♢♦♢
~特殊隊の寮~
あれから1週間――。
久々の休みを満喫した俺達は久々に訓練場で体を動かしていた。
「――戻ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「五月蠅い。静かにして。耳障り」
突如、寮全体に響くような声が聞こえてきた。
赤髪の男と黒髪の女の2人。どちらも全く見覚えがない。俺とレベッカとニクスがキョトンとしていたが、他の皆は違った。
「帰ってきたみたいだね、ヴァン。リリィも久しぶり」
「あ、リリィお帰りー!」
「……お疲れ様、2人共……」
皆この2人を知っている様子だ。あ、そう言えばまだ他の任務に行ってる人がいるって初日に聞いた気が……。この人達の事か。
「久しぶりだなお前らも!元気してたか」
「テンション高過ぎよ。静かにして」
「お前が落ち着き過ぎなんだよリリィ。ほら! この子みたいにもっと可愛げを出したほうがいいぞ!」
ヴァンと呼ばれた赤髪の男がレベッカを見ながらそう言った。そして馴れ馴れしくもレベッカの肩を掴み自分の方へグイっと引き寄せたのだ。
「え……?」
突然の事にレベッカも恥ずかしそうに戸惑っている。
「君凄い可愛いじゃん! あ、俺はヴァン! もし良かったら俺と付きあッ……「――手離せよ」
「「……⁉」」
気が付くと、俺はゼロフリードの切っ先を奴の首元に突き付けていた。
「おいおい、何をマジになってんだよ」
ヴァンはレベッカから手を離し、俺に笑顔を向けて来た。
何だコイツは……。
「お前が噂のジークリート召喚少年か。って事は初めましての彼女がレベッカちゃん? それでそっちの彼女がニクスちゃんか!フェニックスってマジ? 後で見せてよ」
何かチャラいと言うか軽い。行動も口調も。コレがこの人の普通なのか……。皆特に反応を示してないって事はそうだよなきっと。
「やめなさいよヴァン。明らかに迷惑そうよ」
「え、そうなの?」
「あー!ヴァンだ。帰って来たんだね、お帰り!」
「おおピノ!ただいま」
「相変わらずで安心したよ。ルカ達は初めてだよね?」
話しをまとめようとクレーグさんが1歩前に出て彼らを紹介してくれた。
「こっちがヴァン、そしてこっちがリリィ。ずっと任務に出ていてね、2人共特殊隊の仲間だよ。君達にも前に報告だけしてあると思うけど、この子達が新人ね」
「ルカとレベッカとニクスね。初めまして、私はリリィ。宜しくね」
「俺はヴァンだ! 会いたかったぜお前らにもよ」
ヴァンとリリィはそう自己紹介をし、俺達も宜しくと言葉を交わした。
「――じゃあ挨拶も済んだし、早速“やろうぜ”ルカ!」
「え?」
凄い嫌な予感。そしてコレは恐らく的中してしまうだろうな。
「ずっとあのジークリートの力がどんなもんか気になっていたんだ。久々に本気でやらせてもらうぜ!」
「元気だねぇヴァン。いきなりルカと遊ぶのか」
やっぱり。こんな事だろうと思ったぜ。本当に変わった人の集まりだここは。
「じゃあ私達も行きましょうか」
「私もその後を聞きたいな!」
「え、もしかして……!」
リリィとエレナに連れられたレベッカは、何時ぞやと同じ様に何処かへ連行されていった。行き先は風呂場だろう……。そして俺はここでヴァンと戦わなければいけないのか……。
~訓練場~
「――うし。 それじゃあ始めるか! 俺は炎魔法使うから宜しくな」
「え、先に言ってよかったの……?」
「勝負はフェアじゃないと面白くないだろ。こっちはジークリートいるって知ってるんだから、俺の教えとかないとな」
これは意外だった。
勿論決めつけは良くないけど、さっきの行動や態度からいまいち信用ならない人だと思ったけど、どうやら悪い人ではないみたいだな。
「なんか、ありがとうございます」
「ハハハ!何だそりゃ。もういくぞ……“ファイア”!」
ヴァンは勢いよく炎魔法を繰り出した。しかしそれは誰もが扱える初歩な下級魔法。ただ小さな炎を出すだけの基本魔法でもある筈なのだが、ヴァンが出した炎は直径4~5mはあろうかと言う超巨大な火炎球だった。しかも複数。
「何だこれ……でか。しかも熱い。ただの下級魔法じゃないのか……?」
「そうだ、言い忘れた!俺は炎魔法の使い手だけど、特殊適性である“煉獄の極み”の効果で、炎魔法の威力が30倍になってるからな!」
また初めて聞く力だな……。威力30倍って反則じゃないかそれ……?
