♢♦♢
~リューティス王国・王都~
グリム達がハクの力を取り戻し、フーリンに天槍ゲインヴォルグが授けられた頃、祖の王国から遠く離れたリューティス王国の王都では、何があったか声を荒げる国王の怒号が城に響いていた――。
「たかだかモンスター1匹仕留めるのにどれだけ労力を費やしておるのだ無能共めッ!」
「も、申し訳ございません……!」
虫の居所が悪い国王。彼は中々ハクとグリム達が捕まらない事に苛立っていた。国王の前では数人の団員達が頭を垂れている。
「頭を下げている暇があるなら状況を報告しろ! 反逆者のユリマが匿っていた白銀のモンスター達は何処に行ったのだ」
「は、はい。デバレージョ町を調べたところ、我々が町へ踏み込んだ時には既にいなかった事が分かっております。
そして奴らはユリマ様の力によって、祖の王国へと転移した模様です!」
「祖の王国だと? 成程、貴様達も何やらコソコソと動き回っている様だなシシガミ。小癪なクソ狼め。何が3神柱だ、笑わせる。反逆者の女に“様”など付けるではない!」
悪態を付く国王。だが怒る姿とは裏腹に、頭は冷静に物事を処理していた。
(祖の王国か……。あそこは大陸でも最果てに位置する獣人族の国。シシガミ達が向かったのであればそれなりの理由がある筈。
奴らが深淵神アビスと接触する前に、こちらも戦力を整えて準備をしておかなければならぬ。
我らが深淵神アビスを制する前に、先ずは最も邪魔な奴らを排除する。その為には――)
考えがまとまった国王は直ちに次の命を下す。
「よいか皆の者! 今から私が話す事は全ての真実であり、世界の結末でもある。だから心して聞くのだ。そして、他の全団員達にこの事を伝えるのだ!」
国王は目の前にいる団員達にそう命じると、彼はそのまま語り始めた。
「白銀のモンスターの正体、それは今まさにこの世界をに終焉を破滅訪れさせている深淵の世界の“邪神”である!
この邪神の名は“3神柱”と呼ばれる存在であり、『シシガミ』『イヴ』『ドラドムート』というこの3体が存在する。この邪神は何百年も前から姿を変えこの世界に隠れていたのだ!
邪神の目的は当然世界の破滅であり、奴らにとって最も都合の悪い“女神様”の命を狙っている。
言わずもがな、女神様は我々にスキルを与えてくれる偉大な神。そんな女神様に迫る邪を我々が払いのけないで、誰がやってくれようかッ!
皆が追っている白銀のモンスターこそが『シシガミ』という邪神の1体である! 他にもラドット渓谷と辺境の森にそれぞれこの邪神達が潜んでいると情報を得た。だからこそ私は白銀のモンスターを追い、邪神が隠れているであろう森を焼き払ったのだ!
だが、しぶとい奴らはまだ裏でコソコソと動いている。白銀のモンスター……シシガミは必ずやまたラドット渓谷と辺境の森で、他の邪神達との接触を試みるだろう。そこを狙って何としてでも奴らを仕留めるのだ!
それが出来なければ、皆の命は勿論、大切な家族や友人、そしてリューティス王国が、世界が奴らに奪われてしまう。
私は国王として、国民に断じてそんな辛い未来を歩ませない! 今こそ我らリューティス王国の最強騎士魔法団の力を見せつける時。
邪神に何1つとして奪われたくなければ、総員全力で奴を追うのだ!」
「「はッッ――!!」」
この瞬間、リューティス王国の国王という1人の人間によって、強欲と虚偽に捻じ曲げられた偽りの真相が多くの者達に轟いてしまった。
全ての団員達は国王を疑わない。
それどころか、今までは明確な理由も伝えられる事無くただただ国王からの命だという使命感だけで動いていた多くの団員達が、ここにきてその真相を明かされ、自分達や大切な人達にまで危険が迫ると知ったこの状況で誰が国王を疑うだろうか。
「これまで通りノーバディとラグナレクに対応しつつ、動ける者を集めてラドット渓谷と辺境の森へ配備しろ!
