♢♦♢
~遺跡近くの平原~
「ふぅ。取り敢えずここら辺ならもう大丈夫だろう」
「ありがとうございますグリムさん」
洞窟を無事に脱出した俺とハクとエミリアは、王都へと続く広くて静かな平原に来た。ここなら周囲の見晴らしもいいし、ノーバディの残党の気配もない。
「よし。じゃあ一旦落ち着いたところで話を整理しようか」
順番に追って行かないと頭がパンクする。
「まず最初に、君が俺の事を知っていると言うのは分かった。不本意な噂だったらしいけど事実だから仕方ない。それにお互いの名前も分かった。
……で、強くなりたいから俺の仲間になりたいと?」
「はい。お願いします!」
これが急に分からないんだよ。
「あのさ、え~と、困ったな。どっから話そう」
「逆に私が聞いていいですか? 一応確認なんですけど、私と同じ呪われた世代の1人という事は18歳ですよね? 騎士団でも魔法団でも冒険者でもないのに、こんなところで何されているんでしょうか? そして何故そんなに強いのですか?」
おっと、まさかの怒涛の質問攻め。まぁいい。1つずついこう。
「さっきからその“呪われた世代”とか言うのが分からないけど、取り敢えず俺は18歳だ。エミリアも同い年って事だよな?
そして俺が何者でもないのはご存じの通り、スキルが覚醒しなくてレオハート家や王国の面汚しをしたから辺境の森に飛ばされたんだ。それがかれこれ8年前の話し。
俺はそれからずっと森で暮らしていたんだけど、突然騎士団の奴らに森を焼かれた上に、ここにいるハクを何故だか狙ってやがるんだ。だからその理由を確かめる為と、俺の家でもあった森を焼いた国王に文句を言ってやろうと王都に向かっていたら、襲われていた君をハクが見つけた……ってそんな感じ」
「成程。そういう事だったんですね……」
「じゃあ今度は俺が聞くぞ。さっきから言っている呪われた世代ってのは何の事だ? それにノーバディとか言うあの触手のモンスターも、君達騎士魔法団が総出でハクを狙う理由は?」
彼女からの質問に答えた俺は逆に気になっている事を全部聞いた。だが自分で彼女に問うと同時に、このエミリアという子のフワフワした感じというか天然というか少し鈍臭いという感じが、どうも今起きている事態を把握しているとは思えなかった。
何となくで決めつけて申し訳ないが、直感でそう思ってしまったのだ。だが、この直感は正しかった――。
「あ、えーと、それはですね……まず呪われた世代というのは、少し言いづらいのですが、きっかけはグリムさんのスキルが覚醒しなかった事なんです……。
その時はまだそんな呼ばれ方はしていなかったのですが、グリムさんが森に飛ばされてから数年後、スキルが覚醒しているにも関わらず3級魔法すら使えない私の事がいつの間にか多くの人に知れ渡っていました。
魔法が扱えない事に加えてこの木の杖しか使えないという事も重なり、そこから皆さんに笑われ馬鹿にされるのはとても早かったのを覚えています。
そして、私が皆さんから笑われる様になった頃からまたある噂が流れていました。私も直接会った事はありませんが、どうやらその方は“槍”のスキルの持ち主で槍術の腕が凄かったらしいのです。
ですが私と同じようにスキル覚醒はしたものの、最弱な“土の槍”しか使えない挙句に何度も槍を壊してしまうそうで、一時は訓練生としていたらしいのですが突然何処かへ行ってしまってそのまま行方不明になったとそうです……。
呪われた世代と呼ばれる様になったのは、グリムさんと私とその槍のスキルの方が全員“同じ年”だったいう事が後に判明したからであり、偶然に偶然が重なった結果そう呼ばれる様になってしまったという訳です。
なんかすみません……」
エミリアは丁寧に説明してくれた後に頭を下げた。呪われた世代と言われる原因になってしまった理由に少なからず自分が関係している事を俺に謝っているのだろう。
「謝る事じゃない。エミリアは何も悪くないし、寧ろ被害者だ」
環境こそ違えど、エミリアも俺と同じ様な思いをしてきたんだな。俺は森でずっと1人だったけど、彼女はきっと毎日毎日辛い目に遭っていた。その気持ちは計り知れない。
「ありがとうございますグリムさん。呼ばれ方は良くないですけど、私は心の何処かで親近感を覚え、グリムさんともう1人の方に何時か会ってみたいと勝手に思っていました」
「成程。まさか俺がいなくなってからそんな事になっていたとは……。なんか俺のせいでゴメンな。エミリアに辛い思いさせていたみたいで」
「い、いえ、それは違いますよ! 私は私に才能がなかったから皆さんに馬鹿にされていただけです。グリムさんのせいではありません!」
彼女が俺に謝るなど以ての外。逆に俺が謝れって感じだよな。
「あ、すみません。何か話が長くなってしまって……。まだノーバディとハクさんの事も知りたいんですよね」
「ああ。何か知っているか?」
