フーリンの一言によって、場はまた静寂に包まれた。
周りの獣人族達は何が起こったのか分かっていない様子。正確に言えばそれは俺達も同じだったが、獣人族達より距離が近かった分、今の一瞬の出来事を視界に捉える事が出来ていた。
そして俺達以外にも、自身の攻撃を掻き消されたラウアー本人もまた今の出来事を理解していた。
「成程……。貴様がシシガミ様の力に選ばれた人間か――」
「俺は難しい話が苦手だ。お前も俺と似た匂いがする。互いに言葉よりも、もっと分かりやすい1番の方法があるだろう?」
箙から新しい槍を取り出しながら切っ先をラウアーに向け、フーリンはそう言った。
ラウアーと対峙するフーリン。
紛れもなく、先程のラウアーの雷弾を掻き消したのはフーリンであった。モロウが動き出すよりも早く動き出したフーリンは瞬時に波動を練り上げ、奴が放った雷弾を槍で一掃したのだ。
「やっぱり……こうなる事は避けられないの……?」
切ない表情で言葉を漏らしたハク。
言わずもがな、ハクもモロウも俺もエミリアもこんな展開は望んでいない。それは勿論フーリンもだろう。人間と獣人族が再び共存出来る事を目指しているのに、ここで争いが起こるなんて本末転倒。
だが、俺達はそう思いながらもその思いと相反して、これは互いに避けては通れない運命なのだろうとも感じていた。
そんな思いを誰よりも早く悟ったのがフーリン。
ラウアーは今でも人間を恨んでいる。
それは数百年前よりも更に強く深く。そして恨む人間達の中でも、更に1番強い恨みや憎悪を抱いているのが間違いなくフーリンであった。
「グハハハ。まさか俺との戦いを望んでいるのか。笑わせる。マグレで一撃防いだからと言って、貴様が俺に勝てるとでも本気で思っているのか? 愚かな下級生物の人間が」
「マグレじゃないわよラウアー」
力強く言い放ったのはハク。
つい数秒前までの切ない表情から一変し、彼女は何かを決意したのか、揺るぎない真っ直ぐな瞳をラウアーに向けながら言っていた。
「マグレでなければ何だと言うのだ。人間如きがその実力で俺の攻撃を防いだと?」
「そうよ。確かに、人間は貴方達獣人族に比べれば弱い存在かもしれない。だけど、人間は貴方達が思っている以上に何処までも強くなれる存在でもあるの」
「それは禁忌に触れ、深淵の力などを手にしたからだろう」
「違う。人間の真の強さは、深淵の力なんて遥かに凌駕してしまうわ」
「だったら何故人間共は深淵の力に手を染めたのだ! そうする事でしか力を得られない下級生物だからだろう!
3神柱の力など与えたらコイツらはまた勘違いする。それを防ぐ為に俺は人間達を殺すのだ!」
「そう。分かったわラウアー。本当は嫌だけど、貴方はやはりその身に受けなければ理解してれないみたいね」
静かにそう言うと、ハクはラウアーからフーリンへと視線を移した。
「フーリン。貴方ならきっとラウアーに勝てるわ。あの子に真の強さをというものを分からせてあげてほしい」
「初めからそのつもりだ。ハクの言う強さとやらは俺にもよく分からないが、俺はただ強者と手合わせをして勝つだけだ」
槍を手に、フーリンは凄まじい波動を練り上げてラウアーに鋭い視線を飛ばした。一方のラウアーも負けじと魔力を練り上げフーリンを威圧する。
避けては通れないフーリンとラウアーの運命。
両者の交わりは、大地を力強く蹴って間合いを詰めたフーリンの攻撃から幕を上げた――。
「はあッ!」
フーリンがラウアーに向け槍を突く。初手から喉元を狙う躊躇ない攻撃であったが、ラウアーはその巨漢からは想像しがたい程の動きの速さでフーリンの突きを躱した。
「遅いわ、人間」
次の瞬間、突きを躱したラウアーは同時にフーリンへ攻撃を仕掛る。屈強な肉体から繰り出されたのは腹部を狙ったパンチ。だが、人間よりも遥かに体の大きいラウアーのその拳は、通常のそれとは異なる凄まじい威力を生み出しフーリンを襲った。
――ドゴォォンッ!
