翌日――。
あれから一夜明け、俺とハクとエミリアは再び王都を目指す為に街を後にする。
「気を付けて下さい」
「お世話になりました」
朝早くにも関わらず、町長さんや多くの人が見送りに来てくれた。
「エミリア様、貴方と出会えて本当にこの街は救われました。ありがとうございます」
「え、そんな……! 私は何もしてないですよ。全部グリムが倒してくれただけです」
「いやいや。あの時貴方が優しく声を掛けてくれなかったら、この街の被害は変わらないままでした」
そう言って町長さんはエミリアに何回目かも分からないお礼を言っていた。本当に何度言っても足りないぐらい感謝してくれているのだろう。だがそれはこちらも同じだ。
「剣も用意してもらった上にハクの“服”までありがとうございます町長さん。コレは意外といい案かもしれない」
「バウ!」
「ハハハ。気に入って頂けたなら何よりです」
今ハクは服を着ている。
これは昨夜、ちょっとした会話の流れからたまたま生まれた案。
騎士団が俺とハクを追っていると知った町長さんが、街の人がハクを見て“犬”と言ったのが事の始まりだ。ハクは白銀の綺麗な毛並みが結構目立つ事に加えて、普通の犬よりも何処か雰囲気と言うか存在感がある。少なからず俺やハクの顔が知られている以上見た目だけでも変装してはどうかと、町長さんが大型犬用の服をハクにくれたんだ。
しかもより犬っぽく見える様に首輪とリードまで。俺も気休め程度にと帽子を渡された。
「王都に向かうなら先ず大きな川を越えないといけませんね。本来ならあそこは船で自由に行き来が出来ていましたが、今は王国に蔓延っているモンスターの影響で川に架かっている橋しか通れない様です。
それに橋には関所があり騎士団員が駐在しているでしょうから、何か策を練らないと厳しいかもしれませんよ」
「そうなんですか……。それは教えて頂いて助かりました。貴重な情報までありがとうございます」
町長さんや街の人達には本当に至れり尽くせりで世話になった。
俺達は別れを済ませ、街を後にした――。
♢♦♢
~ヴォールガ川~
「――通行証を見せてくれ。王都へは何の目的だ?」
「商品の配送ですよ。はい、コレ通行証」
「うん……確かに。ご苦労、通って良いぞ」
「ありがとうございます」
「よし、次!」
リューティス王国で1番大きな川であるヴォールガ川。王都に向かうにはこの橋しか道がないのだが、町長さんから聞いていた通り、どうやら本来であれば行き来している筈の船が1隻も動いていない上に唯一川を渡れる橋も関所があって素通り出来ない。渡る人や馬車は全て騎士団員によって身分確認されている様だ。
「結局何もいい案が思いつかずに着いちゃったな」
「そうね。町長さんが言っていた通り騎士団員がいるし」
「バウ」
「さて、どうしたものか」
俺とエミリアは街を出てからこの川に辿り着くまでずっと関所を通り抜ける方法を考えていたのだが、最終的に思いつかないまま今に至ってしまった。
せめて川の幅がもっと短ければ思い切り跳んで渡る事も出来たが、この大きさでは流石に無理。泳いで渡ろうにもそこそこの距離があるし、万が一川の中でバレたらまともに動けない。水中にはモンスターもいるからな。
「強行突破は無理だよな……」
「1番ダメじゃない? それ」
エミリアとそんな会話をしている間にも、俺達の目の前にある道を人々や馬車が通り過ぎて行く。馬車の荷台に紛れたらとも当然考えたが、勿論関所で荷台もチェックされており確実にバレるのがオチだ。
何も打開策がないまま無情に時間だけ経っていく。
どうにもこうにも方法が思い浮かばない俺達が諦めかけていたまさにその瞬間、突如1台の馬車が俺達の前に止まった。
「貴方達、冒険者ですか――?」
止まった馬車の小窓からそう言ったのは1人の女性。勿論俺は面識がないし見覚えもない。エミリアの反応も俺と同じだ。
誰かは分からないが、明らかに他とは違う高価そうな馬車に乗って俺達に声を掛けてきたこの女性が、庶民よりも身分が高い者であるという事だけは瞬時に理解出来た。
「誰だ?」
見た感じ騎士魔法団の装いではない。それどころか、その凛とした雰囲気からは気品ささえ感じる。何となく“敵”ではないと思ったのだが、何故か反射的にこの女性を警戒した俺は腰の剣に手を伸ばしていた――。
しかし、彼女はそんな俺を他所にニコリと微笑みながら話し始めた。
「急に声を掛けてしまって申し訳ございません。突然で驚かせてしまった様ですが、実は私共は今多くの冒険者を募っている最中でして――」
「冒険者を……?」
「ええ。見たところ貴方達は冒険者ですよね。騎士団や魔法団の装いをしておりませんし。こんな場所に立ち尽くして何かお困りですか?」
「え、いや、別に……」
「成程。その様子だと関所を通れないのですね?」
「「……⁉」」
彼女の言葉に思わず驚いた。
「フフフ。冗談で言ってみましたが本当に当たっていた様ですね。
ならばいっその事どうでしょう? 先程も言った通り、私共は今兎に角冒険者を探しています。こちらのご要望を聞いて頂けるのなら、私とがあの関所を通してあげますよ」
「ほ、本当か?」
「はい。何か事情がありそうですが、勿論詮索も致しませんし一切聞くつもりもありません。私と一緒ならば身分を明かさずとも関所を通れます。ただ、こちらの要望を聞いていただく事が条件ですが――」
