「大丈夫かハク! くそ、どこから飛んできた」

 俺達を襲ったのは1発の火炎球。誰かの魔法であることは明らか。この攻撃自体は当たってもいなければ特別威力も無い弱い魔法だった。だがその攻撃の強さ以上に、不覚にも逃げていた足を止めってしまったのが問題を生んだ。

「今だ! 全員で囲め! 白銀のモンスターを始末するのだッ!」
「ちっ、何処から湧いて出てきたんだこんなに」

 ふと視線を元に戻すと、視界には大勢の騎士団員の姿があった。前方には何十人という数の団員が半円状に俺達を囲い、何時から隠れていたかも分からない、周囲の木々の上からも多くの団員が俺達に狙いを定めていた。

「おい貴様、その狼を早く渡せ。そうすれば命だけは守ってやるぞ」
「何で騎士団がハクを狙ってるんだ」
「そんな事は貴様に関係ない。渡す気がないなら止むを得んな。白銀のモンスターを殺す為なら手段は問わんと命令が出ているからな。……放てぇぇぇッ!」

 この団を率いている団長であろう男が周りの団員達に大きな声でそう言い放った瞬間、一斉に俺とハク目掛け無数の矢や魔法が飛んできた。

「そうかよ。やっぱりお前達を許す事は出来そうにないな――」

 俺は片手でハクを抱えながら腰の剣の柄を握り、もう片方の手で反対側に提げていた剣を抜いた。そっちがその気なら容赦はしない。俺の大事な森を燃やしやがって。お前達は少しその態度を改めて……って、ちょい待ち。

 今しがた抜いたばかりの剣の妙な“違和感”に、俺はハッとある事を思い出した挙句に嫌な汗を掻いた。

 やっぱり。

 見たくなかったが俺は恐る恐る剣を見た。すると、視界に映った剣はやはりオークを追い払った時の“折れた剣”のままだった。

 換えるの忘れてた。やべ。

「死ぬッ……!」

 ――ズババババババババッ!
 飛んできた無数の攻撃が一斉に降り注ぎ、1秒前まで俺がいた場所は土埃や硝煙によって一帯が煙に覆われていた。

「ふぅ、あぶねぇ」
「バウワウ!」
「悪かったって。ビビったよなお前も」

 完全に攻撃態勢に入っていたから流石に焦った。森の火事で慌てて飛び出してきたからすっかり剣の事なんて忘れてた。

「奴らを仕留めたか?」

 団長が煙に覆われた箇所を見ながら確認する様に問う。
 今の攻撃でその場にいた全員が煙によって視界を悪くしていたが、それが徐々に晴れていき、いち早く気が付いた団員が声を張って言った。

「団長! 奴の姿が確認出来ません! 死体も転がっていない様です!」
「何だと⁉ そんな馬鹿な事があるか。ちゃんとよく探すッ……「――アンタの部下が正しいよ」
「……⁉」

 折れた剣をしまい、まだ折れていないもう一方の剣を抜いた俺は、そのまま軽く剣を一振りした。

 ――シュバァァァン!
「「……ッ⁉⁉」

 俺のその一振りによって、団長以外の団員達全てが地に倒れた。全員が身に纏っていた甲冑を砕かれ、当たり所の悪い者は気を失ったり吐血をしていた。

 団長を含めた敵全員がまるで状況を理解出来ていない……。まぁしょうがないだろう。お前達の動きが“遅すぎる”んだから。

「き、貴様ッ! 何故……ぐッ⁉」
「それはこっちの台詞だ」

俺は剣の切っ先を団長の喉元に突き付けながら言った。今の奴の発言からも、俺の動きを捉えられていない事は明白だ。だから言っただろ、遅すぎるって。

 確かに剣が折れている時は一瞬驚いて初動が遅れたけど、こっちはとっくに逃げてたよ。誰も気付いていなかったみたいだけどな。騎士団ってこんなに弱かったか?

