「確かにあの火事でエデンの樹にも火の手が及んでしまったけど、ドラドムートはまだちゃんと生きているわ。
私達はアビスの思惑通りどんどん魔力が弱まってしまった。だからドラドムートもイヴも最低限の魔力消費で済むよう何年も前から眠りについているのよ。
でも大丈夫だから安心して。ドラドムートはあの程度じゃ死なないし、イヴもちゃんと生きているから」
ハクの言葉を聞いて一先ず安心した。それにしても、本当に何度も思っているが終始驚きの連続だ。フーリンはもう放っておいていいが、エミリアも俺と同じで心臓が持たないぐらい驚きの連続だろうな。
「 しかしあの火事の影響により、竜神王ドラドムートを呼び起こすには暫しの時間を要する事になってしまいました。そうですよねハク」
「うん。生きてはいるけどまだ魔力が回復し切っていないわ。本当はあの火事さえなければ私も体力と魔力を回復して彼を呼ぼうと思っていたの。そうすればグリムに『双樹剣セフィロト』を渡して、貴方の真の力を覚醒させる事が出来たのに……」
双樹剣セフィロト。
それが俺の本当の力を覚醒させる3神柱の神器か。
「そうですね。ですがハク、魔力が弱まってしまった貴方達はまだ知らなかったと思いますが、あそこで辺境の森が焼かれる事もまた運命でした。私が視た未来の通りでしたからね」
「そうね。貴方は未来を視れる。そしてそんな貴方が私達の手助けをしてくれている事に、私はとても感謝しているわ。
ドラドムートとイヴはまだ呼び起こせないけど、全てはこうなる運命だったと貴方が教えてくれて本当に救われた。ユリマ、ありがとう」
「フフフ。獣天シシガミからお礼を言われる日が来るとは」
「何言ってるの。貴方なら全部お見通しの筈よ」
ハクとユリマは互いに優しく微笑みながら言った。
「ハクちゃん……じゃなくて、獣天シシガミ様」
「急にどうしたのエミリア。そんなかしこまらなくてもいいから、今までみたいに普通に呼んでよ。仲間でしょ?」
ハクの本当の正体が獣天シシガミだと知ったエミリアは、改めてハクの呼び名に戸惑っていた。だがそれは俺もそうだ。急に現れたのがまさかの神だからな。
でもその見た目が変わっても、ハクの包み込む様な優しい雰囲気は少しも変わっていなかった。それをしっかり感じているであろうエミリアは、ハクの言葉で吹っ切れた様だ。
「分かった。急に3神柱の神様が出てきてビックリしたけど、ハクちゃんはハクちゃんだよね! 私の大切な友達なんだから」
「ハハハ、ありがとうエミリア。私はいつも元気なエミリアのその姿が大好きよ」
「ありがとうハクちゃん! 私も聞きたい事があるんだけど、ハクちゃんが獣天シシガミで世界樹エデンが竜神王ドラドムートなら、まだ眠っている精霊王イヴはどこにいるの?
