“竜神の生命”――。
エミリアが精霊魔法を扱える様に、フーリンが神威を扱える様に、ハク達3神柱にはそれぞれ唯一無二の力が存在するとの事。
つまり、これがドラドムートの、俺達の力の完成形であり、身体の全てを極限まで高める最終奥義“ドラゴンソウル”だ――。
この力の効果は凄まじい。故にコントロールが難しくて使った後は大幅に体力を持っていかれるという反動がある。まだ完璧に使いこなしている訳じゃないが、最早ヴィルを倒すのにはコレしか手段がない。
「行くぞヴィル!」
「……!?」
ドラゴンソウルによって強化された俺の動きはさっきと比べものにならない。その証拠にヴィルは反応が遅れて俺に背後を取られた。
――ガキィィン!
「うは、危なッ! 興奮するねその力!」
「言っただろ? もう終わりだって」
俺は最後にヴィルにそう言い残すと、攻撃を受け止めていた奴の剣を弾き、無防備に空いた体目掛けて神速の一太刀を食らわせた。
――シュバァァァン!
「な……ッ!?」
俺の剣が初めてヴィルを捉えると、肩から腹部まで一線に斬った傷口から瞬く間に鮮血が舞い上がった。初撃にして最後の一撃。そう確信出来る程完璧な手応えだ。斬られたヴィルは血を流しながら力無く持っていた神剣ジークフリードを地面に落とす。
俺にはその一連の流れがとてもスローモーションに見えた。
――カラァン……ドサッ。
「がッ……馬鹿な……何で俺が……ッ!」
地面に倒れるヴィル。奴は倒れながらも斬られた体を見て、小刻みに震えながら懸命に歯を食いしばって状態を起こした。そして迸る怒りを俺に向けるや否やフラつく体で顔の血管を浮き立たせ、俺に怒号を放ってくるのだった。
「ふ、ふざけるなよ兄さん! ぐッ……がはッがは……! マグレで一太刀浴びせたぐらいで俺を見下すんじゃねぇッ! ゲホッ、がッ……!」
激しい怒号と共に口から血が溢れる。
「無理して喋るなヴィル。お前の負けだ」
「ぐッ……! クソが……」
強がっているがもうヴィルは動けない。俺の勝ちだ。
俺とヴィルの激しい攻防に、何時からかこの場の全員が動きを止めて俺達の戦いを見ていた。そしてたった今決着が着いた事により場は静寂に包まれる。これで戦いは終わりだ。
「グリムー!」
場の静寂を破ったのはエミリアの声。俺とヴィルの戦いが終わり、エミリアとフーリンが俺の元へ駆け寄って来た。
「勝ったのねグリム!」
「ああ、何とかな」
「今までに感じた事がない程の強者の気配だった」
「確かに。間違いなく今までで1番強い敵だったよ。エミリアもフーリンも大丈夫だったか?」
俺の問いかけに、2人は戸惑うことなく「大丈夫」と言ってくれた。七聖天と戦っていたから心配だったけど、エミリアもフーリンも本当に無事で良かった。怪我もしていないみたいだし。
それに。
「終わった様だな」
「カル」
エミリアとフーリンと話している所へ、今度は七聖天のカルが俺やって来た。
「貴方は七聖天の……でも何で……?」
「何か俺達が邪神だったって事が嘘だと分かったらしいぜ。それで手を貸してくれたんだ」
「え、そうなの!? あの、ありがとうございます! ユリマを助けてくれて」
「別に礼を言われる筋合いはない。お前達の仲間でもないしな。俺はただ自分の思った通りに動いただけだ」
「カル……! お前……」
ヴィルは呼吸が荒くなりながらも鋭い視線をカルに向けて飛ばす。
「まさか国王とお前が裏でコソコソ動いていたとはな。まんまと手のひらの上で転がされた。本当の反逆者はお前達だった」
「ふん……。知った様な口を利くな……」
「そうだな。騙されていたのは己の責任でもある。だがコレで全て終わっただろう。後は大人しく罪を償うんだな」
「ハハハ……罪を償うだって……? 笑わせる。 ぐッ、ゲホゲホッ……!」
「遂に倒したのね、グリム」
ヴィルとカルが言葉を交わしていると、ユリマを抱えながらハクとイヴも俺達の元へ来た。
「ユリマ! 大丈夫?」
「うん。気を失っているみたいだけど大丈夫だよ」
「アンタにしては上出来だねぇグリム。後は肝心のアビスが“どうなったか”だが――」
