♢♦♢
~ラドット渓谷~
「ありがとうハク。 相変わらず、凄い断崖だなここは」
「フーリンと出会ったのがつい昨日の事みたいだね」
「何処かに強者はいないか? 是非手合わせしたいのだが」
祖の王国を出発してから2日。
俺達は精霊王イヴがいるというラドット渓谷に着いた。
本当だったら祖の王国からこのラドット渓谷までは何日も移動を要する。途中で灼熱の砂漠や何処までも続く荒野があったりと、その道中もとても険しいもの。ユリマがいない為、転移魔法も使えずにどうしようかと悩んでいたら、ハクがシシガミの姿で俺達を背に乗せてくれた。
これは流石神の力。
当たり前だけど、人の走りや馬とは比べものにならない物凄いスピードで砂漠も荒野も駆け抜けてしまった。祖の王国から僅か2日でラドット渓谷まで辿り着くなんて普通なら有り得ない。
「さて、それじゃあ早速イヴを探そうか」
「ハクちゃん、イヴ様は何処にいるの?」
「イヴはここの大地に眠ってるわ。祖の王国を出てからも何度か魔力を飛ばしたから多分、私達が来ている事には気付いていると思うんだけど……」
ハクはそう言いながら何気なく辺りを見渡し始めた。だが精霊王イヴらしき姿は確認出来ない。
「イヴも魔力が弱まっているから、もしかしたら自力で姿を現せないのかも。こうなったら“霊玉”を割ってイヴを出すしかないわね」
「れいぎょく?」
「うん。イヴはこの大地の中の、霊玉という特殊な玉に身を宿しているの」
ハクは俺達に説明しながら、徐にラドット渓谷を進んで行った。それから暫く進むと急に立ち止まり、地面を指差して俺達の方へと振り返ってきた。
「ここにイヴがいるわ」
ハクが指差す地面は何の変化も見られない普通の大地。俺達は何でもない大地をジッと見ていると、ハクは今度エミリアに話し掛けた。
「エミリア。私がフーリンに神器を託した様に、イブは貴方に神器を託したの。だからこれは貴方に任せるわ。
エミリア、霊玉を割ってイヴを目覚めさせてくれる?」
「え、私が!? 急にそんな事言われても、一体どうやって……」
「簡単よ。霊玉に流れる魔力を感知出来たら、そのままその霊玉に魔力を流し込んでみて」
淡々と説明するハクに困惑しているエミリアだったが、「取り敢えずやってみるね」とハクから言われた通りに意識を集中させ霊玉を探し始めた。
すると、その霊玉とやらの魔力をエミリアが感知した様だ。
「あ、見つけた。コレかな?」
「フフ。思った以上に早かったね。“流石”だよエミリア。そうしたら今度はその霊玉に貴方の魔力を流し込んでみて」
「うん。分かった」
ハクに促され、エミリアは持っていた木の杖の先端を地面に着けると、直ぐに杖が淡く輝き出した。
恐らくエミリアが魔力を流し込んでいるのだろう。
俺とフーリンがただその様子を見守っていると、次の瞬間、パキンッと何かが砕ける様な音が俺達の耳に響いてきた。
「何だ今の音」
「もしやその霊玉とやらが割れたのか?」
急に響いたその音に、俺達は全員反射的に地面に視線を落とした。
だが、数十秒経っても何も起こらない。
「ん、どうした? 霊玉割ったのか?」
「多分……」
「大丈夫、確かにエミリアはちゃんと割ったわ」
「そうなのか? だったら何でッ……「――おいおい、本当にいやがったぜコイツら! アッハッハッ!」
俺の言葉を遮る様に、突如後ろの方から声が聞こえてきた。勿論俺達4人ではない。そう瞬時に理解すると同時、俺達は一斉にその声の主の方へと振り返っていた。
「声がデカいわよアレックス。何でわざわざ敵に気付かせるのよ」
「悪いな。まさか本当にいるなんて思わなくてつい」
俺達の視線の先、そこには大きな斧を抱えたモヒカンの男と、銀色の弓を手にする草冠を付けた女が立っていた。
一目で分かる強者のオーラ。
目の前の2人が何者かと分かるのは直ぐの事だった。
「あ、貴方達は確か、七聖天の……」
エミリアが声を震わせながら出した七聖天という単語。俺はそれだけで十分状況を理解出来た。
「そうか、お前達がヴィルと同じ他の七聖天の奴らか」
「お! アイツの名を出したという事は、お前があのサイコパスの兄貴か。成程、確かに顔が似てるな」
俺の言葉に反応した男が食い気味に口を開いてきた。
「無駄話なんかしていないで、さっさと任務を終わらせるわよアックス」
「お前は真面目だなデイアナ。俺だってそのつもりだっつうの。噂のサイコパス兄貴の面を少しぐらい拝んでもいいだろうが。もう“死ぬ”んだからよ」
アックスと呼ばれた男は次の瞬間、十数メートルはあったであろう俺達との距離を一瞬で詰めるや否や、奴は一掃すると言わんばかりに抱えていた大きな斧を振りかぶっていた。
――ガキィィン!