それに私達の本当の力を覚醒させるハクちゃん達の神器って、グリムがさっきのセフィロトという双剣だとしたら、私とフーリンの武器もあるって事だよね?」
エミリアも色々聞きたい事が溜まっている様子。そりゃ無理もないか。
「勿論よエミリア。まだ眠っているけど、私達はもう“イヴの上”を通って来たわよ」
「え、そうなの⁉」
「うん。私もまだ魔力が全然回復していなかったし、イヴもドラドムートと一緒で深い眠りについていたから呼び起こせなかったの。
それに、あの時は私達もバタバタしていたわ。
ほら、覚えてるでしょ? “ラドット渓谷”。あそこの大地にイヴは眠っているの――」
「「……!」」
一気に点と点が繋がっていく。
皆との出会いが、起こった出来事が、俺達をここまで導いていた事全てが必然であると言わんばかりに。
「それと、エミリアの言った様にドラドムートの双樹剣はグリムの神器であって、エミリアとフーリンにもちゃんと力を覚醒させる私達の神器があるわ。
エミリア、貴方に与えたのは『恵杖イェルメス』というイヴから与えられし力。そしてフーリン、貴方には『天槍ゲインヴォルグ』という神器を私が与えたわ。
本来であればフーリン、私は貴方にゲインヴォルグの槍を授けたい所だけど、何度も言っている通り今の私には殆ど魔力が残っていない。だから直ぐには神器を与える事が出来ないわ」
「直ぐには出来ないと言う事は、時間が経てば可能なのか?」
「うん。でも時間が経つという言うより、正確には“祖の王国まで私の魔力を取りに行く”事が出来れば可能よ――」
ハクは少し真剣な表情に変わり、俺達に向かってそう伝えてきた。
「魔力を取りに行くって、それはまたどういう事だ?」
「私達は自らの神の力をアビスに悟られにくくする為に、姿を変えてこの世界に留まったの。私は人間として定期的に王都や周辺の見回りをしたかったから、自分の神の魔力の殆どを祖の王国に封じ込めたわ。
だからその魔力さえ戻れば、私は本来の力を取り戻してフーリンに神器を与える事が出来るし、ドラドムートとイヴを呼び起こす事も出来るわ」
祖の王国か。
どうやら次の俺達の行き先が決まったみたいだな。
「フフフ。そうですよグリム。これから貴方達が最優先するべきは何よりも先ず真の力を覚醒させる事。その為にはハクと共に祖の王国へと行き、彼女の力を取り戻す事です」
「俺の全てを見透かされていると思うと寒気がするな」
未来を知っているユリマなら当然全ての経緯が分かっているんだろうが、こっちからすると全然慣れないからゾッとするよ全く。
「グリム、エミリア、フーリン。この先、今まで以上に皆を危険な目に遭わせてしまうけど、私達と一緒にこの世界を救ってくれる?」
「当たり前だよハクちゃん! 私に何が出来るか分からないけど、大切な友達が困っているのに放っておける訳ない」
「俺はアビスという強者と是非手合わせ願いたい。祖の王国にも強者はいるか?」
「こんな話をされて、今更なかった事に何て出来る訳ないだろハク。皆で行こうじゃないか、祖の王国に――」
ここまで来て後戻りするなんて選択肢はない。それはエミリアとフーリンも同様だった。世界を救うなんて大それた事が本当に出来るかは分からないけど、もう前に進しか道はない。
「どうやら気持ちが固まったみたいですね。祖の王国は数百年前のリューティス王国との戦いで最果ての地まで追いやられ、今でも大陸の最も端に位置しています。
祖の王国は特殊な結界を使用している為、私の魔法でも王国までは飛ばせません。ですが近くまでは可能ですから、貴方達の準備が整い次第何時でも行けますよ」
