俺の最後の攻撃は奴を仕留めていない。
奴は体を半分飛ばされた後、目の前で再生出来ない姿を“フェイク”にして俺の後ろで再び再生していた。
完全なる意表。
いち早く気が付いたハクが教えてくれたが、それでも時すでに遅し。エミリアとフーリンもほぼ同時に声を張ってくれたが、余りに唐突な出来事のせいで俺は体が動かなかった。
そこへ奴は完璧な一撃となる咆哮を放ったが、俺はまたしてもエミリアに命を救われた様だ。奴の咆哮とエミリアの防御壁が凄まじい勢いで衝突し、咆哮を防いだ防御壁は消え去った。
エミリアが俺の名前を呼んだ次の瞬間、手にしていたエミリアの木の杖が壊れ、まだ静けさの残る中俺とラグナレクは互いに牽制し合うかの如く睨み合っている。
次の一手をどう動こうかと様々な考えが脳裏を駆け巡った瞬間、待ちに待ったリリアンの声がこの緊迫した場に響き渡った。
「よし。溜まったわよドミナトル!」
リリアンの口からそう放たれた直後、ドミナトルの装填をしていた真四角の石が強く輝き出した。真四角の石は一瞬でその姿を変えると、そこに虹色に光る巨大な“大砲”が現れた。
「あれが、滅神器ドミナトル」
リューティス王国最強の神器であり圧倒的な存在感。
辺り一帯が虹色の光に照らされながら、ドミナトルの砲口はラグナレクに向く。
そして、虹色の光を纏いし滅神器ドミナトルから虹色に光る砲弾が流星の如き速さでラグナレクに放たれた。
砲弾は凄まじい勢いでラグナレクに向かい、それに気が付いたラグナレクも瞬時に砲弾目掛けて口から咆哮を放つ。
しかし、強力な魔力を誇るラグナレクの咆哮でさえもドミナトルの砲弾にいとも簡単搔き消され、勢いが微塵も収まることなくドミナトルの砲弾がラグナレクに直撃した――。
「「……!」」
刹那、凄まじい衝撃によって強い風圧に襲われ、周りにいた団員や冒険者達の多くがその風圧で飛ばされている。俺は庇う様にエミリアとハクの前に立ち風を堪えた。
まさに一瞬。
場は一気に静寂へと包まれ、虹色に光るドミナトルはいつの間にか真四角の石の形に戻るや否やそのまま消滅する様に消えてしまった。ドミナトルの攻撃が直撃したラグナレクは無数の肉片となり地面に散らばり、その光景をこの場にいる全員が静かに見つめていた。
動く気配がない。
ラグナレクの魔力も消え去り、変わらず動く気配のないラグナレクの残骸を見て、全員が勝利を確信したと言わんばかりの大歓声をあげた――。
「「うおォォォッ!!」」
響き渡る団員や冒険者達の雄叫び。
全身の力が抜けた俺達も、その場に項垂れる様にしゃがみ込んでいた。
「今度こそ終わったか……?」
「もう魔力を感じないな」
「やったよ皆! あのラグナレクを倒した!」
「バウ、バウ!」
「フフフ。これは流石としか言いようがないわね。見事だったわ。じゃあ私からの“ご褒美”をどうぞ――」
「「ッ!?」」
リリアンが不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、いつの間にか俺達の周りは騎士魔法団員で完全に包囲されていた。
ちっ、やっぱりか――。
「え!? どういう事ですかリリアン様……!」
「不覚だ。ラグナレクばかりに気を取られ、こんな弱き者達に気が付かなかったとは」
「フフフ。貴方達の働きは王国中から賞賛されるレベルに値するわ。でも、貴方達が王国に脅かすであろう脅威は変わらない。
ラグナレクの討伐の成、指名手配のグリム・レオハート、そして国王が最優先で狙っている白銀のモンスター。
この全てを同時に国王の前に出したら、私どれだけの地位と名声と力を手に入れられるのかしら。
想像しただけでゾクゾクが止まらないわぁ」
リリアンは自身の体をギュっと抱きながら興奮気味に語っている。
まさかとは思っていたが、このタイミングで来るとは迂闊だった。
「成程、やっぱ最初からハクの情報は俺を誘き出す為のハッタリだったのか。まぁそうだとしても、確かこのフィンスターにいる間は俺達に手を出すなと、“偉い御方”から言付かっているんじゃなかったか?」
マズいな。もうこっちは誰も戦えない。何とかこの状況を打破しないと……。
「あら、よく覚えていたわね。でも私言わなかったかしら?
