刹那、奴は俺の攻撃のポイントを的確にズラして威力を受け流している。だからこっちが思った通りの威力を与えきれていないんだ。
「向こうの神父の厄介そうだけど、お前も中々だな」
「どこぞの馬の骨とも分からん子供が随分と上からだな」
ハハハ、どこぞの馬の骨とも分からないか。何か嬉しく感じるな。昔は王国中で嘲笑されていたのに――。
俺はカルの何気ない言葉に無意識のうちに口元を緩ませていた。
「何を笑っている」
「あれ、笑ってた俺? そっかそっか。俺の事を分からないって言ったのがなんだか嬉しくてついな」
「……」
俺の奇妙な言動を目の当たりにしたカルは数秒の沈黙の後、俺に向かって名を聞いてきた。
「俺は七聖天のカル・ストデウス。お前の名は?」
「何だよ急に。俺の名前はグリムだ。言いたくないけど一応グリム・レオハート」
「レオハートだと?」
やっぱりと言うか案の定と言うか。俺の名前を聞いたカルは訝しい表情でレオハートという名に反応していた。
多分もう気付いてるよな。面倒だから自分から言っとくか。
「ああそうだよ。アンタが思っているそのレオハートさ。何年も前にリューティス王国中の笑いを取ってやっただろう。由緒ある名家でありながら、スキル覚醒しなかったせいで一族と王国の面汚しとして追放された、最強の剣聖と謳われたあのグリード・レオハートの息子」
「……!」
「そして現騎士団大団長でありアンタ達の七聖天の仲間でもある、ヴィル・レオハートの兄さ――」
隙が無く冷静な印象のカルであったが、俺の話を聞いたこの一瞬だけは僅かな戸惑いを感じられた。
俺とカルがそんな会話をしている一方、エミリアとフーリンはローゼン神父と激しい攻防を繰り広げていた。
**
――ズバァン! ドォォン!
「いやはや、それなりに長い人生を送ってきましたが、精霊魔法なんて初めて聞きましたよ」
「くッ、王2級魔法相手じゃ流石にまだ通用しない……!」
『ホッホッホッ、水の私に槍は効きませんよ」
「そうみたいだな」
エミリアは辛うじてローゼン神父の攻撃を躱したものの、エミリアの魔法はローゼン神父の王2級魔法に完全に飲み込まれてしまったようだ。
フーリンの槍も水分身こそ捉えたものの、体が水で造形された分身にはまるでダメージがないらしい。ローゼン神父もやはりかなりの実力者だ。
「生意気だねぇエミリア。アンタ少し攻撃魔法が出せる様になったからって調子に乗るんじゃないよ。もう私の“教え”を忘れたのかい」
「ご、ごめんなさい。小さい時から魔法をバンバン打てる魔法使いに憧れていたもので……」
「馬鹿者。身の程を知りな。アンタの“本質”はそれじゃないと何度も言っているだろう。今のアンタの攻撃魔法じゃ到底奴には敵わないよ」
「ごめんイヴ。確かに調子に乗っていた。私は私に出来る事をやる!」
コレも特別指導の延長だろうか。
イヴは恐らく俺達にこれまでの特訓の成果を試させると同時に、身に着けた力を実践で更に磨かせようとしているんだ。だから自分が手を出すつもりは毛頭ない。それはハクも同じだ。
「フーリン、こういう相手こそ特訓の成果を出す時よ」
「ああ、分かっている。俺も自分がどれ程度成長しているのか気になっていたところだ」
そう言うと、フーリンは波動を高めて超波動を身に纏う。その超波動は今までとは明らかに異なり、この特別指導で会得した“気”の流れによってフーリンの超波動は更なる進化を遂げていた。より洗練され密度が濃くなった超波動。それが凄まじいものであるという事は、この場にいた全員が感じ取っていた。
「うん。いい感じよフーリン」
「これは大したものだ。まさかほんの数日で気のコントロールをここまで自分の物にするとは」
ハクもヘラクレスさんもフーリンの特訓の成果を見て心なしか嬉しそうな表情を浮かべている。そしてそんなフーリンの近くでもう1人。この数日の特別指導で最も成長したのは、間違いなくエミリアだろう――。
「よし、集中」
静かにそう呟き、エミリアは再び己の魔力を練り上げ始めた。
「ホッホッホッ、槍の少年は想像以上に手強そうだ。それに引き替え、魔法使いのお嬢さんは珍しい魔法を持っているようですがやや力不足ですな。その程度では到底私に敵いませんよ」
