やる気になったアックス。一方のデイアナ至って変わらないが、2人は早速ラドット渓谷に向かおうと踵を返して玉座の間を後にした。
だが、玉座の間を出ようとした瞬間、不敵な笑い声が彼らの歩みを止めた。
「ハハハハハ。なぁんだ、俺も行きたかったのに選ばれなかったか」
単調な感じで言葉を漏らし、玉座の間の大きな柱の陰から出て来たのはヴィル・レオハートだった。
「おー、出たな。サイコパス」
「ハハハ、何それ。滅茶苦茶誉め言葉だよね」
「何か用なのヴィル?」
食い気味にデイアナがヴィルへと問いかけた。
「いや、別に。用なんて無いけどさ、アックスとデイアナは今からアイツら倒しに行くんだよね?」
「それがどうしたのよ。正確にはまだ来るかも分からないけどね」
「多分来ると思う、俺の勘だと。まぁ“心配”はしていないんだけどね、一応俺が兄さん殺そうとしてる事は知ってるよな?」
突如放たれた殺気。それはヴィルからアックスとデイアナへの警告の意味を成していた。
“兄さんは俺の獲物だから手を出すな”と――。
「ハッハッハッ! やっぱ相変わらずだなお前は、ヴィル。それだけの為に俺らにまで殺気を放つか」
「当たり前さ。コレだけは誰にも譲らない、それに“それだけ”何てお前が人の物の価値を決めるなよ」
――ゾク……。
ヴィルから放たれる尋常じゃない殺気に、アックスは思わず生唾を飲み込んでいた。
「貴方の気持ちは分かってるわ。だから同じ七聖天や他の団員達を無意味に脅さないでくれるかしら。正直誰も貴方達の兄弟喧嘩に興味ないの。見つけたら直ぐに教えてあげるわ」
「ハハハ、やっぱ話が分かるねデイアナは。ありがとう!」
ヴィル達が話していると、今の会話を聞いていた国王が突然目を見開かせながらヴィルに声を掛けた。
「い、今のはどういう事だヴィル」
「何がですか? 国王」
「其方今“兄さん”と言ったか……? そ、それはもしかして」
「あれ、俺まだ言ってなかった? そうですよ。白銀のモンスターである獣天シシガミを連れて逃げているのは、俺の実の兄である“グリム・レオハート”です。団員の誰かから報告受けてません?」
「馬鹿な……!」
そう。国王は知らなかった――。
報告を受けていたハクと共に逃げている謎の青年が、8年前にこの王国から追放したあのレオハート家の長男であったグリム・レオハートであるという事を。
グリムと戦ったラシェルを始め、他の数十人の団員達は確かにグリムの顔を見ていた。だが、その青年がリューティス王国で一時噂になっていた、あの呪われた世代とも謳われるきっかけとなったグリム・レオハート本人であるとは、誰も知る由が無かったのだ。
勿論、白銀のモンスターを連れているという事や双剣を使っている等の外的情報は伝わっていたが、肝心の名前や顔がこの時まで国王の元に情報が届く事は無かったのである。
先のハクとの話し合いにおいても、ハクは自分達3神柱の存在や深淵神アビス、終焉のきっかけや歴史は全て伝えていたが、彼女は話し合いの最後の最後でグリム達の事を伝えるのを止め隠した。
何故ならば、ハクは話し合いの最中で既に国王がこの話に快諾する事はないと察知していた。
そして案の定、ハクの申し出を拒否した国王は訪れていた終焉に対しハク達と共に手を取り合うどころか、ハクを終焉の元凶だと虚言し偽りの真実を広めてしまったのである。
「その様子だと本当に知らなかったんですね、国王は」
笑いながら言うヴィルとは裏腹に、国王は予想外の事実に驚いている。
(何という事だ……。まさか本当に、あのレオハート家の長男が生きていたとは。スキルも覚醒していなかった筈なのに、ずっと辺境の森で生き延びていたというのか!?