ただの下級魔法がすでに上級魔法並みの火力じゃないか。
<これはまた面白い>
ジークがやる気という事はやっぱ強いのかこの人も。
「これで本当にフェアだな。じゃあ遠慮なく……食らえ!」
ヴァンは何の躊躇もなくデカ火炎球を全て放ってきた。
――ズドォン!ズドォン!ズドォン!
かなり広い筈の訓練場が狭く感じる程の火炎球のデカさ。当然威力も強いし。
<やるな。だがこれは魔力の消費が多い筈。しかも火の玉の大きさで死角だらけだ。やれルカ>
やる事は分かっているだろと言わんばかりのジークの発言。だがそれは俺も思っていた事。俺はヴァンが連続で放ってくるデカ火炎球の死角を狙って一気にヴァンへ距離を詰めた。
そして、近づいた最後の1発のデカ火炎球をゼロフリードで一刀両断し、僅かに困惑していた一瞬の隙をついてヴァンの背後を取り終了。
「うっはー、マジかよ!ハハハハ!こりゃ確かに凄いぜ!お前の勝ちだルカ。面白かったよ」
「ありがとうございます」
こうして、また挨拶がてらの遊びが終わった。
♢♦♢
~お風呂場~
「――それで? レベッカとルカは恋人同士なのですよね」
「え⁉こ、恋人……⁉」
「アハハ、リリィはストレートに言うからね。正直に話しなレベッカ」
一方のレベッカはというと、案の定お風呂場で根掘り葉掘り事情聴取を受けているのであった。
「そんな……わ、私達、別に恋人じゃないの……!」
「そうなの? でもさっきのルカのあの行動は、明らかに自分の女に手を出された事に対する怒りの現れ。レベッカに触れたヴァンに殺意まで放っていたわよね。それで恋人同士ではないと?」
「う、うん……。ルカがどう思ってるか私も分からないけど、恋人ではない……」
俯きながら言うレベッカは恥ずかしくもあり、何処か寂しげな感じでもあった。
「成程。もし2人が恋人同士ならば、ヴァンに邪魔するなと釘を刺しておこうと思ったけど、違うのね。
なら、ヴァンが貴方に好意を寄せてもいいし、私がルカに好意を寄せても問題ないわね」
「え⁉ な、なんでそうなるの……⁉」
「アハハハ! ヤバいねレベッカ。アンタも可愛いけど、美人のリリィにルカ取られちゃうよ」
エレナは冗談で茶化していたが、レベッカは心中穏やかではない。見るからに焦っている様子だ。
「そんなぁ……! だ、だてリリィはルカが好きなの……⁉」
「いや、今は好きじゃないわ。あくまで可能性の話だから。でも今後そうなる事も否定出来ないわね。確率はかなり低いでしょうけど」
「そ、そうなんだね……」
リリィの言葉にホッとした表情を浮かべたレベッカを、エレナは見逃さなかった。
「へぇー、リリィにその気がないなら、私がルカの恋人になろうかな! 今どっちもフリーだし」
「ダメ! それは絶対にダメ!」
「アハハハ! 何でそんなに焦ってんの? 別に恋人同士なら関係ないじゃん。ずっと一緒にいてその気もないみたいだし、私がルカと付き合ってもいいと思うけどなぁ~」
未だにハッキリしないレベッカに対し、もう全て分かっているエレナが悪戯っぽくレベッカをイジる。そして、レベッカは半ばやけくそで遂に本心を言った――。
「も~ズルいよ……エレナも分かってるくせに! そうよ……!私はルカが好きなの! だから皆手を出さないでッ!」
こうして、リナの心の叫びが風呂場に響き渡ったが、当然リリィとエレナ以外には聞こえる筈もなかった――。
~特殊隊の寮~
あれから1週間――。
久々の休みを満喫した俺達は久々に訓練場で体を動かしていた。
「――戻ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「五月蠅い。静かにして。耳障り」
突如、寮全体に響くような声が聞こえてきた。
赤髪の男と黒髪の女の2人。どちらも全く見覚えがない。俺とレベッカとニクスがキョトンとしていたが、他の皆は違った。