「ありがとうユリマ。王国の事は私に任せて。まだ人間に強い憎しみを抱いている獣人族も多いけど、信頼出来る仲間もいるわ」
「分かった。じゃあ祖の王国に向かう事はこれで決まったな。後は体力を回復させて、各自武器も準備しないとな」
ずっと眠っていた俺の記憶が確かなら、ラグナレクとヴィルとの戦闘でもう残っていない筈。とても手ぶらで旅なんて出来ないだろ。
「その点は大丈夫ですよ。貴方達が眠っている間に既にこの町にいる者達に用意させました。ですので今は先ず体力を万全にして下さい。後2、3日はゆっくり休んでいても大丈夫ですから」
ユリマは俺達に全ての真相を伝え終えると、そう言って部屋から出て行こうとした。
「あ、おいユリマ、もう行くのか?」
「ええ。貴方達に伝える事は全て伝えましたし、私も色々“忙しい”身ですので、ここら辺でお暇させて頂きますわ。準備が整い次第またお会いしましょう」
こうして、久々に目を覚ました俺の1日は、人生でも片手の指に収まる程の何とも色濃い1日を過ごしたのだった――。
私達はアビスの思惑通りどんどん魔力が弱まってしまった。だからドラドムートもイヴも最低限の魔力消費で済むよう何年も前から眠りについているのよ。
でも大丈夫だから安心して。ドラドムートはあの程度じゃ死なないし、イヴもちゃんと生きているから」
ハクの言葉を聞いて一先ず安心した。それにしても、本当に何度も思っているが終始驚きの連続だ。フーリンはもう放っておいていいが、エミリアも俺と同じで心臓が持たないぐらい驚きの連続だろうな。
「 しかしあの火事の影響により、竜神王ドラドムートを呼び起こすには暫しの時間を要する事になってしまいました。そうですよねハク」
「うん。生きてはいるけどまだ魔力が回復し切っていないわ。本当はあの火事さえなければ私も体力と魔力を回復して彼を呼ぼうと思っていたの。そうすればグリムに『双樹剣セフィロト』を渡して、貴方の真の力を覚醒させる事が出来たのに……」
双樹剣セフィロト。
それが俺の本当の力を覚醒させる3神柱の神器か。
「そうですね。ですがハク、魔力が弱まってしまった貴方達はまだ知らなかったと思いますが、あそこで辺境の森が焼かれる事もまた運命でした。私が視た未来の通りでしたからね」
「そうね。貴方は未来を視れる。そしてそんな貴方が私達の手助けをしてくれている事に、私はとても感謝しているわ。
ドラドムートとイヴはまだ呼び起こせないけど、全てはこうなる運命だったと貴方が教えてくれて本当に救われた。ユリマ、ありがとう」
「フフフ。獣天シシガミからお礼を言われる日が来るとは」
「何言ってるの。貴方なら全部お見通しの筈よ」
ハクとユリマは互いに優しく微笑みながら言った。
「ハクちゃん……じゃなくて、獣天シシガミ様」
「急にどうしたのエミリア。そんなかしこまらなくてもいいから、今までみたいに普通に呼んでよ。仲間でしょ?」
ハクの本当の正体が獣天シシガミだと知ったエミリアは、改めてハクの呼び名に戸惑っていた。だがそれは俺もそうだ。急に現れたのがまさかの神だからな。
でもその見た目が変わっても、ハクの包み込む様な優しい雰囲気は少しも変わっていなかった。それをしっかり感じているであろうエミリアは、ハクの言葉で吹っ切れた様だ。
「分かった。急に3神柱の神様が出てきてビックリしたけど、ハクちゃんはハクちゃんだよね! 私の大切な友達なんだから」
「ハハハ、ありがとうエミリア。私はいつも元気なエミリアのその姿が大好きよ」
「ありがとうハクちゃん! 私も聞きたい事があるんだけど、ハクちゃんが獣天シシガミで世界樹エデンが竜神王ドラドムートなら、まだ眠っている精霊王イヴはどこにいるの?