彼女から言付かっていたのはあくまでも“ラグナレクを討伐するまで”の話。たった今ラグナレクが倒された以上、その縛りは無効なのよ」
「そ、そんな……。酷すぎますよリリアン様ッ!」
「フフフ、大丈夫よ。無駄に抵抗しなければこちらも攻撃はしない。だから大人しくしていて頂戴。
それにそんな不安になる必要もないわ。貴方達の愉快な旅は、この瞬間を持って終わりですからね」
リリアンが団員に俺達を捉える指示を仰ごうした瞬間、突如1人の団員が声を上げた。
「リ、リリアン様ッ!」
その団員は震える声と困惑の表情である方向を指差していた。
リリアンは「何よ?」と呟きながら訝しい表情で団員が指差した方向を見ると、そこには再び立ち上がっているラグナレクの姿があった――。
「ば、馬鹿な!?」
「嘘だろ……」
「ま、ま、また奴が……!」
一件落着の雰囲気から一転。
場は一瞬にして絶望に包まれ、団員達は恐怖でガタガタと体を震わせている。
だが、何気なく視線をリリアンに移していた俺は、彼女が何故かうっすらと笑っていた事に気が付いた。
まだ何かを企んでいるのか俺の見間違いかは分からない。ただ1つだけ確信している事があるとすれば、目の前のラグナレクが再び起き上がっているという事。そして、逃げるなら“今”しかないという事だ。
「「うあぁぁぁぁッ!!」」
ラグナレクがゆっくりと再生していく姿を横目に、団員達は叫びながら一斉にこの場から逃げて行く。
不幸中の幸い。
「おい、俺達も逃げるぞ」
ハクを抱えながらエミリアとフーリンにそう告げ、俺達も混乱に乗じてこの場を去ろうと走り出した。
だが次の瞬間。
『貴様達ハ我ノ敵……滅ボス……』
後方から響いてきた“ラグナレクの言葉”に、俺達は思わず逃げる足を止めていた。
悍ましい低い濁る様な何とも言えない不気味な声。
俺は耳を疑ったが、反射的に振り返って確認した奴の姿は、ドミナトルの砲弾を食らう前とは少し異なっていた。
再生を施し復活したであろうラグナレクは、その体格が一回り小さくなりより細部の形まで人間に近づいていた。
そして、今の言葉が空耳でない事を確信する。
『滅ビヨ……人間……』
間違いないラグナレクから発せられた言葉。それと同時に、奴は今までよりも更に強い魔力を纏いながら咆哮を放つ動作に入っていた。
避け切れない――。
瞬時にそう直感した俺は、気が付いたらラグナレクの攻撃からハク達を守る様に両手を広げて立っていた。それに続き、瞬時にフーリンも俺の横でハクとエミリアを守る様に立ってくれていた。
フーリン……。
最後に皆と言葉を交わす暇もなく、無情にも、奴の口から神々しい青白い光が俺達目掛けて放たれた。
「消えろよ、邪魔――」
ラグナレクが咆哮を放つと同時、突如奴の青白い光よりも更に強い輝きを放った一閃がラグナレクの体を一刀両断した。
「「!?」」
「アレは」
俺は今の強い輝きを見て、昔の事を思い出した。
俺は今の輝きを知っている。いや、アレは俺が“憧れていた”ものだ。
その“剣閃”は天地万物を斬り裂き、何百年もリューティス王国とその民を守ってきた最強の証。
俺は初めて女神からスキルを与えられた時、何時か自分がその剣を手にする事を信じて疑わなかった。
当たり前の様にスキル覚醒者となり王国の人々を守れる騎士団大団長を務め、いずれ最強の剣聖と謳われる父の様な存在になる事が夢だった。
だからこそ見間違える筈がない。
今の見惚れてしまう程に美しい輝きを放った剣閃が、選ばれたたった1人しか受け継がれないリューティス王国の神器……“神剣ジークフリード”の輝きであった事を。
そして、何十年も前に神剣ジークフリードを受け継いだのは父、グリード・レオハートであり、更にその神剣ジークフリードを受け渡されたのは他でもない……実に8年ぶりに姿を見た、俺の弟である“ヴィル・レオハート”だった――。
「本当に生きていたんだね……“兄さん”――」
奴は体を半分飛ばされた後、目の前で再生出来ない姿を“フェイク”にして俺の後ろで再び再生していた。