「ぐ……ッ!」
クリーンヒットしたラウアーの右拳。
まるで隕石の様なその拳を食らったフーリンは一瞬で数十メートル先までぶっ飛ばされてしまった。
「おい、フーリン!?」
フーリンが攻撃を食らった瞬間、俺は反射的に自らも剣を抜きラウアーに突っ込もうとしていた。だがそんな俺をモロウが止める。
「待て。これは彼とラウアーの戦いだ。其方は加わるな」
「そんな事言われても……フーリンに何かあってからじゃ遅いだろ!」
「私からもお願いグリム。この戦いはフーリンに任せてほしい」
「ハク……」
「大丈夫。絶対フーリンはラウアーに勝てるから」
ハクは優しく微笑みながらそう言った。
本当に大丈夫なのか……?
確かにフーリンは強い。でもラウアーはそれ以上だぞ。深淵神アビスがこの世界に現れるまで奴がトップの実力だったらしいが、どうやらそれも本当の事みたいだ。何せあのラグナレクよりも強い魔力を放っている。
「グハハハ、呆気ない。もう終わりか人間」
見下す様に高笑いをするラウアー。
数十メートル先で、徐々に晴れていく土埃の中からゆっくりと立ち上がるフーリンの姿が確認出来た。
「久しぶりにかなりの強者と出くわした……。胸が高鳴っている」
立ち上がるフーリンは折れた槍を地面に投げ捨て、また新しい槍を取り出していた。どうやら間一髪の所で槍をガードに使ったらしい。だが、ラウアーの強烈な攻撃のダメージを少なからず受けている様だ。
「一撃でフラついているな。人間は余りに脆いものだ。それに何だその安っぽい槍は。直ぐに折れるじゃないか」
「生憎コレしか使えないんでな。残りは8本……。それまでにお前を倒してやろうラウアー」
「戯言ばかりほざくな人間。コレで終わりだ!」
フラつくフーリンを見て、ラウアーは勝負を終わらせようと自身が得意とする雷魔法を繰り出した。放たれた雷は瞬く間に獣の様な形へ変化し、バチバチと激しい音を生じさせながらまるで本当の生きた獣かの如くフーリンに襲い掛かる。
――ザシュン! ……バキン。
「ちっ。やはりこの攻撃が……」
完全に仕留めに掛かったラウアーの攻撃であったが、その雷の獣ははフーリンの土の槍によって貫かれ消滅してしまった。
そう。
ラウアーの雷に対しフーリンの槍は土。図らずも、フーリンの槍はラウアーの雷魔法と相性が良かった。とは言っても、ラウアーの強力な攻撃を打ち消すことが出来るのはフーリン実力あってこそだろう。
今の攻撃でラウアーもその事を確信した様子。
しかし、幾ら相性が良かったとしても、当然それだけで勝ちが決まる訳ではない。
「ならば残りの槍が全て折れるまで雷を放ってやろう。その後無力になった貴様を甚振ってくれるわ」
「それが出来ればな」
「なッ!?」
波動よりも上の超波動――。
フーリンは瞬時に超波動を纏うや否や、輝く青白い光と共にさっきよりも速い速度で一気にラウアーと距離を詰めた。超波動によって高められた身体能力はよりフーリンの動きを活発化させ、速度も威力も更に増幅。
2撃、3撃、4撃、5撃。
フーリンの鋭い連続攻撃がラウアーを襲い、ラウアーはそのフーリンの連撃を何とか凌ぐ。
「くッ! 鬱陶しい槍だ」
息もつかせぬフーリンの槍術に、躱す事で精一杯のラウアーは魔法を繰り出せずにいた。
そして、繰り返される激しい攻防の中で、遂にフーリンの槍がラウアーを捉えた。
――シュバ!
