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~ジニ王国~

「お前達は――」

 突如俺達の前に姿を現した2人の男。戸惑いを見せる俺達を見て、彼らは更に会話を進めた。

「いやはや、近くで見ると思っていた以上に若いですな。それに邪神の魔力も凄まじい」
「おい邪神共、早くこの終焉とやらを止めろ。大人しく捕まるなら手荒な事はしないと約束しよう」

 現れた男達の言葉を聞き、俺達は瞬時にこの2人が騎士魔法団であると悟った。それも2人共かなりの実力者。間違いなく団長クラス。

 いや、もしかすると。

 俺がそう疑問を抱い次の瞬間、その疑問をエミリアが氷解した。

「貴方達は確か七聖天の……」
「ホッホッホッ、よくご存じですなお嬢さん。如何にも、私達はリューティス王国の七聖天のメンバー。名をローゼンと申します。こちらはカルさん。以後お見知りおきを」

 七聖天。
 ヴィルの仲間の奴らか。
 突如現れた七聖天の奴らによって、一瞬にして場に緊張にが生まれていた。

「七聖天って事は、目的は当然俺達か」
「これからラグナレクを倒さなきゃいけないのに」
「そこの2人、かなりの強者と見た。是非俺と手合わせ願おうか」
「ダメよフーリン。ラグナレクと戦うまで無駄な争いは避けなくちゃ……とは言っても、とても穏便に済む空気じゃなさそうね」

 七聖天の2人はまだ構えていない。
 しかし、俺達と対峙する奴らは次の瞬間にでも襲い掛かって来そうな雰囲気も醸し出していた。

「やはり意図が分からんな。そっちの女は確か騎士魔法団に所属していた者だろう。何故邪神と共に行動している。何が目的だ?」

 カルと呼ばれていた武闘家の様な男が俺達にそう言ってきた。

 成程、どうやらこの男はエミリアが団員として王都にいた事をしっている様だな。だとすれば何故俺達がハクやイヴと一緒に行動しているのか疑問に思うのも頷ける。それにしてもこの間のラドット渓谷で戦ったアックスやデイアナと言い、揃いも揃ってハク達を邪神なんて呼びやがって。完全に国王に騙されているな。

「国王からどう話を聞かされているのか知らないが、ハク達は邪神でもなければこの終焉とも関係ない。俺達は他にやる事があるんだから邪魔するなよ」
「俺達の邪魔をしているのはお前らだろう。自分達が無実だと言うならば、尚更抵抗せず一緒に来てもらおう。洗い浚い全てを話せばそれで済む事だ。
終焉の原因、邪神の存在、お前達の目的。それにリューティス王国を裏切って地下牢にいる“反逆者ユリマ”との関係性も全てな――」

 俺とエミリアとフーリンとハクは、カルと言う男が口にしたその名前に一斉に体の全細胞が反応した。

「ユリマが反逆者……?」
「地下牢にいるってどういう事なの!?」

 困惑を隠せなかった俺達に、カルは眉をピクリと動かしながら口を開いた。

「何だ、知らないのかお前達」
「ホッホッホッ、これはまた滑稽な話ですな。ユリマさんは邪神達を匿って反逆の罪を着せられたというのに、その本人達がその事を知らないとはどういう状況でしょう。仲間ではないのですか? いやはや何処までも理解に苦しみますな」

 ローゼン神父とカルの言葉で、俺は不意にデバレージョ町を出た日の事を思い出していた。

 確かあの日、ユリマは用があるとかで俺達の見送りに来られないと町の人から聞いた。ユリマと会ったのはその前日が最後。何時ユリマは反逆の罪で囚われてしまったんだ? 

