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~ユカーイ街~

「ありがとうございます勇者様!」
「勇者がこの街の石碑を守ってくれたぞぉ!」
「こっちの“ワンちゃん”もとても綺麗な毛並みですな」
「そりゃ勇者様の“犬”なんだから他とは違うだろう!」
「お嬢ちゃんもありがとう!」
「君達はこの街のヒーローだッ!」


 ハハハハ……。

 という訳で、無事に石碑に住み着いていた怪しい奴らを倒した俺達は、街に戻って町長さんに経緯を報告するなりこの大騒ぎ。喜んだ町長さんや街の人達が俺達に何度も何度もお礼を言ってとても歓迎されているのだ――。

 うん。
 確かにこんなに多くの人が喜んでくれるのなら俺も嬉しい。
 だけど、流石にちょっと盛り上がり過ぎじゃないか……? まるでお祭りみたいに賑わってるぞ。

「ハクちゃん! コレも食べる?」
「バウバウ!」

 ハクもエミリアもすっかり楽しんでいるな。まぁこれでこれで一旦良しとしよう。

「久しぶりに豪華な飯を見たら俺もお腹が空いてきたな……」
「遠慮せずにどんどん食べて下さいね! 飲み物もありますよ!」
「勇者様! こちらの料理も是非召し上がって下さい!」
「ありがとう」
「いや~、それにしても流石グリム様ですね!まさか本当に奴らを倒してくれるなんて。エミリアさんに貴方を紹介して頂いて良かったです!」
「どうですか町長さん。本当に強かったでしょグリムは?」
「ええ。本当に何とお礼を申し上げたら良いか……」

 全ては結果オーライという事にしておこう。

 エミリアとも話し合って、町長さんには勿論他の誰にもノーバディや儀式の事は伝えていない。こんな事伝えてもかえって不安になるだろうし、そもそも何処まで信じてもらえるか定かではないよな、こんな話。

「もう十分過ぎる程お礼は受け取っていますよ町長さん。無理言って双剣も2組用意してもらったし」

 元々今回の報酬が双剣だったからな。エミリアが買いに行ってくれた時にEランクの双剣が1つしかなかったみたいだから正直あったらラッキーぐらいに思ってたけど、まさか2組も用意してくれるとは。しかも1つはCランクと物がいい。今までまともな双剣が無かった俺からしたらとても貴重だ。

「いえいえ。これでは全くお礼を返せていません。本当は双剣だって100本以上差し上げたかったのですが、幾分小さな町でしてねぇ。何とか用意出来たのがコレだけ……。本当に申し訳ないですよ」
「謝る必要なんてありませんよ。寧ろ2組も用意してくれて助かりました。さっき持っていた剣が壊れてしまったのでどうしようかと思っていたんです」
「そうですか? それなら良かったです。ならば後はひたすら料理を召し上がって下さい! どうぞどうぞ!」

 確かに料理は豪勢で美味しいが、こんなに量があると到底俺達だけでは食べきれないぞ……。

 そんな事を思いながら、俺は横で飯を食べているエミリアに話し掛けた。

「そう言えばさ、よくあのノーバディの攻撃を防げたな。驚いたよアレは」
「本当に? グリムにそう言ってもらえたら何かちょっと嬉しいな。アレは唯一私が使える魔法なの」

 エミリアは褒められたのが嬉しかった様だが、彼女は最後にふと儚げな表情も浮かべていた様な気が俺にはした。

「そうなんだ。俺は魔法が使えないし詳しくないからよく分からないけど、エミリアの魔法で確実に俺は助けられたけどな」
「グリム……。ありがとう!」

 エミリア本人は言うまでもないだろうが、俺もエミリアの力については疑問に思っている。彼女は間違いなくスキルが覚醒している覚醒者にも関わらず、まともに魔法が使えないらしい。しかも唯一使えると言うさっきの防御壁も木の杖でしか発動出来ないみたいだ。

 俺も女神に与えられたのが片手剣だったのに、何故双剣でスキル覚醒したのか理由が未だに分かっていないけど、それ以上にエミリアは特殊なケースじゃないか……?

