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~リューティス王国~

 遡る事10年前――。
 彼、ヴィル・レオハートは6歳でスキル覚醒を起こした。

「よくやったなヴィル。我がレオハート家の歴史でも、お前程の早さでスキル覚醒した者はかつていない。流石は私の息子だ」
「ありがとう父さん」

 普段から極めて厳格で厳しい父親のグリード・レオハートは、滅多な事では自分の子供と言えど褒める事は無い。いや、リューティス王国最強の剣士と謳われ、凄まじい数の騎士魔法団を統べる大団長という立場であるからこそ、自身の子供と言えど甘やかす事は出来ないとグリードは思っていた。

 珍しくそのグリードが息子のヴィルを褒めた。彼は厳しい表情を浮かべながらもヴィルの頭を軽く撫でると、物心着いてから初めて父親に褒められた事が理解出来たヴィルはとても嬉しそうな表情を浮かべている。

 だがそんな暖かな空気が生まれたのは僅か一瞬。
 父グリードは再び眉間にシワを寄せながら視線を移すと、そこにはグリードとヴィルのすぐ側で、懸命に剣を振るうグリム・レオハートの姿があった。

「ふッ! ふッ! ふッ!」

 汗を流しながら一生懸命に剣を振るグリム。そんなもう1人の実の息子である彼を見つめながら、グリードは更に険しい表情を浮かべているのであった。

「おいグリム、弟のヴィルはもうスキル覚醒を起こしたぞ。お前は何時までそこで剣を振るつもりだ。由緒あるレオハート家の人間であるという事に自覚を持て」
「は、はい! それはちゃんと分かってるよ父さん……。だから僕だって毎日一生懸命ッ……「喋る暇があったらさっさとスキルを覚醒させろ。このレオハート家の長い歴史の中で、お前程覚醒が遅い者は未だかつていないぞ――」

 鬼気迫る父親の圧を感じ、グリム少年は思い出したかの様に慌ててまた剣を振り始めた。グリードはそんなグリムを横目にその場を静かに立ち去ると、弟のヴィルは必死で剣を振るう兄を見て無意識の内に軽蔑の視線を飛ばしていた。そして彼はそのまま家へと帰って行ったのだった。

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 ヴィルがスキル覚醒をした翌日。
 グリードが国王にスキル覚醒の胸を伝えた事により騎士魔法団の皆の注目が瞬く間にヴィルへと集まった。

「凄いなぁ。まだ6歳だってよ!」
「流石はグリード大団長のお子さんだ」
「これは王国の将来も安泰だな!」
「未来の大団長を継ぐのは間違いなくヴィル君だろう」

 レオハート家が有名だからと言う訳ではない。皆はシンプルにヴィルの実力を認め称えていたのだ。厳格な父の元で育ったヴィルはにはこうして褒められたり称えられる免疫がまるで無い。彼はとても恥ずかしそうにしながらも何処か嬉しそうな表情を浮かべて喜んでいるのだった。

 正式に騎士団員として入団した彼は、まず誰もがなる訓練生からスタートした。例え由緒ある名家であろうと現大団長の息子であろうとこの決まりに例外はない。しかし、訓練生のヴィルは自分よりも歳が上の子達相手でも負けず劣らず、寧ろ誰よりもその実力が群を抜いていたのだった。

 それは訓練生の中だけでなく大人を交えた正式な団員相手でも変わらない。騎士団に6歳から入団した彼はみるみるうちに実力と名声を上げていき、若干15歳にして王都とオレオールの両方を含む全騎士魔法団員の中で“最強”と謳われる存在になっていた――。

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~騎士団魔法団・訓練場~

「おい! こっちこっち!」
「こりゃまた凄いものが見られるな!」
「ああ。何て言ったってグリード大団長と息子のヴィルの“決闘”だからな」

 15歳にして最強と謳われたヴィル・レオハート。彼は16歳の誕生日を迎えたこの日、己の実力も然ることながら、ヴィルは自分が物心着いた時から間違いなくずっとこのリューティス王国最強の剣士として君臨している父とのその“実力差”を知るべく、正式な決闘を申し入れていた。

 勿論正式な決闘とは国王や立会人がいる正式な仕合である。ルール無用で殺し合ったり、どちらかが死ぬまで戦うというものではない。寧ろリューティス王国の国民ならば誰もが自由にこの決闘を観る事が出来る豪華な催しものと言って良いだろう。

 ただその催し物の中心人物であるグリードとヴィルは当然真剣勝負する事を誓っていた。

「それでは始め――ッ!」
「「うおォォォォッ!!」」

 広い訓練場を更に取り囲む形で、物凄い数の団員達が2人の決闘を観るべく集まっていた。予想以上の盛り上がりを見せたこの決闘。最初は誰でも観戦可能となっていたが、余りの盛り上がりの為に最終的に騎士魔法団員のみが観戦可能となったのだった。それ程レオハート家の名はリューティス王国でも大きく、国を守っている騎士魔法団の存在も大きいのである。

「決闘の申し入れを受けてくれてありがとうございます。父さん」
「お前がどれ程成長したか、その実力を見せてみよ」

 訓練場のど真ん中。立会人の掛け声を合図に決闘が始まると、グリードとヴィルは大歓声が鳴り響く中で静かにそう言葉を交わしていた。

 訓練場を見渡せる最も高い位置で2人の決闘を観戦するのは国王。

 次の瞬間、互いに向かい合っていたグリードとヴィルはほぼ同じタイミングで自身の強力な超波動を練り上げたのだった。

 ――グワァァァン!
「「おおぉぉ……!!」」

 グリードとヴィルの凄まじい超波動を目の当たりにした団員達が一斉に驚きの声を上げる。そんな団員達の声が既に耳に入っていないであろうグリードとヴィルは、練り上げた超波動を纏いながら互いに一瞬で間合いを詰めるや否や、火花が散る程勢いよく剣と剣を衝突させるのであった。

 ――ガキィィィンッ!
 グリードとヴィルの目の前で剣が交わる。両者一歩も引かない鍔迫り合い。

「ハハハ、流石父さん。最近戦っていた人達は皆この一撃で片付いていたのに!」
「自惚れるな。そんな剣はまだ私に届かぬ。本気でかかって来いヴィルよ」

 グリードはそう言うと手にする神剣ジークフリードで思い切り鍔迫り合いを払いのけた。弾かれたヴィルは数メートル飛ばされながらもしかと体勢を立て直す。

「俺は父さんを倒してその“神剣ジークフリード”を貰うよ」
「やってみろ。神器を持てるのは選ばれた人間のみだからな」

 この会話を最後に、グリードとヴィルはそこから互いに一進一退の激しい攻防を繰り広げるのだった――。