「帰ってきたみたいだね、ヴァン。リリィも久しぶり」
「あ、リリィお帰りー!」
「……お疲れ様、2人共……」
皆この2人を知っている様子だ。あ、そう言えばまだ他の任務に行ってる人がいるって初日に聞いた気が……。この人達の事か。
「久しぶりだなお前らも!元気してたか」
「テンション高過ぎよ。静かにして」
「お前が落ち着き過ぎなんだよリリィ。ほら! この子みたいにもっと可愛げを出したほうがいいぞ!」
ヴァンと呼ばれた赤髪の男がレベッカを見ながらそう言った。そして馴れ馴れしくもレベッカの肩を掴み自分の方へグイっと引き寄せたのだ。
「え……?」
突然の事にレベッカも恥ずかしそうに戸惑っている。
「君凄い可愛いじゃん! あ、俺はヴァン! もし良かったら俺と付きあッ……「――手離せよ」
「「……⁉」」
気が付くと、俺はゼロフリードの切っ先を奴の首元に突き付けていた。
「おいおい、何をマジになってんだよ」
ヴァンはレベッカから手を離し、俺に笑顔を向けて来た。
何だコイツは……。
「お前が噂のジークリート召喚少年か。って事は初めましての彼女がレベッカちゃん? それでそっちの彼女がニクスちゃんか!フェニックスってマジ? 後で見せてよ」
何かチャラいと言うか軽い。行動も口調も。コレがこの人の普通なのか……。皆特に反応を示してないって事はそうだよなきっと。
「やめなさいよヴァン。明らかに迷惑そうよ」
「え、そうなの?」
「あー!ヴァンだ。帰って来たんだね、お帰り!」
「おおピノ!ただいま」
「相変わらずで安心したよ。ルカ達は初めてだよね?」
話しをまとめようとクレーグさんが1歩前に出て彼らを紹介してくれた。
「こっちがヴァン、そしてこっちがリリィ。ずっと任務に出ていてね、2人共特殊隊の仲間だよ。君達にも前に報告だけしてあると思うけど、この子達が新人ね」
「ルカとレベッカとニクスね。初めまして、私はリリィ。宜しくね」
「俺はヴァンだ! 会いたかったぜお前らにもよ」
ヴァンとリリィはそう自己紹介をし、俺達も宜しくと言葉を交わした。
「――じゃあ挨拶も済んだし、早速“やろうぜ”ルカ!」
「え?」
凄い嫌な予感。そしてコレは恐らく的中してしまうだろうな。
「ずっとあのジークリートの力がどんなもんか気になっていたんだ。久々に本気でやらせてもらうぜ!」
「元気だねぇヴァン。いきなりルカと遊ぶのか」
やっぱり。こんな事だろうと思ったぜ。本当に変わった人の集まりだここは。
「じゃあ私達も行きましょうか」
「私もその後を聞きたいな!」
「え、もしかして……!」
リリィとエレナに連れられたレベッカは、何時ぞやと同じ様に何処かへ連行されていった。行き先は風呂場だろう……。そして俺はここでヴァンと戦わなければいけないのか……。
~訓練場~
「――うし。 それじゃあ始めるか! 俺は炎魔法使うから宜しくな」
「え、先に言ってよかったの……?」
「勝負はフェアじゃないと面白くないだろ。こっちはジークリートいるって知ってるんだから、俺の教えとかないとな」
これは意外だった。
勿論決めつけは良くないけど、さっきの行動や態度からいまいち信用ならない人だと思ったけど、どうやら悪い人ではないみたいだな。
「なんか、ありがとうございます」
「ハハハ!何だそりゃ。もういくぞ……“ファイア”!」
ヴァンは勢いよく炎魔法を繰り出した。しかしそれは誰もが扱える初歩な下級魔法。ただ小さな炎を出すだけの基本魔法でもある筈なのだが、ヴァンが出した炎は直径4~5mはあろうかと言う超巨大な火炎球だった。しかも複数。
「何だこれ……でか。しかも熱い。ただの下級魔法じゃないのか……?」
「そうだ、言い忘れた!俺は炎魔法の使い手だけど、特殊適性である“煉獄の極み”の効果で、炎魔法の威力が30倍になってるからな!」
また初めて聞く力だな……。威力30倍って反則じゃないかそれ……?