そこで不審な動きを見せる物は直ちに拘束。もしシシガミやその味方をする人間共、他の邪神が現れたら直ちに仕留めるのだ!
私が今話した事を他の団員や七聖天全員にも伝えろ! 何としてでも邪神3体をしとめるのだ!」
国王から命令を下され、目の前にいた団員達は一斉に玉座の間を後にした。団員達が出て行った後、空になった玉座の間のとある方向を見て国王は再び口を開いた。
「今回の指揮はお前達に任せるぞ」
国王の視線の先、そこには七聖天のメンバーである『大戦斧ニルドール』に選ばれし“アックス・トマーホク”と『狩弓アルテミス』に選ばれし“デイアナ・ムンサルト”がいた――。
「ただ待ってるだけの指揮なんて退屈だな」
「口を慎みなさいアックス。国王様の命よ」
大きな両斧刃の斧を担ぎ、いまいちやる気が乗らない様子で答えたアックス。彼のやる気とは反対に、特徴的なモヒカンは真っ直ぐ上を向いている。
「フハハハ、流石頼もしい七聖天だ。安心せよアックス。其方達に任せる本命は退屈な指揮ではない」
「なんだ、まだ他にあるのかよ。退屈しないんだろうなそれは」
「だから口を慎め筋肉バカ」
「其方達に頼みたいのは他でもない、ラドット渓谷に潜む邪神“イヴの破壊”だ――」
国王は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「イヴって何だ?」
国王の言葉に首を傾げるアックス。デイアナもその言葉に聞き覚えがない様子。
「イヴとは『精霊王イヴ』と呼ばれる3神柱の1体の邪神である。邪神はその名の通り3体の神がおり、白銀のモンスターの本当の名が『獣天シシガミ』と言う邪神の1体。
更に辺境の森に聳え立つ世界樹エデン。アレには『竜神王ドラドムート』という邪神が潜んでおり、ラドット渓谷にこのイヴという邪神が潜んでおる。
そして、この邪神達こそが今世界に訪れている終焉の元凶なのだ」
どんどんと捻じ曲げられていく真実。
国王は何時ぞやのハクとの話し合いで確かに未来を告げられたにも関わらず、スキルや力を失ってリューティス王国が衰退してしまう事を何より恐れていた。
それと同時に、女神様……深淵神アビスの力とリューティス王国の歴史を知った国王は何としてでも同じ歴史を繰り返したくなかった。彼から出る言葉は偽りだらけであったが、自分達の国であるリューティス王国を衰退させたくないという思いと、神器を手にした七聖天の力ならば誰が相手でも勝てるという思いだけは偽りなく強く存在していたのだ。
グリム達と3神柱が深淵神アビスを倒そうとするならば、彼らを殺してしまえばいい。
深淵神アビスが自分達に歯向かい世界を乗っ取るつもりならば、彼女を殺してしまえばいい。
国王のこの決意はもう揺るがない――。
「成程。だから国王様は血眼でそのシシガミという白銀のモンスターを探し、辺境の森を焼いたのですね」
「ああ、そうだ。まぁ結果は思っていたのと違っておるがな」
「潜んでいるってよ、あんな断崖しかないラドット渓谷の“何処に”邪神とやらがいるんだ?」
「邪神イヴはラドット渓谷の大地そのものとなって存在しているらしい。正確に奴の居場所は分からぬが、其方の持つ『大戦斧ニルドール』であれば、大地を割るのも簡単であろう? アックスよ」
国王からの予想外の命に、アックスは明らかにやる気になっている。
「そうそうそう! そういう事だぜ国王様。邪神の討伐なんて面白そうじゃねぇか。ラグナレクを葬った時みたいに俺が一撃で片付けてやるよ。イヴとかいう邪神も他の連中も殺していいんだよな、国王様」
「ああ。勿論だとも。それがこの世界を救う唯一の手段なのだからな――」
~リューティス王国・王都~
