「なぁ、君って王国の騎士団……だよね?」
俺が間違っていなければ彼女は確かに騎士団員。
だが彼女の持つ杖はどう見ても1番ランクの低い“木の杖”。スキル覚醒者で騎士団員となれば相応の実力がある筈だけど、彼女の木の杖ではそれは絶対に無理。それに正式な騎士団員ならば武器ももっと良い物が支給されている。
彼女もおばちゃんが言っていた、今回の騒動の為の金で雇われた人員なのだろうか。いや、それは有り得ない。仮に半グレや金で雇った奴らだとしたら、わざわざ赤色の紋章を施す訳がないからな。
「は、はい、そうです! とは言っても、まだ正式に騎士団にも魔法団にも属していない訓練生ですが……」
成程、訓練生ね。甲冑ではなくてローブを着ているという事は一応魔法団志望という事か。それで杖をね。
「そうなのか。でもスキルは覚醒しているんだよな? ローブに赤色の紋章付いてるし」
「ええ、一応は……」
スキル覚醒者ならばさっきの触手ぐらい訳ない筈だよな。しかもやっぱりただの木の杖。そもそもスキル覚醒していて“この歳”まで何で訓練生なんだろう。多分俺と変わらないぐらいだよな?
「スキル覚醒しているのにまだ訓練生なんだ。しかもそれただの木の杖だよね? そんなので魔法使えるのか」
そう。木の杖は別名“最弱の武器”でもある。杖に関係なく剣でも槍でも素材が木の物は最弱ランクの武器の証拠だ。
「ああ、コレですか? ハハハ。実は私、スキル覚醒はしているんですが、何故かこの“木の杖しか”使えないんですよね――」
まさかの返答に俺は固まってしまった。
だってそんな話聞いた事無い。
「やっぱり可笑しいと思いますよね……。自分でもそう思っているんです。女神様から魔法使いのスキルを与えられ、その時にこの木の杖も貰って奇跡的にスキル覚醒までしたのですが、何度試してもコレ以外全く他の武器が使えなくて」
「そんな事があるのか」
彼女の話は真実なのだろう。
だが、正直話を聞いてもピンとこなかった。10歳までは俺も王国にいたけどこんな事初耳だ。しかし、細かい事情は違うにせよ、彼女のその特殊なケースの悩みを聞いた俺は何処か自分と彼女が一瞬重なった気がした――。
「あ。こ、こんな話関係ないですよねッ! それより助けて頂いたお礼をしなくては! あの、直ぐに魔法団の団長さんを呼んできますのでお待ち頂いッ……「――それはいい。礼なんかいらないよ。急いでるから俺はもう行く」
彼女が本当に俺に感謝してくれているという事は十分に分かる。でも冷静に考えて助かったのは俺だ。幸い、彼女は俺とハクが騎士団から追われているのを知らなそうだ。
ならば一刻も早くここを離れるしかない。魔法団なんて呼ばれたらたちまち終わりだ。
「え、あの⁉ ほ、本当に行ってしまうんですか? 」
「色々面倒な事情があってね。じゃあ――」
俺はそう言ってハクを抱えながらその場を後にした。
♢♦♢
「お前はあの子を助けたかったのか? ハク」
「バウ」
「そっか。お前はやっぱ優しい奴だ。国王は何が目的なんだよホント」
辺境の森に飛ばされてからというもの、俺は王国内や王都での出来事を何も知らない。勿論知ろうと思えば知る事も出来たが、最早興味がなかった。
唯一耳に入った事と言えば、辺境の森を訪れた冒険者達が何気なく話していた“騎士団大団長”の話。
“グリード・レオハート”と息子の“ヴィル・レオハート”。
その名を聞いたのは何年振りだったろうか。
自身ではもう何とも思っていなかったのが、その名前に思わず体が反応してしまっていた。グリード・レオハートは紛れもない俺の父親の名であり、ヴィルは俺の弟の名。
当時の冒険者達の話しでは、俺の歳下であった弟のヴィルが、王国の騎士団創設以来の最年少記録で大団長になったとか――。
話が事実でも別に驚かない。奴はスキル覚醒も早かったし昔から才能があった。俺とは違ってな。だが今はまた違う。
どこまでが事実であれ、最年少で騎士団大団長となっていようが、俺の家である森を焼き払いハクを狙うお前達は断じて許さない。コレが本当に国王の命なれば、俺は相手が国王だろうが騎士団の大団長だろうが相手にしてやるよ。
「ん?」
そんな事を考えながら再び王都への道に戻ろうとしていた所、さっきの女の子の仲間と思われる魔法団のローブを纏った者達数人を見掛けた。
そして、別に聞くつもりもなかったが、その魔法団達の会話が徐に聞こえてしまった。
「全く! どこ行ったのよアイツは⁉」
「ホント、使えない上にあそこまでグズだとイライラするわ!」
「さっき出会った触手に食われたんじゃない?」
「キャハハ! それはそれで別にいいけど、まだ餌になるのは早いのよね。これから行く“触手の住処”で餌になって貰わなくちゃ――!」
やはり聞かなければ良かったか……?