「結論から言いますと、申し訳ありませんがハクさんを狙っているという理由は分かりません。私もグリムさんの話でこのハクさんが討伐対象ある白銀のモンスターと知ったぐらいなので……」
「やっぱりそうなのか。分かったよ、ありがとうエミリア」
「いえ。もっとグリムさんのお役に立てる事を知っていれば良かったのですが」
「でも益々怪しくなってきたな。ちゃんと理由も告げずにこれだけの団員が動いているのは異常だ」
「そうですね。私はそれも少し感じていました。王国は今“終焉”にも手をこまねいてますから」
「終焉って何の事だ?」
エミリアの口から出た聞いた事のない言葉。
「グリムさん終焉もご存じないですか?」
「ああ。何の事かさっぱり。ずっと1人で森にいたから外の事がまるで分からないんだ」
「そうだったんですね。だからノーバディの事も聞かれたのですか」
「ああ。あんなの初めて見たからな。森にいなかったし」
俺はエミリアの話を聞いて、そしてエミリアは俺の話を聞いて、互いに少しずつ相手の事と今起きている現状を把握し始めた。
「王国に終焉というものが訪れる様になったのは、あの触手のモンスター……ノーバディがリューティス王国に突如現れ、王国の人々を襲いだしたからです。
爆発的にノーバディの数が増えて至る所で団員が討伐を行っているのですが、王都もオレオールも騎士魔法団が人手不足の状態です。
そんな時に、ずっと訓練生でいた私にオレオールの魔法団の団長さんが声を掛けてくれたのです」
「へぇ、王国ではそんな事が起こってるのか」
「はい。ですが私は魔法もろくに扱えない為、派遣されたエンビア様の団でも迷惑ばかり掛けてしまいました。その結果がアレです。最後は捨てられてしまいました……」
そう語るエミリアの姿が、やはり何時かの自分と重なって見えていた。
「そっか。奴らに裏切られた上に、エミリアがいた魔法団はもうノーバディの腹の中。行く当てもないから俺の仲間になりたいと」
「はい。私にとっては運命です! 2度も命を救ってくれた恩人が、私と同じ呪われた世代のあのグリムさんだったなんて、それ以外考えられません! それに私はグリムさんの様に強くなりたいんです!」
ようやくここまで話がきたか。うん。これが最後の問題だ。
「仲間になりたいだの強くなりたいだの言われてもな……。
俺はエミリア達が追っているハクを連れている挙句に騎士団とも揉めたばっかりだからなぁ。もう指名手配されてるんじゃないかな俺。
一応エミリアとは敵対している立場なんだけどそもそも……」
「私には関係ありません! もう魔法団になるのは諦めていましたし、派遣された魔法団もなくなってしまいました。元から正式な団員でもなければ私はもうグリムさんと出会ってしまいましたから!」
今までとは一転し、まるで開き直ったかの如く堂々と言い放ってきたエミリア。彼女の言ってる事はもっともだが、今の俺とハクと一緒に行動するのはかなり危険だと思う。
「エミリアがどんな道を進もうが、それを俺にどうこう言える資格はなし。ただ、俺とハクは今や狙われる身だ。その事も分かって仲間になりたいなんて言ってるのか?」
「はい。ちゃんと分かってます! 本当は魔法団の団長になるのが夢でしたけど、その夢は潰えてしまいました……。ですが今日、同じ呪われた世代のグリムさんと出会って、終わりだと思っていた自分の人生に突如希望の光が差し込んできました!」
「ちょっと大袈裟だな」
「いいえ、そんな事ありません。心の底からそう思っています!諦めていましたが、やっぱり少しでもグリムさんの様に強くなりたいんです。お願いします!」
エミリアはそう言って、深々と俺に頭を下げてきたのだった。
~遺跡近くの平原~
「ふぅ。取り敢えずここら辺ならもう大丈夫だろう」
「ありがとうございますグリムさん」
洞窟を無事に脱出した俺とハクとエミリアは、王都へと続く広くて静かな平原に来た。ここなら周囲の見晴らしもいいし、ノーバディの残党の気配もない。
「よし。じゃあ一旦落ち着いたところで話を整理しようか」
順番に追って行かないと頭がパンクする。
「まず最初に、君が俺の事を知っていると言うのは分かった。不本意な噂だったらしいけど事実だから仕方ない。それにお互いの名前も分かった。
……で、強くなりたいから俺の仲間になりたいと?」
「はい。お願いします!」
これが急に分からないんだよ。
「あのさ、え~と、困ったな。どっから話そう」
「逆に私が聞いていいですか? 一応確認なんですけど、私と同じ呪われた世代の1人という事は18歳ですよね? 騎士団でも魔法団でも冒険者でもないのに、こんなところで何されているんでしょうか? そして何故そんなに強いのですか?」
おっと、まさかの怒涛の質問攻め。まぁいい。1つずついこう。
「さっきからその“呪われた世代”とか言うのが分からないけど、取り敢えず俺は18歳だ。エミリアも同い年って事だよな?