イヴの何気ない一言で、俺達は一瞬にして緊張感に包まれると同時に一斉に皆がヴィルへと視線を注いだ。
『彼を倒した事で、彼から感じていたアビスの力は確実に消えかかっている』
「だったらもうコイツに止めを刺せば全て終わりだねぇ」
「ハクちゃん達が視た未来の世界ではアビスが復活していたの?」
「うん。確かにアビスが復活して皆で戦う未来が視えていたけど、アレはもう数百年以上も前になるし未来は少なからず変化するもの。だからもしグリムが彼と一緒にアビスを倒しているのなら、それはそれで貴方達がその力で新たな未来を切り開いたという事――」
ハクが言うのならそうなのだろう。確かにユリマだって未来を変える為にずっと健闘していたんだ。形はどうであれ俺達の最終目標はアビスを消滅させる事。もしヴィルを倒した事によってそれが達成されたのなら何の文句もないんだ。
「……って事は、アビスが完全復活する前に俺達が倒せたって事でいいのか……?」
「急に言われても実感がないな」
「何だ、本当の黒幕はヴィルと一緒に片付いたという事で良いのか?」
何処か実感がない俺達に加え、カルもまた同じ様な事を思っているのだろう。
『復活しないならそれ以上の事はないぞ皆の者』
「ヒッヒッヒッ、ドラドムートの言う通りだよ。未来は変化するもの。確かに急激にアビスの力が弱まり消えかけている。このまま全てを終わらせるよ」
そう言ったイヴからももう殆ど魔力を感じられないが、イヴはそれでも最後の力を振り絞って手のひらをヴィルに向けた。
「いいね? グリム」
「ああ――」
何時もなら容赦なく行動するイヴであったが、最後に何処か申し訳なさそうに俺にそう聞いてきた。イヴなりの俺への気遣ってくれた様だ。確かに目の前のヴィルは俺の弟。でもコイツはもう完全に力と欲望に蝕まれ取り返しがつかない。これがヴィル自身の責任の代償となるならば、それは誰かに裁かれるべきだろう。
イヴの手のひらに魔力が集まるとその魔力は圧縮して勢いよく放たれた。本来のイヴの魔法と比べるとかなり威力は弱まっているが、それでも今の瀕死のヴィルに止めを差すには十分過ぎる程だった。
これで終わり。
しかし、誰もがそう悟った次の刹那……。
――ズバァン!
「「……!?」」
「ハァ……ハァ……図に乗るなよ……!」
ヴィルは今にも気絶しそうな状態からいつの間にか落ちていた神剣ジークフリード拾い上げ、イヴの魔力弾を斬り払った。
「お前……!」
「落ちこぼれの兄さんに負ける訳ないよね……! ハハハハ、本当は俺が直接切り刻んでやりたかったけど……このまま死ぬぐらいなら、俺の体を使えよ“アビス”。俺が生贄になってお前を完全復活させてあげるよ……ッ!」
ヴィルはそう言った直後、持っていた神剣ジークフリードを自らの胸に突き刺した。
「ヴィルッ!?」
そして、ヴィルが己に剣を刺した次の瞬間、まるで大きな玉が弾けて中身が飛び出す様に、剣を刺したヴィルの体から悍ましい程強大な魔力が一瞬にして溢れ出てきたのだった。更に刹那、その魔力から凄まじく冷酷で禍々しい殺意が辺り一帯に放たれた。
「何だこの魔力は……!?」
驚き言葉を失う俺達を他所に、溢れ出したとてつもなく強大な魔力はどんどんと空高く上昇する否や空宙で1ヵ所に固まった。そして固まった魔力はみるみるうちに形を変化させていくと、次の瞬間突如そこに1人の女が姿を現した――。
「アビス――」
エミリアが精霊魔法を扱える様に、フーリンが神威を扱える様に、ハク達3神柱にはそれぞれ唯一無二の力が存在するとの事。
つまり、これがドラドムートの、俺達の力の完成形であり、身体の全てを極限まで高める最終奥義“ドラゴンソウル”だ――。
この力の効果は凄まじい。故にコントロールが難しくて使った後は大幅に体力を持っていかれるという反動がある。まだ完璧に使いこなしている訳じゃないが、最早ヴィルを倒すのにはコレしか手段がない。
「行くぞヴィル!」
「……!?」
ドラゴンソウルによって強化された俺の動きはさっきと比べものにならない。その証拠にヴィルは反応が遅れて俺に背後を取られた。
――ガキィィン!