それに私達の本当の力を覚醒させるハクちゃん達の神器って、グリムがさっきのセフィロトという双剣だとしたら、私とフーリンの武器もあるって事だよね?」
エミリアも色々聞きたい事が溜まっている様子。そりゃ無理もないか。
「勿論よエミリア。まだ眠っているけど、私達はもう“イヴの上”を通って来たわよ」
「え、そうなの⁉」
「うん。私もまだ魔力が全然回復していなかったし、イヴもドラドムートと一緒で深い眠りについていたから呼び起こせなかったの。
それに、あの時は私達もバタバタしていたわ。
ほら、覚えてるでしょ? “ラドット渓谷”。あそこの大地にイヴは眠っているの――」
「「……!」」
一気に点と点が繋がっていく。
皆との出会いが、起こった出来事が、俺達をここまで導いていた事全てが必然であると言わんばかりに。
「それと、エミリアの言った様にドラドムートの双樹剣はグリムの神器であって、エミリアとフーリンにもちゃんと力を覚醒させる私達の神器があるわ。
エミリア、貴方に与えたのは『恵杖イェルメス』というイヴから与えられし力。そしてフーリン、貴方には『天槍ゲインヴォルグ』という神器を私が与えたわ。
本来であればフーリン、私は貴方にゲインヴォルグの槍を授けたい所だけど、何度も言っている通り今の私には殆ど魔力が残っていない。だから直ぐには神器を与える事が出来ないわ」
「直ぐには出来ないと言う事は、時間が経てば可能なのか?」
「うん。でも時間が経つという言うより、正確には“祖の王国まで私の魔力を取りに行く”事が出来れば可能よ――」
ハクは少し真剣な表情に変わり、俺達に向かってそう伝えてきた。
「魔力を取りに行くって、それはまたどういう事だ?」
「私達は自らの神の力をアビスに悟られにくくする為に、姿を変えてこの世界に留まったの。私は人間として定期的に王都や周辺の見回りをしたかったから、自分の神の魔力の殆どを祖の王国に封じ込めたわ。
だからその魔力さえ戻れば、私は本来の力を取り戻してフーリンに神器を与える事が出来るし、ドラドムートとイヴを呼び起こす事も出来るわ」
祖の王国か。
どうやら次の俺達の行き先が決まったみたいだな。
「フフフ。そうですよグリム。これから貴方達が最優先するべきは何よりも先ず真の力を覚醒させる事。その為にはハクと共に祖の王国へと行き、彼女の力を取り戻す事です」
「俺の全てを見透かされていると思うと寒気がするな」
未来を知っているユリマなら当然全ての経緯が分かっているんだろうが、こっちからすると全然慣れないからゾッとするよ全く。
「グリム、エミリア、フーリン。この先、今まで以上に皆を危険な目に遭わせてしまうけど、私達と一緒にこの世界を救ってくれる?」
「当たり前だよハクちゃん! 私に何が出来るか分からないけど、大切な友達が困っているのに放っておける訳ない」
「俺はアビスという強者と是非手合わせ願いたい。祖の王国にも強者はいるか?」
「こんな話をされて、今更なかった事に何て出来る訳ないだろハク。皆で行こうじゃないか、祖の王国に――」
ここまで来て後戻りするなんて選択肢はない。それはエミリアとフーリンも同様だった。世界を救うなんて大それた事が本当に出来るかは分からないけど、もう前に進しか道はない。
「どうやら気持ちが固まったみたいですね。祖の王国は数百年前のリューティス王国との戦いで最果ての地まで追いやられ、今でも大陸の最も端に位置しています。
祖の王国は特殊な結界を使用している為、私の魔法でも王国までは飛ばせません。ですが近くまでは可能ですから、貴方達の準備が整い次第何時でも行けますよ」
「ありがとうユリマ。王国の事は私に任せて。まだ人間に強い憎しみを抱いている獣人族も多いけど、信頼出来る仲間もいるわ」
「分かった。じゃあ祖の王国に向かう事はこれで決まったな。後は体力を回復させて、各自武器も準備しないとな」
ずっと眠っていた俺の記憶が確かなら、ラグナレクとヴィルとの戦闘でもう残っていない筈。とても手ぶらで旅なんて出来ないだろ。
「その点は大丈夫ですよ。貴方達が眠っている間に既にこの町にいる者達に用意させました。ですので今は先ず体力を万全にして下さい。後2、3日はゆっくり休んでいても大丈夫ですから」
ユリマは俺達に全ての真相を伝え終えると、そう言って部屋から出て行こうとした。
「あ、おいユリマ、もう行くのか?」
「ええ。貴方達に伝える事は全て伝えましたし、私も色々“忙しい”身ですので、ここら辺でお暇させて頂きますわ。準備が整い次第またお会いしましょう」
こうして、久々に目を覚ました俺の1日は、人生でも片手の指に収まる程の何とも色濃い1日を過ごしたのだった――。