そして俺が何者でもないのはご存じの通り、スキルが覚醒しなくてレオハート家や王国の面汚しをしたから辺境の森に飛ばされたんだ。それがかれこれ8年前の話し。
俺はそれからずっと森で暮らしていたんだけど、突然騎士団の奴らに森を焼かれた上に、ここにいるハクを何故だか狙ってやがるんだ。だからその理由を確かめる為と、俺の家でもあった森を焼いた国王に文句を言ってやろうと王都に向かっていたら、襲われていた君をハクが見つけた……ってそんな感じ」
「成程。そういう事だったんですね……」
「じゃあ今度は俺が聞くぞ。さっきから言っている呪われた世代ってのは何の事だ? それにノーバディとか言うあの触手のモンスターも、君達騎士魔法団が総出でハクを狙う理由は?」
彼女からの質問に答えた俺は逆に気になっている事を全部聞いた。だが自分で彼女に問うと同時に、このエミリアという子のフワフワした感じというか天然というか少し鈍臭いという感じが、どうも今起きている事態を把握しているとは思えなかった。
何となくで決めつけて申し訳ないが、直感でそう思ってしまったのだ。だが、この直感は正しかった――。
「あ、えーと、それはですね……まず呪われた世代というのは、少し言いづらいのですが、きっかけはグリムさんのスキルが覚醒しなかった事なんです……。
その時はまだそんな呼ばれ方はしていなかったのですが、グリムさんが森に飛ばされてから数年後、スキルが覚醒しているにも関わらず3級魔法すら使えない私の事がいつの間にか多くの人に知れ渡っていました。
魔法が扱えない事に加えてこの木の杖しか使えないという事も重なり、そこから皆さんに笑われ馬鹿にされるのはとても早かったのを覚えています。
そして、私が皆さんから笑われる様になった頃からまたある噂が流れていました。私も直接会った事はありませんが、どうやらその方は“槍”のスキルの持ち主で槍術の腕が凄かったらしいのです。
ですが私と同じようにスキル覚醒はしたものの、最弱な“土の槍”しか使えない挙句に何度も槍を壊してしまうそうで、一時は訓練生としていたらしいのですが突然何処かへ行ってしまってそのまま行方不明になったとそうです……。
呪われた世代と呼ばれる様になったのは、グリムさんと私とその槍のスキルの方が全員“同じ年”だったいう事が後に判明したからであり、偶然に偶然が重なった結果そう呼ばれる様になってしまったという訳です。
なんかすみません……」
エミリアは丁寧に説明してくれた後に頭を下げた。呪われた世代と言われる原因になってしまった理由に少なからず自分が関係している事を俺に謝っているのだろう。
「謝る事じゃない。エミリアは何も悪くないし、寧ろ被害者だ」
環境こそ違えど、エミリアも俺と同じ様な思いをしてきたんだな。俺は森でずっと1人だったけど、彼女はきっと毎日毎日辛い目に遭っていた。その気持ちは計り知れない。
「ありがとうございますグリムさん。呼ばれ方は良くないですけど、私は心の何処かで親近感を覚え、グリムさんともう1人の方に何時か会ってみたいと勝手に思っていました」
「成程。まさか俺がいなくなってからそんな事になっていたとは……。なんか俺のせいでゴメンな。エミリアに辛い思いさせていたみたいで」
「い、いえ、それは違いますよ! 私は私に才能がなかったから皆さんに馬鹿にされていただけです。グリムさんのせいではありません!」
彼女が俺に謝るなど以ての外。逆に俺が謝れって感じだよな。
「あ、すみません。何か話が長くなってしまって……。まだノーバディとハクさんの事も知りたいんですよね」
「ああ。何か知っているか?」