「うは、危なッ! 興奮するねその力!」
「言っただろ? もう終わりだって」
俺は最後にヴィルにそう言い残すと、攻撃を受け止めていた奴の剣を弾き、無防備に空いた体目掛けて神速の一太刀を食らわせた。
――シュバァァァン!
「な……ッ!?」
俺の剣が初めてヴィルを捉えると、肩から腹部まで一線に斬った傷口から瞬く間に鮮血が舞い上がった。初撃にして最後の一撃。そう確信出来る程完璧な手応えだ。斬られたヴィルは血を流しながら力無く持っていた神剣ジークフリードを地面に落とす。
俺にはその一連の流れがとてもスローモーションに見えた。
――カラァン……ドサッ。
「がッ……馬鹿な……何で俺が……ッ!」
地面に倒れるヴィル。奴は倒れながらも斬られた体を見て、小刻みに震えながら懸命に歯を食いしばって状態を起こした。そして迸る怒りを俺に向けるや否やフラつく体で顔の血管を浮き立たせ、俺に怒号を放ってくるのだった。
「ふ、ふざけるなよ兄さん! ぐッ……がはッがは……! マグレで一太刀浴びせたぐらいで俺を見下すんじゃねぇッ! ゲホッ、がッ……!」
激しい怒号と共に口から血が溢れる。
「無理して喋るなヴィル。お前の負けだ」
「ぐッ……! クソが……」
強がっているがもうヴィルは動けない。俺の勝ちだ。
俺とヴィルの激しい攻防に、何時からかこの場の全員が動きを止めて俺達の戦いを見ていた。そしてたった今決着が着いた事により場は静寂に包まれる。これで戦いは終わりだ。
「グリムー!」
場の静寂を破ったのはエミリアの声。俺とヴィルの戦いが終わり、エミリアとフーリンが俺の元へ駆け寄って来た。
「勝ったのねグリム!」
「ああ、何とかな」
「今までに感じた事がない程の強者の気配だった」
「確かに。間違いなく今までで1番強い敵だったよ。エミリアもフーリンも大丈夫だったか?」
俺の問いかけに、2人は戸惑うことなく「大丈夫」と言ってくれた。七聖天と戦っていたから心配だったけど、エミリアもフーリンも本当に無事で良かった。怪我もしていないみたいだし。
それに。
「終わった様だな」
「カル」
エミリアとフーリンと話している所へ、今度は七聖天のカルが俺やって来た。
「貴方は七聖天の……でも何で……?」
「何か俺達が邪神だったって事が嘘だと分かったらしいぜ。それで手を貸してくれたんだ」
「え、そうなの!? あの、ありがとうございます! ユリマを助けてくれて」
「別に礼を言われる筋合いはない。お前達の仲間でもないしな。俺はただ自分の思った通りに動いただけだ」
「カル……! お前……」
ヴィルは呼吸が荒くなりながらも鋭い視線をカルに向けて飛ばす。
「まさか国王とお前が裏でコソコソ動いていたとはな。まんまと手のひらの上で転がされた。本当の反逆者はお前達だった」
「ふん……。知った様な口を利くな……」
「そうだな。騙されていたのは己の責任でもある。だがコレで全て終わっただろう。後は大人しく罪を償うんだな」
「ハハハ……罪を償うだって……? 笑わせる。 ぐッ、ゲホゲホッ……!」
「遂に倒したのね、グリム」
ヴィルとカルが言葉を交わしていると、ユリマを抱えながらハクとイヴも俺達の元へ来た。
「ユリマ! 大丈夫?」
「うん。気を失っているみたいだけど大丈夫だよ」
「アンタにしては上出来だねぇグリム。後は肝心のアビスが“どうなったか”だが――」