いや、待て。落ち着くのだ。今更生きていた事はどうでもいい。
それよりも、何故グリム・レオハートとシシガミが共に動いているのだ? 報告では団長が数人やられたとの事であったが、まさかそれも奴の仕業なのか。
もしやシシガミ……。彼奴、私に言っていない何かまだ重要な事を隠しているな――)
今一度冷静になった国王。彼は自らも先手を打たねばと新たな思惑を熟考するのであった。
「それよりもさ、2人共」
国王と話していたヴィルは再びアックスとデイアナの方を向いた。
「何だよ」
「釘を刺しといてアレだけど、君達で勝てるのかな? 兄さん達に」
「あぁ? 俺じゃ負けるって言いたいのか」
「いやいや、それはどうか分からないんだけどね、正直今の兄さん結構強いと思うよ。お前が思っている以上にね――」
ヴィルは心の底から純粋にグリムを殺したいと思っている。
それは勿論、由緒ある自身のレオハートという名に泥を塗り恥をかかせたから。そして大団長であった父親にも、騎士魔法団にも、リューティス王国にもその罪を被らせた。
だからヴィルはグリムを自分の手で殺すのが1番のケジメだと考えていたのだ。
自分と兄ではもうその実力差は明らか。グリムでは自分の足元にすら及ばないと確信していた。
そして、それは確かな現実となった。
グリムはまるでヴィルに歯が立たない。エミリアとフーリンがやられ、自分も当たり前の如くヴィルに敗れてしまった。
騎士団創設以来の最年少記録で大団長となったその実力は本物。
今や間違いなくリューティス王国で最も強いのはヴィル・レオハート。それは同じ神器に選ばれた七聖天でさえも満場一致の見解であった。
だが……ヴィル本人だけは“違った”。
彼は実際にグリムと対峙し、その戦いに勝った。しかし、グリムが死にかけながら最後に見せた波動。ヴィルは、その何とも言えない驚異的な力を一瞬だが確かにグリムから垣間見ていたのだ。だからこそ、まだ“真の力”を隠している兄さんに勝てるのかと、ヴィルはアックス達に問いかけているのだ――。
「別に油断はしてねぇよ。でもだからといって警戒する程の強さでもねぇだろ。まぁ安心して待ってろ。ちゃんとお前の兄貴は殺さず連れてきてやるからよ!」
「……ふーん、あっそ。これなら“やっぱり心配なさそう”だね。行ってらっしゃい」
ヴィルはそう言って2人に手を振った。
話が済んだアックスとデイアナは今度こそラドット渓谷に向かうべく、玉座の間を後にしたのだった。
「さて、俺は俺で準備するか――」
だが、玉座の間を出ようとした瞬間、不敵な笑い声が彼らの歩みを止めた。
「ハハハハハ。なぁんだ、俺も行きたかったのに選ばれなかったか」
単調な感じで言葉を漏らし、玉座の間の大きな柱の陰から出て来たのはヴィル・レオハートだった。
「おー、出たな。サイコパス」
「ハハハ、何それ。滅茶苦茶誉め言葉だよね」
「何か用なのヴィル?」
食い気味にデイアナがヴィルへと問いかけた。
「いや、別に。用なんて無いけどさ、アックスとデイアナは今からアイツら倒しに行くんだよね?」
「それがどうしたのよ。正確にはまだ来るかも分からないけどね」
「多分来ると思う、俺の勘だと。まぁ“心配”はしていないんだけどね、一応俺が兄さん殺そうとしてる事は知ってるよな?」
突如放たれた殺気。それはヴィルからアックスとデイアナへの警告の意味を成していた。
“兄さんは俺の獲物だから手を出すな”と――。
「ハッハッハッ! やっぱ相変わらずだなお前は、ヴィル。それだけの為に俺らにまで殺気を放つか」
「当たり前さ。コレだけは誰にも譲らない、それに“それだけ”何てお前が人の物の価値を決めるなよ」
――ゾク……。
ヴィルから放たれる尋常じゃない殺気に、アックスは思わず生唾を飲み込んでいた。
「貴方の気持ちは分かってるわ。だから同じ七聖天や他の団員達を無意味に脅さないでくれるかしら。正直誰も貴方達の兄弟喧嘩に興味ないの。見つけたら直ぐに教えてあげるわ」
「ハハハ、やっぱ話が分かるねデイアナは。ありがとう!」
ヴィル達が話していると、今の会話を聞いていた国王が突然目を見開かせながらヴィルに声を掛けた。
「い、今のはどういう事だヴィル」
「何がですか? 国王」
「其方今“兄さん”と言ったか……? そ、それはもしかして」