 違うな……。スキル覚醒して辺境の森で剣を振りまくった今の俺は、自分でも思っている以上に強くなり過ぎたのかも。お前達程度の攻撃は止まって見える。どうやらここにいる団員達はスキル覚醒していない奴らだろうなきっと。

「何故いきなり森を火事にしたんだ」
「貴様は何者だ……!」
「言葉が理解出来ないのか? 俺の質問と答えが合っていないぞ」

 団長に突き付けていた切っ先に力を入れ、これが脅しではないと無言で睨み返すと、 観念したのか団長は渋々口を割った。

「ソイツだよ。我ら騎士団は“国王”からそのモンスターを討伐しろと命を受けて此処まで来たのだ!
この狼が森に迷い込んだのを確認したからな、炙り出す為に森を焼いたにすぎん」

 そう言いながら奴はハクを指差していた。狙いはやはりハク。けどやっぱり理由が分からない。それに……。

「ハクを狙う理由は。何でわざわざ国王がそんな命令を出した?」
「質問が多いな。そんな事知る訳がないだろう。仮に知っていたとしても、もう“死ぬ”貴様に教える義理はないッ!」

 さっきまで全く戦意を感じなかった団長であったが、突如目の色を変えて好戦的な態度になった。

「バウッ!」

 何故かと疑問に思った矢先、背後から鋭い気配を感じた俺は直ぐに振り返った。俺より早く気が付いていたハクも咄嗟に教えてくれたみたいだ。眼前に迫っていた刃と、それを振るってきた者の事を。

 ――ガキィィン!!
「……!」
「お、反応しやがったじゃん」
「助かりましたよラシェル“団長”!」

 成程、そういう事ね。

「コイツが噂の白銀のモンスターか。へッへッへッ。で、このガキ何?」

 突如背後から俺に斬りかかってきた男。
 長い髪を掻き上げながらニヤニヤした表情でそう口にした。背が高くひょろっとした体格で何処となく目つきが悪い。気味の悪い雰囲気を纏った男であったが、対峙した瞬間に全ての合点がいった――。

「私も知りません。急に現れたと思ったらずっとあの狼を庇ってやがるんですよ」
「王国の騎士団にしては弱すぎると思ったけど、アンタが“本当”の団長だったのか」
「あぁ? 訳分からねぇ話を勝手にするんじゃねぇ。死にてぇか」

 さっきの奴が偉そうに指示出してたから団長かと思ってたけど、全然違ったみたいだ。だよな、いくらなんでも弱過ぎる。でもこっちの人は他の団員と明らかに違う空気だな。

「ハクを渡す気はない。それに力の差は見せつけた筈だ。さっさと帰りなよ、団長さん達」
「討伐の為なら手段は問わん。確かそういう命令だったよな?」
「はい」
「殺すか――」

 そう呟いた瞬間、ラシェル団長と呼ばれていた男は再び俺に斬りかかってきた。

 背後から攻撃された時もそうだったが、コイツは足音も気配も感じにくい。スピードも今までの団員とは比べものにならない速さ。コイツはやはりスキル覚醒者か。

「へーへッへッ!」

 一瞬で距離を詰めたラシェルは、その細身の体系に似た細長い長剣を勢いよく振り下ろす。見た目に反して攻撃も重そう。それに流石団長と言うべきか、その動きは無駄な動きを感じさせない経験値の成す動き。

「おいおい、マジか」

 ――バキン……ッ!
 このタイミングで、唯一残っていたもう1本の剣まで折れてしまった。ラシェルの剣は“まだ”俺に届いていない。

「へッへッへッ、何を遊んでやがる! そのまま死ッ……⁉」

 ラシェルが皆まで言いかけた瞬間、奴は口から血を吐きながら砕かれた甲冑の残骸と一緒に地面に崩れ落ちた。

 俺が“斬った”腹部から噴き出す鮮血と共に。

「あーあ、こりゃヤバい。もうコレしか残ってなかったのに……ったく。思った以上に“遅くて”無駄に力込めちゃったよ。どうしようかハク」
「ワウ」
「ば、馬鹿な……」

 彼にとっては予想外だったのだろうか。ラシェルが地面に倒れたのを見て、彼も絶望の表情と共に地面に項垂れた。

 他の有象無象と比べたらラシェルは段違いに強かった。それに自分達の団長だから団員が彼を信頼するのは分かるし立派だけどさ、俺との力の差は誰がどう見ても歴然だったろ。

 今更何をそんなに絶望してるんだよ――?