イヴの何気ない一言で、俺達は一瞬にして緊張感に包まれると同時に一斉に皆がヴィルへと視線を注いだ。
『彼を倒した事で、彼から感じていたアビスの力は確実に消えかかっている』
「だったらもうコイツに止めを刺せば全て終わりだねぇ」
「ハクちゃん達が視た未来の世界ではアビスが復活していたの?」
「うん。確かにアビスが復活して皆で戦う未来が視えていたけど、アレはもう数百年以上も前になるし未来は少なからず変化するもの。だからもしグリムが彼と一緒にアビスを倒しているのなら、それはそれで貴方達がその力で新たな未来を切り開いたという事――」
ハクが言うのならそうなのだろう。確かにユリマだって未来を変える為にずっと健闘していたんだ。形はどうであれ俺達の最終目標はアビスを消滅させる事。もしヴィルを倒した事によってそれが達成されたのなら何の文句もないんだ。
「……って事は、アビスが完全復活する前に俺達が倒せたって事でいいのか……?」
「急に言われても実感がないな」
「何だ、本当の黒幕はヴィルと一緒に片付いたという事で良いのか?」
何処か実感がない俺達に加え、カルもまた同じ様な事を思っているのだろう。
『復活しないならそれ以上の事はないぞ皆の者』
「ヒッヒッヒッ、ドラドムートの言う通りだよ。未来は変化するもの。確かに急激にアビスの力が弱まり消えかけている。このまま全てを終わらせるよ」
そう言ったイヴからももう殆ど魔力を感じられないが、イヴはそれでも最後の力を振り絞って手のひらをヴィルに向けた。
「いいね? グリム」
「ああ――」
何時もなら容赦なく行動するイヴであったが、最後に何処か申し訳なさそうに俺にそう聞いてきた。イヴなりの俺への気遣ってくれた様だ。確かに目の前のヴィルは俺の弟。でもコイツはもう完全に力と欲望に蝕まれ取り返しがつかない。これがヴィル自身の責任の代償となるならば、それは誰かに裁かれるべきだろう。
イヴの手のひらに魔力が集まるとその魔力は圧縮して勢いよく放たれた。本来のイヴの魔法と比べるとかなり威力は弱まっているが、それでも今の瀕死のヴィルに止めを差すには十分過ぎる程だった。
これで終わり。
しかし、誰もがそう悟った次の刹那……。
――ズバァン!
「「……!?」」
「ハァ……ハァ……図に乗るなよ……!」
ヴィルは今にも気絶しそうな状態からいつの間にか落ちていた神剣ジークフリード拾い上げ、イヴの魔力弾を斬り払った。
「お前……!」
「落ちこぼれの兄さんに負ける訳ないよね……! ハハハハ、本当は俺が直接切り刻んでやりたかったけど……このまま死ぬぐらいなら、俺の体を使えよ“アビス”。俺が生贄になってお前を完全復活させてあげるよ……ッ!」
ヴィルはそう言った直後、持っていた神剣ジークフリードを自らの胸に突き刺した。
「ヴィルッ!?」
そして、ヴィルが己に剣を刺した次の瞬間、まるで大きな玉が弾けて中身が飛び出す様に、剣を刺したヴィルの体から悍ましい程強大な魔力が一瞬にして溢れ出てきたのだった。更に刹那、その魔力から凄まじく冷酷で禍々しい殺意が辺り一帯に放たれた。
「何だこの魔力は……!?」
驚き言葉を失う俺達を他所に、溢れ出したとてつもなく強大な魔力はどんどんと空高く上昇する否や空宙で1ヵ所に固まった。そして固まった魔力はみるみるうちに形を変化させていくと、次の瞬間突如そこに1人の女が姿を現した――。
「アビス――」