完全なる意表。
いち早く気が付いたハクが教えてくれたが、それでも時すでに遅し。エミリアとフーリンもほぼ同時に声を張ってくれたが、余りに唐突な出来事のせいで俺は体が動かなかった。
そこへ奴は完璧な一撃となる咆哮を放ったが、俺はまたしてもエミリアに命を救われた様だ。奴の咆哮とエミリアの防御壁が凄まじい勢いで衝突し、咆哮を防いだ防御壁は消え去った。
エミリアが俺の名前を呼んだ次の瞬間、手にしていたエミリアの木の杖が壊れ、まだ静けさの残る中俺とラグナレクは互いに牽制し合うかの如く睨み合っている。
次の一手をどう動こうかと様々な考えが脳裏を駆け巡った瞬間、待ちに待ったリリアンの声がこの緊迫した場に響き渡った。
「よし。溜まったわよドミナトル!」
リリアンの口からそう放たれた直後、ドミナトルの装填をしていた真四角の石が強く輝き出した。真四角の石は一瞬でその姿を変えると、そこに虹色に光る巨大な“大砲”が現れた。
「あれが、滅神器ドミナトル」
リューティス王国最強の神器であり圧倒的な存在感。
辺り一帯が虹色の光に照らされながら、ドミナトルの砲口はラグナレクに向く。
そして、虹色の光を纏いし滅神器ドミナトルから虹色に光る砲弾が流星の如き速さでラグナレクに放たれた。
砲弾は凄まじい勢いでラグナレクに向かい、それに気が付いたラグナレクも瞬時に砲弾目掛けて口から咆哮を放つ。
しかし、強力な魔力を誇るラグナレクの咆哮でさえもドミナトルの砲弾にいとも簡単搔き消され、勢いが微塵も収まることなくドミナトルの砲弾がラグナレクに直撃した――。
「「……!」」
刹那、凄まじい衝撃によって強い風圧に襲われ、周りにいた団員や冒険者達の多くがその風圧で飛ばされている。俺は庇う様にエミリアとハクの前に立ち風を堪えた。
まさに一瞬。
場は一気に静寂へと包まれ、虹色に光るドミナトルはいつの間にか真四角の石の形に戻るや否やそのまま消滅する様に消えてしまった。ドミナトルの攻撃が直撃したラグナレクは無数の肉片となり地面に散らばり、その光景をこの場にいる全員が静かに見つめていた。
動く気配がない。
ラグナレクの魔力も消え去り、変わらず動く気配のないラグナレクの残骸を見て、全員が勝利を確信したと言わんばかりの大歓声をあげた――。
「「うおォォォッ!!」」
響き渡る団員や冒険者達の雄叫び。
全身の力が抜けた俺達も、その場に項垂れる様にしゃがみ込んでいた。
「今度こそ終わったか……?」
「もう魔力を感じないな」
「やったよ皆! あのラグナレクを倒した!」
「バウ、バウ!」
「フフフ。これは流石としか言いようがないわね。見事だったわ。じゃあ私からの“ご褒美”をどうぞ――」
「「ッ!?」」
リリアンが不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、いつの間にか俺達の周りは騎士魔法団員で完全に包囲されていた。
ちっ、やっぱりか――。
「え!? どういう事ですかリリアン様……!」
「不覚だ。ラグナレクばかりに気を取られ、こんな弱き者達に気が付かなかったとは」
「フフフ。貴方達の働きは王国中から賞賛されるレベルに値するわ。でも、貴方達が王国に脅かすであろう脅威は変わらない。
ラグナレクの討伐の成、指名手配のグリム・レオハート、そして国王が最優先で狙っている白銀のモンスター。
この全てを同時に国王の前に出したら、私どれだけの地位と名声と力を手に入れられるのかしら。
想像しただけでゾクゾクが止まらないわぁ」
リリアンは自身の体をギュっと抱きながら興奮気味に語っている。
まさかとは思っていたが、このタイミングで来るとは迂闊だった。
「成程、やっぱ最初からハクの情報は俺を誘き出す為のハッタリだったのか。まぁそうだとしても、確かこのフィンスターにいる間は俺達に手を出すなと、“偉い御方”から言付かっているんじゃなかったか?」
マズいな。もうこっちは誰も戦えない。何とかこの状況を打破しないと……。
「あら、よく覚えていたわね。でも私言わなかったかしら?