グリム達がハクの力を取り戻し、フーリンに天槍ゲインヴォルグが授けられた頃、祖の王国から遠く離れたリューティス王国の王都では、何があったか声を荒げる国王の怒号が城に響いていた――。
「たかだかモンスター1匹仕留めるのにどれだけ労力を費やしておるのだ無能共めッ!」
「も、申し訳ございません……!」
虫の居所が悪い国王。彼は中々ハクとグリム達が捕まらない事に苛立っていた。国王の前では数人の団員達が頭を垂れている。
「頭を下げている暇があるなら状況を報告しろ! 反逆者のユリマが匿っていた白銀のモンスター達は何処に行ったのだ」
「は、はい。デバレージョ町を調べたところ、我々が町へ踏み込んだ時には既にいなかった事が分かっております。
そして奴らはユリマ様の力によって、祖の王国へと転移した模様です!」
「祖の王国だと? 成程、貴様達も何やらコソコソと動き回っている様だなシシガミ。小癪なクソ狼め。何が3神柱だ、笑わせる。反逆者の女に“様”など付けるではない!」
悪態を付く国王。だが怒る姿とは裏腹に、頭は冷静に物事を処理していた。
(祖の王国か……。あそこは大陸でも最果てに位置する獣人族の国。シシガミ達が向かったのであればそれなりの理由がある筈。
奴らが深淵神アビスと接触する前に、こちらも戦力を整えて準備をしておかなければならぬ。
我らが深淵神アビスを制する前に、先ずは最も邪魔な奴らを排除する。その為には――)
考えがまとまった国王は直ちに次の命を下す。
「よいか皆の者! 今から私が話す事は全ての真実であり、世界の結末でもある。だから心して聞くのだ。そして、他の全団員達にこの事を伝えるのだ!」
国王は目の前にいる団員達にそう命じると、彼はそのまま語り始めた。
「白銀のモンスターの正体、それは今まさにこの世界をに終焉を破滅訪れさせている深淵の世界の“邪神”である!
この邪神の名は“3神柱”と呼ばれる存在であり、『シシガミ』『イヴ』『ドラドムート』というこの3体が存在する。この邪神は何百年も前から姿を変えこの世界に隠れていたのだ!
邪神の目的は当然世界の破滅であり、奴らにとって最も都合の悪い“女神様”の命を狙っている。
言わずもがな、女神様は我々にスキルを与えてくれる偉大な神。そんな女神様に迫る邪を我々が払いのけないで、誰がやってくれようかッ!
皆が追っている白銀のモンスターこそが『シシガミ』という邪神の1体である! 他にもラドット渓谷と辺境の森にそれぞれこの邪神達が潜んでいると情報を得た。だからこそ私は白銀のモンスターを追い、邪神が隠れているであろう森を焼き払ったのだ!
だが、しぶとい奴らはまだ裏でコソコソと動いている。白銀のモンスター……シシガミは必ずやまたラドット渓谷と辺境の森で、他の邪神達との接触を試みるだろう。そこを狙って何としてでも奴らを仕留めるのだ!
それが出来なければ、皆の命は勿論、大切な家族や友人、そしてリューティス王国が、世界が奴らに奪われてしまう。
私は国王として、国民に断じてそんな辛い未来を歩ませない! 今こそ我らリューティス王国の最強騎士魔法団の力を見せつける時。
邪神に何1つとして奪われたくなければ、総員全力で奴を追うのだ!」
「「はッッ――!!」」
この瞬間、リューティス王国の国王という1人の人間によって、強欲と虚偽に捻じ曲げられた偽りの真相が多くの者達に轟いてしまった。
全ての団員達は国王を疑わない。
それどころか、今までは明確な理由も伝えられる事無くただただ国王からの命だという使命感だけで動いていた多くの団員達が、ここにきてその真相を明かされ、自分達や大切な人達にまで危険が迫ると知ったこの状況で誰が国王を疑うだろうか。
「これまで通りノーバディとラグナレクに対応しつつ、動ける者を集めてラドット渓谷と辺境の森へ配備しろ!
