**
俺はつい今しがた去ったばかりの冒険者ギルドに再び戻った。扉を開け中に入った瞬間、気まずそうに視線を逸らされた。
無理もない。ここには俺達以外の冒険者も多く出入りしてるんだから、さっきのを見ていた人も多くいるだろう。まぁ俺はもうどうでもいいと思っているから全く気にならない。
「すみません。魔力値の再診断をしたいんですけど」
周りの視線な無視し、俺は受付のお姉さんにそう言った。
「え、再診断ですか?」
「はい」
「それは勿論大丈夫ですが……。でも“余程”の事がないと変化はありませんよ?」
分かっていますよお姉さん。もう3年前に既に余程の事が起きていたんです実は。
「ちゃんと分かっていますよ。それでもお願いしたいんです」
受付のお姉さんは若干戸惑いつつも、再診断の手続きを進めてくれた。
冒険者は皆、晴れて冒険者になった時に適性の診断を受けると同時に、冒険者の証である“タグ”を貰う。これにはランクや適性職や名前等の個人情報は勿論、受けたクエストの実績や報酬の入金、パーティメンバー同士でお金の受け渡し等も行える、冒険者にとっては欠かせない必須の物だ。
このタグは色でランクが直ぐ分かる様になっている。全冒険者の僅か0.1%しか存在しないと言われるSSSランクは黒色。当たり前だが珍し過ぎて見た事はない。因みに俺はFランクで白色。コレもある意味珍しいんだよな……。
「――ルカ・リルガーデン様」
首に掛かる自分の真っ白なタグを見ていると、ギルドの奥から係りの人に名前を呼ばれた。案内に付いて行くと診断用の部屋に通され、中では既に診断をする係りの人が準備を終えていた。
「ルカ・リルガーデン様ですね。どうぞ、そこにお掛けになって下さい」
「お願いします」
部屋を入って直ぐに置いてあった椅子へと促され、俺はそこに腰を掛けた。
「今日は魔力値の再診断との事で宜しいですね?」
「はい」
「ではこちらに手をかざしてみて下さい」
係りの人に言われ、俺はテーブルに置かれていた真四角の石に手を置いた。コレはその人の魔力値を測定できる魔石。魔力を流し込めばここにランクが映し出される。
さて、ジークの魔力ってどれくらいのものなんだろう。
そんな事を思いながら、俺は置いた手から石へと魔力を流し込んだ。
『ルカ・リルガーデン 魔力値:SSSランク』
映し出されたランクに、見ていた係りの人が固まった。数秒フリーズした後に1度俺の顔を確認すると、何も言わずにまた映し出されているランクに視線を落とした。
「あのー……何か魔石が上手く反応しなかったみたいですね……。すみませんがもう1度お願いしてもいいですか?」
「え、ああ……はい」
なんとも言えない空気が漂っている。
俺も流石にちょっと驚いた。まさかSSSランクが出るとは……。やっぱジークの魔力は半端じゃないな。
<当たり前だ。人間レベルで我を測るなど無礼極まりない>
止めろ。今は話せないから喋りかけるな。
「では再度こちらでお願い致します」
再びテーブルの上に用意された別の魔石に、俺は手かざして魔力を流し込んだ。
『ルカ・リルガーデン 魔力値:SSSランク』
結果は同じ――。
診断していた係りの人は見間違いでも魔石の不具合でもないと理解したのか、慌てた様子で他の人を数人呼び出し、皆で俺の診断結果を確認し合っていた。
「嘘でしょ……?」
「でもコレ見て下さいよ」
「SSSランクなんて有り得ないぞ……」
「しかも元がFですよね?」
「直ぐにマスターに確認を取ってくれ」
一気に慌ただしい様子になっちゃったな……。ジークの魔力のお陰で基本的な身体機能も向上してるから、少し意識を集中させただけで小声の会話も聞こえてしまう。
まぁそりゃ驚かれるよな。元々Fランクの野郎がまさかSSSランクになるなんて普通なら有り得ない。
わざわざギルドのマスターまで呼ばれて何を聞かれるんだろう……。俺は普通にクエストを受けられればいいんだけどな。ジークの事話すのめんどうだし、どうしよう。