彼女から言付かっていたのはあくまでも“ラグナレクを討伐するまで”の話。たった今ラグナレクが倒された以上、その縛りは無効なのよ」
「そ、そんな……。酷すぎますよリリアン様ッ!」
「フフフ、大丈夫よ。無駄に抵抗しなければこちらも攻撃はしない。だから大人しくしていて頂戴。
それにそんな不安になる必要もないわ。貴方達の愉快な旅は、この瞬間を持って終わりですからね」
リリアンが団員に俺達を捉える指示を仰ごうした瞬間、突如1人の団員が声を上げた。
「リ、リリアン様ッ!」
その団員は震える声と困惑の表情である方向を指差していた。
リリアンは「何よ?」と呟きながら訝しい表情で団員が指差した方向を見ると、そこには再び立ち上がっているラグナレクの姿があった――。
「ば、馬鹿な!?」
「嘘だろ……」
「ま、ま、また奴が……!」
一件落着の雰囲気から一転。
場は一瞬にして絶望に包まれ、団員達は恐怖でガタガタと体を震わせている。
だが、何気なく視線をリリアンに移していた俺は、彼女が何故かうっすらと笑っていた事に気が付いた。
まだ何かを企んでいるのか俺の見間違いかは分からない。ただ1つだけ確信している事があるとすれば、目の前のラグナレクが再び起き上がっているという事。そして、逃げるなら“今”しかないという事だ。
「「うあぁぁぁぁッ!!」」
ラグナレクがゆっくりと再生していく姿を横目に、団員達は叫びながら一斉にこの場から逃げて行く。
不幸中の幸い。
「おい、俺達も逃げるぞ」
ハクを抱えながらエミリアとフーリンにそう告げ、俺達も混乱に乗じてこの場を去ろうと走り出した。
だが次の瞬間。
『貴様達ハ我ノ敵……滅ボス……』
後方から響いてきた“ラグナレクの言葉”に、俺達は思わず逃げる足を止めていた。
悍ましい低い濁る様な何とも言えない不気味な声。
俺は耳を疑ったが、反射的に振り返って確認した奴の姿は、ドミナトルの砲弾を食らう前とは少し異なっていた。
再生を施し復活したであろうラグナレクは、その体格が一回り小さくなりより細部の形まで人間に近づいていた。
そして、今の言葉が空耳でない事を確信する。
『滅ビヨ……人間……』
間違いないラグナレクから発せられた言葉。それと同時に、奴は今までよりも更に強い魔力を纏いながら咆哮を放つ動作に入っていた。
避け切れない――。
瞬時にそう直感した俺は、気が付いたらラグナレクの攻撃からハク達を守る様に両手を広げて立っていた。それに続き、瞬時にフーリンも俺の横でハクとエミリアを守る様に立ってくれていた。
フーリン……。
最後に皆と言葉を交わす暇もなく、無情にも、奴の口から神々しい青白い光が俺達目掛けて放たれた。
「消えろよ、邪魔――」
ラグナレクが咆哮を放つと同時、突如奴の青白い光よりも更に強い輝きを放った一閃がラグナレクの体を一刀両断した。
「「!?」」
「アレは」
俺は今の強い輝きを見て、昔の事を思い出した。
俺は今の輝きを知っている。いや、アレは俺が“憧れていた”ものだ。
その“剣閃”は天地万物を斬り裂き、何百年もリューティス王国とその民を守ってきた最強の証。
俺は初めて女神からスキルを与えられた時、何時か自分がその剣を手にする事を信じて疑わなかった。
当たり前の様にスキル覚醒者となり王国の人々を守れる騎士団大団長を務め、いずれ最強の剣聖と謳われる父の様な存在になる事が夢だった。
だからこそ見間違える筈がない。
今の見惚れてしまう程に美しい輝きを放った剣閃が、選ばれたたった1人しか受け継がれないリューティス王国の神器……“神剣ジークフリード”の輝きであった事を。
そして、何十年も前に神剣ジークフリードを受け継いだのは父、グリード・レオハートであり、更にその神剣ジークフリードを受け渡されたのは他でもない……実に8年ぶりに姿を見た、俺の弟である“ヴィル・レオハート”だった――。
「本当に生きていたんだね……“兄さん”――」