♢♦♢
~洞窟内・魔法団~
洞窟内はとても暗く深い。
ノーバディが通った後なのか、洞窟内は人間が数十人並んで歩いても余裕がある幅であり、高さも優に10m近くある。それに道は1本ではなく幾つも枝分かれした様に続いていた。
グリムが助けた彼女達魔法団は順調に足を進めていた――。
「思った以上に深いわね。やっぱりここにノーバディの本体がいそうだわ」
「エンビア様、これ全部あの触手の通り道ですかね?
個体でもかなりの大きさでしたから、その“本体”となると一体どれ程の大きさ何でしょう……」
「デカさなんて関係ないわよ。私がいるんだから安心しなさい」
「こんなモンスターが至る所で現れるなんて、終焉の影響は何処まで広がっているのかしら」
「我らで一刻も早くノーバディの本体を叩き、本命である白銀のモンスターの討伐に加わりましょうエンビア様」
「勿論よ。私達はこんな所に時間を割いてる暇はない。フフフ、だから速攻で終わらせる為に、早くも“餌”を使いましょうか」
不敵に笑みを浮かべながら、エンビアは団の後方へと振り返った。
「ちょっと、何時まで最後尾をたらたら歩いているの! さっさと前に来なさい!
「わ、私でしょうか?」
エンビアが指示を出す視線の先には、エミリアの姿があった。
「アンタ以外に誰がいるのよ! 魔法もまともに使えない役立たずなんだから、せめて先頭で灯りを点けて進みやすくしなさいよ! 幾らなんでもそれぐらい出来るでしょ?」
「は、はい! それなら大丈夫です……!」
たかが灯りを点けるだけ。
それでもエンビアは、遂に自分でも出来る役割を与えられた事にやる気を出していた。
「全く、何でこんなゴミが私のところに」
「恐らくリリアン団長の仕業でしょう。彼女は最近裏で単独行動しているという情報があります。何やら今起きている“終焉”の事態を利用して、使えない人材を色んな団に飛ばしているそうですよ」
「何してるんだあの女は」
「狙いは手柄でしょう。リリアン団長は他の団長達の中でもエンビア様に固執している様に見受けられますからね」
「きっとエンビア様に先を越されるのが気に食わないのよ」
エンビアもリリアンもオレオールの魔法団に所属している。
リリアンは第九魔法団の団長であり、エンビアは第十魔法団の団長。
どうやらリリアンは自身が1番手柄を得る為に、他の魔法団の邪魔をしている様である。加えて、リリアンは個人的にエンビアを最も敵視していた。勿論本来であれば互いに魔法団の仲間なのだが、リリアンがエンビアを敵視するのには理由がある――。
「エンビア様の魔法レベルは王国内でも随一。リューティス王国の神器でもある『聖杖シュトラール』を受け継がれるのは間違いなくエンビア様です。寧ろ現時点でも相応しいのはエンビア様ですよ」
「フフフ。別に王国の神器なんて無くても、私がリューティス王国で間違いなくNo.1の魔法使いよ。後はそれを王国中の人間に分からせてやるだけ。その為にも早く討伐するわよ!」
「「おおォォォォ!」」
そう。
エンビアとリリアンは共に実力ある魔法使い。エンビアは口ではそう言いつつ、リューティス王国の神器が1つ『聖杖シュトラール』の次なる後継を虎視眈々と狙っているのだ。だからこそ彼女は最も邪魔な存在であるリリアンを敵視している。
エンビアの喝で魔法団員達の士気が高まり、そのままエンビア達はどんどん奥に進んで行った。先頭は変わらずにエミリアが歩いていたが、灯りを照らしていても如何せん足場が悪くエミリアは石で躓いてしまった。
「また? アンタ本当に何なのよ。さっさと立って進みなさい!」
「すみません」
転んでしまったエミリアは直ぐに立ち上がり、再び歩みを始めた。だが次の瞬間、突如激しい轟音と共に洞窟が大きく揺れ出した。
「「――⁉」」