「あれ、意外と強いのか」
「いきなり何してるんだよお前」
「グリム……!」
奴の大きな斧が振られる刹那、俺は剣を抜いて奴の斧を防いだ。
これが神器を持つ七聖天の力か。団長クラスとはパワーもスピードも桁違いだな流石に。
「いきなりも何も、自分の立場分かってるだろ? 当たり前の事だろうが」
「そりゃそうだ。聞いた俺が馬鹿だった。お前達がその気ならこっちだって遠慮なッ……『――カァァン!』
俺とアックスが剣と斧で鍔迫り合っていると、突如向こう側から凄まじい勢いで何かが飛んできた。俺がその存在を横目で捉えたと同時、そこには天槍ゲインヴォルグを振るったフーリンの姿があった。
「強者同士の手合わせを邪魔するな」
「男って本当に馬鹿ね。真面目な真剣勝負なんて何の意味もないわ」
そう。俺目掛けて飛んできたのは女が放った弓の矢。それをフーリンが今しがた防いでくれたんだ。
「助かったぜフーリン」
「余所見するな。目の前の強者に集中していろグリム。こっちは俺が相手しよう」
「ふーん。って言うかアンタ達誰なのよ。私が用あるのはシシガミとヴィルの兄。後は殺しても構わないと国王からも命じられてるの……“アイスド・アロー”」
デイアナはそう言うと瞬時に魔力を練り上げ、再び強烈な氷の矢を放ってきた。それもご丁寧に俺達全員に1本ずつ。
「やべ……!」
「大人しくしてろ。死なねぇから」
矢が放たれたが俺は動けない。アックスのパワーが思った以上に凄くて鍔迫り合いが解けない。
「グリムの邪魔をするなと言ってるだろ」
「“ディフェンション”!」
「危ないわよエミリア」
次の瞬間、俺に向かって飛んでくる氷の矢をフーリンが弾き返した。そして同時にエミリアは防御壁でフーリンに飛んでくる氷の矢をガードし、更にハクは自分への氷の矢を避けつつエミリアの氷の矢を蹴り落としたのだった。
「!?」
「ハッハッハッ! 何だコイツらやるじゃねぇか。指名手配の罪人のくせによ。仲良くお守りごっこか!」
「ふざけんなよお前」
今のは全員が仲間の為に動いた結果だぞ。動き遅れた俺をフーリンが助け、そんなフーリンをエミリアが助けて、更にハクがエミリアを助けたんだ。
それをお守りごっこだと……?
何をふざけた事言ってやがるんだこのクソモヒカンは。
次は俺が皆を守る番――。
「うらッ!」
「なにッ!?」
皆に迷惑を掛けてしまった自分とアックスへの苛立ちを剣に乗せ、俺は勢いよく鍔迫り合いを弾いた。
大きな斧が弾かれ、バランスを崩したアックス。
その僅かな隙を見逃すはずなく、俺は間髪入れずにアックス目掛けて剣を振るった。
――シュバン!