「がッ⁉」
フーリンの槍はラウアーの脇腹を捉え、食らったラウアーは傷口から血を垂らし一旦フーリンと距離を取るのだった。
周りの獣人族達は何が起こったのか分かっていない様子。正確に言えばそれは俺達も同じだったが、獣人族達より距離が近かった分、今の一瞬の出来事を視界に捉える事が出来ていた。
そして俺達以外にも、自身の攻撃を掻き消されたラウアー本人もまた今の出来事を理解していた。
「成程……。貴様がシシガミ様の力に選ばれた人間か――」
「俺は難しい話が苦手だ。お前も俺と似た匂いがする。互いに言葉よりも、もっと分かりやすい1番の方法があるだろう?」
箙から新しい槍を取り出しながら切っ先をラウアーに向け、フーリンはそう言った。
ラウアーと対峙するフーリン。
紛れもなく、先程のラウアーの雷弾を掻き消したのはフーリンであった。モロウが動き出すよりも早く動き出したフーリンは瞬時に波動を練り上げ、奴が放った雷弾を槍で一掃したのだ。
「やっぱり……こうなる事は避けられないの……?」
切ない表情で言葉を漏らしたハク。
言わずもがな、ハクもモロウも俺もエミリアもこんな展開は望んでいない。それは勿論フーリンもだろう。人間と獣人族が再び共存出来る事を目指しているのに、ここで争いが起こるなんて本末転倒。
だが、俺達はそう思いながらもその思いと相反して、これは互いに避けては通れない運命なのだろうとも感じていた。
そんな思いを誰よりも早く悟ったのがフーリン。
ラウアーは今でも人間を恨んでいる。
それは数百年前よりも更に強く深く。そして恨む人間達の中でも、更に1番強い恨みや憎悪を抱いているのが間違いなくフーリンであった。
「グハハハ。まさか俺との戦いを望んでいるのか。笑わせる。マグレで一撃防いだからと言って、貴様が俺に勝てるとでも本気で思っているのか? 愚かな下級生物の人間が」
「マグレじゃないわよラウアー」
力強く言い放ったのはハク。
つい数秒前までの切ない表情から一変し、彼女は何かを決意したのか、揺るぎない真っ直ぐな瞳をラウアーに向けながら言っていた。
「マグレでなければ何だと言うのだ。人間如きがその実力で俺の攻撃を防いだと?」
「そうよ。確かに、人間は貴方達獣人族に比べれば弱い存在かもしれない。だけど、人間は貴方達が思っている以上に何処までも強くなれる存在でもあるの」
「それは禁忌に触れ、深淵の力などを手にしたからだろう」
「違う。人間の真の強さは、深淵の力なんて遥かに凌駕してしまうわ」
「だったら何故人間共は深淵の力に手を染めたのだ! そうする事でしか力を得られない下級生物だからだろう!
3神柱の力など与えたらコイツらはまた勘違いする。それを防ぐ為に俺は人間達を殺すのだ!」
「そう。分かったわラウアー。本当は嫌だけど、貴方はやはりその身に受けなければ理解してれないみたいね」
静かにそう言うと、ハクはラウアーからフーリンへと視線を移した。
「フーリン。貴方ならきっとラウアーに勝てるわ。あの子に真の強さをというものを分からせてあげてほしい」
「初めからそのつもりだ。ハクの言う強さとやらは俺にもよく分からないが、俺はただ強者と手合わせをして勝つだけだ」
槍を手に、フーリンは凄まじい波動を練り上げてラウアーに鋭い視線を飛ばした。一方のラウアーも負けじと魔力を練り上げフーリンを威圧する。
避けては通れないフーリンとラウアーの運命。
両者の交わりは、大地を力強く蹴って間合いを詰めたフーリンの攻撃から幕を上げた――。
「はあッ!」
フーリンがラウアーに向け槍を突く。初手から喉元を狙う躊躇ない攻撃であったが、ラウアーはその巨漢からは想像しがたい程の動きの速さでフーリンの突きを躱した。
「遅いわ、人間」
次の瞬間、突きを躱したラウアーは同時にフーリンへ攻撃を仕掛る。屈強な肉体から繰り出されたのは腹部を狙ったパンチ。だが、人間よりも遥かに体の大きいラウアーのその拳は、通常のそれとは異なる凄まじい威力を生み出しフーリンを襲った。
――ドゴォォンッ!