その場にいた全員が一瞬にして困惑に包まれたが、その困惑を一蹴するかの如き更なる悲劇が魔法団を襲った。
「エ、エンビア様……ッ!」
魔法団を襲った更なる悲劇の正体……それは他でもないノーバディ。揺れる地面から巨大な触手が勢いよく飛び出してきた。
先頭にいたエミリアは触手との距離が最も近い。突然の事態と恐怖で腰を抜かしたエミリアは動けなくなったが、ノーバディはそんな事情一切お構いなしに容赦なくエミリアに襲い掛かったのだった。
『ギギァァァ!』
「“アクアハンマー”!」
「“ファイアショット”!」
「“ウィンドスラッシュ!”」
大きく開かれた口がエミリアに届く寸前、彼女の後ろから幾つもの攻撃魔法が放たれ見事ノーバディに直撃した。
『ヴァ……ギィィッ……!』
攻撃を食らったノーバディはダメージを負ったのか、不快な呻き声を上げながら洞窟の壁の中へと潜って逃げていった。
「上にいた触手より明らかに大きくて強いわね。同時攻撃で倒しきれないなんて初めてだわ」
「そうですね。何時もなら簡単に弾け飛んでいたのに僅かな傷しか与えられなかった所を見ると、体も硬く防御力が上がっています」
「あれが潜んでいるとなると厄介だ。絶対地上に出る前に倒さなくては」
「全団員行くわよ! 必ず私達の手でノーバディ本体を仕留める! ……何時までも座っていないでさっさと進めゴミがッ!」
エンビアは恐怖で腰を抜かしているエミリアに強い口調でそう言った。エミリアは恐怖で震える体を必死に抑え込みまたゆっくりと歩き始めたのだった。
エミリア達が洞窟のずっと奥へ向かっていると、今までよりも更に開けた大きな空洞へと出た。
「ここはまた広い場所ね」
「エンビア様、アレは何でしょうか」
1人の団員が大きな空洞の奥を指差しながら言った。
エンビアがその方向に視線を移すと、そこには何かの卵のような物が幾つも転がっていた。そして、ソレを見たエンビアや察しの良い団員は気が付く。
「恐らくノーバディの卵ね……」
「コレ全部がさっきの触手だと思うとマズいですね」
「でも卵があるって事はやっぱりここが奴らの巣って事で間違いないわ。きっと近くに本体である“親”がいる筈よ、各自小隊を組んで辺りを捜索! そこらに転がっている卵は全部潰しなさい!」
「「了解!!」」
エンビアの指示により、団員達は卵を潰しながら周辺の捜索を始める。エミリアも自身が出来る事をしようと転がる卵を潰そうとした。だが、エンビアはそんな彼女を見るなり服を思い切り引っ張った。
「エ、エンビア様⁉」
「黙ってなさい。アンタはこっちで別の“仕事”よ――」
そう言いながら、エンビアは無理矢理エミリアを大きな空洞の中央まで引っ張って連れて行くと、そのまま突如彼女を蹴り飛ばした。
「ゔッ⁉ 痛たたた……。エ、エンビア様、何を……!」
「フフフフ。アンタって本当にムカつくわね。そんな木の杖使って魔法も使えないのによく生きていられるわね。恥ずかしくないの?」
「そ、それは……。勿論魔法が使えない事は自分でも情けないと思っています。ですが、それでも魔法団に入るのが夢で……どんな些細な事でも皆さんのお力になれればと……」
「あら、そうなの? ゴミのくせに心構えだけは立派ね。だったら口だけじゃなくて行動で見せてみな……“ウィンド”!」
次の瞬間、エンビアは突如風魔法を繰り出し、エミリアを風の刃で斬りつけた。
「キャッ!」
瞬く間に複数ヵ所を斬りつけられたエミリアの体からは血が流れている。命に関わる程ではないが、体を動かそうと僅かに動かしただけで全身に痛みが走った。
「ど、どうして⁉」
「何がよ? 自分で今言ったじゃない。皆の力になりたいって。だからアンタが望むようにしてあげてるの。魔法も使えない上に頭まで悪いのねアンタ。いちいち説明しなくても分かるでしょ?