ただの下級魔法がすでに上級魔法並みの火力じゃないか。
<これはまた面白い>
ジークがやる気という事はやっぱ強いのかこの人も。
「これで本当にフェアだな。じゃあ遠慮なく……食らえ!」
ヴァンは何の躊躇もなくデカ火炎球を全て放ってきた。
――ズドォン!ズドォン!ズドォン!
かなり広い筈の訓練場が狭く感じる程の火炎球のデカさ。当然威力も強いし。
<やるな。だがこれは魔力の消費が多い筈。しかも火の玉の大きさで死角だらけだ。やれルカ>
やる事は分かっているだろと言わんばかりのジークの発言。だがそれは俺も思っていた事。俺はヴァンが連続で放ってくるデカ火炎球の死角を狙って一気にヴァンへ距離を詰めた。
そして、近づいた最後の1発のデカ火炎球をゼロフリードで一刀両断し、僅かに困惑していた一瞬の隙をついてヴァンの背後を取り終了。
「うっはー、マジかよ!ハハハハ!こりゃ確かに凄いぜ!お前の勝ちだルカ。面白かったよ」
「ありがとうございます」
こうして、また挨拶がてらの遊びが終わった。
♢♦♢
~お風呂場~
「――それで? レベッカとルカは恋人同士なのですよね」
「え⁉こ、恋人……⁉」
「アハハ、リリィはストレートに言うからね。正直に話しなレベッカ」
一方のレベッカはというと、案の定お風呂場で根掘り葉掘り事情聴取を受けているのであった。
「そんな……わ、私達、別に恋人じゃないの……!」
「そうなの? でもさっきのルカのあの行動は、明らかに自分の女に手を出された事に対する怒りの現れ。レベッカに触れたヴァンに殺意まで放っていたわよね。それで恋人同士ではないと?」
「う、うん……。ルカがどう思ってるか私も分からないけど、恋人ではない……」
俯きながら言うレベッカは恥ずかしくもあり、何処か寂しげな感じでもあった。
「成程。もし2人が恋人同士ならば、ヴァンに邪魔するなと釘を刺しておこうと思ったけど、違うのね。
なら、ヴァンが貴方に好意を寄せてもいいし、私がルカに好意を寄せても問題ないわね」
「え⁉ な、なんでそうなるの……⁉」
「アハハハ! ヤバいねレベッカ。アンタも可愛いけど、美人のリリィにルカ取られちゃうよ」
エレナは冗談で茶化していたが、レベッカは心中穏やかではない。見るからに焦っている様子だ。
「そんなぁ……! だ、だてリリィはルカが好きなの……⁉」
「いや、今は好きじゃないわ。あくまで可能性の話だから。でも今後そうなる事も否定出来ないわね。確率はかなり低いでしょうけど」
「そ、そうなんだね……」
リリィの言葉にホッとした表情を浮かべたレベッカを、エレナは見逃さなかった。
「へぇー、リリィにその気がないなら、私がルカの恋人になろうかな! 今どっちもフリーだし」
「ダメ! それは絶対にダメ!」
「アハハハ! 何でそんなに焦ってんの? 別に恋人同士なら関係ないじゃん。ずっと一緒にいてその気もないみたいだし、私がルカと付き合ってもいいと思うけどなぁ~」
未だにハッキリしないレベッカに対し、もう全て分かっているエレナが悪戯っぽくレベッカをイジる。そして、レベッカは半ばやけくそで遂に本心を言った――。
「も~ズルいよ……エレナも分かってるくせに! そうよ……!私はルカが好きなの! だから皆手を出さないでッ!」
こうして、リナの心の叫びが風呂場に響き渡ったが、当然リリィとエレナ以外には聞こえる筈もなかった――。