王都に住んでいた頃は毎日騎士魔法団やスキルの話を耳にする環境だったが、エミリアの様な話を1度も聞いた事がないし、本来なら覚醒者など全員ランクの高い武器しか使っていないのにな。不思議なものだ。

「どうしたのグリム。ボーっとして」
「あ、いや、ちょっと考え事を……」
「ふーん。あ、ひょっとして王都の事とかハクちゃんの事?」
「ああ、まぁな」

 考えていたのは全然違う事だったけど、確かにエミリアが言った事も重要だよな。寧ろソレが本命だし。

「時にグリム様――」
「うわ! ビックリした」

 俺とエミリアが何気なく話していると、突然町長さんが会話に入ってきた。そして何故か俺の耳元で小さな声で話し出した。

「余り大きな声で言えませんが、貴方“騎士団”から追われていますね?」
「……⁉」

 町長さんの一言で俺は全身に嫌な汗を掻き、反射的に町長さんを睨みつけていた。

「あ、す、すみません……! 違うんです。驚かせるつもりではなくて……」

 油断していた俺が悪い。
 辺りには騎士魔法団がいて俺達は追われている身だとハクとエミリアにも言い聞かせていたのに、自分もいつの間にか気を緩めていた。

 俺は思いがけない町長さんの言葉に一瞬警戒したが、どうやらその心配はなさそうか。
 
「知っているのか?」
「疑わしい言い方をしてしまって申し訳ありません。ですがグリム様、どうか安心して下さって大丈夫です。
確かに、貴方達が石碑に行っている間に騎士団の者達が街に来ました。貴方とそちらのモンスターを探していると――」

 しまった。
 そうだったのか……。やはり奴らは既に俺達を探している。

「それで?」

 平静を装っているが、町長さんの話に内心焦って答えを早く求めてしまっていた。

「勿論騎士団には言っていませんよ。最初はようやく依頼を受けてくれたのかと思いましたが、彼らは私達の依頼を受けるどころかその依頼の話しすら一切知っておらず、随分と横柄な態度でグリム様達の事を聞き回っていました。
なのでそんな方は知らないと言い切って、直ぐに街から出て行ってもらいましたよ」

 とても優しくて温厚な町長さんが怒りを露にしながら言った。

「そうだったのか……。すみません、構えてしまって」
「とんでございません。この街を救ってくれたグリム様達を売る様な真似、ここにいる者達は全員しません。
それにここ最近の騎士団はどうも妙な噂ばかり耳にしています……。
昔は我々のような小さな町や村に対しても親切に対応してくれていたのですが、どうも危険なモンスターが現れる様になってからというものその対応は酷いものばかりなのです」

 おばちゃんの村でもそうだったが、やはり王都からかなり離れたこの街でも似たような噂が届いているみたいだ。この様子だと王国全土がそうなんだろう。

「町長さん。俺達をかくまってくれたのは本当に感謝します。だけど、俺達は明日には街を出て王都に向かう。もしまた騎士団の連中が訪ねてきたら、俺達は一瞬街に立ち寄ったが直ぐに王都の方へ向かって行ったと正直に伝えて下さい。
万が一かくまった事がバレたら、町長さんや街の人達が危険です」
「分かりました。グリム様達はやはり王都に向かうのですね……。本当はまだまだ街でゆっくりして頂きたかったのですが、そう悠長な事を言
っている場合じゃありませんね。

今の騎士団は正直怪しい動きが多いです。今回のように依頼を受けてくれない事は勿論、正式な騎士団員ではなく兎に角お金で人を雇っているという噂も耳にしています。私は詳しい事は存じ上げませんが、どうかお気を付けて。
せめて今日だけはゆっくり休んでいって下さいね。それが今の我々に出来る最大限の事ですが」
「どこまでも親切にありがとうございます。町長さん」

 そんなこんなですっかり辺りも暗くなり、まだ街の人達は賑わい足りない様子であったが町長さんの一言でお開きとなり、俺達はそのままご厚意に甘えて一晩泊めさせてもらった――。