騎士団からの情報によると、ノーバディは“血の匂い”に反応しやすいみたいなの。そしてここには肝心の本体がいない。だからアンタは奴をおびき出す為の餌になってね」
血を流しながら倒れているエミリアを見下しながら、エンビアは不敵な笑みを浮かべてそう言った。
そして、エンビアの思惑通り、ノーバディが再び姿を現す――。
「ホントに来た……」
~洞窟内・魔法団~
洞窟内はとても暗く深い。
ノーバディが通った後なのか、洞窟内は人間が数十人並んで歩いても余裕がある幅であり、高さも優に10m近くある。それに道は1本ではなく幾つも枝分かれした様に続いていた。
グリムが助けた彼女達魔法団は順調に足を進めていた――。
「思った以上に深いわね。やっぱりここにノーバディの本体がいそうだわ」
「エンビア様、これ全部あの触手の通り道ですかね?
個体でもかなりの大きさでしたから、その“本体”となると一体どれ程の大きさ何でしょう……」
「デカさなんて関係ないわよ。私がいるんだから安心しなさい」
「こんなモンスターが至る所で現れるなんて、終焉の影響は何処まで広がっているのかしら」
「我らで一刻も早くノーバディの本体を叩き、本命である白銀のモンスターの討伐に加わりましょうエンビア様」
「勿論よ。私達はこんな所に時間を割いてる暇はない。フフフ、だから速攻で終わらせる為に、早くも“餌”を使いましょうか」
不敵に笑みを浮かべながら、エンビアは団の後方へと振り返った。
「ちょっと、何時まで最後尾をたらたら歩いているの! さっさと前に来なさい!
「わ、私でしょうか?」
エンビアが指示を出す視線の先には、エミリアの姿があった。
「アンタ以外に誰がいるのよ! 魔法もまともに使えない役立たずなんだから、せめて先頭で灯りを点けて進みやすくしなさいよ! 幾らなんでもそれぐらい出来るでしょ?」
「は、はい! それなら大丈夫です……!」
たかが灯りを点けるだけ。
それでもエンビアは、遂に自分でも出来る役割を与えられた事にやる気を出していた。
「全く、何でこんなゴミが私のところに」
「恐らくリリアン団長の仕業でしょう。彼女は最近裏で単独行動しているという情報があります。何やら今起きている“終焉”の事態を利用して、使えない人材を色んな団に飛ばしているそうですよ」
「何してるんだあの女は」
「狙いは手柄でしょう。リリアン団長は他の団長達の中でもエンビア様に固執している様に見受けられますからね」
「きっとエンビア様に先を越されるのが気に食わないのよ」
エンビアもリリアンもオレオールの魔法団に所属している。
リリアンは第九魔法団の団長であり、エンビアは第十魔法団の団長。
どうやらリリアンは自身が1番手柄を得る為に、他の魔法団の邪魔をしている様である。加えて、リリアンは個人的にエンビアを最も敵視していた。勿論本来であれば互いに魔法団の仲間なのだが、リリアンがエンビアを敵視するのには理由がある――。
「エンビア様の魔法レベルは王国内でも随一。リューティス王国の神器でもある『聖杖シュトラール』を受け継がれるのは間違いなくエンビア様です。寧ろ現時点でも相応しいのはエンビア様ですよ」
「フフフ。別に王国の神器なんて無くても、私がリューティス王国で間違いなくNo.1の魔法使いよ。後はそれを王国中の人間に分からせてやるだけ。その為にも早く討伐するわよ!」
「「おおォォォォ!」」
そう。
エンビアとリリアンは共に実力ある魔法使い。エンビアは口ではそう言いつつ、リューティス王国の神器が1つ『聖杖シュトラール』の次なる後継を虎視眈々と狙っているのだ。だからこそ彼女は最も邪魔な存在であるリリアンを敵視している。
エンビアの喝で魔法団員達の士気が高まり、そのままエンビア達はどんどん奥に進んで行った。先頭は変わらずにエミリアが歩いていたが、灯りを照らしていても如何せん足場が悪くエミリアは石で躓いてしまった。
「また? アンタ本当に何なのよ。さっさと立って進みなさい!」
「すみません」
転んでしまったエミリアは直ぐに立ち上がり、再び歩みを始めた。だが次の瞬間、突如激しい轟音と共に洞窟が大きく揺れ出した。
「「――⁉」」