そこで不審な動きを見せる物は直ちに拘束。もしシシガミやその味方をする人間共、他の邪神が現れたら直ちに仕留めるのだ!
私が今話した事を他の団員や七聖天全員にも伝えろ! 何としてでも邪神3体をしとめるのだ!」
国王から命令を下され、目の前にいた団員達は一斉に玉座の間を後にした。団員達が出て行った後、空になった玉座の間のとある方向を見て国王は再び口を開いた。
「今回の指揮はお前達に任せるぞ」
国王の視線の先、そこには七聖天のメンバーである『大戦斧ニルドール』に選ばれし“アックス・トマーホク”と『狩弓アルテミス』に選ばれし“デイアナ・ムンサルト”がいた――。
「ただ待ってるだけの指揮なんて退屈だな」
「口を慎みなさいアックス。国王様の命よ」
大きな両斧刃の斧を担ぎ、いまいちやる気が乗らない様子で答えたアックス。彼のやる気とは反対に、特徴的なモヒカンは真っ直ぐ上を向いている。
「フハハハ、流石頼もしい七聖天だ。安心せよアックス。其方達に任せる本命は退屈な指揮ではない」
「なんだ、まだ他にあるのかよ。退屈しないんだろうなそれは」
「だから口を慎め筋肉バカ」
「其方達に頼みたいのは他でもない、ラドット渓谷に潜む邪神“イヴの破壊”だ――」
国王は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「イヴって何だ?」
国王の言葉に首を傾げるアックス。デイアナもその言葉に聞き覚えがない様子。
「イヴとは『精霊王イヴ』と呼ばれる3神柱の1体の邪神である。邪神はその名の通り3体の神がおり、白銀のモンスターの本当の名が『獣天シシガミ』と言う邪神の1体。
更に辺境の森に聳え立つ世界樹エデン。アレには『竜神王ドラドムート』という邪神が潜んでおり、ラドット渓谷にこのイヴという邪神が潜んでおる。
そして、この邪神達こそが今世界に訪れている終焉の元凶なのだ」
どんどんと捻じ曲げられていく真実。
国王は何時ぞやのハクとの話し合いで確かに未来を告げられたにも関わらず、スキルや力を失ってリューティス王国が衰退してしまう事を何より恐れていた。
それと同時に、女神様……深淵神アビスの力とリューティス王国の歴史を知った国王は何としてでも同じ歴史を繰り返したくなかった。彼から出る言葉は偽りだらけであったが、自分達の国であるリューティス王国を衰退させたくないという思いと、神器を手にした七聖天の力ならば誰が相手でも勝てるという思いだけは偽りなく強く存在していたのだ。
グリム達と3神柱が深淵神アビスを倒そうとするならば、彼らを殺してしまえばいい。
深淵神アビスが自分達に歯向かい世界を乗っ取るつもりならば、彼女を殺してしまえばいい。
国王のこの決意はもう揺るがない――。
「成程。だから国王様は血眼でそのシシガミという白銀のモンスターを探し、辺境の森を焼いたのですね」
「ああ、そうだ。まぁ結果は思っていたのと違っておるがな」
「潜んでいるってよ、あんな断崖しかないラドット渓谷の“何処に”邪神とやらがいるんだ?」
「邪神イヴはラドット渓谷の大地そのものとなって存在しているらしい。正確に奴の居場所は分からぬが、其方の持つ『大戦斧ニルドール』であれば、大地を割るのも簡単であろう? アックスよ」
国王からの予想外の命に、アックスは明らかにやる気になっている。
「そうそうそう! そういう事だぜ国王様。邪神の討伐なんて面白そうじゃねぇか。ラグナレクを葬った時みたいに俺が一撃で片付けてやるよ。イヴとかいう邪神も他の連中も殺していいんだよな、国王様」
「ああ。勿論だとも。それがこの世界を救う唯一の手段なのだからな――」