あれから一夜明け、俺とハクとエミリアは再び王都を目指す為に街を後にする。
「気を付けて下さい」
「お世話になりました」
朝早くにも関わらず、町長さんや多くの人が見送りに来てくれた。
「エミリア様、貴方と出会えて本当にこの街は救われました。ありがとうございます」
「え、そんな……! 私は何もしてないですよ。全部グリムが倒してくれただけです」
「いやいや。あの時貴方が優しく声を掛けてくれなかったら、この街の被害は変わらないままでした」
そう言って町長さんはエミリアに何回目かも分からないお礼を言っていた。本当に何度言っても足りないぐらい感謝してくれているのだろう。だがそれはこちらも同じだ。
「剣も用意してもらった上にハクの“服”までありがとうございます町長さん。コレは意外といい案かもしれない」
「バウ!」
「ハハハ。気に入って頂けたなら何よりです」
今ハクは服を着ている。
これは昨夜、ちょっとした会話の流れからたまたま生まれた案。
騎士団が俺とハクを追っていると知った町長さんが、街の人がハクを見て“犬”と言ったのが事の始まりだ。ハクは白銀の綺麗な毛並みが結構目立つ事に加えて、普通の犬よりも何処か雰囲気と言うか存在感がある。少なからず俺やハクの顔が知られている以上見た目だけでも変装してはどうかと、町長さんが大型犬用の服をハクにくれたんだ。
しかもより犬っぽく見える様に首輪とリードまで。俺も気休め程度にと帽子を渡された。
「王都に向かうなら先ず大きな川を越えないといけませんね。本来ならあそこは船で自由に行き来が出来ていましたが、今は王国に蔓延っているモンスターの影響で川に架かっている橋しか通れない様です。
それに橋には関所があり騎士団員が駐在しているでしょうから、何か策を練らないと厳しいかもしれませんよ」
「そうなんですか……。それは教えて頂いて助かりました。貴重な情報までありがとうございます」
町長さんや街の人達には本当に至れり尽くせりで世話になった。
俺達は別れを済ませ、街を後にした――。
♢♦♢
~ヴォールガ川~
「――通行証を見せてくれ。王都へは何の目的だ?」
「商品の配送ですよ。はい、コレ通行証」
「うん……確かに。ご苦労、通って良いぞ」
「ありがとうございます」
「よし、次!」
リューティス王国で1番大きな川であるヴォールガ川。王都に向かうにはこの橋しか道がないのだが、町長さんから聞いていた通り、どうやら本来であれば行き来している筈の船が1隻も動いていない上に唯一川を渡れる橋も関所があって素通り出来ない。渡る人や馬車は全て騎士団員によって身分確認されている様だ。
「結局何もいい案が思いつかずに着いちゃったな」
「そうね。町長さんが言っていた通り騎士団員がいるし」
「バウ」
「さて、どうしたものか」
俺とエミリアは街を出てからこの川に辿り着くまでずっと関所を通り抜ける方法を考えていたのだが、最終的に思いつかないまま今に至ってしまった。
せめて川の幅がもっと短ければ思い切り跳んで渡る事も出来たが、この大きさでは流石に無理。泳いで渡ろうにもそこそこの距離があるし、万が一川の中でバレたらまともに動けない。水中にはモンスターもいるからな。
「強行突破は無理だよな……」
「1番ダメじゃない? それ」
エミリアとそんな会話をしている間にも、俺達の目の前にある道を人々や馬車が通り過ぎて行く。馬車の荷台に紛れたらとも当然考えたが、勿論関所で荷台もチェックされており確実にバレるのがオチだ。
何も打開策がないまま無情に時間だけ経っていく。
どうにもこうにも方法が思い浮かばない俺達が諦めかけていたまさにその瞬間、突如1台の馬車が俺達の前に止まった。
「貴方達、冒険者ですか――?」
止まった馬車の小窓からそう言ったのは1人の女性。勿論俺は面識がないし見覚えもない。エミリアの反応も俺と同じだ。
誰かは分からないが、明らかに他とは違う高価そうな馬車に乗って俺達に声を掛けてきたこの女性が、庶民よりも身分が高い者であるという事だけは瞬時に理解出来た。
「誰だ?」
見た感じ騎士魔法団の装いではない。それどころか、その凛とした雰囲気からは気品ささえ感じる。何となく“敵”ではないと思ったのだが、何故か反射的にこの女性を警戒した俺は腰の剣に手を伸ばしていた――。
しかし、彼女はそんな俺を他所にニコリと微笑みながら話し始めた。
「急に声を掛けてしまって申し訳ございません。突然で驚かせてしまった様ですが、実は私共は今多くの冒険者を募っている最中でして――」
「冒険者を……?」
「ええ。見たところ貴方達は冒険者ですよね。騎士団や魔法団の装いをしておりませんし。こんな場所に立ち尽くして何かお困りですか?」
「え、いや、別に……」
「成程。その様子だと関所を通れないのですね?」
「「……⁉」」
彼女の言葉に思わず驚いた。
「フフフ。冗談で言ってみましたが本当に当たっていた様ですね。
ならばいっその事どうでしょう? 先程も言った通り、私共は今兎に角冒険者を探しています。こちらのご要望を聞いて頂けるのなら、私とがあの関所を通してあげますよ」
「ほ、本当か?」
「はい。何か事情がありそうですが、勿論詮索も致しませんし一切聞くつもりもありません。私と一緒ならば身分を明かさずとも関所を通れます。ただ、こちらの要望を聞いていただく事が条件ですが――」