「ルカ様!お待たせして申し訳ありません。再三お手間を取らせてすみませんが、より詳しく診断を行いたいのでこちらの精密魔石でもう1度だけ診断させて頂いて宜しいでしょうか」
係りの人にそう言われ、仕方なく俺はまた診断を受ける事にした。コレはさっきよりより詳しい数値や能力を測れる魔石らしい。これ以上大事にならないでくれと願いながら、俺は魔石に魔力を流し込んだ――。
『ルカ・リルガーデン 魔力値:SSSランク
適性:召喚士(覚醒)
使用魔法:古魔法
身体・特殊:全身体能力値上昇(+100%)
魔力感知(S) 治癒能力(S) 状態異常無効
性質:王の資質 王の魔力 王の知恵 王の覇気』
結果を目の当たりにしたギルドの人達は完全に言葉を失っている。
無理もない。
俺からすれば当然の結果だけどね。この3年でジークの凄さは俺が1番良く理解しているし体感しているから。
召喚士が覚醒してるのにはちょっと驚いたな。それでジークを召喚出来たのか?それに性質って、王の資質とかも出てくるんだ。へぇ~。って、そんな事より話を進めてくれないかな皆。俺は旅用の資金を稼ぎたいんだけなんだけど。
俺が「すみません」と固まっている係りの人達に声を掛けると、正気に戻った皆がまたバタバタと動き始めた。
「ル、ルカ様。何度も診断を受けて頂きありがとうございました。それでですね、すみませんがSランク以上の冒険者の方にはギルドのマスターと1度面談をして頂く決まりになっておりまして……。今からお時間大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
そう返事をして、俺は冒険者ギルドの責任者であるマスターのいる部屋へと案内された。
**
~冒険者ギルド・マスターの部屋~
ドラシエル王国の王都にある冒険者ギルド。ここのマスターを務めているのは、元冒険者でありかつて“雷槍の英雄”と呼ばれたSSSランクのゼイン・シルバーという男だ。
年齢は50歳過ぎであり、ここのマスターをもう10年以上務めている。現役の時は鬼の様に恐れられていたと聞くが、実際に見るととても優しくいつも穏やな雰囲気を纏っている。多くの人から尊敬され信頼される人格者だ。
「――君がルカ・リルガーデン君だね。最近Sランクまで上がったグレイと同じパーティ“だった”子だねぇ」
「え、ええ、まぁ……」
マスターは穏やかな笑顔を浮かべそう言った。そう言えばこの人がグレイに俺をパーティーに誘うよう頼んでくれたんだよな? 確か。
それに過去形って事は俺が追放されたのをもう知っているのか……。こんな俺を気にかけてくれていたのに何か申し訳ないな。
「そんなにかしこまる必要はない。楽にしてくれ。私は定められた規則に従って面談を行っているだけだからね」
「はい……。それで、一体俺は何の面談をすれば……」
「ハハハ。簡単な質問に答えてくれれば終わるよ」
なんだ、そんな感じなのか。
「え~と、これはもう5年前の結果だけど……あれからかなり成長しているの様だね。何かあったか?」
別に悪い事をしていないが、一瞬ドキッとした。ジークを召喚した事はグレイ以外に話したことがなかったから。
「いえ、特にコレと言った事は何も……。毎日のがむしゃらな特訓が実ったんですかね……ハハハ」
負い目はないが嘘を付く事に少なからず抵抗がある。まぁ話してもどうせ信じてもらえないだろう。
「そうかそうか。ではちょっと質問を変えよう。君は古来より伝わる、竜神王ジークリートを知っているかね?」
余りにピンポイントな質問に、俺は驚いて思わず咳込んだ。
マズいな……。我ながら分かりやす過ぎだ。今の絶対バレたぞ……。
ゆっくりと呼吸を落ち着かせ、俺はマスターの顔を見た。すると、今までずっと穏やかだったマスターの空気が一変していた。
――ゾクッ。
一瞬で体中の鳥肌が立った。目の前に座るマスターから発せられる凄まじい殺気に……。
「どうやら知っているね?」
嘘を言ったら殺される――。
直感でそう思った俺は正直に話した。
そもそも悪い事何もしてないけどな……。
「あの、知ってるというか、その……。ジークリートを召喚しました――」