 いや、ちょっと待て。

 そういえばユリマは俺達がデバレージョ町に滞在していた間も何度も何処かへ出かけていた。アレはもしかして……。

「おい! お前らがユリマを捉えたのか!」
「どうした、急に声を荒げて。まさか仲間に手を出されて怒ってるとでも言うのか邪神共」
「反応から汲み取るに、どうやらユリマさんがこの邪神達と何らかの繋がりがある事は確実な様ですな」
「耳が遠いのかよオッサン達。俺はお前らがユリマに手を出したかどうか聞いているんだ――」
「「……!」」

 体の奥底から込み上げてくる感情が、無意識に凄まじい波動へと変化して俺の体から溢れ出す。俺の波動を見たローゼン神父とカルは一瞬にして目つきが変わり、反射的に戦闘態勢を取っていた。

 くそ。俺は何処まで馬鹿なんだ。

 世界の未来を全てを知っていたとはいえ、ユリマは間違いなくリューティス王国に仕える最強の七聖天の1人でもあった。七聖天や騎士魔法団は国王や国の為に動く事が何よりも最優先される。例えそれが世界を救う為の行動であったとしても、七聖天という立場でユリマが1人であれだけ裏で動いていたのは相当な労力を費やしていたに違いない。

 誰にもバレないよう姿を変えて団長を務め、特殊な結界で覆ったデバレージョ町も管理していた。ユリマは常に危険を伴いながら行動していたんだ。

 もしユリマがデバレージョ町で度々席を外していた理由が俺達を匿う為だったら? 

 もしユリマが囚われてしまったのが俺達のせいだったとしたら?

 嫌な憶測だけが頭を駆け巡る。
 だがこの憶測は正しいものだと、俺の直感がこれでもかと訴えかけていた。

 そう考えれば全ての辻褄が合う。
 あの時は自分の体を回復させる事や、ハクや未来の真実の話ばかりに気を取られていた。気のせいかと思っていたが、あの時のユリマは姿を現す度に“違和感”があった気がする。何かを隠している様な、何処か疲労している様な何とも言えない感じ。

 アレが確実に俺達を“何か”から守ってくれていたと今確信出来た――。

「さあ、どうかな。仮に俺達がユリマを捉えたからと言って何だ。奴は七聖天でもあるにも関わらず、特殊な結界で町ごとお前達を匿っていた。それも全ての元凶である邪神をな。
お前達とユリマのせいでどれ程の被害が生まれていると思っているんだ。奴が反逆者として裁きを受けるのは当然の事。寧ろまだ生かされているのが可笑しいぐらいだッ……!」

 カルが鼻で笑いながらそう言い終えると同時、腰から双剣を抜いた俺はカル目掛けて剣を振り下ろしていた。

 ――ガキィィン!
「だから無駄話が長いんだよ。俺の質問は“はい”か“いいえ”で済むだろ」
「そもそも答える義理はない」

 振り下ろした俺の剣はカルの身に着けていた“籠手”によって受け止められ、カルはそのまま俺の剣を振り払いながら強烈な蹴りを放ってきた。カルの蹴りをバックステップで何とか躱した俺は一旦奴と距離を取る。

「グリム大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。それよりも」
「うん。ユリマが心配。あれから何も接触がないから気にはなっていたけど……」
「まさか反逆者として捕まっているとはな。地下牢は確か重罪人が入れられる城の地下にある牢だ」

 奴らの言う事が確かならユリマは本当に地下牢に幽閉されている。直ぐにでも助け出したいが、如何せん王都の城なんて最も警備が厳重な場所。無暗に突っ込む訳にもいかない。今直ぐにはどうする事も出来ない状況に焦りと苛立ちを込み上げていると、場にイヴの不敵な笑い声が響いたのだった。

「ヒッヒッヒッヒッ。そのユリマとらがシシガミの言っていた未来を視た人間か。彼女の存在はアビスにとってもイレギュラーな存在。私ら3神柱を陰ながらに支えていた立役者と言っても過言ではないねぇ。
まだ生きているなら大儲け。いや、彼女ならば自分がまだ“死なない事まで知った”上での最善の行動を取ったとも言えよう。

丁度いい。
グリム、エミリア、フーリン。コイツらなら特訓の成果を試すこれ以上ない人形だ。好きに壊してやりな! ヒッーヒッヒッヒッ――!」