ローゼン神父はフーリンの実力を認めた上で、エミリアに対してハッキリとそう言った。
“貴方では私に勝てませんよ”と。
確かに魔力の量や強さを比べれば圧倒的にローゼン神父が上。特訓で最も成長したのはエミリアだけど、お世辞にもローゼン神父を上回っているとは言えない。だが、コレが簡単で複雑でもある魔法の真髄。俺は未だに魔法に詳しくないがエミリアがこの特訓でイヴと行っていた“あの魔法”は、素人目に見てもきっと特殊な魔法だ。
まぁそれがどんな効果なのかよく分からないけど。
「ほらみな。アンタのせいで私まで馬鹿にされている気分だよ。不愉快だねぇ全く。早く汚名を返上しなエミリア」
「分かったよイヴ。もう大丈夫!」
エミリアが笑顔でそう言い放った次の瞬間、彼女もまたこれまでとは比べものにならない強い魔力が体から溢れ出していた。エミリアが身に纏う魔力は力強く神秘的。しかし、そこから感じる魔力の強さはやはり圧倒的にローゼン神父の方が強かった。
これにはローゼン神父も戸惑いが生じたのか、少し呆れた様な口調でエミリアに言った。
「これはこれは。確かにさっきよりもやや魔力が上がったように感じましたが、いやはや拍子抜けですな。我々も決して暇ではありませんので、時間を短縮出来るところは速やかに済ませましょうか」
刹那、ローゼン神父は目にも留まらぬ速さで魔法を繰り出す。するとローゼン神父の直ぐ後ろから水で造形された禍々しい龍が出現し、その水の龍は瞬く間にエミリア目掛けて一直線に放たれた。
「王2級魔法、“アクア・ザ・オロチ”」
『グガァァッ!』
水の龍は大きな口を開きながら鋭い歯でエミリアを襲う。
「エミリアッ!」
ローゼン神父から放たれた強力な攻撃魔法に、俺は思わずエミリアを見て大声を上げていた。
だが俺の余計な心配なんて何のその。
次の瞬間、エミリアは俺達が最も見慣れたあの魔法を繰り出していた。
「精霊魔法、“ディフェンション”――!」
「ふん」
「はッ!」
『王2級魔法、“アクア・サーペント”』
「王2級魔法、“アクア・デスカット”」
「精霊魔法、“エルフズ・トール”!」
俺、エミリア、フーリン、カル、ローゼン神父と水分身。計6人が同時に動き出し、自らと対峙する相手目掛けて攻撃を繰り出した。
――ガキィンッ!
「攻撃が軽いな」
「ちっ!」
俺が振るった剣はまたしてもカルに防がれた。俺の攻撃が軽い訳じゃない。正確にはコイツによって攻撃を“いなされている”。さっきの攻撃もそうだったけど、俺の剣がコイツを捉える刹那、奴は俺の攻撃のポイントを的確にズラして威力を受け流している。だからこっちが思った通りの威力を与えきれていないんだ。
「向こうの神父の厄介そうだけど、お前も中々だな」
「どこぞの馬の骨とも分からん子供が随分と上からだな」
ハハハ、どこぞの馬の骨とも分からないか。何か嬉しく感じるな。昔は王国中で嘲笑されていたのに――。
俺はカルの何気ない言葉に無意識のうちに口元を緩ませていた。
「何を笑っている」
「あれ、笑ってた俺? そっかそっか。俺の事を分からないって言ったのがなんだか嬉しくてついな」
「……」
俺の奇妙な言動を目の当たりにしたカルは数秒の沈黙の後、俺に向かって名を聞いてきた。
「俺は七聖天のカル・ストデウス。お前の名は?」
「何だよ急に。俺の名前はグリムだ。言いたくないけど一応グリム・レオハート」
「レオハートだと?」
やっぱりと言うか案の定と言うか。俺の名前を聞いたカルは訝しい表情でレオハートという名に反応していた。
多分もう気付いてるよな。面倒だから自分から言っとくか。
「ああそうだよ。アンタが思っているそのレオハートさ。何年も前にリューティス王国中の笑いを取ってやっただろう。由緒ある名家でありながら、スキル覚醒しなかったせいで一族と王国の面汚しとして追放された、最強の剣聖と謳われたあのグリード・レオハートの息子」
「……!」
「そして現騎士団大団長でありアンタ達の七聖天の仲間でもある、ヴィル・レオハートの兄さ――」
隙が無く冷静な印象のカルであったが、俺の話を聞いたこの一瞬だけは僅かな戸惑いを感じられた。
俺とカルがそんな会話をしている一方、エミリアとフーリンはローゼン神父と激しい攻防を繰り広げていた。
**
――ズバァン! ドォォン!