俺はつい今しがた去ったばかりの冒険者ギルドに再び戻った。扉を開け中に入った瞬間、気まずそうに視線を逸らされた。
無理もない。ここには俺達以外の冒険者も多く出入りしてるんだから、さっきのを見ていた人も多くいるだろう。まぁ俺はもうどうでもいいと思っているから全く気にならない。
「すみません。魔力値の再診断をしたいんですけど」
周りの視線な無視し、俺は受付のお姉さんにそう言った。
「え、再診断ですか?」
「はい」
「それは勿論大丈夫ですが……。でも“余程”の事がないと変化はありませんよ?」
分かっていますよお姉さん。もう3年前に既に余程の事が起きていたんです実は。
「ちゃんと分かっていますよ。それでもお願いしたいんです」
受付のお姉さんは若干戸惑いつつも、再診断の手続きを進めてくれた。
冒険者は皆、晴れて冒険者になった時に適性の診断を受けると同時に、冒険者の証である“タグ”を貰う。これにはランクや適性職や名前等の個人情報は勿論、受けたクエストの実績や報酬の入金、パーティメンバー同士でお金の受け渡し等も行える、冒険者にとっては欠かせない必須の物だ。
このタグは色でランクが直ぐ分かる様になっている。全冒険者の僅か0.1%しか存在しないと言われるSSSランクは黒色。当たり前だが珍し過ぎて見た事はない。因みに俺はFランクで白色。コレもある意味珍しいんだよな……。
「――ルカ・リルガーデン様」
首に掛かる自分の真っ白なタグを見ていると、ギルドの奥から係りの人に名前を呼ばれた。案内に付いて行くと診断用の部屋に通され、中では既に診断をする係りの人が準備を終えていた。
「ルカ・リルガーデン様ですね。どうぞ、そこにお掛けになって下さい」
「お願いします」
部屋を入って直ぐに置いてあった椅子へと促され、俺はそこに腰を掛けた。
「今日は魔力値の再診断との事で宜しいですね?」
「はい」
「ではこちらに手をかざしてみて下さい」
係りの人に言われ、俺はテーブルに置かれていた真四角の石に手を置いた。コレはその人の魔力値を測定できる魔石。魔力を流し込めばここにランクが映し出される。
さて、ジークの魔力ってどれくらいのものなんだろう。
そんな事を思いながら、俺は置いた手から石へと魔力を流し込んだ。
『ルカ・リルガーデン 魔力値:SSSランク』
映し出されたランクに、見ていた係りの人が固まった。数秒フリーズした後に1度俺の顔を確認すると、何も言わずにまた映し出されているランクに視線を落とした。
「あのー……何か魔石が上手く反応しなかったみたいですね……。すみませんがもう1度お願いしてもいいですか?」
「え、ああ……はい」
なんとも言えない空気が漂っている。
俺も流石にちょっと驚いた。まさかSSSランクが出るとは……。やっぱジークの魔力は半端じゃないな。
<当たり前だ。人間レベルで我を測るなど無礼極まりない>
止めろ。今は話せないから喋りかけるな。
「では再度こちらでお願い致します」
再びテーブルの上に用意された別の魔石に、俺は手かざして魔力を流し込んだ。
『ルカ・リルガーデン 魔力値:SSSランク』
結果は同じ――。
診断していた係りの人は見間違いでも魔石の不具合でもないと理解したのか、慌てた様子で他の人を数人呼び出し、皆で俺の診断結果を確認し合っていた。
「嘘でしょ……?」
「でもコレ見て下さいよ」
「SSSランクなんて有り得ないぞ……」
「しかも元がFですよね?」
「直ぐにマスターに確認を取ってくれ」
一気に慌ただしい様子になっちゃったな……。ジークの魔力のお陰で基本的な身体機能も向上してるから、少し意識を集中させただけで小声の会話も聞こえてしまう。
まぁそりゃ驚かれるよな。元々Fランクの野郎がまさかSSSランクになるなんて普通なら有り得ない。
わざわざギルドのマスターまで呼ばれて何を聞かれるんだろう……。俺は普通にクエストを受けられればいいんだけどな。ジークの事話すのめんどうだし、どうしよう。