「ぐッ!」
「ちっ、浅いか」
俺の一太刀は確かにアックスに届いていたが、ダメージが浅かった。反射的に身を反らしたアックスはそのまま距離を取って体勢を立て直した。
「くっそ。まさか俺に一撃食らわせるとは」
「不用意に突っ込むからよ」
攻撃を受けたのが気に食わないのか、アックスは鋭い眼光で俺を睨んでいる。
「ありがとなフーリン! 連続で助かったぜ」
「俺も助かったぞエミリア。恩に着る」
「ううん、私こそありがとうハクちゃん!」
「全く。グリムもエミリアもフーリンも、少しは自分の身を守る事を考えてね皆」
俺達が互いに感謝していると、苛立っているアックスが怒号を飛ばしてきた。
~ラドット渓谷~
「ありがとうハク。 相変わらず、凄い断崖だなここは」
「フーリンと出会ったのがつい昨日の事みたいだね」
「何処かに強者はいないか? 是非手合わせしたいのだが」
祖の王国を出発してから2日。
俺達は精霊王イヴがいるというラドット渓谷に着いた。
本当だったら祖の王国からこのラドット渓谷までは何日も移動を要する。途中で灼熱の砂漠や何処までも続く荒野があったりと、その道中もとても険しいもの。ユリマがいない為、転移魔法も使えずにどうしようかと悩んでいたら、ハクがシシガミの姿で俺達を背に乗せてくれた。
これは流石神の力。
当たり前だけど、人の走りや馬とは比べものにならない物凄いスピードで砂漠も荒野も駆け抜けてしまった。祖の王国から僅か2日でラドット渓谷まで辿り着くなんて普通なら有り得ない。
「さて、それじゃあ早速イヴを探そうか」
「ハクちゃん、イヴ様は何処にいるの?」
「イヴはここの大地に眠ってるわ。祖の王国を出てからも何度か魔力を飛ばしたから多分、私達が来ている事には気付いていると思うんだけど……」
ハクはそう言いながら何気なく辺りを見渡し始めた。だが精霊王イヴらしき姿は確認出来ない。
「イヴも魔力が弱まっているから、もしかしたら自力で姿を現せないのかも。こうなったら“霊玉”を割ってイヴを出すしかないわね」
「れいぎょく?」
「うん。イヴはこの大地の中の、霊玉という特殊な玉に身を宿しているの」
ハクは俺達に説明しながら、徐にラドット渓谷を進んで行った。それから暫く進むと急に立ち止まり、地面を指差して俺達の方へと振り返ってきた。
「ここにイヴがいるわ」
ハクが指差す地面は何の変化も見られない普通の大地。俺達は何でもない大地をジッと見ていると、ハクは今度エミリアに話し掛けた。
「エミリア。私がフーリンに神器を託した様に、イブは貴方に神器を託したの。だからこれは貴方に任せるわ。
エミリア、霊玉を割ってイヴを目覚めさせてくれる?」
「え、私が!? 急にそんな事言われても、一体どうやって……」
「簡単よ。霊玉に流れる魔力を感知出来たら、そのままその霊玉に魔力を流し込んでみて」
淡々と説明するハクに困惑しているエミリアだったが、「取り敢えずやってみるね」とハクから言われた通りに意識を集中させ霊玉を探し始めた。
すると、その霊玉とやらの魔力をエミリアが感知した様だ。
「あ、見つけた。コレかな?」
「フフ。思った以上に早かったね。“流石”だよエミリア。そうしたら今度はその霊玉に貴方の魔力を流し込んでみて」
「うん。分かった」
ハクに促され、エミリアは持っていた木の杖の先端を地面に着けると、直ぐに杖が淡く輝き出した。
恐らくエミリアが魔力を流し込んでいるのだろう。
俺とフーリンがただその様子を見守っていると、次の瞬間、パキンッと何かが砕ける様な音が俺達の耳に響いてきた。
「何だ今の音」
「もしやその霊玉とやらが割れたのか?」
急に響いたその音に、俺達は全員反射的に地面に視線を落とした。
だが、数十秒経っても何も起こらない。
「ん、どうした? 霊玉割ったのか?」
「多分……」
「大丈夫、確かにエミリアはちゃんと割ったわ」
「そうなのか? だったら何でッ……「――おいおい、本当にいやがったぜコイツら! アッハッハッ!」
俺の言葉を遮る様に、突如後ろの方から声が聞こえてきた。勿論俺達4人ではない。そう瞬時に理解すると同時、俺達は一斉にその声の主の方へと振り返っていた。
「声がデカいわよアレックス。何でわざわざ敵に気付かせるのよ」
「悪いな。まさか本当にいるなんて思わなくてつい」
俺達の視線の先、そこには大きな斧を抱えたモヒカンの男と、銀色の弓を手にする草冠を付けた女が立っていた。
一目で分かる強者のオーラ。
目の前の2人が何者かと分かるのは直ぐの事だった。
「あ、貴方達は確か、七聖天の……」
エミリアが声を震わせながら出した七聖天という単語。俺はそれだけで十分状況を理解出来た。
「そうか、お前達がヴィルと同じ他の七聖天の奴らか」
「お! アイツの名を出したという事は、お前があのサイコパスの兄貴か。成程、確かに顔が似てるな」
俺の言葉に反応した男が食い気味に口を開いてきた。
「無駄話なんかしていないで、さっさと任務を終わらせるわよアックス」
「お前は真面目だなデイアナ。俺だってそのつもりだっつうの。噂のサイコパス兄貴の面を少しぐらい拝んでもいいだろうが。もう“死ぬ”んだからよ」
アックスと呼ばれた男は次の瞬間、十数メートルはあったであろう俺達との距離を一瞬で詰めるや否や、奴は一掃すると言わんばかりに抱えていた大きな斧を振りかぶっていた。
――ガキィィン!