その場にいた全員が一瞬にして困惑に包まれたが、その困惑を一蹴するかの如き更なる悲劇が魔法団を襲った。
「エ、エンビア様……ッ!」
魔法団を襲った更なる悲劇の正体……それは他でもないノーバディ。揺れる地面から巨大な触手が勢いよく飛び出してきた。
先頭にいたエミリアは触手との距離が最も近い。突然の事態と恐怖で腰を抜かしたエミリアは動けなくなったが、ノーバディはそんな事情一切お構いなしに容赦なくエミリアに襲い掛かったのだった。
『ギギァァァ!』
「“アクアハンマー”!」
「“ファイアショット”!」
「“ウィンドスラッシュ!”」
大きく開かれた口がエミリアに届く寸前、彼女の後ろから幾つもの攻撃魔法が放たれ見事ノーバディに直撃した。
『ヴァ……ギィィッ……!』
攻撃を食らったノーバディはダメージを負ったのか、不快な呻き声を上げながら洞窟の壁の中へと潜って逃げていった。
「上にいた触手より明らかに大きくて強いわね。同時攻撃で倒しきれないなんて初めてだわ」
「そうですね。何時もなら簡単に弾け飛んでいたのに僅かな傷しか与えられなかった所を見ると、体も硬く防御力が上がっています」
「あれが潜んでいるとなると厄介だ。絶対地上に出る前に倒さなくては」
「全団員行くわよ! 必ず私達の手でノーバディ本体を仕留める! ……何時までも座っていないでさっさと進めゴミがッ!」
エンビアは恐怖で腰を抜かしているエミリアに強い口調でそう言った。エミリアは恐怖で震える体を必死に抑え込みまたゆっくりと歩き始めたのだった。
エミリア達が洞窟のずっと奥へ向かっていると、今までよりも更に開けた大きな空洞へと出た。
「ここはまた広い場所ね」
「エンビア様、アレは何でしょうか」
1人の団員が大きな空洞の奥を指差しながら言った。
エンビアがその方向に視線を移すと、そこには何かの卵のような物が幾つも転がっていた。そして、ソレを見たエンビアや察しの良い団員は気が付く。
「恐らくノーバディの卵ね……」
「コレ全部がさっきの触手だと思うとマズいですね」
「でも卵があるって事はやっぱりここが奴らの巣って事で間違いないわ。きっと近くに本体である“親”がいる筈よ、各自小隊を組んで辺りを捜索! そこらに転がっている卵は全部潰しなさい!」
「「了解!!」」
エンビアの指示により、団員達は卵を潰しながら周辺の捜索を始める。エミリアも自身が出来る事をしようと転がる卵を潰そうとした。だが、エンビアはそんな彼女を見るなり服を思い切り引っ張った。
「エ、エンビア様⁉」
「黙ってなさい。アンタはこっちで別の“仕事”よ――」
そう言いながら、エンビアは無理矢理エミリアを大きな空洞の中央まで引っ張って連れて行くと、そのまま突如彼女を蹴り飛ばした。
「ゔッ⁉ 痛たたた……。エ、エンビア様、何を……!」
「フフフフ。アンタって本当にムカつくわね。そんな木の杖使って魔法も使えないのによく生きていられるわね。恥ずかしくないの?」
「そ、それは……。勿論魔法が使えない事は自分でも情けないと思っています。ですが、それでも魔法団に入るのが夢で……どんな些細な事でも皆さんのお力になれればと……」
「あら、そうなの? ゴミのくせに心構えだけは立派ね。だったら口だけじゃなくて行動で見せてみな……“ウィンド”!」
次の瞬間、エンビアは突如風魔法を繰り出し、エミリアを風の刃で斬りつけた。
「キャッ!」
瞬く間に複数ヵ所を斬りつけられたエミリアの体からは血が流れている。命に関わる程ではないが、体を動かそうと僅かに動かしただけで全身に痛みが走った。
「ど、どうして⁉」
「何がよ? 自分で今言ったじゃない。皆の力になりたいって。だからアンタが望むようにしてあげてるの。魔法も使えない上に頭まで悪いのねアンタ。いちいち説明しなくても分かるでしょ?
騎士団からの情報によると、ノーバディは“血の匂い”に反応しやすいみたいなの。そしてここには肝心の本体がいない。だからアンタは奴をおびき出す為の餌になってね」
血を流しながら倒れているエミリアを見下しながら、エンビアは不敵な笑みを浮かべてそう言った。
そして、エンビアの思惑通り、ノーバディが再び姿を現す――。
「ホントに来た……」