「ルカ様!お待たせして申し訳ありません。再三お手間を取らせてすみませんが、より詳しく診断を行いたいのでこちらの精密魔石でもう1度だけ診断させて頂いて宜しいでしょうか」
係りの人にそう言われ、仕方なく俺はまた診断を受ける事にした。コレはさっきよりより詳しい数値や能力を測れる魔石らしい。これ以上大事にならないでくれと願いながら、俺は魔石に魔力を流し込んだ――。
『ルカ・リルガーデン 魔力値:SSSランク
適性:召喚士(覚醒)
使用魔法:古魔法
身体・特殊:全身体能力値上昇(+100%)
魔力感知(S) 治癒能力(S) 状態異常無効
性質:王の資質 王の魔力 王の知恵 王の覇気』
結果を目の当たりにしたギルドの人達は完全に言葉を失っている。
無理もない。
俺からすれば当然の結果だけどね。この3年でジークの凄さは俺が1番良く理解しているし体感しているから。
召喚士が覚醒してるのにはちょっと驚いたな。それでジークを召喚出来たのか?それに性質って、王の資質とかも出てくるんだ。へぇ~。って、そんな事より話を進めてくれないかな皆。俺は旅用の資金を稼ぎたいんだけなんだけど。
俺が「すみません」と固まっている係りの人達に声を掛けると、正気に戻った皆がまたバタバタと動き始めた。
「ル、ルカ様。何度も診断を受けて頂きありがとうございました。それでですね、すみませんがSランク以上の冒険者の方にはギルドのマスターと1度面談をして頂く決まりになっておりまして……。今からお時間大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
そう返事をして、俺は冒険者ギルドの責任者であるマスターのいる部屋へと案内された。
**
~冒険者ギルド・マスターの部屋~
ドラシエル王国の王都にある冒険者ギルド。ここのマスターを務めているのは、元冒険者でありかつて“雷槍の英雄”と呼ばれたSSSランクのゼイン・シルバーという男だ。
年齢は50歳過ぎであり、ここのマスターをもう10年以上務めている。現役の時は鬼の様に恐れられていたと聞くが、実際に見るととても優しくいつも穏やな雰囲気を纏っている。多くの人から尊敬され信頼される人格者だ。
「――君がルカ・リルガーデン君だね。最近Sランクまで上がったグレイと同じパーティ“だった”子だねぇ」
「え、ええ、まぁ……」
マスターは穏やかな笑顔を浮かべそう言った。そう言えばこの人がグレイに俺をパーティーに誘うよう頼んでくれたんだよな? 確か。
それに過去形って事は俺が追放されたのをもう知っているのか……。こんな俺を気にかけてくれていたのに何か申し訳ないな。
「そんなにかしこまる必要はない。楽にしてくれ。私は定められた規則に従って面談を行っているだけだからね」
「はい……。それで、一体俺は何の面談をすれば……」
「ハハハ。簡単な質問に答えてくれれば終わるよ」
なんだ、そんな感じなのか。
「え~と、これはもう5年前の結果だけど……あれからかなり成長しているの様だね。何かあったか?」
別に悪い事をしていないが、一瞬ドキッとした。ジークを召喚した事はグレイ以外に話したことがなかったから。
「いえ、特にコレと言った事は何も……。毎日のがむしゃらな特訓が実ったんですかね……ハハハ」
負い目はないが嘘を付く事に少なからず抵抗がある。まぁ話してもどうせ信じてもらえないだろう。
「そうかそうか。ではちょっと質問を変えよう。君は古来より伝わる、竜神王ジークリートを知っているかね?」
余りにピンポイントな質問に、俺は驚いて思わず咳込んだ。
マズいな……。我ながら分かりやす過ぎだ。今の絶対バレたぞ……。
ゆっくりと呼吸を落ち着かせ、俺はマスターの顔を見た。すると、今までずっと穏やかだったマスターの空気が一変していた。
――ゾクッ。
一瞬で体中の鳥肌が立った。目の前に座るマスターから発せられる凄まじい殺気に……。
「どうやら知っているね?」
嘘を言ったら殺される――。
直感でそう思った俺は正直に話した。
そもそも悪い事何もしてないけどな……。
「あの、知ってるというか、その……。ジークリートを召喚しました――」