「いやはや、それなりに長い人生を送ってきましたが、精霊魔法なんて初めて聞きましたよ」
「くッ、王2級魔法相手じゃ流石にまだ通用しない……!」
『ホッホッホッ、水の私に槍は効きませんよ」
「そうみたいだな」
エミリアは辛うじてローゼン神父の攻撃を躱したものの、エミリアの魔法はローゼン神父の王2級魔法に完全に飲み込まれてしまったようだ。
フーリンの槍も水分身こそ捉えたものの、体が水で造形された分身にはまるでダメージがないらしい。ローゼン神父もやはりかなりの実力者だ。
「生意気だねぇエミリア。アンタ少し攻撃魔法が出せる様になったからって調子に乗るんじゃないよ。もう私の“教え”を忘れたのかい」
「ご、ごめんなさい。小さい時から魔法をバンバン打てる魔法使いに憧れていたもので……」
「馬鹿者。身の程を知りな。アンタの“本質”はそれじゃないと何度も言っているだろう。今のアンタの攻撃魔法じゃ到底奴には敵わないよ」
「ごめんイヴ。確かに調子に乗っていた。私は私に出来る事をやる!」
コレも特別指導の延長だろうか。
イヴは恐らく俺達にこれまでの特訓の成果を試させると同時に、身に着けた力を実践で更に磨かせようとしているんだ。だから自分が手を出すつもりは毛頭ない。それはハクも同じだ。
「フーリン、こういう相手こそ特訓の成果を出す時よ」
「ああ、分かっている。俺も自分がどれ程度成長しているのか気になっていたところだ」
そう言うと、フーリンは波動を高めて超波動を身に纏う。その超波動は今までとは明らかに異なり、この特別指導で会得した“気”の流れによってフーリンの超波動は更なる進化を遂げていた。より洗練され密度が濃くなった超波動。それが凄まじいものであるという事は、この場にいた全員が感じ取っていた。
「うん。いい感じよフーリン」
「これは大したものだ。まさかほんの数日で気のコントロールをここまで自分の物にするとは」
ハクもヘラクレスさんもフーリンの特訓の成果を見て心なしか嬉しそうな表情を浮かべている。そしてそんなフーリンの近くでもう1人。この数日の特別指導で最も成長したのは、間違いなくエミリアだろう――。
「よし、集中」
静かにそう呟き、エミリアは再び己の魔力を練り上げ始めた。
「ホッホッホッ、槍の少年は想像以上に手強そうだ。それに引き替え、魔法使いのお嬢さんは珍しい魔法を持っているようですがやや力不足ですな。その程度では到底私に敵いませんよ」
ローゼン神父はフーリンの実力を認めた上で、エミリアに対してハッキリとそう言った。
“貴方では私に勝てませんよ”と。
確かに魔力の量や強さを比べれば圧倒的にローゼン神父が上。特訓で最も成長したのはエミリアだけど、お世辞にもローゼン神父を上回っているとは言えない。だが、コレが簡単で複雑でもある魔法の真髄。俺は未だに魔法に詳しくないがエミリアがこの特訓でイヴと行っていた“あの魔法”は、素人目に見てもきっと特殊な魔法だ。
まぁそれがどんな効果なのかよく分からないけど。
「ほらみな。アンタのせいで私まで馬鹿にされている気分だよ。不愉快だねぇ全く。早く汚名を返上しなエミリア」
「分かったよイヴ。もう大丈夫!」
エミリアが笑顔でそう言い放った次の瞬間、彼女もまたこれまでとは比べものにならない強い魔力が体から溢れ出していた。エミリアが身に纏う魔力は力強く神秘的。しかし、そこから感じる魔力の強さはやはり圧倒的にローゼン神父の方が強かった。
これにはローゼン神父も戸惑いが生じたのか、少し呆れた様な口調でエミリアに言った。
「これはこれは。確かにさっきよりもやや魔力が上がったように感じましたが、いやはや拍子抜けですな。我々も決して暇ではありませんので、時間を短縮出来るところは速やかに済ませましょうか」
刹那、ローゼン神父は目にも留まらぬ速さで魔法を繰り出す。するとローゼン神父の直ぐ後ろから水で造形された禍々しい龍が出現し、その水の龍は瞬く間にエミリア目掛けて一直線に放たれた。
「王2級魔法、“アクア・ザ・オロチ”」
『グガァァッ!』
水の龍は大きな口を開きながら鋭い歯でエミリアを襲う。
「エミリアッ!」
ローゼン神父から放たれた強力な攻撃魔法に、俺は思わずエミリアを見て大声を上げていた。
だが俺の余計な心配なんて何のその。
次の瞬間、エミリアは俺達が最も見慣れたあの魔法を繰り出していた。
「精霊魔法、“ディフェンション”――!」