♢♦♢

~ローロマロ王国~

 グリム一行の元へ、突如訪れたローロマロ王国の戦士ヘラクレス。ウェスパシアの予知夢によって導かれ、抗う事が出来ないと悟ったイヴは遂に諦めウェスパシアの元へと向かうのだった。

 グリム達がエネルギーの流れの特訓を始めて早6日目。
 彼らが立ち去ったローロマロ王国の荒地では、密かにグリム達の動向を伺う怪しい影が迫っていた――。


「ホッホッホッ。どうですか? 行った通り邪神を見つけましたよカルさん」
「ああ。確かに“やっと”見つけたな。アレが邪神とその味方をしている謎の人間達か」

 何処からともなく荒地に静かに響いた声。
 次の瞬間、突如空間に歪みが生じるや否や、その歪みの中から2人の男が姿を現した。

 現れた男はローゼン・クリス神父とカル・ストデウス。リューティス王国が誇る七聖天のメンバーであり、先のラドット渓谷での一件からグリム達を追って来た存在だ。

「いやはや、それにしてもあのシシガミとイヴという邪神は計り知れない魔力を持っていましたね。あれは些か厄介ですな」
「流石に世界をどうこうしようとしているだけはあるみたいだ。口だけの奴らではない。だがそれよりも、俺は他に気になる事が2つある――」

 カルは何やら意味ありげな表情を浮かべながらローゼン神父にそう言った。ラドット渓谷でのカルはとても冷静で落ち着いた雰囲気を纏っていたが、今は何処か鋭い目つきをしている。

「気になる事? それはなんでしょうかカルさん。悩みがあるのならば、神父の私が貴方の魂を健やかなる方へ導いてあげますよ」

 神父と呼ばれるだけあって、どうやら彼は七聖天のメンバーであり本物の神父でもある様だ。

 だがしかし、この時ローゼン神父はまだ知らなかった。
 今の発言がブーメランとなって自分に返って来るという事を。

「……成程。じゃあ早速聞いてもらうが、そもそも悩みではない。まず気になる1つ目の事、それは“木の杖”を持っていたあの少女の事だ。
俺もしっかりと顔を覚えていた訳ではないが、彼女は確か呪われた世代とか呼ばれていた子の1人だ」
「ほほう、あの子が。確か呪われた世代と言えば、彼女の他にもあのグリード“元”大団長のご子息もおりましたな」
「ああそうだ。彼の息子とあの木の杖の少女、それともう1人いるみたいだが今はその事より、何故その少女が邪神と行動を共にしているのかだ。横にいた双剣と槍の少年もな」

 グリム達が去り、誰もいなくなった荒地を見つめながらカルはそう口にしていた。

「そう言われると気になりますね。因みに今のが1つ目となるともう1つは何でしょうか」
「なぁローゼン神父、アンタそれ本気で言っているのか」
「……と、言いますと?」

  カルが何か言いたそうな態度に対し、全く身に覚えがない様子のローゼン神父は訝しい表情でカルに尋ねている。そんなローゼン神父を見たカルは少し呆れ顔で、ここぞとばかりに内に秘めていた思いを全て彼に告げたのだった。

「もう1つは他でもない、ここに辿り着くまでのアンタの“転移魔法”の事だ――」

 そう。
 ローゼン神父とカルがグリム達の後を追ってもう6日目。彼らはラドット渓谷を出てからついさっきグリム達を見つけるまでの間、ずっとイヴの魔力の残り香を追って異空間を彷徨っていたのだった。

「先ず誤解のない様言っておくが、アンタの魔法には感謝しているぞローゼン神父。俺は波動を扱う者だから魔法に関して一切文句を言える立場でもなければ、“リューティス王国一の魔法使い”であるアンタに不満はない。
だがな、それを差し引いたとしても時間掛かり過ぎだろ。6日だぞ」
「ホッホッホッ、そこは流石邪神とでも言うべきでしょうか。いやはやこんな事は私も初めてですな。邪神イヴの転移魔法が複雑で残り香を追うのに苦労しましたよ」

 ローゼン神父はカルに悪いと思いながらも、変わらずマイペースな感じである。リューティス王国で1番の魔法の使い手であるローゼン神父の力を持ってしても6日目も掛かってしまった。

 いや、ローゼン神父だからこそ6日でグリム達に追いつき見つける事まで出来たのだ。普通の魔法使いであればそもそも魔力の残り香の追尾すらままならない。転移魔法ですら扱える者が限られる高等魔法でもある。

「まぁもういい、結果奴らを見つけた事だしな。後は邪神とあの少年達を倒して拘束するだけだ」
「そうですね。邪神の倒せば国王の機嫌も良くなるでしょう。そうすれば手柄を上げた私達はとんでもない報酬が待っていますぞカルさん。ホッホッホッホッ」

 そう言って高笑いするローゼン神父の顔は今までの穏やかな表情から一変し、神父ならぬ私利私欲の欲望に憑りつかれた不気味な笑顔を見せていた。しかし、そんなローゼン神父とは対照的に、カルは再びグリム達が去った荒地を眺めながら1人何かを考えている様子であった。

(ラドット渓谷の時もそうだったが、奴らは死人を1人も出さなかった。それにこのローロマロ王国には何が目的で来た……?
世界を滅ぼそうとしている邪神がわざわざ人間と行動を共にしている上に、あの少年達と訓練みたいな事をしている行動もまるで意図が分からん。一体何が目的だ。国王から聞いていた邪神達のイメージとまるで違う――。

いや、だがあの邪神達が凄まじい力を持っているのは確か……。それこそ世界を自分達の手に出来る程に。油断は禁物だ。奴らの行動は引き続き注視する必要がある。そこでタイミング見計らい仕留めるか)

 カルが無言で考え事をしていると、ローゼン神父が彼に話し掛けた。

「どうしましたかカルさん。まだ他にも悩みが?」
「だから悩みではない。邪神達の狙いを考えているだけだ」
「成程、確かに奴らの行動は読めませんな。何故こんな所に来たのかも不明ですが、私的にはあのヘラクレスと繋がっている事も驚きですよ」
「ヘラクレス? それって邪神イヴの前で片膝ついていた奴か?」
「そうです。彼はローロマロ王国の国王側近でもある“親衛隊隊長”。役割は似ていますが、この国では騎士魔法団という呼び方ではなく親衛隊と呼ぶのが一般的ですね。
それに彼らは戦士とも呼ばれていて、我々とは異なる“気”とか言うエネルギーを用いて戦う特殊な存在です。勿論戦士と呼ばれる者達の実力も様々ですが、ヘラクレス率いる親衛隊は、噂では我々七聖天とも“同格”とか――」

 ローゼン神父のまさかの発言に、聞いていたカルの眉がピクリと動いた。

「そんな奴らがこの国にいるのか。今まで知らなかったな」
「ローロマロ王国は色々と独自な文化を持つ変わった国ですからな。余り他国とも交流が無く、元から情報が少ない国なんですよ」
「独自の文化ね……。確かにヘラクレスとか言うあの男、事もあろうか邪神を崇拝している様な感じだったな。アイツ個人だけが繋がっているのか、はたまた“この国”が繋がっているのか」
「ホッホッホッ。邪神がこの国の戦士を洗脳して、自分達の駒として扱おうとしているとも考えられますな」
「ああ。兎に角奴らを追うぞ。何を企んでいるか探らないとな」

 ローゼン神父とカルは話を終えると、彼らは再びグリム達の後を追うのだった――。