「ぐ……ッ!」
クリーンヒットしたラウアーの右拳。
まるで隕石の様なその拳を食らったフーリンは一瞬で数十メートル先までぶっ飛ばされてしまった。
「おい、フーリン!?」
フーリンが攻撃を食らった瞬間、俺は反射的に自らも剣を抜きラウアーに突っ込もうとしていた。だがそんな俺をモロウが止める。
「待て。これは彼とラウアーの戦いだ。其方は加わるな」
「そんな事言われても……フーリンに何かあってからじゃ遅いだろ!」
「私からもお願いグリム。この戦いはフーリンに任せてほしい」
「ハク……」
「大丈夫。絶対フーリンはラウアーに勝てるから」
ハクは優しく微笑みながらそう言った。
本当に大丈夫なのか……?
確かにフーリンは強い。でもラウアーはそれ以上だぞ。深淵神アビスがこの世界に現れるまで奴がトップの実力だったらしいが、どうやらそれも本当の事みたいだ。何せあのラグナレクよりも強い魔力を放っている。
「グハハハ、呆気ない。もう終わりか人間」
見下す様に高笑いをするラウアー。
数十メートル先で、徐々に晴れていく土埃の中からゆっくりと立ち上がるフーリンの姿が確認出来た。
「久しぶりにかなりの強者と出くわした……。胸が高鳴っている」
立ち上がるフーリンは折れた槍を地面に投げ捨て、また新しい槍を取り出していた。どうやら間一髪の所で槍をガードに使ったらしい。だが、ラウアーの強烈な攻撃のダメージを少なからず受けている様だ。
「一撃でフラついているな。人間は余りに脆いものだ。それに何だその安っぽい槍は。直ぐに折れるじゃないか」
「生憎コレしか使えないんでな。残りは8本……。それまでにお前を倒してやろうラウアー」
「戯言ばかりほざくな人間。コレで終わりだ!」
フラつくフーリンを見て、ラウアーは勝負を終わらせようと自身が得意とする雷魔法を繰り出した。放たれた雷は瞬く間に獣の様な形へ変化し、バチバチと激しい音を生じさせながらまるで本当の生きた獣かの如くフーリンに襲い掛かる。
――ザシュン! ……バキン。
「ちっ。やはりこの攻撃が……」
完全に仕留めに掛かったラウアーの攻撃であったが、その雷の獣ははフーリンの土の槍によって貫かれ消滅してしまった。
そう。
ラウアーの雷に対しフーリンの槍は土。図らずも、フーリンの槍はラウアーの雷魔法と相性が良かった。とは言っても、ラウアーの強力な攻撃を打ち消すことが出来るのはフーリン実力あってこそだろう。
今の攻撃でラウアーもその事を確信した様子。
しかし、幾ら相性が良かったとしても、当然それだけで勝ちが決まる訳ではない。
「ならば残りの槍が全て折れるまで雷を放ってやろう。その後無力になった貴様を甚振ってくれるわ」
「それが出来ればな」
「なッ!?」
波動よりも上の超波動――。
フーリンは瞬時に超波動を纏うや否や、輝く青白い光と共にさっきよりも速い速度で一気にラウアーと距離を詰めた。超波動によって高められた身体能力はよりフーリンの動きを活発化させ、速度も威力も更に増幅。
2撃、3撃、4撃、5撃。
フーリンの鋭い連続攻撃がラウアーを襲い、ラウアーはそのフーリンの連撃を何とか凌ぐ。
「くッ! 鬱陶しい槍だ」
息もつかせぬフーリンの槍術に、躱す事で精一杯のラウアーは魔法を繰り出せずにいた。
そして、繰り返される激しい攻防の中で、遂にフーリンの槍がラウアーを捉えた。
――シュバ!
「がッ⁉」
フーリンの槍はラウアーの脇腹を捉え、食らったラウアーは傷口から血を垂らし一旦フーリンと距離を取るのだった。