「あれ、意外と強いのか」
「いきなり何してるんだよお前」
「グリム……!」
奴の大きな斧が振られる刹那、俺は剣を抜いて奴の斧を防いだ。
これが神器を持つ七聖天の力か。団長クラスとはパワーもスピードも桁違いだな流石に。
「いきなりも何も、自分の立場分かってるだろ? 当たり前の事だろうが」
「そりゃそうだ。聞いた俺が馬鹿だった。お前達がその気ならこっちだって遠慮なッ……『――カァァン!』
俺とアックスが剣と斧で鍔迫り合っていると、突如向こう側から凄まじい勢いで何かが飛んできた。俺がその存在を横目で捉えたと同時、そこには天槍ゲインヴォルグを振るったフーリンの姿があった。
「強者同士の手合わせを邪魔するな」
「男って本当に馬鹿ね。真面目な真剣勝負なんて何の意味もないわ」
そう。俺目掛けて飛んできたのは女が放った弓の矢。それをフーリンが今しがた防いでくれたんだ。
「助かったぜフーリン」
「余所見するな。目の前の強者に集中していろグリム。こっちは俺が相手しよう」
「ふーん。って言うかアンタ達誰なのよ。私が用あるのはシシガミとヴィルの兄。後は殺しても構わないと国王からも命じられてるの……“アイスド・アロー”」
デイアナはそう言うと瞬時に魔力を練り上げ、再び強烈な氷の矢を放ってきた。それもご丁寧に俺達全員に1本ずつ。
「やべ……!」
「大人しくしてろ。死なねぇから」
矢が放たれたが俺は動けない。アックスのパワーが思った以上に凄くて鍔迫り合いが解けない。
「グリムの邪魔をするなと言ってるだろ」
「“ディフェンション”!」
「危ないわよエミリア」
次の瞬間、俺に向かって飛んでくる氷の矢をフーリンが弾き返した。そして同時にエミリアは防御壁でフーリンに飛んでくる氷の矢をガードし、更にハクは自分への氷の矢を避けつつエミリアの氷の矢を蹴り落としたのだった。
「!?」
「ハッハッハッ! 何だコイツらやるじゃねぇか。指名手配の罪人のくせによ。仲良くお守りごっこか!」
「ふざけんなよお前」
今のは全員が仲間の為に動いた結果だぞ。動き遅れた俺をフーリンが助け、そんなフーリンをエミリアが助けて、更にハクがエミリアを助けたんだ。
それをお守りごっこだと……?
何をふざけた事言ってやがるんだこのクソモヒカンは。
次は俺が皆を守る番――。
「うらッ!」
「なにッ!?」
皆に迷惑を掛けてしまった自分とアックスへの苛立ちを剣に乗せ、俺は勢いよく鍔迫り合いを弾いた。
大きな斧が弾かれ、バランスを崩したアックス。
その僅かな隙を見逃すはずなく、俺は間髪入れずにアックス目掛けて剣を振るった。
――シュバン!
「ぐッ!」
「ちっ、浅いか」
俺の一太刀は確かにアックスに届いていたが、ダメージが浅かった。反射的に身を反らしたアックスはそのまま距離を取って体勢を立て直した。
「くっそ。まさか俺に一撃食らわせるとは」
「不用意に突っ込むからよ」
攻撃を受けたのが気に食わないのか、アックスは鋭い眼光で俺を睨んでいる。
「ありがとなフーリン! 連続で助かったぜ」
「俺も助かったぞエミリア。恩に着る」
「ううん、私こそありがとうハクちゃん!」
「全く。グリムもエミリアもフーリンも、少しは自分の身を守る事を考えてね皆」
俺達が互いに感謝していると、苛立っているアックスが怒号を飛ばしてきた。