「結論から言いますと、申し訳ありませんがハクさんを狙っているという理由は分かりません。私もグリムさんの話でこのハクさんが討伐対象ある白銀のモンスターと知ったぐらいなので……」
「やっぱりそうなのか。分かったよ、ありがとうエミリア」
「いえ。もっとグリムさんのお役に立てる事を知っていれば良かったのですが」
「でも益々怪しくなってきたな。ちゃんと理由も告げずにこれだけの団員が動いているのは異常だ」
「そうですね。私はそれも少し感じていました。王国は今“終焉”にも手をこまねいてますから」
「終焉って何の事だ?」
エミリアの口から出た聞いた事のない言葉。
「グリムさん終焉もご存じないですか?」
「ああ。何の事かさっぱり。ずっと1人で森にいたから外の事がまるで分からないんだ」
「そうだったんですね。だからノーバディの事も聞かれたのですか」
「ああ。あんなの初めて見たからな。森にいなかったし」
俺はエミリアの話を聞いて、そしてエミリアは俺の話を聞いて、互いに少しずつ相手の事と今起きている現状を把握し始めた。
「王国に終焉というものが訪れる様になったのは、あの触手のモンスター……ノーバディがリューティス王国に突如現れ、王国の人々を襲いだしたからです。
爆発的にノーバディの数が増えて至る所で団員が討伐を行っているのですが、王都もオレオールも騎士魔法団が人手不足の状態です。
そんな時に、ずっと訓練生でいた私にオレオールの魔法団の団長さんが声を掛けてくれたのです」
「へぇ、王国ではそんな事が起こってるのか」
「はい。ですが私は魔法もろくに扱えない為、派遣されたエンビア様の団でも迷惑ばかり掛けてしまいました。その結果がアレです。最後は捨てられてしまいました……」
そう語るエミリアの姿が、やはり何時かの自分と重なって見えていた。
「そっか。奴らに裏切られた上に、エミリアがいた魔法団はもうノーバディの腹の中。行く当てもないから俺の仲間になりたいと」
「はい。私にとっては運命です! 2度も命を救ってくれた恩人が、私と同じ呪われた世代のあのグリムさんだったなんて、それ以外考えられません! それに私はグリムさんの様に強くなりたいんです!」
ようやくここまで話がきたか。うん。これが最後の問題だ。
「仲間になりたいだの強くなりたいだの言われてもな……。
俺はエミリア達が追っているハクを連れている挙句に騎士団とも揉めたばっかりだからなぁ。もう指名手配されてるんじゃないかな俺。
一応エミリアとは敵対している立場なんだけどそもそも……」
「私には関係ありません! もう魔法団になるのは諦めていましたし、派遣された魔法団もなくなってしまいました。元から正式な団員でもなければ私はもうグリムさんと出会ってしまいましたから!」
今までとは一転し、まるで開き直ったかの如く堂々と言い放ってきたエミリア。彼女の言ってる事はもっともだが、今の俺とハクと一緒に行動するのはかなり危険だと思う。
「エミリアがどんな道を進もうが、それを俺にどうこう言える資格はなし。ただ、俺とハクは今や狙われる身だ。その事も分かって仲間になりたいなんて言ってるのか?」
「はい。ちゃんと分かってます! 本当は魔法団の団長になるのが夢でしたけど、その夢は潰えてしまいました……。ですが今日、同じ呪われた世代のグリムさんと出会って、終わりだと思っていた自分の人生に突如希望の光が差し込んできました!」
「ちょっと大袈裟だな」
「いいえ、そんな事ありません。心の底からそう思っています!諦めていましたが、やっぱり少しでもグリムさんの様に強くなりたいんです。お願いします!」
エミリアはそう言って、深々と俺に頭を下げてきたのだった。