アイツらの探している奴って、もしかしてさっきの女の子じゃないだろうな。あー、何か嫌な予感がする。コイツらの事情なんて俺には全く関係ないのに。
何でだろう。
何故いまの会話を聞いただけで俺はさっきの女の子の顔がッ……「すいません皆様ッ!」
俺がそう思っていると、魔法団の元へ1人の者が慌てた様子で走って来た。
「あーあ」
そう。悪い予感は見事に的中――。
遠くから魔法団の元へ走って来た者は、さっき助けたばかりの木の杖の女の子だった。
俺が間違っていなければ彼女は確かに騎士団員。
だが彼女の持つ杖はどう見ても1番ランクの低い“木の杖”。スキル覚醒者で騎士団員となれば相応の実力がある筈だけど、彼女の木の杖ではそれは絶対に無理。それに正式な騎士団員ならば武器ももっと良い物が支給されている。
彼女もおばちゃんが言っていた、今回の騒動の為の金で雇われた人員なのだろうか。いや、それは有り得ない。仮に半グレや金で雇った奴らだとしたら、わざわざ赤色の紋章を施す訳がないからな。
「は、はい、そうです! とは言っても、まだ正式に騎士団にも魔法団にも属していない訓練生ですが……」
成程、訓練生ね。甲冑ではなくてローブを着ているという事は一応魔法団志望という事か。それで杖をね。
「そうなのか。でもスキルは覚醒しているんだよな? ローブに赤色の紋章付いてるし」
「ええ、一応は……」
スキル覚醒者ならばさっきの触手ぐらい訳ない筈だよな。しかもやっぱりただの木の杖。そもそもスキル覚醒していて“この歳”まで何で訓練生なんだろう。多分俺と変わらないぐらいだよな?
「スキル覚醒しているのにまだ訓練生なんだ。しかもそれただの木の杖だよね? そんなので魔法使えるのか」
そう。木の杖は別名“最弱の武器”でもある。杖に関係なく剣でも槍でも素材が木の物は最弱ランクの武器の証拠だ。
「ああ、コレですか? ハハハ。実は私、スキル覚醒はしているんですが、何故かこの“木の杖しか”使えないんですよね――」
まさかの返答に俺は固まってしまった。
だってそんな話聞いた事無い。
「やっぱり可笑しいと思いますよね……。自分でもそう思っているんです。女神様から魔法使いのスキルを与えられ、その時にこの木の杖も貰って奇跡的にスキル覚醒までしたのですが、何度試してもコレ以外全く他の武器が使えなくて」
「そんな事があるのか」
彼女の話は真実なのだろう。
だが、正直話を聞いてもピンとこなかった。10歳までは俺も王国にいたけどこんな事初耳だ。しかし、細かい事情は違うにせよ、彼女のその特殊なケースの悩みを聞いた俺は何処か自分と彼女が一瞬重なった気がした――。
「あ。こ、こんな話関係ないですよねッ! それより助けて頂いたお礼をしなくては! あの、直ぐに魔法団の団長さんを呼んできますのでお待ち頂いッ……「――それはいい。礼なんかいらないよ。急いでるから俺はもう行く」
彼女が本当に俺に感謝してくれているという事は十分に分かる。でも冷静に考えて助かったのは俺だ。幸い、彼女は俺とハクが騎士団から追われているのを知らなそうだ。
ならば一刻も早くここを離れるしかない。魔法団なんて呼ばれたらたちまち終わりだ。
「え、あの⁉ ほ、本当に行ってしまうんですか? 」
「色々面倒な事情があってね。じゃあ――」
俺はそう言ってハクを抱えながらその場を後にした。
♢♦♢
「お前はあの子を助けたかったのか? ハク」
「バウ」
「そっか。お前はやっぱ優しい奴だ。国王は何が目的なんだよホント」
辺境の森に飛ばされてからというもの、俺は王国内や王都での出来事を何も知らない。勿論知ろうと思えば知る事も出来たが、最早興味がなかった。
唯一耳に入った事と言えば、辺境の森を訪れた冒険者達が何気なく話していた“騎士団大団長”の話。
“グリード・レオハート”と息子の“ヴィル・レオハート”。
その名を聞いたのは何年振りだったろうか。
自身ではもう何とも思っていなかったのが、その名前に思わず体が反応してしまっていた。グリード・レオハートは紛れもない俺の父親の名であり、ヴィルは俺の弟の名。
当時の冒険者達の話しでは、俺の歳下であった弟のヴィルが、王国の騎士団創設以来の最年少記録で大団長になったとか――。
話が事実でも別に驚かない。奴はスキル覚醒も早かったし昔から才能があった。俺とは違ってな。だが今はまた違う。
どこまでが事実であれ、最年少で騎士団大団長となっていようが、俺の家である森を焼き払いハクを狙うお前達は断じて許さない。コレが本当に国王の命なれば、俺は相手が国王だろうが騎士団の大団長だろうが相手にしてやるよ。
「ん?」
そんな事を考えながら再び王都への道に戻ろうとしていた所、さっきの女の子の仲間と思われる魔法団のローブを纏った者達数人を見掛けた。
そして、別に聞くつもりもなかったが、その魔法団達の会話が徐に聞こえてしまった。
「全く! どこ行ったのよアイツは⁉」
「ホント、使えない上にあそこまでグズだとイライラするわ!」
「さっき出会った触手に食われたんじゃない?」
「キャハハ! それはそれで別にいいけど、まだ餌になるのは早いのよね。これから行く“触手の住処”で餌になって貰わなくちゃ――!」
やはり聞かなければ良かったか……?
アイツらの探している奴って、もしかしてさっきの女の子じゃないだろうな。あー、何か嫌な予感がする。コイツらの事情なんて俺には全く関係ないのに。
何でだろう。
何故いまの会話を聞いただけで俺はさっきの女の子の顔がッ……「すいません皆様ッ!」
俺がそう思っていると、魔法団の元へ1人の者が慌てた様子で走って来た。
「あーあ」
そう。悪い予感は見事に的中――。
遠くから魔法団の元へ走って来た者は、さっき助けたばかりの木の杖の女の子だった。