「あれ、俺まだ言ってなかった? そうですよ。白銀のモンスターである獣天シシガミを連れて逃げているのは、俺の実の兄である“グリム・レオハート”です。団員の誰かから報告受けてません?」
「馬鹿な……!」
そう。国王は知らなかった――。
報告を受けていたハクと共に逃げている謎の青年が、8年前にこの王国から追放したあのレオハート家の長男であったグリム・レオハートであるという事を。
グリムと戦ったラシェルを始め、他の数十人の団員達は確かにグリムの顔を見ていた。だが、その青年がリューティス王国で一時噂になっていた、あの呪われた世代とも謳われるきっかけとなったグリム・レオハート本人であるとは、誰も知る由が無かったのだ。
勿論、白銀のモンスターを連れているという事や双剣を使っている等の外的情報は伝わっていたが、肝心の名前や顔がこの時まで国王の元に情報が届く事は無かったのである。
先のハクとの話し合いにおいても、ハクは自分達3神柱の存在や深淵神アビス、終焉のきっかけや歴史は全て伝えていたが、彼女は話し合いの最後の最後でグリム達の事を伝えるのを止め隠した。
何故ならば、ハクは話し合いの最中で既に国王がこの話に快諾する事はないと察知していた。
そして案の定、ハクの申し出を拒否した国王は訪れていた終焉に対しハク達と共に手を取り合うどころか、ハクを終焉の元凶だと虚言し偽りの真実を広めてしまったのである。
「その様子だと本当に知らなかったんですね、国王は」
笑いながら言うヴィルとは裏腹に、国王は予想外の事実に驚いている。
(何という事だ……。まさか本当に、あのレオハート家の長男が生きていたとは。スキルも覚醒していなかった筈なのに、ずっと辺境の森で生き延びていたというのか!?
いや、待て。落ち着くのだ。今更生きていた事はどうでもいい。
それよりも、何故グリム・レオハートとシシガミが共に動いているのだ? 報告では団長が数人やられたとの事であったが、まさかそれも奴の仕業なのか。
もしやシシガミ……。彼奴、私に言っていない何かまだ重要な事を隠しているな――)
今一度冷静になった国王。彼は自らも先手を打たねばと新たな思惑を熟考するのであった。
「それよりもさ、2人共」
国王と話していたヴィルは再びアックスとデイアナの方を向いた。
「何だよ」
「釘を刺しといてアレだけど、君達で勝てるのかな? 兄さん達に」
「あぁ? 俺じゃ負けるって言いたいのか」
「いやいや、それはどうか分からないんだけどね、正直今の兄さん結構強いと思うよ。お前が思っている以上にね――」
ヴィルは心の底から純粋にグリムを殺したいと思っている。
それは勿論、由緒ある自身のレオハートという名に泥を塗り恥をかかせたから。そして大団長であった父親にも、騎士魔法団にも、リューティス王国にもその罪を被らせた。
だからヴィルはグリムを自分の手で殺すのが1番のケジメだと考えていたのだ。
自分と兄ではもうその実力差は明らか。グリムでは自分の足元にすら及ばないと確信していた。
そして、それは確かな現実となった。
グリムはまるでヴィルに歯が立たない。エミリアとフーリンがやられ、自分も当たり前の如くヴィルに敗れてしまった。
騎士団創設以来の最年少記録で大団長となったその実力は本物。
今や間違いなくリューティス王国で最も強いのはヴィル・レオハート。それは同じ神器に選ばれた七聖天でさえも満場一致の見解であった。
だが……ヴィル本人だけは“違った”。
彼は実際にグリムと対峙し、その戦いに勝った。しかし、グリムが死にかけながら最後に見せた波動。ヴィルは、その何とも言えない驚異的な力を一瞬だが確かにグリムから垣間見ていたのだ。だからこそ、まだ“真の力”を隠している兄さんに勝てるのかと、ヴィルはアックス達に問いかけているのだ――。
「別に油断はしてねぇよ。でもだからといって警戒する程の強さでもねぇだろ。まぁ安心して待ってろ。ちゃんとお前の兄貴は殺さず連れてきてやるからよ!」
「……ふーん、あっそ。これなら“やっぱり心配なさそう”だね。行ってらっしゃい」
ヴィルはそう言って2人に手を振った。
話が済んだアックスとデイアナは今度こそラドット渓谷に向かうべく、玉座の間を後にしたのだった。
「さて、俺は俺で準備するか――」